三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第2章

2-33

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 ミカエルは、度々任務に赴くようになった。ルネはそれに毎回ついて行き、そして確実に魔法の力を上げていった。

「ルネ!」
「はい!」

 ミカエルの背後に突進してきたスライムを、ルネが風で吹き飛ばす。
 今日は湖に蔓延るスライムの討伐の任務。このスライムには物を溶かす性質があり、S級以上の魔法使いにしか倒せないと言われている。
 ミカエルはもう、ルネを守る役目を半分降りていた。彼女はスライム程度の魔物ならば、自分の身を守れるようになった。魔法も詠唱をしなくても、頭に浮かんだイメージで繰り出せるようになっていた。
 
「ルネ、あれがスライムの生成地だ。あれを壊せばもう奴らは湧いてこない」

 ミカエルの指先、湖の中心部に小さな祠があり、そこが青く光っている。

「分かりました」
「行けるか?」
「頑張ります!」

 あのホーンベアの任務から、1年が経とうとしている。ルネの成長は目を見張るものだった。コツさえつかめば、ミカエルが教えた何もかもを吸収する。
 魔物についても沢山教えてもらった。魔物はコアを破壊することで消滅する。コアは魔物にとって心臓のような部分で、魔物によって光色が違うという。ホーンベアは赤い光を帯びていたが、今回のスライムは青空のような色を放っている。

(スライムは、生成地にコアがある。ってミカエル様に教えてもらった通りだわ)

 風に乗って湖の中心部まで飛んだルネは、そのまま祠を俯瞰する。周りにはスライムたちが集まってきた。ミカエルが砲撃魔法でルネに襲いかかるスライムを倒していく。
 ルネは緊張を誤魔化すようにひとつ大きな深呼吸をして、右手を振り上げた。手のひらに魔法陣が顕現、ルネの右手の周りが旋風に包まれる。
 乱れる髪をもろともせずに、ルネは右手を思い切り振り下ろした。

「やああぁぁっ!!」

 瓦割りの如く真っ二つに割れた祠。凄まじい衝撃に、湖面は激しく波を打った。
 激しい水しぶきがおさまった頃、湖を覗き込むと、破壊されたコアが湖底に沈んでいた。そこにはもう青い光は無かった。
 周りのスライム達も、次々と消えていく。
 ルネが自分の意思で行った、初めてのコア破壊の瞬間だった。

「やった!ミカエル様ー!やりましたわー!!」

 湖の真上でぴょんぴょん跳ねながらミカエルの元に戻っていくルネ。
 ミカエルは満足そうに、降りてくる彼女を受け止めた。

「凄いなルネ。お疲れ様」
「ミカエル様もお疲れ様でした。教えていただいた通りにやりましたら、ちゃんと出来ましたわ!やっぱりミカエル様は凄いです!」

(こんなにすぐ出来るものでは無いんだがな。これも、初代当主とやらの生まれ変わりのせいか)

 ミカエルはそれを口には決してしなかった。ルネの表情が曇ることが分かっていたからだ。
 こんなに力をつけても、まだあの呪いのような過去からは抜け出せていない。彼女は、回数こそ減ったものの、まだ泣きながら起きることを繰り返している。

「帰ろう。ギルドに報告しなくては」
「はい!私も一緒に行きます」
「ああ。2人でな」

 ミカエルはルネの手を取って湖を後にした。


□□□□□□□□


「これは……」

 銀の鎧を来た騎士達が湖に沈む祠を見下ろしている。

「団長、どういうことです?ここにはスライムが湧くという噂があったはずでは」
「ああ。そのはずなんだが、もうコアが破壊されている」

 団長の名はアルベルトといった。
 ネイティア家の騎士団は、唖然と湖を見つめる。

「一体誰が……」

 彼らは遠征の帰りだった。道中、湖近くの街の人間から、スライムが街の人間を襲ったという話を聞き、やってきたのだ。
 訝しむアルベルトの背後から、黒い髪の団員の男が声をかける。

「団長、詳しく調べますか?」
「……いや。必要ない。我々は街の人達に報告後、ネイティア家に戻ろう」

 アルベルトの命令を受け、団員達はぞろぞろと元来た道へ帰っていく。

(僅かな風魔法の気配がした。……まさか、な)

 アルベルトの懸念に気付くものは誰一人としていなかった。
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