雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
80 / 592
第八章:新たな国の霊峰へ

第八十話:楽をする為に考えたことだったのだけれど

しおりを挟む
 修行は順調とは行かなかった。
 まず初日にいきなりハプニングが起こったのは想定外のことではあったが、寝ている間にもマナコントロールなどそう簡単に出来るものではない。危険な状況になる前にレインが抱えて下山する。
 修行者の中にはやはり聖女を崇拝し始めている者も居り、サニィは杖を小型化していたのでなんとなく似ている程度の認識しかされなかったものの、演技下手で疑われていた。
 毎日朝から夕方まで謎の剣士を連れて山に入っているのだ。二人分の周囲のマナ濃度を調整することの困難さを知っている修行者達にはそれだけでサニィの能力の高さは見抜かれている。
 聖女かどうかはともかく、凄腕の魔法使いと謎の剣士、そんな風に興味を持たれるようになっていた。
 そんな日が一週間ほど続いた。

「うーん。反則技を使って良いですか?」
「ほう?」

 反則技。もちろんのことレインは何を指しているのか分からない。
 それは簡単なことだった。最初からイメージしておけば良い。
 寝ながらイメージし続けることが出来ないのなら、最初から魔法を垂れ流しにしておけば良い。

「要するに、最初から12時間効果が継続する魔法にしてしまえば良いんじゃないですか?」
「そんなことが出来るのか?」
「私なら出来ると思います。マナタンクのある人はそんなことをしてしまえばいつの間にかマナが尽きてしまうのかもしれません。でも、ここは霊峰で失ったそばから流入してくるので、きっと他の人も出来ると思います」

 ここ霊峰以外では他の人はマナが切れる。直径2m程の大木を10本ほども斬れば殆どどんな人でも。
 それは少しの時間経てば元に戻るが、しばらく魔法を垂れ流しにしていたら回復が追いつかないだろう。

「なるほど。普段の戦闘では余りに限定的な力になるから開発すらされなかった魔法イメージと言うわけか」
「現状ではこの山以外では使えないでしょうね。みなさんマナ効率悪いので。でも、今までの私の研究と合わせれば普段から使えるようになるかも」

 魔法使いは安全な後衛以外では弱い。その理由はシンプルだ。
 パニックを起こせばただの人。それはどんなタイミングであっても。

「今までお前は身体強化と探知と蔦をどうやって同時に使っていたんだ?」
「全部別々にずっとイメージし続けていたというわけです。なので実践で焦って使い忘れて死んでしまいました。でも、一度のイメージで効果が継続するのなら、忘れることもありません」
「なるほど。さて、ここからは興味があるだけなんだが」

 魔法使いが作った蔦や壁は残る。それはマナを物質に変換すればこそ。時が経って風化すればマナに戻っていく。同じく魔法の蔦の栄養素は空気中のマナ。それを補給できなくなれば同じく枯れ果て、いずれはマナに戻る。
 ただ、身体強化や探知と言った魔法は物質化するわけではない。マナを直接一時的に超常現象に変換しているに過ぎない。
 炎などの魔法もそう言うことらしい。

「なるほど。要するに作ってしまえば残るのが常識的なものであれば、出現した後は維持が不要、維持するのが困難なものは魔法を使用し続ける必要があると言うわけか」
「そんな感じです」
「確かにそれをイメージどうこうで変えるのは難しそうだな」
「はい。なので、マナ効率を最適化して、最初から長時間維持出来るイメージをする。それが現状では最善かと」

 ――。

 サニィの魔法書に、新しいページが加わった。『バッファー』強化系の魔法を長期的に維持する魔法技術。
 マナ効率と出力を強化するほどに有効となる肉体強化手段。
 サニィのイメージを全力でそれにつぎ込むと、それだけでサニィは鋼の肉体となる。残念ながら身体能力自体はオリヴィアに及ばないが、その耐衝撃性能だけで言えば彼女のレイピアを弾いただけのことはある。
 オーガに殴られた程度では蚊に刺された様なものだろう。ドラゴンの牙にも耐えられるかもしれない。
 ここ、霊峰ではそれを何時間でも維持出来るという。

「この強度で使うと霊峰以外では10分程で強制解除されちゃいそうですね。新しくイメージする魔法ならいくらでも使えますけど、この魔法の欠点は持続中は魔法を発動した地点のマナを消費し続けてしまうことでしょうか。そこの濃度が薄まれば勝手に解けちゃいます」
「ま、それもマナタンクを持つ人間には関係のないことではあるな。お前限定の欠点というわけか」

 シンプルなことではあるが、サニィは全力を出せば10分間は異常な頑丈さを発揮する。
 たったそれだけのことで、彼女は10分間パニックにならずに済むだろう。
 魔法使いは弱い。イメージを失えばただの人。その弱点を克服する術は、パニックにならないこと。
 その為に随分と遠回りしたものだ。
 恐怖で何も出来ず、何度も何度もオーガに殺された。自分が負ける訳のないオークやイフリートは楽勝だったものの、初の命を賭けた戦いでは完敗だったと言って良いだろう。
 あと少しとは言え、パニックになったせいでドラゴンに殺された。そんな弱点を、嫌というほど体験してきた。

「全く、レインさんは毎度無茶を言いますけど、なんとなくその通りになりますね」
「今回ばかりはただ覚悟を試したつもりだったんだけどな。新しい道を見つけたのはお前だ」
「え、何か新しい方法に手がかりがあったわけじゃ……」
「すまんが全く無かった。死にかけても最初からになっても戦い続ける覚悟があれば最終的には登頂出来る。それだけのことしか考えていなかった」
「さ、流石の鬼畜王ですね……。まあ、ドラゴン戦の死因もそれだったので仕方ないですけどぉー」
「ああ、それじゃ今日は帰って、明日最初から登ろうか」

「え、せっかく今日ここまで登ったのに!? 鬼ぃーーー!!」そんなサニィの叫び声が聞こえるが、レインはそんな言葉も聞こえないかの様にサニィを抱える。必死に抵抗してみるものの、この男には未だに何一つ効きはしない。
 自分が70mのドラゴンに殺されている間、この男は90mのドラゴンを難なく殺していたのだ。仕方あるまい。
 しかしその日ばかりは、無理やり下山させられて正解だった。

「っ! 待ってください! あそこに誰か倒れて! え、と、マナドレイン! そのままマナ遮断!」

 レインだけでは間に合わなかっただろう。
 その地はレインの全力でも下山まで13分程かかる位置。麓の村から3000m程登った地点。海抜で言えば5000mを超える。
 熟練の修行者が、命懸けで挑んでも失敗する可能性がある場所だった。
 倒れていた少年は、全身をマナに犯され、あと5分程遅ければ死んでいた。
編集[実行]
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...