【R18】スマホが誤作動しただけなのに 〜肉体派男子にえっちに迫られていますがリアルで刺激は求めてません!〜

鳥海柚菜

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第1章 すべてはスマホ誤作動から

7.どこの夢小説の展開だ

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「俺ね、本当にあのとき女神降臨かと思った」

それから味をしめたのか黒沢誠は、何度も自作の悪筆申請書類を持ってきては私に指導されている。
よくないことだ。
会社にきちんと申し入れすべきだ。
そう伝えても彼は毎回お願いしますとやってくる。むしろどんどん笑顔が増えた。

課長にも相談したが、お座りする大型犬のごとく動かない黒沢誠のガタイの良さをチラリと見て、「まあ暴言吐いてるわけでもないんだしうまくやっといてよ。瀬川さんなら大丈夫でしょ」の一言で終わった。
外見で対応変えるのやめてもらっていいですかね。
前に来た気の弱そうなおじさんとか女性の事務員さんとかにはすごい冷たい対応してたのに。

「私は漢字の先生ではないんですが」
「プライベートなんだし普通に話してよ。だいたいふみさんのが年上でしょ?。俺23だし。いくつ?」

ブハッ!
極力話したくなくてビールを飲んでいたのが仇になった。

「げほっ……ごほっ……にじゅ、さ……」

なんてこった、新卒と同じ年!
ピチピチじゃないか。いやきっと土木だし社会人経験は長いんだろう。でももうちょっと上かと。
私、早生まれだけど33になる年。10歳も下か。
セクハラされてるじゃなくて、これじゃ私がセクハラしてる側だ。

ますます体を縮こまらせて隅に逃げようとした。

「ねえふみさんはいくつ?」
「女性に年齢を聞くものじゃありません」
「普通に話してって言ってるのに」
「これが普通です」
「そんなことないでしょ。ねえ」

23歳、グイグイくるなあ。
離れた分、足広げるのやめてもらっていいですか。
23歳相手に意識するなんて馬鹿らしい、のに。
やたら近い体温がなんとなく恥ずかしい勘違いをしそうになる。女として好意がある、みたいな。
そんなわけない。
こんな若いイケメンが、なんと言うこともない年上の地味な女になんて。

えっちな小説なら、女の子の弱みを握ったらそりゃベッド一直線だよね。それで快楽漬けだよね。
「こういうことして欲しかったんだろ?本当はドMなんだよなっ?」って♡が飛びまくるシーン待ったなしだ。それで「いいの?バラされでも?」みたいに脅されて生ハメ中出しまでされちゃって。「お前の愛液で汚れたから綺麗にしろよ」ってお掃除フェラまで強制されちゃって。

リアルであったら犯罪だ。でもそれがいい。ネットの中だけだから。
じわ……と下腹部が熱くなる。

(うっ、私がただの変態!)

慌ててまたビールで体を冷やし、腹を据えて黒沢誠を半眼で睨んだ。

「スマホ、返してください」
「………うーん、じゃあ普通に話してくれたら!」
「返して。さっさと」
「ふふ、その一段下がった冷たい声もたまんない」

どう言う意味。つん、と膝同士が触れて!跳ねそうになる心臓を跳ねないようにするのが必死だ。

「か、え、し、て」
「いいよーはい」

今度はあっさり頷き、ゴソゴソとポケットから赤い物体を机の上に出す。バッと瞬時に手で飛びついた。
やっと帰ってきたスマ質!私の愛する四角!秘密のデータ!
触って見て、ん?と思った。
電源がつかない。

「あれ?」
「ごめんね。ロックかからないようにずーっと触ってたら電源落ちちゃって」
「………ずっと?」
「うん。あ、あの画面以外は一応、電話番号くらいしかは見てないよ?ラインはパスワード必要だったしね。一度切れたら大変だからあんまり触りたくなくて。あ、写真は見たかも。新しいの一部だけ。男は全然いなかったね。いまフリー?猫好き?」

見たんかい!
よかった、二次元神絵は写真フォルダ別に非表示にしておいて。とんだ性癖晒すところだった。もう晒してるけど二度書きはやめたいのが人情ってもの。

「何して……」
「だってそのスマホを返したら、ふみさん、もう俺と会ってくれないでしょ?だからさ」
「だからさじゃないでしょ!」
「んふふ、俺、ふみさんがそうやって怒ってるの好きかも。基本、仕事で怒られるのは嫌いなんだけどさ」

スマホを握りしめる私の手ごと、彼が握ってきた。
喉の奥からひえっと声が漏れる。
いやおかしい。きっとこれは揶揄ってるだけだ。23歳。何が目的だ。私の方にズイと顔を寄せた目の前の男の目は笑っている。

「…………職場を変わるべきだわ」
「ん?え?」
「あなたはとても若いからわからないかもしれないけど、今あなたがいるのはブラック企業だわ。ろくに漢字も読めない男の子を一人で役所に差し出して誰のフォローもなく今日やってこいだなんて普通じゃないわ。あなたそもそも書類仕事が苦手だわ。どう見ても向いてないわ。普段どんな働き方をしているかわからないけれど世の中にはもっと真っ当な建設会社はたくさんあるし、その、多少字を読むのが苦手でも雇ってくれるところはあると思うの。ずっと苦手なことをやらせ続ける会社は良くないし、そう言う声を上げられないならやはり転職もありだと思う。今時一つの会社にしがみつくことが全てじゃないし、土木はどこも人手不足なんだから。退職が難しいなら代行って便利なものもあるらしいのよ。逃げじゃないわ。若いあなたの道は一つに縛られていないのよ」

ちょっとパニックになった頭を冷やすために、一気に喋り倒したら、黒沢誠はきょとんとして、それからブッと吹き出した。

「あはっ、あはは、この状態で何言うかと思えば俺の仕事の心配?」

私の手を上から覆っている彼の手がするっと手の筋をなぞる。どう考えてもいやらしい触り方。

「俺、ふみさんのそういう冷たそうな顔して世話焼きなとこ、好き」

ドキッというよりは、ぎくっという表現がぴったりに心臓が跳ねた。

(ちょっと……なんで。本気で?まさか。でも。ううん、まさかでしかない………何考えてるの?)

何を企んでいるんだろうか。10も年下の男にこんなにビクビクすることになったのも全てスマホがあの時ロックしなかったから。
番号も控えられてしまったようだし、データバックアップさえして面倒だけど買い替えて乗り換えしよう。
あとは写真だ。
けれど彼が撮ったスマホが私のものというのは別に証明できないんじゃないか。つまり物を取り返した今はは恐るるに足らずなのでは。
あとは私さえ平然とした顔でこの人が何を言ってきてもバックレれば。

「ねえ、ふみさん」
「ん……っ、あの、手を……っ」

そんなことを考えていたらするんとスマホの上に置いた手の指の又に指をスリスリと入らられ、引っ張り上げられてしまった。

はっ、となって、慌てて反対の手でスマホを掴んだ。

「私のスマホをまた取り上げる気?!そうはいくもんですか!」
「その赤い猫の刻印が入ったカバーのスマホはふみさんのものだもんね?」
「何を当たり前のことを言って……」

ポリン、と聞いたことがあるような独特の音が少し遅れて耳から脳に届いた。
スマホだけに向けていた意識を黒沢誠に戻すと、彼は目を細めてにっこりと笑っている。自分の黒いスマホのカメラをこちらに向けて。

「え……?」
「あ、その顔も撮っておけばよかったーポカンとして可愛い。はい、手を挙げて」
「は?え?」

トゥン、とまた電子音。
私の顔の横には赤いカバーのスマホを持った白い手と、その私の手を持った黒沢誠の日に焼けた手。

「はい、こちらがあんなにえっちな小説をたっくさん表示したスマホの持ち主、瀬川ふみさんです」
「は……」

ポリン。

ようやく頭が現実についてきた。
動画に撮られた。私がこのスマホと紐付けられたのだ。

「なっ、なんで……!消して!」
「やだよ。だってふみさん悪いこと考えてたでしょ?スマホ変えたらいいやーって」

うっと詰まる。
彼は自分のスマホを顎に当てながらにぃっとイケメンが台無しになる悪そうな表情を浮かべた。
それはもう極悪な。

「これ、消して欲しかったらさ、俺と付き合ってよ」
「…………ん?」

付き合ってよ?
いやいやいや聞き間違い?聞き間違いだよね?

忙しくて調整をサボっていたせいで、ずるんと鼻まで下がったメガネを押し上げるのも忘れて彼を見上げれば、間近に彼の茶色で縁取られた黒い目が覗き込んでいた。

ついでに私の肩に明らかに野太い腕が回されている。ちょっとあたっちゃったと誤解が生じようもないほどガッツリと。

「な……っ」
「俺、ふみさんみたいなしっかりした年上の人好きなの」

ちゅと頬に触れたのは、彼の唇だった。
唖然で愕然。

えっ、熟女好き………?ちょっと自分で言って悲しいけど、でもこんなイケメンにしては珍しいご趣味で……。

「ね?ダメ?」

目の前で傾げられる太い首。

「ぇ……いや、ちょ……、む……」
「え?ダメ?じゃあ、俺ショックで間違ってふみさんのスマホ観察した動画、今度うっかり役所の受付の人の前で再生しちゃうかも」
「……… ッ!」

無理と言う前に脅しが来た。
さっきから何この鮮やかな手口……!!

「俺とふみさん、絶対相性いいと思うんだー」

するん。

肩にあった手が腰に滑ってきた。
断られるなんて微塵も考えてない男。

つまり、そういう小説みたいなプレイがしたいと。
こいつなら喜ぶだろうと。
そして何してもバラされたくないから後腐れなくやれるだろうと。

(…………なんてこと………)

リアル華やかな世界はごめんと再確認してから、1時間もしないうちに、なぜかリアルでエロ小説世界に来てしまったようだ。

私は夢女でないので、どうか速攻目が覚めてほしい。
何杯飲んでも、全然、覚めないけど。
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