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第五章:勇者弟子を取る
第三十九話:大切なただ一人を守る為の力
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「よし、良いぞエリー。流石は俺の弟子だ」
「はい! ししょー!!」
エリーがレインに弟子入りしてから数日、彼は戦いの為の技術をエリーに教え込んでいた。とは言えまだまだ子ども。それに当然、今まで戦ったことなど一度もない女児だ。
その動きは所詮子供のお遊戯レベル。しかし、レインはそれで良いと言う。
ただその育て方は、温室だったサニィとは少し違った。
改善点は常に指示しているし、エリーに無理のない程度ではあるが、レイン自身を相手にした実技も行っている。そして最後は必ずエリーが負けだ。
最初の2、3日はそんな訓練を見ているだけでも満足していたサニィだったが、次第に何か悶々としたものがこみ上げてきた。いや、別にエリーに妬いているわけではない。もちろん魔法の訓練を蔑ろになどされていない。レインは両方をきっちりと見ている。とはいえ、何か悶々とする。
その為、レイン式体術をサニィも一緒に学ぶことにした。
もちろん魔法の修業が最優先ではあるが、咄嗟の時に動けるというのはそれだけで大きなアドバンテージになる。そもそもまだ子どものエリーはそこまで長時間の訓練ができるわけではない。
毎日3時間程度、休憩を挟みながらの訓練だ。
そんなレインは、常々エリーにこんなことを言っていた。
「良いか。勇者ってのは普通の人間よりも強い。しかし、二つの心構えが必要だ」
「はい!」
「まずは臆病であれ。常に自分を守れ。無理な戦いはするな。先ずはお前が生き残ることを考えろ」
「はい!」
「そして勇敢であれ。誰かを守る時、その時に一歩を踏み出す強さを持て」
「はい!」
「大切な者の為に勇敢である者こそが勇者だ。いつかお前にも守らなければならない者が出来るだろう。その時に絶対に負けない為に鍛錬をしろ」
「はい!」
エリーは元気に返事をしているが、恐らくなにも分かっていないだろう。
勇者とは言え、殆ど全ての者はドラゴンよりも弱い。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず。ではないけれど、自分の実力は常に把握しておけ。
自分一人であれば無理な戦いはするな。しかし、大切な者を守るためには勇敢であれ。
それがレインの言いたいことだった。それは力を持つ者の義務である。そんなことを。
しかし何も、見ず知らずの人を守る必要はない。
大切なただ一人を守る力を持て。その為に訓練をしろ。
まずは、母親を守れるようになれ。
そんなことを伝える。
それをエリーが把握していなくとも、そんな心構えを毎日彼は説いた。
「なんで大切なただ一人なんですか?」
ふとサニィはそんな疑問を持った。
自分は色々な人を守りたいと思って強くなろうと決意した。
昔からいろんな人の役に立つのが夢だった。
しかし、レインはそんな疑問に対して予想もしていなかった答えを返す。
「人が最も成長するのは自分の為に何かをする時だ。お前は何故俺と会って成長し始めた?」
「え……、と。もう他の町にあんなことが起こらないように」
「そうだ。お前は自分が辛い思いをしたから、そんな思いをさせたくないと成長したんだ。言い方は悪いが、漠然と人の役に立ちたいと考えていただけの時にはお前は両親を抜かないようにと成長を自ら止めていただろう?」
「う、でも、みんなの役に立ちたいって思うのは悪いことじゃないんじゃ」
「確かに悪いことではない。ただ、漠然とした目標は何も産まない。中身の伴わない努力は努力ですらない。無駄に体力と精神力を消費するだけ。だから、一先ずは母親を守れることが重要だ。エリーは今回それを経験しただろう」
「村を……。だから、強くなりますか?」
「俺はそう考えている」
「なんだか難しいですね」
「お前も分かってるだろう。何度も苦痛に晒されて強くなった。俺という明確な目標を見つけて強くなった。そして、自分の生まれ育った町の惨状を見て――」
「強くなりました……」
「ああ、それはエリーも同じだ。既に一度失ったものを二度と失わない為なら、いくらでも強くなれる」
「ふふ、それにしても自分の為に何かをする時に最も成長するって、なんか言い方は悪いですね」
「人の為と言うのも、その本質は自分の為さ。そこを明確にする必要はあると考えている」
「それが、ただ一人を守る為。ですか」
ただ一人を必ず守る力を持てば、それは副次的に多くの人を救う力となる。
きっとレインが言いたいことはそういうことなのだろう。
目標の具体性が違うだけで、結果的には変わらない。
やる気の問題もあると言う。愛する者を守ろうとすることこそやる気が出る。そんなことを言う。
しかし確かに、見ず知らずの大人数を救う。と言っても今一実感はわかないけれど、もう一度自分の町を守ると考えればその力を得るための努力は明確だ。それに必要な力がどの位かは明確だ。
「でも、レインさんは魔王を倒して世界を救おうと思ってたとか言ってませんでしたっけ」
「まあその場合は魔王を倒す為の努力をしたってところだ。魔王に関する本を読み込んだし、『死の山』中のデーモンを全て集めて戦ったし、色々したぞ。実際に魔王が居たとして倒せるかどうかは別にして、俺は俺が知っている生き物の中では最も強い」
「あっはは。その傲慢さはレインさんらしいです。分かりました。じゃあ私もレインさんを倒せる様に頑張りますね。自分の為に」
サニィはそんな風に言って笑う。
目標の明確さはそのまま努力の明確さになる。大きな目標を持つのは結構なことだが、自分を把握していなければそれは徒労に終わる。常に目の前を見つつ、最終的には目標にたどり着く。
それが自分の為という言い方。
そんな言葉を、アリスも聞いていた。
今は夜。アリスはエリーを寝かせ、ちょうど少し起きだしてきた来た所だった。
「エリーは強く、なりますか?」アリスは不安げに尋ねる。
「ああ、俺が保証しよう」レインはそう答えると、アリスは安心したようにほっと息を吐く。
「それは良かったです。あの娘、少し甘えん坊なところがあるから心配してたの」
「盗賊に捕まってた時もエリーちゃんだけは泣いてませんでしたし、凄く強い娘ですよ」
「次は必ずお母さんを守るって張り切ってるさ」
サニィとレインはそんな心配は要らないと微笑んで返す。
「あはは。…………嬉しい」
そう言うアリスの表情は、少し寂しそうに見えた。
そうして今夜も更けていく。
残り【1794→1790日】【1817】
「はい! ししょー!!」
エリーがレインに弟子入りしてから数日、彼は戦いの為の技術をエリーに教え込んでいた。とは言えまだまだ子ども。それに当然、今まで戦ったことなど一度もない女児だ。
その動きは所詮子供のお遊戯レベル。しかし、レインはそれで良いと言う。
ただその育て方は、温室だったサニィとは少し違った。
改善点は常に指示しているし、エリーに無理のない程度ではあるが、レイン自身を相手にした実技も行っている。そして最後は必ずエリーが負けだ。
最初の2、3日はそんな訓練を見ているだけでも満足していたサニィだったが、次第に何か悶々としたものがこみ上げてきた。いや、別にエリーに妬いているわけではない。もちろん魔法の訓練を蔑ろになどされていない。レインは両方をきっちりと見ている。とはいえ、何か悶々とする。
その為、レイン式体術をサニィも一緒に学ぶことにした。
もちろん魔法の修業が最優先ではあるが、咄嗟の時に動けるというのはそれだけで大きなアドバンテージになる。そもそもまだ子どものエリーはそこまで長時間の訓練ができるわけではない。
毎日3時間程度、休憩を挟みながらの訓練だ。
そんなレインは、常々エリーにこんなことを言っていた。
「良いか。勇者ってのは普通の人間よりも強い。しかし、二つの心構えが必要だ」
「はい!」
「まずは臆病であれ。常に自分を守れ。無理な戦いはするな。先ずはお前が生き残ることを考えろ」
「はい!」
「そして勇敢であれ。誰かを守る時、その時に一歩を踏み出す強さを持て」
「はい!」
「大切な者の為に勇敢である者こそが勇者だ。いつかお前にも守らなければならない者が出来るだろう。その時に絶対に負けない為に鍛錬をしろ」
「はい!」
エリーは元気に返事をしているが、恐らくなにも分かっていないだろう。
勇者とは言え、殆ど全ての者はドラゴンよりも弱い。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず。ではないけれど、自分の実力は常に把握しておけ。
自分一人であれば無理な戦いはするな。しかし、大切な者を守るためには勇敢であれ。
それがレインの言いたいことだった。それは力を持つ者の義務である。そんなことを。
しかし何も、見ず知らずの人を守る必要はない。
大切なただ一人を守る力を持て。その為に訓練をしろ。
まずは、母親を守れるようになれ。
そんなことを伝える。
それをエリーが把握していなくとも、そんな心構えを毎日彼は説いた。
「なんで大切なただ一人なんですか?」
ふとサニィはそんな疑問を持った。
自分は色々な人を守りたいと思って強くなろうと決意した。
昔からいろんな人の役に立つのが夢だった。
しかし、レインはそんな疑問に対して予想もしていなかった答えを返す。
「人が最も成長するのは自分の為に何かをする時だ。お前は何故俺と会って成長し始めた?」
「え……、と。もう他の町にあんなことが起こらないように」
「そうだ。お前は自分が辛い思いをしたから、そんな思いをさせたくないと成長したんだ。言い方は悪いが、漠然と人の役に立ちたいと考えていただけの時にはお前は両親を抜かないようにと成長を自ら止めていただろう?」
「う、でも、みんなの役に立ちたいって思うのは悪いことじゃないんじゃ」
「確かに悪いことではない。ただ、漠然とした目標は何も産まない。中身の伴わない努力は努力ですらない。無駄に体力と精神力を消費するだけ。だから、一先ずは母親を守れることが重要だ。エリーは今回それを経験しただろう」
「村を……。だから、強くなりますか?」
「俺はそう考えている」
「なんだか難しいですね」
「お前も分かってるだろう。何度も苦痛に晒されて強くなった。俺という明確な目標を見つけて強くなった。そして、自分の生まれ育った町の惨状を見て――」
「強くなりました……」
「ああ、それはエリーも同じだ。既に一度失ったものを二度と失わない為なら、いくらでも強くなれる」
「ふふ、それにしても自分の為に何かをする時に最も成長するって、なんか言い方は悪いですね」
「人の為と言うのも、その本質は自分の為さ。そこを明確にする必要はあると考えている」
「それが、ただ一人を守る為。ですか」
ただ一人を必ず守る力を持てば、それは副次的に多くの人を救う力となる。
きっとレインが言いたいことはそういうことなのだろう。
目標の具体性が違うだけで、結果的には変わらない。
やる気の問題もあると言う。愛する者を守ろうとすることこそやる気が出る。そんなことを言う。
しかし確かに、見ず知らずの大人数を救う。と言っても今一実感はわかないけれど、もう一度自分の町を守ると考えればその力を得るための努力は明確だ。それに必要な力がどの位かは明確だ。
「でも、レインさんは魔王を倒して世界を救おうと思ってたとか言ってませんでしたっけ」
「まあその場合は魔王を倒す為の努力をしたってところだ。魔王に関する本を読み込んだし、『死の山』中のデーモンを全て集めて戦ったし、色々したぞ。実際に魔王が居たとして倒せるかどうかは別にして、俺は俺が知っている生き物の中では最も強い」
「あっはは。その傲慢さはレインさんらしいです。分かりました。じゃあ私もレインさんを倒せる様に頑張りますね。自分の為に」
サニィはそんな風に言って笑う。
目標の明確さはそのまま努力の明確さになる。大きな目標を持つのは結構なことだが、自分を把握していなければそれは徒労に終わる。常に目の前を見つつ、最終的には目標にたどり着く。
それが自分の為という言い方。
そんな言葉を、アリスも聞いていた。
今は夜。アリスはエリーを寝かせ、ちょうど少し起きだしてきた来た所だった。
「エリーは強く、なりますか?」アリスは不安げに尋ねる。
「ああ、俺が保証しよう」レインはそう答えると、アリスは安心したようにほっと息を吐く。
「それは良かったです。あの娘、少し甘えん坊なところがあるから心配してたの」
「盗賊に捕まってた時もエリーちゃんだけは泣いてませんでしたし、凄く強い娘ですよ」
「次は必ずお母さんを守るって張り切ってるさ」
サニィとレインはそんな心配は要らないと微笑んで返す。
「あはは。…………嬉しい」
そう言うアリスの表情は、少し寂しそうに見えた。
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