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第十一章:血染めの鬼姫と妖狐と
最終話:それも悪くないわ
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女は幸せだった。
きっと、その凄惨な姿の最期を見た人は皆誰しもがそんなことはあるわけがないと言うだろう。
もしくは、いくつもの国を滅ぼしてきて幸せを語るとは何事かと怒りを顕にするか、そのどちらかだろう。
それでも女は、自分の向かう最後の時に、幸せだと言い切る自信があった。
女は、魔王の隣で人類の敵として、戦った。
なるべく傷を付けないように、しかし少しでも魔王と共に居られる様にと、最大限に注意を払って。
それは人間であるならば、いや、魔物だとしても許されることではないだろう。現に、女は死んだことにしなければならなかったし、死ぬことが決まっているので無ければ殺さなければならなった。
魔王の隣に居て人類と戦うということは、そういう事だった。
極一部の者達からの評価を除けば、女は明確な人類の敵で、誰よりも哀れな道化の様だった。
「師匠の側に居てくれてありがとう」
女の持っている情報全てを話した後に、少女は女に向かってそう言った。
少女にとって魔王は、倒さなければならない敵であるのと同時に命の恩人。そして、救いたい相手だった。
少女は知っていた。
人を殺す後悔を。誰一人信用出来ない苦しさを。
……誰一人側に居ない寂しさを。
だから、それが敵であろうと、大切な恩人を一人をしないで居てくれたことに感謝した。
それはその場に居た英雄候補達の皆が、少なからず思っていた感情だった。
魔王討伐隊を組織したのは、そもそも魔王その人なのだ。
本人が魔王となることを知っていたか否かに関わらず、その人は本気で魔王討伐の為の育成を行ってきた。動揺と勘違いから騎士を殺してしまったことはあるにしろ、それを運が悪かったで済ますしかない程度には、人類の生存に貢献してきた人物なのだ。
今回の魔王討伐が、その魔王になった男本人が行った死者ゼロという二回を除けば、過去最少の被害人数であるという理由を、英雄候補、いや、英雄達だけははっきりと把握していた。
だからこそ、そんな悲哀の魔王の側に寄り添ってくれていた女に、英雄達は感謝の意を述べた。
【藍の魔王】とは、そんな英雄の一人、マルスが呼び始めた呼称だった。
魔王となったレインの瞳の色が藍色だったことがその主な理由で、同時に世界中の人物の知る理由。
しかしその【アイ】という言葉に、【愛】や【哀】が隠されていることは、英雄達のみぞ知る理由となった。
女は幸せだった。
日に日に衰弱し痛む体、次第に体中から出血し、意識もままならない状態となっても、その感覚は消えることはなかった。
隣に眠る魔王の体に身を寄せ、例えその体から温もりを感じることなど出来なくとも、身を寄せているという事実だけで、女には充分だった。
そうして暫くの時が流れる。いつの間にか話し相手となってくれていた二人の男は居なくなり、身を寄せている男が暖かいと感じ始めた頃、それが死の間際だということに気づく。
何故なら、目の前に居ないはずの人物が居るからだ。
「やっぱり私の近くに居たのね」
「半分正解かな」
その場に居たのは、かつて魔王となるも聖女として人類に親しまれた、レインの伴侶であるサニィだった。
かつての敵も、今となっては旧来の親友の様に感じる。
「半分?」
「そう、半分。私は近くにただ居たんじゃなくて、あなたの中にも居たからね」
「それは、私があなたのマナを取り込んだのだから、当然でしょうけれど」
今や陽のマナの一部となっているサニィを取り込んだからこそ、自分は死にかけている筈。中に居るのは当然だとたまきは思う。
しかし、サニィは笑みを崩さず意外なことを言う。
「うーん、あなたは自分で取り込んだって思ってるかもしれないけど、少し違うんだ。今更遅いけど、ごめんね」
何を言っているんだと思うが、よくよく考えてみると少しの心当たりがある。
ルークが聞いてきた、杖は何処で見つけたのかという言葉。そして、マナを感知出来ない筈がどうやってサニィのマナだけを取り込むことが出来たのか。
走馬灯の様な状態でサニィと分離したからなのだろうか、ようやくその違和感に気づく。
「もしかして、魔法書からということ?」
「そう。贖罪にはならないし、私のわがままみたいなものだけど、真実を話すね」
そうして、聖女サニィは話し始めた。
幸いにも、時間はいくらでもある様に感じる。
魔物には無いはずの走馬灯の様な時間も、サニィと同化したことで得られているのならば、あまり悪くはないと思いながら聞く。
しかしその内容は、たまきの想像以上のものだった。
「私はあなたに魔法書を通して侵入させて貰った。魔法書にはあなたに対して催眠効果をもたらす様に、死んだ後だけれど調整させてもらったの。魔法事象は陽のマナが引き起こすことだから、あなたが魔法を使う魔物である以上はそれ程難しいことではなかった。尤も、レインさんに会いたいってあなたの強烈な思念が無ければ成功しなかったけれど。それで、あなたの脳に杖の場所をすり込んだ」
「今思えば、あの魔法書にはとても惹かれてたわ」
たまきはそれを手に入れてから、随分と熱心に読み込んでいたことを思い出す。
思えば、手に入れる所から仕組まれていた可能性すらある。強烈に、手に取りたくなったのだ。
「同時に、レインさんを復活させられるって思い込ませることもね」
「酷い人ね……」
サンダルが言っていた、瀕死だった聖女と瓜二つだったの女性、ナディアがサニィを魔女だと言っていたらしいが、それもあながち間違いではないと感じる。
「杖を手に入れれば後は簡単。あの杖、フラワー2号は私の魔法の道具。私の身体が分解されて陽のマナの一部となる時もフラワー2号を通したのなら、その逆にそこから入り込むことが出来ると言うわけなんだ」
「そうなれば、私を操るのも容易いと……」
「うん、あなたは自分で決めたと思ってるかもしれないけれど、全部私の思い通りの行動をとって貰っただけ」
「レイン様を、復活させたのも?」
もしくは、命を犠牲にしてレイン様のマナを捉えられる様にサニィのマナを大々的に取り込んだのも?
そんな質問に、サニィは真剣な顔で頷く。
全ては、掌の上で踊らされていたというわけだ。
自分の意思だと思っていたことが全て誘導されたことで、ついでに処分される愚かな魔物だったと、そういうわけだったのだ。
それを知って、流石のたまきも青ざめる。
それは、「サニィ」とレイン様から呼ばれる訳だ。マナを同化しているからサニィなのではなくて、彼女の意思通りに動く操り人形だったからサニィ。
「ごめんね」
そう言うサニィの言葉に、なんと返せば良いのか分からなかった。
それを分かったのだろう、サニィは続ける。
「私達がマナと同化して直ぐに、私は世界の意思が考えていることが分かった。なんとしてでも、最後の魔王をレインさんにしたい。死んだことは喜ばしいけれど、もっと深い絶望を与えてやりたい。だからなんとしてでも魔王にして、絶望を感じさせてやる。そう思っていることを知ったの。でも、私にはそれに直接対抗することは出来ないし、レインさんには意識と呼べる様なものは殆ど残ってなかった」
だから、決意したのだと言う。
ほぼ手を出すことが出来ないサニィにとって唯一出来るだろう方法で、魔王として生き返らせることを阻止出来ないのならば、たまきを誘導して側に居て貰うことなら出来るのではないのかと。
そして弟子達の手で最期を迎えることで、それなりに幸せだったと思って貰えるのではないかと。
「だからあなたを犠牲にして、レインさんを一人にならない様に仕向けたの」
そして、最後の止めとばかりに言う。
「私にとっては世界よりも、レインさんの方が大切だから」
その言葉を聞いて、たまきは思う。
ああ、そういうことかと。
単に恋敵に酷いことをしているわけではなく、一番大切なものの為にはなんでも犠牲に出来る覚悟があるだけなのだと。それはよくよく考えてみれば、自分も同じなのだと気づく。
無理だと分かっていて、人の真似をしてみた。
レインを生き返らせられると考えて、敵だったはずのサニィの魔法書を読み解いた。
死ぬと分かっていて、自分の体にサニィのマナを同化させた。
それが例えサニィの誘導の通りだったとしても、驚く程に後悔がない。
今触れている温もりの幻想に、確かな幸せを感じている。
だから、たまきは言った。
「妾の方こそ、自分の命よりもレイン様が大切。そして今は、とても幸せ」
そんな意趣返しの様に、目の前の魔女に微笑んで見せた。
すると、サニィも満足そうに頷いた。
「あはは、もしも来世ってものがあったら、私とレインさんのペット位にはしてあげる。そうすればレインさんから愛されても、私も妬かずに済むと思うから」
まるでヤキモチで殺したのだとでも言わんばかりの酷い言い様ではあったものの、サニィは満面の笑みを浮かべた。
レインの来世とサニィの来世に犬か何か、ペットとして飼われる自分。
それならレインをどれだけ好いても構わないし、サニィもまた、途方もない動物好きだということを知っている。そんな中で暮らす来世。
そんな光景を思い浮かべたたまきは、「それも悪くないわ」と笑う。
狐は最期の時、確かに幸せだった。
きっと、その凄惨な姿の最期を見た人は皆誰しもがそんなことはあるわけがないと言うだろう。
もしくは、いくつもの国を滅ぼしてきて幸せを語るとは何事かと怒りを顕にするか、そのどちらかだろう。
それでも女は、自分の向かう最後の時に、幸せだと言い切る自信があった。
女は、魔王の隣で人類の敵として、戦った。
なるべく傷を付けないように、しかし少しでも魔王と共に居られる様にと、最大限に注意を払って。
それは人間であるならば、いや、魔物だとしても許されることではないだろう。現に、女は死んだことにしなければならなかったし、死ぬことが決まっているので無ければ殺さなければならなった。
魔王の隣に居て人類と戦うということは、そういう事だった。
極一部の者達からの評価を除けば、女は明確な人類の敵で、誰よりも哀れな道化の様だった。
「師匠の側に居てくれてありがとう」
女の持っている情報全てを話した後に、少女は女に向かってそう言った。
少女にとって魔王は、倒さなければならない敵であるのと同時に命の恩人。そして、救いたい相手だった。
少女は知っていた。
人を殺す後悔を。誰一人信用出来ない苦しさを。
……誰一人側に居ない寂しさを。
だから、それが敵であろうと、大切な恩人を一人をしないで居てくれたことに感謝した。
それはその場に居た英雄候補達の皆が、少なからず思っていた感情だった。
魔王討伐隊を組織したのは、そもそも魔王その人なのだ。
本人が魔王となることを知っていたか否かに関わらず、その人は本気で魔王討伐の為の育成を行ってきた。動揺と勘違いから騎士を殺してしまったことはあるにしろ、それを運が悪かったで済ますしかない程度には、人類の生存に貢献してきた人物なのだ。
今回の魔王討伐が、その魔王になった男本人が行った死者ゼロという二回を除けば、過去最少の被害人数であるという理由を、英雄候補、いや、英雄達だけははっきりと把握していた。
だからこそ、そんな悲哀の魔王の側に寄り添ってくれていた女に、英雄達は感謝の意を述べた。
【藍の魔王】とは、そんな英雄の一人、マルスが呼び始めた呼称だった。
魔王となったレインの瞳の色が藍色だったことがその主な理由で、同時に世界中の人物の知る理由。
しかしその【アイ】という言葉に、【愛】や【哀】が隠されていることは、英雄達のみぞ知る理由となった。
女は幸せだった。
日に日に衰弱し痛む体、次第に体中から出血し、意識もままならない状態となっても、その感覚は消えることはなかった。
隣に眠る魔王の体に身を寄せ、例えその体から温もりを感じることなど出来なくとも、身を寄せているという事実だけで、女には充分だった。
そうして暫くの時が流れる。いつの間にか話し相手となってくれていた二人の男は居なくなり、身を寄せている男が暖かいと感じ始めた頃、それが死の間際だということに気づく。
何故なら、目の前に居ないはずの人物が居るからだ。
「やっぱり私の近くに居たのね」
「半分正解かな」
その場に居たのは、かつて魔王となるも聖女として人類に親しまれた、レインの伴侶であるサニィだった。
かつての敵も、今となっては旧来の親友の様に感じる。
「半分?」
「そう、半分。私は近くにただ居たんじゃなくて、あなたの中にも居たからね」
「それは、私があなたのマナを取り込んだのだから、当然でしょうけれど」
今や陽のマナの一部となっているサニィを取り込んだからこそ、自分は死にかけている筈。中に居るのは当然だとたまきは思う。
しかし、サニィは笑みを崩さず意外なことを言う。
「うーん、あなたは自分で取り込んだって思ってるかもしれないけど、少し違うんだ。今更遅いけど、ごめんね」
何を言っているんだと思うが、よくよく考えてみると少しの心当たりがある。
ルークが聞いてきた、杖は何処で見つけたのかという言葉。そして、マナを感知出来ない筈がどうやってサニィのマナだけを取り込むことが出来たのか。
走馬灯の様な状態でサニィと分離したからなのだろうか、ようやくその違和感に気づく。
「もしかして、魔法書からということ?」
「そう。贖罪にはならないし、私のわがままみたいなものだけど、真実を話すね」
そうして、聖女サニィは話し始めた。
幸いにも、時間はいくらでもある様に感じる。
魔物には無いはずの走馬灯の様な時間も、サニィと同化したことで得られているのならば、あまり悪くはないと思いながら聞く。
しかしその内容は、たまきの想像以上のものだった。
「私はあなたに魔法書を通して侵入させて貰った。魔法書にはあなたに対して催眠効果をもたらす様に、死んだ後だけれど調整させてもらったの。魔法事象は陽のマナが引き起こすことだから、あなたが魔法を使う魔物である以上はそれ程難しいことではなかった。尤も、レインさんに会いたいってあなたの強烈な思念が無ければ成功しなかったけれど。それで、あなたの脳に杖の場所をすり込んだ」
「今思えば、あの魔法書にはとても惹かれてたわ」
たまきはそれを手に入れてから、随分と熱心に読み込んでいたことを思い出す。
思えば、手に入れる所から仕組まれていた可能性すらある。強烈に、手に取りたくなったのだ。
「同時に、レインさんを復活させられるって思い込ませることもね」
「酷い人ね……」
サンダルが言っていた、瀕死だった聖女と瓜二つだったの女性、ナディアがサニィを魔女だと言っていたらしいが、それもあながち間違いではないと感じる。
「杖を手に入れれば後は簡単。あの杖、フラワー2号は私の魔法の道具。私の身体が分解されて陽のマナの一部となる時もフラワー2号を通したのなら、その逆にそこから入り込むことが出来ると言うわけなんだ」
「そうなれば、私を操るのも容易いと……」
「うん、あなたは自分で決めたと思ってるかもしれないけれど、全部私の思い通りの行動をとって貰っただけ」
「レイン様を、復活させたのも?」
もしくは、命を犠牲にしてレイン様のマナを捉えられる様にサニィのマナを大々的に取り込んだのも?
そんな質問に、サニィは真剣な顔で頷く。
全ては、掌の上で踊らされていたというわけだ。
自分の意思だと思っていたことが全て誘導されたことで、ついでに処分される愚かな魔物だったと、そういうわけだったのだ。
それを知って、流石のたまきも青ざめる。
それは、「サニィ」とレイン様から呼ばれる訳だ。マナを同化しているからサニィなのではなくて、彼女の意思通りに動く操り人形だったからサニィ。
「ごめんね」
そう言うサニィの言葉に、なんと返せば良いのか分からなかった。
それを分かったのだろう、サニィは続ける。
「私達がマナと同化して直ぐに、私は世界の意思が考えていることが分かった。なんとしてでも、最後の魔王をレインさんにしたい。死んだことは喜ばしいけれど、もっと深い絶望を与えてやりたい。だからなんとしてでも魔王にして、絶望を感じさせてやる。そう思っていることを知ったの。でも、私にはそれに直接対抗することは出来ないし、レインさんには意識と呼べる様なものは殆ど残ってなかった」
だから、決意したのだと言う。
ほぼ手を出すことが出来ないサニィにとって唯一出来るだろう方法で、魔王として生き返らせることを阻止出来ないのならば、たまきを誘導して側に居て貰うことなら出来るのではないのかと。
そして弟子達の手で最期を迎えることで、それなりに幸せだったと思って貰えるのではないかと。
「だからあなたを犠牲にして、レインさんを一人にならない様に仕向けたの」
そして、最後の止めとばかりに言う。
「私にとっては世界よりも、レインさんの方が大切だから」
その言葉を聞いて、たまきは思う。
ああ、そういうことかと。
単に恋敵に酷いことをしているわけではなく、一番大切なものの為にはなんでも犠牲に出来る覚悟があるだけなのだと。それはよくよく考えてみれば、自分も同じなのだと気づく。
無理だと分かっていて、人の真似をしてみた。
レインを生き返らせられると考えて、敵だったはずのサニィの魔法書を読み解いた。
死ぬと分かっていて、自分の体にサニィのマナを同化させた。
それが例えサニィの誘導の通りだったとしても、驚く程に後悔がない。
今触れている温もりの幻想に、確かな幸せを感じている。
だから、たまきは言った。
「妾の方こそ、自分の命よりもレイン様が大切。そして今は、とても幸せ」
そんな意趣返しの様に、目の前の魔女に微笑んで見せた。
すると、サニィも満足そうに頷いた。
「あはは、もしも来世ってものがあったら、私とレインさんのペット位にはしてあげる。そうすればレインさんから愛されても、私も妬かずに済むと思うから」
まるでヤキモチで殺したのだとでも言わんばかりの酷い言い様ではあったものの、サニィは満面の笑みを浮かべた。
レインの来世とサニィの来世に犬か何か、ペットとして飼われる自分。
それならレインをどれだけ好いても構わないし、サニィもまた、途方もない動物好きだということを知っている。そんな中で暮らす来世。
そんな光景を思い浮かべたたまきは、「それも悪くないわ」と笑う。
狐は最期の時、確かに幸せだった。
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