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第五章:勇者弟子を取る
第四十話:雨は時に、無慈悲に命を奪う
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「来たか。早かったな」
突然レインがそんなことを言う。
いつもならば何を言っているんだろうと流すサニィだったが、今回は違った。
すぐに理解する。大気が震えている。言いようのないほどの怒気を孕んだそれは、思わず理解を拒絶したくなる程の力に満ちている。
ドラゴン。実際に会ったことがなくても分かる。分かりたくないと思ってしまう程にどうしようもなく、怒れるソレが、こちらに向かっているのだと分かってしまう。
この世界で最高峰に位置する魔物の一つ。進んで人間を攻撃するわけではないが、相対すればまず生き残れない相手の筆頭。
「ひっ。な、な……」アリスは分けも分からぬようで震えている。
「お、お母さん、おかあ、し、ししょー……」
エリーも同様だ。しかし彼女はここ暫くの訓練によって、母親を守ろうとその前に立つ。ぶるぶると震えているものの、今にも折れてしまいそうなほどに怯えて涙を流しているものの、母親の前に立って守ろうとしている。
レインはそれを見て「良くやった」と言って彼女の頭を撫でると、「大丈夫だ。お前の師を信じろ」と微笑みかける。
その瞬間、大気は震えるのを止やめた。
本人曰く、知っている限り最も強い生物が本気の表情をしている。
たった、それだけのことで助かることが確定してしまった。そんな感覚。
「サニィ、守れるな?」
「はい。任せてください」
その安心感は、サニィの自身を取り戻させる。
守ると言っても余波から二人を守るだけ。その余波も、恐らくあの時の戦闘現場よりも少し激しいくらいだろう。それくらいならば、二人を守る程度造作もない。そんな自信。
いいや、自信などではないのかもしれない。それは最早確信と言っても良い程のものだった。
驕りなどでは一切ない。それが自分のすべきことだと、サニィは理解していた。
「エリー、見ていろ。現代最高峰の戦いだろう。一瞬かもしれないが、良く見ておけ」
「はい、ししょう……」
エリーはまだ少し不安げな顔をしているが、レインの自信とサニィの確信を感じ取っているのだろう。
目のに溜まった涙を拭き取ると、口をキッと結び拳を握り締める。
アリスはまだ震えているが、随分とマシになったのだろう。腰を抜かしてふにゃふにゃとへたりこんでいる。
ドラゴンは凄まじい勢いで四人の所へと向かってくる。
レインが気づいてから20分程。レインはその場に座り込んで待っていたが、すっと立ち上がると腰の【月光】を抜き放ち、脱力した構えをとる。
そしてエメラルドグリーンの巨体が見えると、その殺気を抜き放った。
途端に迫る圧力はドラゴンの比ではない。
しかし、それは背後の三人には向いていない。少しばかりの恐怖感はあるが、こちらに向けられる殺気を完全に相殺して尚余りあるそれは、ドラゴンに対する恐怖を拭うには十分だった。
ドラゴンは鬼のような形相をしている。翼を広げた大きさは50mを優に超えるだろう。その叫びは最早言葉ではなく、ただ怒りで大気を震わせるだけの魔法。そのまま、大口を開けたドラゴンの口は灼熱を帯びて光り始める。
「サニィ、ブレスだ」
その声と共に、サニィは瞬時に壁を創り出す。可能な限り酸素を抜いた風の膜。その背後には薄い水の膜。如何にドラゴンの強大なブレスと言えど、そんな芸当をされてはそこで炎は一瞬止まってしまう。
しかも、そのブレスは一瞬にして掻き消える。レインがそれを事も無げに切り裂いたのだ。
長時間のブレスであればサニィの防御を突破することなど容易いだろうが、今のドラゴンの相手はサニィではない。サニィが相手すべきも、あくまでドラゴンの攻撃の余波だった。
レインはブレスを切り裂くと瞬時にドラゴンへと向かって飛び、一瞬にしてその両の翼を削ぎ落とす。
それは剣技等と言えぬものだった。相手を痛めつける為のただの暴力。綺麗な切り口で痛みすら感じさせないなどという優しい物ではなく、痛みによって動きを鈍らせる為の技術。
それがレインの見た隙だった。巨体を持つドラゴンを効率的に殺すには、戦意を喪失させるのが最も効率が良い。巨体が魔法を使う以上、巨大な急所は確実に守ってくる。それが分かっている。
それならば、急所を無様に晒すまで痛めつければ良い。
およそ勇者の戦い方ではないが、格好をつけて勝てる相手に負けるほど愚かしいことはない。
恐らくそれをエリーに見せるつもりなのだろう。教育上良くないなどという言葉は、魔物に対しては適応されない。とはいえ、子どもに見せていい映像でないことは確かだとサニィは思っていたが……。
しかしその時のレインに一切の容赦はなかった。
それからは、一方的だった。凄惨だった。
いや、元々ピンチどころか拮抗状態すら無かった。無様に錐揉みをしながら地に落ちたドラゴンは、苦痛に顔を歪めると再びブレスを吐こうとするものの、次の瞬間舌が切り取られる。本来であればそれでブレスが使えなくなるわけでないが、ブレスも魔法。ドラゴンのイメージを一瞬崩すには十分だった。
そうして末端から徐々に削られていったドラゴンは、遂には地べたを這いずり回って逃げ出す。
怒りで言葉を無くしていたドラゴンは、最早恐怖で言葉を無くしていた。
その瞬間だった。
レインは背後から容赦なくその首を斬り落とした。
そのままドラゴンの体は、何も発すること無く慣性と重力に任せて身を投げ出す。
ズシン……。
静かに響いた巨体の倒れる音は、魔物の王としては余りにもあっけない最期だった。
――。
「ししょー。ありがとうございました!」
「な、何か掴めたの?」
無邪気にお礼を言うエリーに、アリスは少し引き気味に質問をする。
今回に限っては、普通の大人が見ればただの虐殺だ。
尤も、それはやったのが人間だからそう思ってしまうことであって、魔物はそれよりも酷いことを平気でする。
サニィも少しばかりレインの行いに引きつっていたが、自分がオーガにされたことに比べれば遥かにマシだ。そもそも、挑んでこなければこんなことにはならなかった。身の程知らずは馬鹿を見る。
それならば仕方ないと思えた。
しかし、エリーはそんな虐殺をしたレインに無邪気にお礼を言っている。
アリスとサニィはそれに不安を覚えたが、エリーはレインの真意を正しく汲み取っていたらしい。もちろん、心を読み取れる能力のおかげではある。
「自分の方が強くても油断はしない。わかったっ!」そう答えるエリーに、レインは「流石は俺の弟子だ」と言いながら彼女の頭を撫でる。
そしてアリスとサニィの方に向き直ると「もうこんな仕留め方はしない。俺も好きじゃないからな」
そんなことを渋い顔で言う。
きっと、嫌々やっていることすらエリーは分かっていたのだろう。
確かに、今までレインが殺生をする時に、あえて時間をかけるような真似をしたことは初めてだった。
前回ドラゴンと戦った時は追い払っただけと言っていたし、確かに鱗は落ちていたもののそれ以外の欠損は見られないようだった。もしかしたら、素手で戦っていたのかもしれないとすら思う程、今日は圧倒的だったのに。
サニィはそんな渋い顔をしているレインを見ると、魔物ではあるものの、戦闘訓練に付き合わせてしまったドラゴンの魂が無事に天に登れるようにと祈るのだった。
残り【1790→1787日】【1814】
突然レインがそんなことを言う。
いつもならば何を言っているんだろうと流すサニィだったが、今回は違った。
すぐに理解する。大気が震えている。言いようのないほどの怒気を孕んだそれは、思わず理解を拒絶したくなる程の力に満ちている。
ドラゴン。実際に会ったことがなくても分かる。分かりたくないと思ってしまう程にどうしようもなく、怒れるソレが、こちらに向かっているのだと分かってしまう。
この世界で最高峰に位置する魔物の一つ。進んで人間を攻撃するわけではないが、相対すればまず生き残れない相手の筆頭。
「ひっ。な、な……」アリスは分けも分からぬようで震えている。
「お、お母さん、おかあ、し、ししょー……」
エリーも同様だ。しかし彼女はここ暫くの訓練によって、母親を守ろうとその前に立つ。ぶるぶると震えているものの、今にも折れてしまいそうなほどに怯えて涙を流しているものの、母親の前に立って守ろうとしている。
レインはそれを見て「良くやった」と言って彼女の頭を撫でると、「大丈夫だ。お前の師を信じろ」と微笑みかける。
その瞬間、大気は震えるのを止やめた。
本人曰く、知っている限り最も強い生物が本気の表情をしている。
たった、それだけのことで助かることが確定してしまった。そんな感覚。
「サニィ、守れるな?」
「はい。任せてください」
その安心感は、サニィの自身を取り戻させる。
守ると言っても余波から二人を守るだけ。その余波も、恐らくあの時の戦闘現場よりも少し激しいくらいだろう。それくらいならば、二人を守る程度造作もない。そんな自信。
いいや、自信などではないのかもしれない。それは最早確信と言っても良い程のものだった。
驕りなどでは一切ない。それが自分のすべきことだと、サニィは理解していた。
「エリー、見ていろ。現代最高峰の戦いだろう。一瞬かもしれないが、良く見ておけ」
「はい、ししょう……」
エリーはまだ少し不安げな顔をしているが、レインの自信とサニィの確信を感じ取っているのだろう。
目のに溜まった涙を拭き取ると、口をキッと結び拳を握り締める。
アリスはまだ震えているが、随分とマシになったのだろう。腰を抜かしてふにゃふにゃとへたりこんでいる。
ドラゴンは凄まじい勢いで四人の所へと向かってくる。
レインが気づいてから20分程。レインはその場に座り込んで待っていたが、すっと立ち上がると腰の【月光】を抜き放ち、脱力した構えをとる。
そしてエメラルドグリーンの巨体が見えると、その殺気を抜き放った。
途端に迫る圧力はドラゴンの比ではない。
しかし、それは背後の三人には向いていない。少しばかりの恐怖感はあるが、こちらに向けられる殺気を完全に相殺して尚余りあるそれは、ドラゴンに対する恐怖を拭うには十分だった。
ドラゴンは鬼のような形相をしている。翼を広げた大きさは50mを優に超えるだろう。その叫びは最早言葉ではなく、ただ怒りで大気を震わせるだけの魔法。そのまま、大口を開けたドラゴンの口は灼熱を帯びて光り始める。
「サニィ、ブレスだ」
その声と共に、サニィは瞬時に壁を創り出す。可能な限り酸素を抜いた風の膜。その背後には薄い水の膜。如何にドラゴンの強大なブレスと言えど、そんな芸当をされてはそこで炎は一瞬止まってしまう。
しかも、そのブレスは一瞬にして掻き消える。レインがそれを事も無げに切り裂いたのだ。
長時間のブレスであればサニィの防御を突破することなど容易いだろうが、今のドラゴンの相手はサニィではない。サニィが相手すべきも、あくまでドラゴンの攻撃の余波だった。
レインはブレスを切り裂くと瞬時にドラゴンへと向かって飛び、一瞬にしてその両の翼を削ぎ落とす。
それは剣技等と言えぬものだった。相手を痛めつける為のただの暴力。綺麗な切り口で痛みすら感じさせないなどという優しい物ではなく、痛みによって動きを鈍らせる為の技術。
それがレインの見た隙だった。巨体を持つドラゴンを効率的に殺すには、戦意を喪失させるのが最も効率が良い。巨体が魔法を使う以上、巨大な急所は確実に守ってくる。それが分かっている。
それならば、急所を無様に晒すまで痛めつければ良い。
およそ勇者の戦い方ではないが、格好をつけて勝てる相手に負けるほど愚かしいことはない。
恐らくそれをエリーに見せるつもりなのだろう。教育上良くないなどという言葉は、魔物に対しては適応されない。とはいえ、子どもに見せていい映像でないことは確かだとサニィは思っていたが……。
しかしその時のレインに一切の容赦はなかった。
それからは、一方的だった。凄惨だった。
いや、元々ピンチどころか拮抗状態すら無かった。無様に錐揉みをしながら地に落ちたドラゴンは、苦痛に顔を歪めると再びブレスを吐こうとするものの、次の瞬間舌が切り取られる。本来であればそれでブレスが使えなくなるわけでないが、ブレスも魔法。ドラゴンのイメージを一瞬崩すには十分だった。
そうして末端から徐々に削られていったドラゴンは、遂には地べたを這いずり回って逃げ出す。
怒りで言葉を無くしていたドラゴンは、最早恐怖で言葉を無くしていた。
その瞬間だった。
レインは背後から容赦なくその首を斬り落とした。
そのままドラゴンの体は、何も発すること無く慣性と重力に任せて身を投げ出す。
ズシン……。
静かに響いた巨体の倒れる音は、魔物の王としては余りにもあっけない最期だった。
――。
「ししょー。ありがとうございました!」
「な、何か掴めたの?」
無邪気にお礼を言うエリーに、アリスは少し引き気味に質問をする。
今回に限っては、普通の大人が見ればただの虐殺だ。
尤も、それはやったのが人間だからそう思ってしまうことであって、魔物はそれよりも酷いことを平気でする。
サニィも少しばかりレインの行いに引きつっていたが、自分がオーガにされたことに比べれば遥かにマシだ。そもそも、挑んでこなければこんなことにはならなかった。身の程知らずは馬鹿を見る。
それならば仕方ないと思えた。
しかし、エリーはそんな虐殺をしたレインに無邪気にお礼を言っている。
アリスとサニィはそれに不安を覚えたが、エリーはレインの真意を正しく汲み取っていたらしい。もちろん、心を読み取れる能力のおかげではある。
「自分の方が強くても油断はしない。わかったっ!」そう答えるエリーに、レインは「流石は俺の弟子だ」と言いながら彼女の頭を撫でる。
そしてアリスとサニィの方に向き直ると「もうこんな仕留め方はしない。俺も好きじゃないからな」
そんなことを渋い顔で言う。
きっと、嫌々やっていることすらエリーは分かっていたのだろう。
確かに、今までレインが殺生をする時に、あえて時間をかけるような真似をしたことは初めてだった。
前回ドラゴンと戦った時は追い払っただけと言っていたし、確かに鱗は落ちていたもののそれ以外の欠損は見られないようだった。もしかしたら、素手で戦っていたのかもしれないとすら思う程、今日は圧倒的だったのに。
サニィはそんな渋い顔をしているレインを見ると、魔物ではあるものの、戦闘訓練に付き合わせてしまったドラゴンの魂が無事に天に登れるようにと祈るのだった。
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