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第四章:三人の旅
第百七話:英雄エリー
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「これはまた、随分と強くなったみたいね」
エリーは言った。
ミラの村ではすんなりと歓迎され、復興の最中だというのに村で生まれた英雄を歓迎する催し物が開かれた。
エリーのことはもう25年も前からずっと村を挙げて応援していたらしく、当時を知る女性達は難しい立場にあったアリスとその娘達への仕打ちを後悔していたらしい。
エリーがレイン達と旅立ってから五年後、女神がこの地に降臨して以来、そう考え直したのだとか。
結局の所エリーは、きっちりと母の愛情を受けて育っていた為に村での記憶はそれほど強烈には残っていない。
みんなが自分や母親をあまり良く思っていないという記憶があるだけで、恨みがあるというわけではなかった。
その為、大変な時期に開かれた英雄を迎える祭りもすんなりと受け入れることにして、これで母への土産話も出来たなと、そう考えることにした。
村とエリーの関係は、たったそれだけ。
嫌な思い出が完全に払拭されることは無いけれど、おかけで巡り会えた縁もある。
今となっては、二度も盗賊に滅ぼされかけたことを同情する念の方が強かった。
そんな故郷を確認したかったのが、エリーがここに訪れた理由の一つ。
そしてもう一つの理由が、直接クラウスの威圧を受けた勇者達の深層心理を覗かせてもらうことだった。
勇者の上位種とも呼べるクラウスの威圧を受ければ、その恐怖は深層心理に深く刻まれる。
心の中で隠していることは覗けないエリーも、隠すことすら不可能な程に深く刻まれた記憶ならば簡単に掘り返すことが出来る。
マヤを呼び止めてクラウスと話しかけた途端に見えた深層の恐怖心は、それはもう凄まじいものだった。
今では人だと認めているその心も、クラウスと言った瞬間に走った緊張は、ちょうど抵抗の手段を一切持たない人が抜き身の剣を突き付けられているに等しい。
ただ名前を出しただけで一瞬とはいえそんな緊張感を覚えるのだから、意識してその威圧を思い出させようとすれば恐怖から狂ってしまう可能性すらあるのかもしれない。
マヤから読み取ったクラウスは、それ程だった。
「と言っても、無条件で怯える程じゃない。あのマヤって子はちゃんとクラウスを人として見てくれた」
「そうか。オリーブさんやお前達の教育は、正しかったということだな」
もしもクラウスが力に負ける様であれば、対策を考えなければならなかった。
しかし今のところは順調に、英雄に憧れる青年として活動しているらしい。
威圧もきちんと制御できているのなら、文句はない。
「ははは、そりゃ慈母神の様なオリ姉と心が読める私が育てれば、魔物でもなければ私達が思う良い子に育つはずだよ」
「妾の力はクラウスに対してはまるで役に立たなくてすまないな」
アリエルの正しき道を示す力は、クラウス個人に関しては何一つ示さない。
ただ、片割れとクラウスは必ず共にあれと言うだけ。
そして今回に関してはもし守れなければ魔王が世界に何体も現れることになるという結果まで示していて、しかしそれ以上の状況は一切示すことはない。
「何言ってるの。アリエルちゃんがいなけりゃこの世界はとっくに終わってたかもしれない。師匠とお姉ちゃんから継いだ世界を私達が魔王に滅ぼされることだけは、絶対にあっちゃいけないんだから」
家庭を全て飛ばして結論を導き出すアリエルの力は非常に有用だ。
ただ、それは人の感情を一切考慮しないというだけで。
ならばその部分は心が読めるエリーや知識の豊富なルークがカバーすれば良い。
そうして上手くやってきたのが、ここのところの20年間。
英雄達があえて英雄として振舞ってきたのも、勇者が少なくなるという現実から、少しでも人々を救う為だった。
エリーだけは、あえて裏方に回ってきたわけだけれど。
「そう言われるとライラを殺した価値もあるってものだな……」
アリエルは自嘲気味にそう告げる。
アリエルは20年間、一日足りともかつての護衛兼侍女であるライラを忘れた日はない。
自身の力が原因で魔王に殺され、反撃の一手となったライラ。
彼女はアリエルの中ではまだ、自分が殺したことになっている。
エリーはあえてそれを否定しなかった。
その後悔こそが、史上最悪の愚王の今の強さの一端になっていることは間違いが無かったから。
そしてその通り、アリエルは直ぐに思考を切り替える。
今は隣に、かつてのライラの様な最高の友人がいつも居てくれるのだから。
「で、エリー。クラウスの強さはどんなものだと考える?」
アリエルは問う。
現在の世界最強は、エリザベート・ストームハートと名前を変えている英雄エリーだ。
順位と呼ばれるこの世界のルールの第二位にあると予想されるエリーは、今や勇者や魔法使いでは肩を並べる者が一人として居ない孤高の強さを手に入れている。
そんなエリーの予想はこうだった。
「ナディアさんが言うには大会の時にはサンダルさんなら勝てるって言ってたみたいだけど、マヤの心を覗いた感じだと今は私よりも強いんじゃないかな。ま、旅してるんだから仕方ないよ」
なんでもない、と言うエリー。
それを見て、アリエルも安堵の息を漏らす。
この世界に於いて、強さと勝者は、少しだけ違う。
順位が恐らく正しいと認識して以来、一人の英雄の、一つの間違いに気づいたからだ。
エリーは勝利する。
もしもクラウスが暴走してしまったとしても、それを止める力がエリーには備わっている。
それを、アリエルも知っているから。
勇者の力を全て失い一般人となってしまったオリヴィアが、一般人ではどうあがいても絶対に勝てないはずのデーモンに勝利を収めたことで。しかしクラウスは15歳までサラに負け続けていたことで、確信しているから。
「油断だけはするなよ? お前はいつも危なっかしいんだから」
そんなアリエルの忠告を聞いて、エリーは言う。
順位とエリーの危なっかしさは別問題だ。心配してはいけないというルールはない。
「うん。自覚してる。でもさ、順位がクラウスにはついてないってのは、少し可哀想な気もするんだよね」
今のところ予想されている一位はサニィ、最下位はサラ、もしくはアーツ。
クラウスは唯一無二の存在であるにも関わらずその順位の外にある様で、エリーはどうしてもそれに同情してしまう。
もしクラウスに順位が適用されていたとしたら、きっと既に誰一人勝てなくなっているのだろうけれど、それでも。
現在の極々一部しか知ることが無い研究では、聖女サニィが急激に強くなったのは一つの簡単な理由があるとされているのだから。
エリーは言った。
ミラの村ではすんなりと歓迎され、復興の最中だというのに村で生まれた英雄を歓迎する催し物が開かれた。
エリーのことはもう25年も前からずっと村を挙げて応援していたらしく、当時を知る女性達は難しい立場にあったアリスとその娘達への仕打ちを後悔していたらしい。
エリーがレイン達と旅立ってから五年後、女神がこの地に降臨して以来、そう考え直したのだとか。
結局の所エリーは、きっちりと母の愛情を受けて育っていた為に村での記憶はそれほど強烈には残っていない。
みんなが自分や母親をあまり良く思っていないという記憶があるだけで、恨みがあるというわけではなかった。
その為、大変な時期に開かれた英雄を迎える祭りもすんなりと受け入れることにして、これで母への土産話も出来たなと、そう考えることにした。
村とエリーの関係は、たったそれだけ。
嫌な思い出が完全に払拭されることは無いけれど、おかけで巡り会えた縁もある。
今となっては、二度も盗賊に滅ぼされかけたことを同情する念の方が強かった。
そんな故郷を確認したかったのが、エリーがここに訪れた理由の一つ。
そしてもう一つの理由が、直接クラウスの威圧を受けた勇者達の深層心理を覗かせてもらうことだった。
勇者の上位種とも呼べるクラウスの威圧を受ければ、その恐怖は深層心理に深く刻まれる。
心の中で隠していることは覗けないエリーも、隠すことすら不可能な程に深く刻まれた記憶ならば簡単に掘り返すことが出来る。
マヤを呼び止めてクラウスと話しかけた途端に見えた深層の恐怖心は、それはもう凄まじいものだった。
今では人だと認めているその心も、クラウスと言った瞬間に走った緊張は、ちょうど抵抗の手段を一切持たない人が抜き身の剣を突き付けられているに等しい。
ただ名前を出しただけで一瞬とはいえそんな緊張感を覚えるのだから、意識してその威圧を思い出させようとすれば恐怖から狂ってしまう可能性すらあるのかもしれない。
マヤから読み取ったクラウスは、それ程だった。
「と言っても、無条件で怯える程じゃない。あのマヤって子はちゃんとクラウスを人として見てくれた」
「そうか。オリーブさんやお前達の教育は、正しかったということだな」
もしもクラウスが力に負ける様であれば、対策を考えなければならなかった。
しかし今のところは順調に、英雄に憧れる青年として活動しているらしい。
威圧もきちんと制御できているのなら、文句はない。
「ははは、そりゃ慈母神の様なオリ姉と心が読める私が育てれば、魔物でもなければ私達が思う良い子に育つはずだよ」
「妾の力はクラウスに対してはまるで役に立たなくてすまないな」
アリエルの正しき道を示す力は、クラウス個人に関しては何一つ示さない。
ただ、片割れとクラウスは必ず共にあれと言うだけ。
そして今回に関してはもし守れなければ魔王が世界に何体も現れることになるという結果まで示していて、しかしそれ以上の状況は一切示すことはない。
「何言ってるの。アリエルちゃんがいなけりゃこの世界はとっくに終わってたかもしれない。師匠とお姉ちゃんから継いだ世界を私達が魔王に滅ぼされることだけは、絶対にあっちゃいけないんだから」
家庭を全て飛ばして結論を導き出すアリエルの力は非常に有用だ。
ただ、それは人の感情を一切考慮しないというだけで。
ならばその部分は心が読めるエリーや知識の豊富なルークがカバーすれば良い。
そうして上手くやってきたのが、ここのところの20年間。
英雄達があえて英雄として振舞ってきたのも、勇者が少なくなるという現実から、少しでも人々を救う為だった。
エリーだけは、あえて裏方に回ってきたわけだけれど。
「そう言われるとライラを殺した価値もあるってものだな……」
アリエルは自嘲気味にそう告げる。
アリエルは20年間、一日足りともかつての護衛兼侍女であるライラを忘れた日はない。
自身の力が原因で魔王に殺され、反撃の一手となったライラ。
彼女はアリエルの中ではまだ、自分が殺したことになっている。
エリーはあえてそれを否定しなかった。
その後悔こそが、史上最悪の愚王の今の強さの一端になっていることは間違いが無かったから。
そしてその通り、アリエルは直ぐに思考を切り替える。
今は隣に、かつてのライラの様な最高の友人がいつも居てくれるのだから。
「で、エリー。クラウスの強さはどんなものだと考える?」
アリエルは問う。
現在の世界最強は、エリザベート・ストームハートと名前を変えている英雄エリーだ。
順位と呼ばれるこの世界のルールの第二位にあると予想されるエリーは、今や勇者や魔法使いでは肩を並べる者が一人として居ない孤高の強さを手に入れている。
そんなエリーの予想はこうだった。
「ナディアさんが言うには大会の時にはサンダルさんなら勝てるって言ってたみたいだけど、マヤの心を覗いた感じだと今は私よりも強いんじゃないかな。ま、旅してるんだから仕方ないよ」
なんでもない、と言うエリー。
それを見て、アリエルも安堵の息を漏らす。
この世界に於いて、強さと勝者は、少しだけ違う。
順位が恐らく正しいと認識して以来、一人の英雄の、一つの間違いに気づいたからだ。
エリーは勝利する。
もしもクラウスが暴走してしまったとしても、それを止める力がエリーには備わっている。
それを、アリエルも知っているから。
勇者の力を全て失い一般人となってしまったオリヴィアが、一般人ではどうあがいても絶対に勝てないはずのデーモンに勝利を収めたことで。しかしクラウスは15歳までサラに負け続けていたことで、確信しているから。
「油断だけはするなよ? お前はいつも危なっかしいんだから」
そんなアリエルの忠告を聞いて、エリーは言う。
順位とエリーの危なっかしさは別問題だ。心配してはいけないというルールはない。
「うん。自覚してる。でもさ、順位がクラウスにはついてないってのは、少し可哀想な気もするんだよね」
今のところ予想されている一位はサニィ、最下位はサラ、もしくはアーツ。
クラウスは唯一無二の存在であるにも関わらずその順位の外にある様で、エリーはどうしてもそれに同情してしまう。
もしクラウスに順位が適用されていたとしたら、きっと既に誰一人勝てなくなっているのだろうけれど、それでも。
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