三毛猫、公爵令嬢を拾う。

蒼依月

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第2章

2-35

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 イリス国の王都にて。
 精霊のお茶会ギルドの掲示板に、とある少女の肖像画が貼られている。その隣には何枚ものビラが重ねて置かれていた。それを1枚手に取る猫が1匹。黒い毛の猫はジィっとその肖像画の少女を見つめる。肖像画には丁寧にその少女の詳細が文字で書かれていた。
 名前はルネ・ネイティア。ネイティア家長女。容姿については、髪の色から身長、体格まで細かく書かれている。

「ルネ……」

 黒猫​───ミカエルはぼそりと呟いた。

「黒猫さん!こんにちは」
「やあ。こんにちは。今日は受付にいなくていいのかい?」

 声をかけてきたのは、ギルドの受付嬢。ミカエルはネームプレートを見て彼女がユナという名であることを知る。ルネと一緒に任務依頼を受けに行った時、対応してくれていた人物だ。

「あれ、私のこと知ってます?」
「人の顔を覚えるのは得意な方なんでね」
「そうなんですね。今はお掃除中なんです。あ、そのビラ、今日また新しいのが入ったんですよ。何でも貴族同士で協力してくれる人がいないとかで、全然進展ないそうですよ。何で協力してあげないんですかね?ま、大貴族が考えることなんて、たかが知れてるけど」
「どういう意味だ?」

 ミカエルが興味ありげにそう訊ねると、ユナは人差し指をミカエルの目の前に出し、挑むような姿勢で言った。

「きっと、変なプライドがあるんですよ。でも、そういう人ほど、後で後悔するんですよ!あの時ああしてればよかったー!って」
「ふっ、そうだな」
「あ、それ、いっぱいあるんで、良かったら持ってってください」
「ああ」
「でも、この子、今一体どこで何をしてるんでしょうね。というか、生きてるのかもわからないですよ」
「そうだな」

 ミカエルはユナに別れを告げて、ギルドを出た。
 街を見渡すと至る所にこのビラが貼られている。店先、建物の壁、街の掲示板に至っては2枚、3枚と貼られていた。公開された捜索願いのビラに人々の戸惑いと好奇心が混ざって、街は随分と異様な雰囲気に包まれている。
 ミカエルは街の雰囲気に紛れ込みながら、静かに中心街を離れる。だが異様な雰囲気はどこも変わらなかった。何度か転移し色々な街を巡ったがどこも誘拐された少女の話題で持ちきりだ。

(またルネに報告しなくてはいけないな)

 ミカエルはどうルネに伝えようか考えながら、もう一度転移魔法を使う。転移したのはネイティア家の敷地外、初めてルネを見かけた街路樹の上だ。

(あの時はあんなにやせ細っていたが、今ではマシになったな。魔法も大分扱えるようになっているし、最近は私が守らなくても、自分で対処できることが増えてきた)

 ミカエルはこの1年を振り返って、目を細める。もう、あの布切れのような少女はいない。ルネはミカエルの下で美しく育っている。

(ルネ。私は君に、伝えていないことがある。だがこれはまだ私の胸にしまっておこう。きっと、今はその時じゃない)

 ふと、1人のメイドが大きな洗濯籠を持って歩いているのが見えた。
 リリィだ。
 ミカエルは探す手間が省けたと、即座に音魔法を使った。

「そのまま聞きなさい」
「ひゃ」
「しっ。静かに。私の声は君にしか聞こえていない」

 リリィは明らかに困惑した様子で、恐怖の色を瞳に浮かべながらその場に立ち尽くした。
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