雨の世界の終わりまで

七つ目の子

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第九章:最後の魔王

第百二十七話:こいつはもう

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 アリエルの力は一切の感情を考慮しない。
 今までの幾度ものデータから、それは完全に分かっていた。
 それでも尚、魔王討伐隊の面々はそれに従い続けている。
 理由は簡単だ。

 単純に今の場面で犠牲が少なくなる方法ならばルークが作戦を立てるのが最善だろう。
 最も冷静に場を把握し、最も鋭い洞察力と、頭の回転。それら全ての面に於いて、ルークは図抜けている。
 ルークの指示通りに完璧に動くことさえできれば、少しずつ追い詰める様に連携を取り魔王を討伐することが出来るだろう。
 しかし、それはあくまで現状が維持され続けるのであれば、全ての人員が正確な駒であればに限り。
 今回の様にたまきが合流することを予測することなど不可能に近いし、魔王がレインだったことでオリヴィアがどれほど動けなくなるのかも想像出来ない。

 つまり、アリエルに従わなければいつ魔王相手に全滅してしまってもおかしくないのだ。
 今回もそうだった。
 ディエゴ達三人の加勢に加わり善戦するだけならばさほど難しい話ではない。
 しかし、それで勝てるかどうかと言われれば、まるで別の話。
 相手が全盛期のレインであるのならば、中途半端な加勢は逆効果。助けに来たことでほんの一瞬でも緩むディエゴの、隙とも言えない隙を突かれて崩されることなど容易に想像出来る。
 少なくとも、魔王でないレインはそれほどの強さを持っていた。
 ここに居る創設メンバーは、誰しもがそれを知っている。

【犠牲者が出てしまった以上、スローガンは叶わない。ならば次は、如何に少ない犠牲で倒せるか、それを考えるしかない】

 エリーとオリヴィアの居る隣の部屋から、そんな心の声が漏れ聞こえてくる。
 それは恐らく、何人もの重なった思念だろう。
 覚悟の中の悲痛さが何層にも分かれている。
 そんな中で、明らかに違う声が混ざっているのが分かる。

【アリエルちゃんの力がグレーズへの報告を示す……。グレーズ……ディエゴさんの戦死……オリヴィアさんの心は…………そしてレインさんが、…………国王は……】

 既に思考を切り替えているルークは、こういう時に頼もしい。
 しかしその心の声は、一瞬にして絶望に変わった。

【まずい! エリーちゃん! 直ぐグレーズに飛ぶんだ!】

 アリエルの力は一切の感情を考慮しない。
 その指示に従えば間違いなく最少の犠牲で魔王を討伐出来ることだろう。
 しかしそれでも、流石のルークを以てしても、それだけはどうしても許すことが出来なかった。
 その最少の犠牲は恐らく、最大の……。

「オリ姉、ちょっとここで待ってて」
「え、エリーさん? 行かないで」
「イリス姉に来てもらうから待っててね、少しだけだから」

 いつになく弱気になっているオリヴィアを精神介入で無理やり宥めつつ、ルークの声に従って急いで部屋を飛び出す。
 ルークの想像通りなら、それはきっと、最悪の結果を招く。
 いや、ほぼ確実にそうなることだろう。
 今まで見てきた凡ゆる心を鑑みるに、ルークの予測が当たる確率は限りなく100%に近い。
 あの人は、そういう人だった。
 そして何よりも……。

 あの言葉を正しく受け取っていたのは魔王討伐隊の面々だけだ。

 隣の部屋で心を介して報告を聞いていたエリーは、それを把握している。
 だからこそ、行かねばならないと思った。
 今はオリヴィアを置いてでも、直ぐにグレーズに走らねばと、エリーはそう思った。

 ――。

「こいつはもう勇者ではない!」

 ディエゴが最期に残したその言葉が示す意味は、勝算があるという意味だ。
 隙を見る力、次元さえ超えてしまう様なその圧倒的な勇者の力は、当然ながら陰のマナのみで構成されたその肉体では持ち得ない。しかし、見ただけでそれを見抜く者は、何も言わずに散ってしまったナディアを除いて誰一人、戦わなければ存在しない。
 だからこそディエゴは、希望をもたらす為にその言葉を残した。

 魔王討伐隊の面々だけは、その意図をはっきりと把握していた。

 しかし、それ以外の人々にはそれがディエゴの悲痛の言葉に聞こえても、何もおかしくはなかった。
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