転生王子の奮闘記

銀雪

文字の大きさ
75 / 152
第2章  魔法と領地巡りの儀式

『73、装置を探せ』

しおりを挟む
「うわ、何これ。あの悪徳領主はどれだけ仕掛けたんだよ」

部屋に戻り、地下牢にあった罠付きの装置の在りかを調べた結果、50近くあった。
しかも街のいたるところに配置されているため、解除が限りなく面倒臭い。

「でも・・・破壊するしかないよね。誰かが傷ついたら困るし」
「そうだね。それが終わったら、断罪しないで行こうかな。あんたも反省しているんでしょ?」

正直に言うと、こうしている時間さえも惜しく感じてしまう。
カルスの腕に彫られた痛々しい奴隷紋を見るたびに、言いようのない不安が襲ってくる。
いつ気を狂わせて自殺しようとしたり、俺たちに牙を剥くか分からない。

それはカルスも同じで、むしろ彼が一番怖いと思うが。
自分が自分でなくなってしまって、大切な人を傷つけてしまうかもしれないのだ。
俺だったら絶対に耐えられない。

でもボーランの説得もあったとはいえ、カルスは俺についてくることを選んでくれた。
ありがたいと今でも思っている。
恩返しと言ってはおかしいかもしれないが、早く苦しみから解放してあげたいのだ。

「そうですね。私は息子が帰ってきたら出頭するつもりです」
「それなら良かった。不正も自分から率先してやるっていう感じに見えないし」

そう言うと、ジュライは淡く微笑んだ。
やっぱりその中には悲哀の感情が多く含まれており、痛々しい。

「街に行こう。今はまだジュライさんが領主なんだから。民たちを守ってあげないと」
「そうですね。精一杯やらせていただきます」

張りきるジュライとともに街に繰り出し、メンバーを3つに分ける。
完全に効率重視というやつだ。

「僕とフェブアーで東の地区。ボーランとマイセスで真ん中の地区。カルスとジュライさんで西の地区を回っていこう。数的にはカルスのところが少し多いかも」
「心配ありません。必ず生きて帰ってきますから」

カルスの心強い言葉とともにそれぞれの地区に散った俺たちはさっそく躓く。
どこに装置があるのか分からないのだ。

「地図によると、ここに1つあるはずだよね・・・無くない?」
「無いですね・・・マイセスのように気配を感じることが出来ればいいのですが」

しばらく探し続けた俺たちは、やがて1本の木にたどり着いた。
街のシンボルにもなっている、樹齢300年の木である。
噂では、初代国王であるマスタル=グラッザドが直々に植えた木とも言われる神聖な木。
その木の枝に黒光りする装置が括りつけられていたのだ。

「王族の遺産ともいえる木に結んでおくだなんて、僕たちをバカにしているのかな?
「――もしかしてメイザが装置を付けたところは王族ゆかりの地なのかもしれませんね」

俺の言う通り、王族をバカにする目的で街にばら撒いたとしたらあり得る話ではある。
しかもこの街の人は王族に深い信仰心があるから、人通りも多い。
その分だけ、民衆が闇の矢に打ち抜かれる可能性が高まるということだ。

「僕たちが行ったら騒ぎになっちゃうかもだけど・・・行かないで後悔するよりかは・・・」
「行って後悔した方がいいですね。もちろん後悔しないのが一番ですが」

冗談めかして言うフェブアーに、高ぶっていた気持ちが少し収まった感じがする。
次の場所は初代国王が立てたといわれている教会だった。
グラッザド家の聖地となっている教会の庭には、蹲ったシスターらしき影。
胸を押さえている手は赤黒く染まっている。

「大丈夫ですか?」
「リレン王子!これ以上は近づかないで下さい!どこから狙われているか・・・」

やっぱり装置に射貫かれたようだ。
俺がシスターに回復魔法をかけている間、フェブアーには装置の処理をお願いした。
やがてヒュッという剣が風を切る音が聞こえたから大丈夫そうだな。
そう思った俺はシスターの1人と教会に入り、寝かせるための敷物を持って戻る。

「フェブアー、これの上にシスターを寝かせてあげて」
「了解いたしました」

本来なら俺がやってあげたいが、幼児の体ではままならない。
シスターの安全を確認してから、俺たちは装置破壊の続きをこなして館に帰った。
既に時刻は16鐘と夕方に差し掛かっている。
どうやら残りの人たちも装置はすべて破壊しつくしてくれたらしく、魔導具にも反応は無い。

「これで終わったね。後は人質の安全を確保してからだ」
「分かっております。子供さえ戻ってきてくれれば私はどうなっても構いません」

ジュライは何度も頭を下げた。
俺たちはむしろ断罪する側なのに、お礼を言われるという矛盾に居心地の悪さを感じる。

「今日は豪華な料理を用意させますので、それまでお休みください」
「分かった。ありがとう」

部屋に戻った俺たちはソファーに座りながら今後の予定を話し合う。
とりあえずやるといった感じで、実際は早くヂーク郡に行こうと言い出すに決まっている。
それほどまでにカルスの腕に彫られた奴隷紋というのは暗い影を落としていた。

「今後はどうする?一応、明日には旅立てるけど」
「さっさと行きましょう。ここでボーっとしてカルスに何かあってからでは遅いわ」

やや食い気味にマイセスが言い切った。
他のみんなも異論はないようで、軽く頷いている者もいれば無表情の者もいる。
共通しているのは反論を発さないというところだろう。

「それじゃ、明日にはヂーク郡に向かおうと思う。――旅もいよいよ佳境だな」
「そうね。ここまで長かったわ。特にドク郡は」

フローリーが昔を懐かしむように呟けば、マイセスが首を横に振った。

「そんなことは無いわ!私はフローリ―と・・・愛する妹ともっと旅をしたかった」
「それは私もだけど・・・だったら学校が始まる前に2人で旅をしない?」

非常に魅力的な提案をするも、マイセスは目を伏せた。
忘れかけていたが、彼女はイルマス教国という国の巫女姫という役職を賜っている。
そう簡単に抜け出すわけにはいかないのだろう。
いろいろと面倒な手続きが必要そうだし、今回だって神託のおかげみたいなところがある。

「どうかしら・・・神託がこのまま解決しなければ旅は出来ると思うわ」
「でも・・・神託はちゃんと解決しなきゃ」

今にも泣きだしそうな声を聞いたマイセスが優しく微笑み、フローリーの肩に手を置く。
緑色の光が舞っているところから見て、鎮静化の魔法でも使ったのだろうか。

「私はあなたが望むのなら辞めてもいい覚悟があるわよ?」
「巫女姫を辞めちゃうってこと!?ダメだよそんなの!私は今のままでいい!」
「そう。必ず時間は作ってあげるから安心しなさい。こう見えても顔は結構広いのよ?」

立場が立場だし、色々な人と関わる機会が多そうだもんな。

「うん!私は待っているから。時間が出来たら2人で・・・家族で出かけよう?」
「お父様にも久しぶりに会いたいわ。フローリーの件は怒らないと」

姉妹で盛り上がっている間、夕焼けに染まる街を見ながら黄昏ているのはカルスだ。
そこにフェブアーが近づいて、腕の紋章を撫でる。

「まだ、皆の迷惑になるんじゃないかとか馬鹿なことを考えているのか?」
「ううん。昔とは見え方が違うなって思っただけ。この色が不気味に思えたもんだ」

空を見上げて、カルスが顔を綻ばせる。
俺とボーランも隣に並んでオレンジ色に塗られた風景を眺めたからか。

「でも今は温かく感じます。こんな私でも必要としてくれる人がいる。守りたい人がいる」
「その点に関しては同意だな。この夕焼けは温かい」

俺も同じことを思っていたし、ボーランもそう思っていただろう。
俺たちの旅は大きな転換期を迎え、いよいよ最終決戦に近付いてきた。
この国がどうなっていくのかは俺たちの手にかかっているのだと思うと、何か緊張するな。
必ずいい国にしてみせる。

この目標を忘れないように、俺は何度でもこの言葉を口にするだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

エレンディア王国記

火燈スズ
ファンタジー
不慮の事故で命を落とした小学校教師・大河は、 「選ばれた魂」として、奇妙な小部屋で目を覚ます。 導かれるように辿り着いたのは、 魔法と貴族が支配する、どこか現実とは異なる世界。 王家の十八男として生まれ、誰からも期待されず辺境送り―― だが、彼は諦めない。かつての教え子たちに向けて語った言葉を胸に。 「なんとかなるさ。生きてればな」 手にしたのは、心を視る目と、なかなか花開かぬ“器”。 教師として、王子として、そして何者かとして。 これは、“教える者”が世界を変えていく物語。

処理中です...