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幼い娘達の意志

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双子が相次いで目を覚ますと、静かにマルグレーテはリリーアリアの肩を揺らした。

「皆目覚めました、アリア様」
「起こしてくれて、ありがとうルーティ」

夢見るような橙色が揺れる瞳は、何度見ても息を呑む美しさだ。
そして、美しい瞳と容貌を隠す為のベールを身に纏う。

「二人に聞きたいのですけれど、領民の皆さんは砦の西の居城に今匿われているのよね?」
「はいです。子供と老人はお城の中で、その他の人達は交代で外の天幕も使っております」

メルティアがリリーアリアの質問に、しっかりと答える。

「晩餐の後、寝床に集めて頂けないかしら?皆さんの魔力をお借りしたいの」
「はい、では晩餐が終ったら参りましょう」

そして、リリーアリアはくふふ、と悪戯っぽく笑って、口の前に人差し指を立てた。

「皆様には、よく眠れる魔法をかける、とだけお伝えしましょうね」

人によっては魔力を吸い取られる、などと知れば、混乱してしまうだろう。
その様な事は伝えるべきではない。

「分かりました、リーア様」

二人は勢いよく首を縦に振った。

晩餐の時には、明後日の戦の前に色々と用意が忙しいエッカートも同席している。
食事の中で、リリーアリアはエッカートに御礼を伝えた。

「エッカート様、この度は色々な面でご助力頂き、ありがとうございました。アデリナ様にもおもてなしを
 心より感謝申し上げます。お貸し頂いた宝石類も、父から報奨金としてお支払い致します。
 そして、お二人には申し上げにくい事ですが、もう一つだけお願いがございます」

エッカートは不安げに傍らに座っているアデリナに目を向けた。
その上で、頭を下げる。

「何なりと、お申し付けを」
「戦場に、メルティアとミルティアの同行をお許しください」

「……それは、承服致しかねます……」

俯いたまま、搾り出すようにエッカートが言った。
当たり前だろう。
誰が好き好んで、自分の5歳の娘達を戦場に行かせるだろうか。

だが、それに反論したのは双子だった。

「お父様に反対されてもメルティアはリーア様と参ります」
「お父様が嫌でも、ミルティアはリーア様のお手伝いを致します」

愛しい我が子の反乱に、エッカートはキッと二人を見詰めた。

「戦場は遊び場ではない!命の危険があるのだぞ!!」

何時もの優しい父の怒声に、メルティアはキッと睨み返す。

「メルティアはずっと、お父様達の話を聞いて参りました。今回の戦争は最終決戦で、とても不利だと仰っていた。
もし負ければ、一番先に荒らされるのが、この領地です。その時メルティアもミルティアも無事でいられると
本気でお思いですか!?」

「ミルティアはメルティアほど頭は良くないです。でも、リーア様が一生懸命、色んな事をしているのを見ていました。リーア様が戦争を無事終えられるというなら、そうなのです。その為に必要なら、ミルティアは何処へでも参ります」

普段語気の柔らかなメルティアの詰め寄るような言葉と、普段は元気なミルティアの落ち着いた覚悟を、
怒声を浴びせたはずのエッカートが、呆然として見ていた。
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