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第二章 第三騎士団、始動
『閑話2 近衛騎士団の真実』
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第三騎士団の面々が教会へ旅立った直後、ルイザはイラついたように髪を掻いた。
彼の怒りの原因は、目の前にいる軍師のイザベラである。
「これで何か分かったのか? 近衛騎士団を掌握したリーデン帝国の新宰相さん?」
ルイザの冷たい言葉にイザベラ……フーナがニヤリと笑みを浮かべる。
その目はなぜか輝きに満ちていた。
「十分だよ。彼らの強さが分かっただけでも僥倖ってものさ。私たちでは勝てないね」
「強さっていう言葉には何やら裏がありそうだな」
ルイザは嘆息するしかない。
王城のメイドは全員返すから、近衛騎士団を指揮させろと要求してきたのが一日前。
自身の誇りを大事にするヴィル国王は、承諾するとともに一つの条件を突き付けた。
曰く、『指揮するときは近衛騎士団の誰かに変装してくれ』
一方、それを聞いたフーナも一つの条件を追加した。
対等な関係にするための措置である。
曰く、『テストを受けさせる第三騎士団には、メイドが戻ってきたことを絶対に伝えるな』
第三騎士団と戦いたいフーナと、メイドを取り戻したという戦果が欲しいヴィル国王。
当然のように、この二つの条件はお互いが厳守するということで決着がついた。
「それにしても正体がバレかけでしたよ。まあ、最初に入れ替わり戦術が暴かれましたが」
「ミスリードが破られたくらいで怯えるな。そちらに気を取られて真実には気づいていまい」
フーナは自信満々に言うと、先ほどまでヴィル国王が座っていた玉座に座った。
すると一瞬のうちに、彼女の部下が総じて片膝をつく。
まるで訓練された騎士団のような光景にルイザは呆然とするしかない。
リーデン帝国でも宰相が騎士団を総括していたっけ?
いや……前宰相のダイマス=イエールは騎士団など総括していなかったように思う。
それなら……この女は何だ?
新しい宰相というのは対外的な立場で、実際はどこかの騎士団長などではないだろうか。
「しかし……ここまで裏があるメンバーばかりが揃うとはねぇ」
「団長のべネックがそもそも二面性のある人物ですから。彼女は騎士団を嫌っている」
「なのに団長をやっているのかい? わけが分からないんだが」
フーナが眉をひそめる。
すると、片膝をついている部下の一人が思い出したと言わんばかりに声を上げた。
「べネックといえば……ロマナ家の娘がそのような名前だったのでは?」
「ロマナ家だって? どこだい、それは?」
「元々はリーデン帝国の十二将が一柱です。しかし断罪されて没落したようですね」
部下の言葉にフーナはしばし虚空を睨んでいたが、やがてメモを取り出した。
ちなみにリーデン帝国の十二将といえば、帝国設立に貢献した十二の家を指す。
ルイザも自身の記憶を探ってみた。
確か、リーデン帝国の十二将は昨年の冬ごろに数を一つ減らしたはずだ。
今の話からすると外された家がロマナ家で、そこの令嬢がべネック=シーランだと?
まさか……べネック=シーラン自身もリーデン帝国から逃げてきたというのか!?
いや、待てよ。
そもそもシーラン家というのは何をしている家だったっけ?
彼女がべネック=シーランを名乗っている以上は、シーラン家が彼女を養子に迎えたはずだ。
シーラン家は子供がいなかったはずだから。
ルイザが必死に記憶の糸を辿っている横で、フーナがメモの一点をじっと見つめていた。
チラリと見てみると、殴り書きに近い文字でべネック=ロマナと書かれている。
名前の下には行方不明という赤い文字。
フーナが妖しく唇を歪めた。
「なるほど。となればすべてに説明がつく。なぜべネックとやらが第三騎士団を作ったか」
「フーナ様……それは……」
ルイザが焦ったように問いかけた。
自国のプライベートな情報を掴まれたとあっては、ヘルシミ王国がピンチに陥ってしまう。
相手は大陸一好戦的な国と言われるリーデン帝国だ。
すぐに行動を起こす可能性があると考えると、フーナをこのまま返すわけにはいかない。
「今日は城に泊まっていくとするか。明日には帰るから気にするな」
「ふざけないでもらおう。自国の機密情報を掴まれて、近衛騎士団長たる私が黙っているとでも?」
ルイザは剣呑な雰囲気を出してフーナに詰め寄った。
そして両者が睨み合って数秒後、膠着状態を砕くような声が謁見の間に響きわたった。
「母上? どこに行っちゃったの、もう!」
「ボウヤは誰だい? 入ってくるのは勝手だが戦いの邪魔をしないでくれないか?」
フーナが不機嫌な声を出した。
なんと、部屋に入ってきた第二王子――アレッサ=ヘルシミはフーナの剣を眺めていたのだ。
「アレッサ様、ここは危ないので部屋にお戻りください」
「嫌だ。せっかくお茶会をしていたのに母上がいなくなっちゃったし。退屈だったんだよね」
「私の剣をジロジロ眺めるなんて……失礼なガキだね!」
飄々とした態度にイラついたのか、フーナがアレッサを蹴り飛ばす。
しかし……この国ではその行為は清々しいまでの悪手だ。
ルイザは床を転がるアレッサを見つめながら、小さくため息をついて天を仰ぐ。
とりあえず退避するか。
ここにいたら攻撃に巻き込まれかねない。
そう思ったルイザが後退を始めたタイミングで、アレッサが怒りの声を上げた。
「第二王子である僕を蹴ったな! このババア!」
「なっ……歴史あるリーデン帝国の宰相である私に向かってババアですって!?」
「知らないよ、そんなの! 【神の加護】持ちの僕に逆らったことを後悔させてあげる」
「こちらこそ。“騎士団長に最も近い宰相”である私を侮辱したこと、後悔させてあげるわ」
お互いに剣を構えて睨み合う二人。
ルイザはフーナの背後を取りながら、国王への報告の文言を考えていた。
「べネックの秘密を知ってしまったから……かな?」
彼女を筆頭とした第三騎士団は、この国を大きく変えるきっかけになるだろう。
だからそれまでは……私が守ってあげないと。
ルイザは不敵な笑みを浮かべると、防御態勢を整えたフーナの背後を急襲したのだった。
彼の怒りの原因は、目の前にいる軍師のイザベラである。
「これで何か分かったのか? 近衛騎士団を掌握したリーデン帝国の新宰相さん?」
ルイザの冷たい言葉にイザベラ……フーナがニヤリと笑みを浮かべる。
その目はなぜか輝きに満ちていた。
「十分だよ。彼らの強さが分かっただけでも僥倖ってものさ。私たちでは勝てないね」
「強さっていう言葉には何やら裏がありそうだな」
ルイザは嘆息するしかない。
王城のメイドは全員返すから、近衛騎士団を指揮させろと要求してきたのが一日前。
自身の誇りを大事にするヴィル国王は、承諾するとともに一つの条件を突き付けた。
曰く、『指揮するときは近衛騎士団の誰かに変装してくれ』
一方、それを聞いたフーナも一つの条件を追加した。
対等な関係にするための措置である。
曰く、『テストを受けさせる第三騎士団には、メイドが戻ってきたことを絶対に伝えるな』
第三騎士団と戦いたいフーナと、メイドを取り戻したという戦果が欲しいヴィル国王。
当然のように、この二つの条件はお互いが厳守するということで決着がついた。
「それにしても正体がバレかけでしたよ。まあ、最初に入れ替わり戦術が暴かれましたが」
「ミスリードが破られたくらいで怯えるな。そちらに気を取られて真実には気づいていまい」
フーナは自信満々に言うと、先ほどまでヴィル国王が座っていた玉座に座った。
すると一瞬のうちに、彼女の部下が総じて片膝をつく。
まるで訓練された騎士団のような光景にルイザは呆然とするしかない。
リーデン帝国でも宰相が騎士団を総括していたっけ?
いや……前宰相のダイマス=イエールは騎士団など総括していなかったように思う。
それなら……この女は何だ?
新しい宰相というのは対外的な立場で、実際はどこかの騎士団長などではないだろうか。
「しかし……ここまで裏があるメンバーばかりが揃うとはねぇ」
「団長のべネックがそもそも二面性のある人物ですから。彼女は騎士団を嫌っている」
「なのに団長をやっているのかい? わけが分からないんだが」
フーナが眉をひそめる。
すると、片膝をついている部下の一人が思い出したと言わんばかりに声を上げた。
「べネックといえば……ロマナ家の娘がそのような名前だったのでは?」
「ロマナ家だって? どこだい、それは?」
「元々はリーデン帝国の十二将が一柱です。しかし断罪されて没落したようですね」
部下の言葉にフーナはしばし虚空を睨んでいたが、やがてメモを取り出した。
ちなみにリーデン帝国の十二将といえば、帝国設立に貢献した十二の家を指す。
ルイザも自身の記憶を探ってみた。
確か、リーデン帝国の十二将は昨年の冬ごろに数を一つ減らしたはずだ。
今の話からすると外された家がロマナ家で、そこの令嬢がべネック=シーランだと?
まさか……べネック=シーラン自身もリーデン帝国から逃げてきたというのか!?
いや、待てよ。
そもそもシーラン家というのは何をしている家だったっけ?
彼女がべネック=シーランを名乗っている以上は、シーラン家が彼女を養子に迎えたはずだ。
シーラン家は子供がいなかったはずだから。
ルイザが必死に記憶の糸を辿っている横で、フーナがメモの一点をじっと見つめていた。
チラリと見てみると、殴り書きに近い文字でべネック=ロマナと書かれている。
名前の下には行方不明という赤い文字。
フーナが妖しく唇を歪めた。
「なるほど。となればすべてに説明がつく。なぜべネックとやらが第三騎士団を作ったか」
「フーナ様……それは……」
ルイザが焦ったように問いかけた。
自国のプライベートな情報を掴まれたとあっては、ヘルシミ王国がピンチに陥ってしまう。
相手は大陸一好戦的な国と言われるリーデン帝国だ。
すぐに行動を起こす可能性があると考えると、フーナをこのまま返すわけにはいかない。
「今日は城に泊まっていくとするか。明日には帰るから気にするな」
「ふざけないでもらおう。自国の機密情報を掴まれて、近衛騎士団長たる私が黙っているとでも?」
ルイザは剣呑な雰囲気を出してフーナに詰め寄った。
そして両者が睨み合って数秒後、膠着状態を砕くような声が謁見の間に響きわたった。
「母上? どこに行っちゃったの、もう!」
「ボウヤは誰だい? 入ってくるのは勝手だが戦いの邪魔をしないでくれないか?」
フーナが不機嫌な声を出した。
なんと、部屋に入ってきた第二王子――アレッサ=ヘルシミはフーナの剣を眺めていたのだ。
「アレッサ様、ここは危ないので部屋にお戻りください」
「嫌だ。せっかくお茶会をしていたのに母上がいなくなっちゃったし。退屈だったんだよね」
「私の剣をジロジロ眺めるなんて……失礼なガキだね!」
飄々とした態度にイラついたのか、フーナがアレッサを蹴り飛ばす。
しかし……この国ではその行為は清々しいまでの悪手だ。
ルイザは床を転がるアレッサを見つめながら、小さくため息をついて天を仰ぐ。
とりあえず退避するか。
ここにいたら攻撃に巻き込まれかねない。
そう思ったルイザが後退を始めたタイミングで、アレッサが怒りの声を上げた。
「第二王子である僕を蹴ったな! このババア!」
「なっ……歴史あるリーデン帝国の宰相である私に向かってババアですって!?」
「知らないよ、そんなの! 【神の加護】持ちの僕に逆らったことを後悔させてあげる」
「こちらこそ。“騎士団長に最も近い宰相”である私を侮辱したこと、後悔させてあげるわ」
お互いに剣を構えて睨み合う二人。
ルイザはフーナの背後を取りながら、国王への報告の文言を考えていた。
「べネックの秘密を知ってしまったから……かな?」
彼女を筆頭とした第三騎士団は、この国を大きく変えるきっかけになるだろう。
だからそれまでは……私が守ってあげないと。
ルイザは不敵な笑みを浮かべると、防御態勢を整えたフーナの背後を急襲したのだった。
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