転生王子の奮闘記

銀雪

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第2章  魔法と領地巡りの儀式

『72、魔導具の光と闇』

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「もう・・・分かりましたか。冗談でもそのようなことを言ってはいけません」
「分かりました・・・ゴメンなさい」

ヅモツ郡に向かう途中の馬車内では、マイセスによるボーランへの説教が行われていた。
俺とフローリーは呆れながらその様子を傍観していたのだ。
事の発端は、ボーランの説教によってカルスが改心した直後に遡る。



「それじゃ、ヒスライを館の地下に搬入しておいて」
「了解いたしました」

ドニクの依頼を受けてヒスライの移送を行うオイプスだったが、彼についていく影が1つ。
他でもない、ボーランである。

「どうして君が地下牢に行くのかな?もしかしたら手伝ってくれるのか?」
「いいえ。僕は手伝う方では無くて、地下牢に入れられる方です」

その発言に、舞台上にいた全員の表情が凍り付く。
特に彼のそばにいたマイセスの表情が、いろいろとヤバくなっている。

「ちょっと・・・あなたが入る必要は無いじゃない。どうしてわざわざ入ろうとするのよ」
「改心させるためとはいえ、王子たちに暴力を振るってしまったからね。不敬罪で終わりさ」

ちょっと・・・そんなに思いつめる必要はなくないか?
でも、この世界では王族が絶対というところがあるから少しは納得も出来るが。

「安心しなよ。僕はボーランを罰するつもりはない」
「いえいえ。僕は自分から志願して地下牢に入ろうとしているのです。王子のきづか・・・」

途中で言葉が途切れたため、どうしたのかと見てみるとマイセスが立っている。
その腕はボーランの体に巻き付けられていた。

「何でそんなことを言うの?私に語ってくれた夢は嘘だったの!?」
「マイセス・・・」

戸惑うボーランをさらに強く抱きしめるマイセス。
飾りつけをしていた時に何を話したのかは分からないけど、我を取り戻してくれればいい。

「だからだよ。その夢を叶えるためには罪を償わないと」
「ちょっと、いい加減にしてって。・・・これは僕からの命令だ。牢屋には入るな」

低い声で脅すように言うと、ボーランは体を震わせた。
俺のために罪を償おうとしているんだから、この命令も聞いてくれるはず。

「分かりました。王子がそう言ってくださるなら」
「敬語が戻っているし。後はマイセスに任せる。煮るなり焼くなり好きにしな」

どうやら2人は良い仲らしいし、これで解決するだろう。



馬車に乗るなり説教を始め、チョコチョコと小分けにして行った結果、今に至る。

「ずっとお説教じゃ気分が悪くなるから1時間ずつにしましょう」などど言ってきたのだ。
確かに雰囲気は悪くならなかったけど・・・毎日は心に来るって。

「そろそろ領主館に着きますよ。・・・このセリフ、何回目でしょうか」

御者席からカルスが声を掛けてくれた。
奴隷紋を付けられているとはいえ、主人からの命令が無い時は通常通りなのである。
ボーランの説得もあって、こうやって俺たちと行動しているのだ。

「そうだね。でもここからは止まってられない。早く奴隷紋を解除してもらわないと」
「つまり、今まで以上にスピード重視ってことね。頑張りましょう」

フローリーが張りきったように拳を握りしめた。
領主館の端に馬車を止め、領主のジュライの出迎えを受けてから部屋に通される。
ここまではいつもの流れだ。

「さて、早速だけどジュライの不正の証拠を調べましょうか」
「ちょっとお待ちください!証拠を見つけられては・・・私の弟が死んでしまいます」

魔導具に覆いかぶさるようにジュライが体を滑り込ませる。
その顔は真剣そのもので、とても嘘を言っているようには見えなかった。

「どういうこと?詳しく話を聞くよ?良かったら話してよ」
「実は・・・私の弟であるリアンが憎っきメイザに捕らえられてしまったんです」

ナスタチ郡でマイセスを誘拐しようとした手口に似ている。
あの時はどうして帰って来ることが出来たか知らないが、これはマズイ。
しかもジュライの言葉から察するに、断罪されたら息子は返さないだとか脅されているな。

でも、どうやって調べているんだろう。
ダリマ郡にいるはずのメイザには、ここの情報は知れないはずなんだけど。
密使でも放っているのだろうか。

「この部屋ではないけど、嫌な気配がするわね。魔導具の類かしら」
「魔導具に嫌な気配があるの?じゃあこれからも何か感じているってこと?」

自分の近くにある魔導具を指さしながら尋ねると、マイセスは首を横に振った。

「それからは感じないわ。闇の魔力を込めてあると感じられるみたい」
「メイザの奴が地下牢や街に兵士をたくさん放っていました。何かしたのでは?」

ジュライが窓の外を眺めながら呟いた。
その顔は悲壮感が漂っており、こうするしかなかった悔しさを表しているよう。

「地下に行ってみないと何とも言えないわね。案内してくれない?」

マイセスの希望で地下に来た俺たちは、気配のする方へひたすら歩みを進めていく。
その時、上から妙な気配を感じて天井を見上げた。
何かが横を歩いていたマイセスの肩をかすめ、後ろにいた人影に突き刺さる。

「ギャアアアア!」

フローリーの甲高い悲鳴が地下に響き渡った。
すぐに全員がそれぞれ散らばり、手分けして状況の解析に当たっていく。

「黒い矢が刺さっている。これで襲撃に使われるのは4回目だけど・・・初めて人を貫いた」
「あの魔導具から発射されたみたいだね。あの穴が発射口じゃない?」

俺とボーランが報告している間に、巫女姫のマイセスが治療に当たる。
しかし、思ったよりも傷が深いことで難航しているようだ。

「リレン、手伝ってくれるかしら。このままじゃフローリーが・・・妹が死んじゃう!」
「もちろん。このメンバーは誰1人欠かさない。完全回復パーフェクト・ヒール!」

魔力をちょうどいい濃さで傷口に流し込んでいく。
確かに、俺より魔力が少ないマイセス1人では苦しむくらいの傷口だ。
2年間、ずっと闇で支配されていたノーベンよりも多い量に戸惑うしかない。
どうやったらこんなに闇を込められるんだか。

俺の魔力も少なくなってきたところで、頬に赤みが戻ってきた。
フローリーを何とか無事に回復出来たと分かると、一気に疲れが襲ってくる。

「ハァ・・・疲れた・・・。魔力を使いすぎたな」
「娘を助けてくれてありがとうございます。私は憎い装置を斬り捨てましょう」

堅苦しく一礼したフェブアーは素早い動作で剣を構え、装置を物凄い形相で睨みつけた。
呼応するように黒い矢が猛スピードでフェブアーを襲う。

「フン・・・遅いんだよ!何だか知らないが排除させてもらおう!六ノ方、二鉄斬」

鉄を2つに斬れるということで名前が付けられた最強の一撃。
さすがに耐えきれなかった魔導具は真っ二つに斬られ、無残にも地面に落ちる。

「まさか、情報隠蔽のため配置したんじゃ・・・。そうだとしたら街の人たちが危ない!」

ボーランが街の方角を向いて顔を青ざめさせる。
状況が飲み込めていないジュライが不思議そうに問いかけた。

「どういうことですか?街の人たちに何かがあるっていうんですか?」
「これは自動で人を感知して矢を撃つ魔導具だ。エルフでもこんなの作れるかどうか・・・」

つまり、それだけレアな魔導具のため一般的に認知されていないということか。
万が一にも魔導具の前を一般市民が通ったら、間違いなく命を落とすことになるだろう。

「確かにマズい。早くこの装置の位置を掴まないと」
「部屋に置いてきてある探す魔導具を使えばすぐさ。何せ・・・特注品だからね」

エルフの特注品ならこの状況が打開できるかもしれない。
この装置を仕掛けた人物は・・・間違いなくメイザだ。
人の命すらも軽視しているかのような横暴・・・俺は絶対に許しはしない。

必ず・・・断罪してやる!
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