雨の世界の終わりまで

七つ目の子

文字の大きさ
443 / 592
第三章:王妃と幼馴染

第四十四話:優れた人種

しおりを挟む
 魔法使いと呼ばれる人間は、魔物と勇者を分けるよりも更に異なった人々だ。

 魔素そのものが細胞へと変化した魔物と、細胞にマナを練りこんだ勇者。
 存在そのものはまるで別物ながら、その二つはそれなりに似通っている。
 どちらも互いに殺し合う定めを背負った勇者と魔物に対して、魔法使いは魔物に対しての殺意をあまり抱くことはない。
 当然、大切な人を殺されただとか、魔物は敵だという教育を受ければ脳に魔物は敵だと刻まれる。

 しかし本質的な部分では、本能的な部分では、魔法使いは勇者の様に魔物と戦う運命を背負っているわけではない。
 その理由は実はとてもシンプルで、見方によっては魔法使いは勇者よりも優れた人間だから、と言える。
 魔法使いとは言わば、世界に満ちるマナを克服した人間である。
 マナそのものを世界を覆う病原菌と捉えてみれば、その見方はよりはっきりとしてくることになる。
 勇者とはマナという病気に細胞単位で侵され、魔物と命懸けの戦いを強制された存在だとすれば、一般人はマナという病気に罹らなかった者達。
 となれば、人間としての魔法使いはつまり、マナの支配に成功した者達だ。
 体の何処かにマナタンクと呼ばれる非物理器官を持つことでマナを貯め、それを支配して超常現象を引き起こす。

 魔物と敵対する為に超常現象を引き起こさせるよう強制されるのが勇者、となれば、自分の意思で引き起こす現象を選択出来る魔法使いは人間いう種としては勇者よりも優れていると言えるだろう。
 更には、霊峰と呼ばれる山に立ち入れる人間は、一人の勇者と一人の例外を除けば、魔法使いだけだ。
 一人の勇者と一人の例外が、誰かとは言えないが……。

 尤も、この考え方は英雄ルークが至った発想でしかなく、世界には決して公表されない。
 現在ですら魔法使いは実は勇者よりも優れているという風潮が出来上がりつつある現状、そんなことを公表してしまえば勘違いはより加速する可能性が高い。

 魔法使いはあくまでから見れば、勇者よりも優れている人間だと言えるに過ぎない。
 戦闘での役割は、あくまで勇者と組み合わせた後衛であるべきだ。

 そう考えるのが英雄ルークだった。
 世界で最強の魔法使いにして、単独でドラゴンとも渡り合えると言われる聖女の後継者。
 ルークがドラゴンと単独で渡り合った実績は無いにも関わらず、今ではそう呼ばれている。
 過去の世界大会で八大会連続の二位を維持し続けているルークは、一位のストームハート、三位のサンダルという単独竜殺しの英雄に挟まれた位置にいるのだから、ルークも同じく出来るはずだ、なんというのが何も知らない者達の見解だ。

 現実にはルークが八連続で二位に居られる理由は簡単で、一回目大会に出場した四人の英雄がなるべく後半に当たる様にトーナメント表が書かれた結果、サンダルが準決勝でストームハートに負けてしまったからに過ぎない。
 シード枠は一位と二位は最も遠く、三位と四位は中心の二枠のどちらかをクジで決めるらしいのだが、それが毎回毎回サンダルがストームハート側に当たるという、どうしようもない不運さを発揮しての万年三位。
 その為、ルークは毎回準決勝で英雄イリスと凄まじい試合をして決勝に進めているからこその八年連続二位。

 ルーク自身、たまにはストームハートと準決勝で当たってみれば現実が見えるのに、と思いはするものの、毎回準決勝、決勝とエンターテインメント性だけを考えるなら派手に盛り上がっているので文句も言えない。

 そんなことで、ルークにとっては不当に魔法使いが持ち上げられている感覚を常日頃から抱いていた。
 まあ、勇者達の中ルーク自身が単独で二位にまで行ける実力を持ってしまっているのだから、何も知らない他人からしたら勇者と魔法使いに差が無く見えても仕方はないということが、微妙にどうしようもない部分で……。

 今回もそんな英雄は、娘に魔法使いの単独行動の為の修行を付けていた。

「サラ、魔法使いが一人で戦うには死に瀕しても尚冷静で居られる精神力が必要だ。魔法を解除しなさい」
「……はい…………うっ」

 霊峰マナスルの中腹辺りで、その二人が修行している。
 ここ霊峰には高濃度のマナが満ちており、魔法使いが魔法を使い続けなければ周囲に満ちたマナに体を蝕まれてしまう。
 最初は酔いの様な症状から次第に体調を崩し、最終的には死んでしまうこの地で、かつてルークは死の一歩手前まで行ってしまった経験がある。
 当時は聖女に助けられ、そこから教えを乞うようになったルークは現在、娘を似た様な環境に置こうと厳しい表情をしている。
 マナの消費が周囲の濃度に追いつかなくなれば次第に体調を崩す為、魔法のイメージすらも崩れてしまうのがこの山の特徴だ。
 山は山頂に向かうほどマナの濃度が増す為、一度酔い始めたらすぐに下山をしなければ危険だ。

 今では『聖女の魔法書』の影響で山頂まで登れる者も増えている。
 それは当然サラも同じで、息をする様に魔法を行使して山頂まで登ることが出来る。

 そんな中、今回の修行は敢えて酔うこと。

 敢えて危険な領域まで足を踏み入れることで、咄嗟の時にも焦らず魔法を行使出来る準備をする。
 一歩間違えれば、そのまま死んでしまう領域の修行だ。
 焦りはイメージを崩し、イメージの崩れは魔法の弱化、ひいては発動の停止に至る。

 死の淵に立った状態でいつもと同じ魔法を使えるか否か、それが一般人と同等の肉体しか持たない魔法使いの単独戦闘には最重要なことである。

 それがルークの考えの根底にして、ルークが最強である理由の一つ。そして、未だにエレナに負けてしまうことがある理由だった。
 実戦経験豊富とは言え、英雄の娘であるサラが死の淵に立つことは今まで一度として無かった。
 それは当然サラが勝てない相手には親が対処してきたからだ。
 そして、そんな親に守られるという状況にサラは絶対の安心感と、同時に自分が特別な人間であるという考えが、少なからず存在していた。

 100倍コースでは、まずその絶対を壊す所から始められる。

 サラは父ルークに魔法の行使を一切禁じられたまま、マナに蝕まれ意識を闇の中に落としていった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

おっさん料理人と押しかけ弟子達のまったり田舎ライフ

双葉 鳴
ファンタジー
真面目だけが取り柄の料理人、本宝治洋一。 彼は能力の低さから不当な労働を強いられていた。 そんな彼を救い出してくれたのが友人の藤本要。 洋一は要と一緒に現代ダンジョンで気ままなセカンドライフを始めたのだが……気がつけば森の中。 さっきまで一緒に居た要の行方も知れず、洋一は途方に暮れた……のも束の間。腹が減っては戦はできぬ。 持ち前のサバイバル能力で見敵必殺! 赤い毛皮の大きなクマを非常食に、洋一はいつもの要領で食事の準備を始めたのだった。 そこで見慣れぬ騎士姿の少女を助けたことから洋一は面倒ごとに巻き込まれていく事になる。 人々との出会い。 そして貴族や平民との格差社会。 ファンタジーな世界観に飛び交う魔法。 牙を剥く魔獣を美味しく料理して食べる男とその弟子達の田舎での生活。 うるさい権力者達とは争わず、田舎でのんびりとした時間を過ごしたい! そんな人のための物語。 5/6_18:00完結!

盾の間違った使い方

KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。 まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。 マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。 しかし、当たった次の瞬間。 気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。 周囲は白骨死体だらけ。 慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。 仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。 ここは―― 多分、ボス部屋。 しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。 与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる 【異世界ショッピング】。 一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。 魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、 水一滴すら買えない。 ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。 そんな中、盾だけが違った。 傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。 両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。 盾で殴り 盾で守り 腹が減れば・・・盾で焼く。 フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。 ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。 ――そんなある日。 聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。 盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。 ​【AIの使用について】 本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。 主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。 ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

処理中です...