【完結】スマホが誤作動しただけなのに 〜肉体派男子にえっちに迫られていますがリアルで刺激は求めてません!〜

鳥海柚菜

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第3章 推定詐欺師と夢心地

13. 夢女はこうして楽しんでいる

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 誠に脅されて1ヶ月が経った。

「あ、ふみ。おかえり。今日もお疲れ様」
「え……あ、ありがとう……?」

 なぜか誠は私の家に来るようになった。
 住んではいない、住んでは。
 でも次の日の仕事が朝早い現場じゃないんだってときは、私の家に来て、ご飯を作ってくれて泊まっていく。

 残業して帰ったら、ご飯とお風呂ができてて、なんなら肩マッサージもしてくれる。
 誠の方が肉体労働で疲れてるのでは?と一度聞いたら、嬉しそうにマッサージしてってねだられて、そこからいやらしいマッサージ奉仕させられたから二度と言わないようにしている。

 家バレが怖かったはずなのに、何度も何度も家に行きたいって、窓口で、飲み屋で、ねだるので折れた。
 写真を消してもらったのもハメ撮りされなかったのも確認したのに、なんで関係が絶てないかって?

 そんなの私もわかんないよ。
 でも変わらず窓口には来るし、閉庁間際になると数日置きにちょこんと待ってるんだもん。親しげに話しかけてくるのをこれ以上訝しげな同僚に見られたくなくて、家を教えたら無駄に庁舎に来ないと約束させた。

 その判断がよかったか全くわからない。

 でも私のカピカピの干物生活は終わって、充実のプライベート時間に変わったのは確かだ。

 誠は、私にご飯を提供するだけでなく、ベッタリしてくる。ほぼ1Kではと言いたくなる狭めの1DKの一人暮らしのマンションでは椅子がわりになり、私を常に膝に乗せている。髪を乾かしたり、爪をやすってくれたり、マニキュアだって塗ってくれる。
 嘘みたいに器用な男だ。
 小説を読む暇を与えられないほどベッドインもしてしまっていて、腰がカクカクすることが増えた。
 公務員は休みの日が固定なのが売りだが(選挙とか災害とか自主休日出勤でまあまあ潰されるけども)、誠も日曜日午後固定で休みらしく、毎週日曜夕方にはどこかに出掛けて一緒にご飯を食べている。

 普段の食費のお金は出しているけれど、どこかに行くときはデートだからって誠が出す。
 奢ってもらうと引け目を感じて夜のお誘いに抵抗もしづらい。
 えっちのときばかりは「ふみ、好きだよ」ってそれは甘ったるい声で何度も何度も囁いてくる。
 まあ日常でも「ふみは可愛い」ってうるさいけど。

 何これ。全然意味がわからない。23歳なんてひどいジェネレーションギャップよ。なんなの。

 そうして私は、これは新手のヒモの手口で交際商法の結婚詐欺と思うに至った。

 最初から全部出させていたら私のようにガードが固い女は落ちない。
 初期投資だ。そして恋愛感情芽生えたところでそのうちにマンションを売りつけるっていう詐欺、よく聞く。
 …………誠にマンション売りつける才能なさそうだけど。マニュアルとか読めなさそうだ。
 マンションでなくても、そのうち家に寄生して、それで預金とか勝手に下ろされちゃって?いやそれより、実家の母が病気で………治ったら結婚しようとかって騙されちゃうやつ?

 なんかもう少し騙されやすそうな人にすればいいのに。
 33歳、独身。彼氏なし。
 騙されやすそうに見えるのかな。
 ちょっとショックだけど、一度このレベルの極楽を知ると、何もされてないのに追い出すのも勿体無いなんて思ってしまう。
 それに、あの、正直……一人で小説読んでたときより気持ちがいいし、満たされる。
 なら、本性を見せるまではそのままでいいかなって。

 こうしてずるずる深みにハマる人がいて不幸になるんだろう。
 たぶん私もハマっている。
 わかっているけど、けど、期間限定の詐欺に溺れたって、わかって溺れてるならいいじゃないか。

 私の悪癖。ダメだと思っても我慢できないときはできない。ダメと思うほどなんだかゾクゾクしてしまう。
 小説が形を変えただけ。より高いリスクはある。その分とんでもなく気持ちがいい。
 でも秘密の関係なら、真面目からは踏み外しているなんて、誰も知らない。

「ふーみ?なに?考え事?」

 誠が不満そうに覗き込んできて、私の手を握る指に力を込めた。外を歩くとき、誠は必ず私と指を絡めて手を握っている。

「……何食べようかなって。寒いし、ラーメン?」
「え、もっといいもの食べようよ」

 いつもはいいねとスマホでさっさと美味しいラーメン屋を開拓してくれる彼が珍しく難色を示した。
 おっと?そろそろおねだりが始まるのかな?
 いくらなら貢ごうかなとあらかじめ決めたのが総額30万。………こんな極上男子には少ないのだろうか。100万?
 まあ期間によっては考えても……。
 判子は金庫に入れて押入れの奥、通帳は洋服ダンスの服の中に隠している。
 盗まれるのだけは勘弁してほしい。
 まあいざってとき慌てないように銀行口座の差し止め方法を調べてシミュレーションしてあるけど。
 あとダミーであんまり入ってない通帳一つ、わかりやすいところに置いておいた。
 コイツ金ないなって思ってすぐポイするかと思ったのにまだ見つけてないのか誠の態度は今までまるで変わらなかった。
 それとも1ヶ月が経ったからそろそろ回収にはいるかと踏んだのかも。

「ふふ、いいよ。何がいい?フレンチとか?1ヶ月の記念に?」
「え」

 キョトンと誠の目が見開かれた。それから外だと言うのにいきなりガバっと抱きしめてきた。

「きゃあっ、なに、なにっ?!」
「1ヶ月記念って、ふみも俺のこと認めてくれたってことだよね!嬉しい!」

 認めて……?ヒモだと?認められるのが嬉しいの?

 目尻が垂れているときはすごく嬉しい時だともう知っている。
 前はなんだっけ?
 私が結構高いお肉を買ってきてローストビーフ作ったときとか、誕生日だっていうから慌てて1ピース1200円のケーキを買って帰ったときとか、肌触りのいいパジャマをプレゼントしてあげたときとか。
 つまり、高いもの、かな?

 ええと、フレンチが嬉しいのかな?
 23歳で食べることあんまりないもんね。

「え、あれ……」
「外人?ホストの同伴?」
「それ用のレンタル彼氏じゃない?」

 誠に道端で抱きしめられていると、すれ違い様にくすくすと笑う声が耳に入った。
 かあっと羞恥に焼かれる。

 "普通"に見えないんだ。

 綺麗に根元まで染まったちょっと長めの金髪に耳殻ピアス。ざっくりしたVネックTシャツに金のチェーンネックレス、黒のドクロがついたパーカー。背が高くて筋肉も多いけど、きゅっとしまった腰までのラインは色っぽいことこの上ない。
 体毛も脱毛しているらしい。毛が濃いからちょっとって苦笑してて、すごい。
 イケメンはそんなところまで二次元に近づけて女性ウケねらうのかとびっくりした。芸能人みたい。
 チャラい、若者。ホスト……に見えなくもない。

 はたと、この服ではフレンチは無理かもと思うに至った。

「誠、服買おう。レストラン入れないかも」
「あ……ごめん、俺そんなに手持ちなくて」

 誠はこのご時世にクレジットカードは持っていない。
 キャッシングしないだけ堅実でマシな詐欺師である。いやいや、もしかして歴代彼女の名義のカードを渡されていたのか。
 ちょっと私は……そういうのは心理的に無理だな。
 物を買ってあげるから許して欲しい。

「ううん、買ってあげる。記念だし」
「いや……でも、それじゃ……」

 誠が珍しくもじもじとしていた。顔が少し赤い。
 照れているみたい。

「ふみに、買ってもらうのダサいから。フレンチは今度にしよ。それまでに恥ずかしくない格好用意しとく」

 ぎゅん!

 眉を下げて苦笑するその仕草に胸が変な音を立てた。

 これが……これがヒモの手練手管。
 わーい、嬉しいな!って手放しで喜ばれるより、よほど萌える。萌えしかない。
 おじさんが若い子になんでも買ってあげるっていう心理わかる。わかりみがすぎる。

「だ、大丈夫!今日、私が食べたい気分だし」
「え……そんなに……?ごめん、俺……その、お金、足りるかな?」
「いや奢ってあげるから!」
「えっ?記念日に奢られるの、俺?」
「いつも奢ってもらってるからこれくらい」

 でも、だって、を繰り返す誠の手を引いた。

「誠みたいにカッコいい人と、いいレストランで記念日する経験させてよ。おねえさんに格好つけさせて?」
「………反則」

 なぜかもっと顔を赤らめた誠が繋いでない方の手で顔を覆ってしまった。耳まで赤い。可愛い。

 可愛い推しは正義って友達が言ってたのわかる。
 イケメンで迫られてもドキドキするけど、可愛いはなんでもつぎ込みたくなってしまう。
 危ない危ない。
 私は富豪ではないからハマりすぎ厳禁だ。

「すごい高いとこは無理だよ。予約もしてないし」
「そんなん、俺も無理だよ。緊張する」

 笑う誠の顔が、カッコいいよりやっぱり可愛くて可愛くて。

 百貨店の店員さんに10万円もするジャケットを押し付けられて着た誠を見て、課金もいいかもと思った私はもうだいぶヤバい。

 誠が絶対使わないからいらない!と腰が引けてなかったら……と夜中にふと思って、ゾッとした。
 隣で気持ちよさそうに眠る誠の腕の中で。

 また戻れるのだろうか。
 この温かさを知らない、無機質な妄想だけの世界に。
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