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第二十四話② 始りで、どのように動き、どのように進めるか(後編)
しおりを挟む校長の話は、未だに続いている。隣りの男子生徒が、大きなあくびをした。
五味との関係を刑事に聞かれた場合、どんな風に答えるのが最適解だろうか。
美咲が五味と付き合っていたことは、まだ、ほとんどの人が知らないはずだ。とはいえ、人の口に戸は立てられない。どこから話が漏れて人の耳に入っているか、分からない。
自分は五味に言い寄られていただけで、彼とは何の関係もない。そう刑事に答えたとしよう。もし五味と付き合っていたことが刑事に知られたら、疑わしさは何倍にもなるはずだ。それこそ、容疑者候補筆頭とも言えるくらいに。
それならば、ある程度は事実を混ぜて話すべきだ。
方向性を決めて、美咲は、具体的な内容を練り始めた。洋平が行方不明になってから、美咲は五味と付き合い始めた。その事実を刑事に知られても自分への疑いが強くならないためには、どんな設定にすべきか。
答えは簡単に出た。
洋平が行方不明になったことについて、五味が絡んでいると思った。だから、洋平のことを聞き出すために、五味に近付いた。ここまでは、ありのままの事実を伝えよう。
洋平が殺されたことは、今のところ誰にも知られていない。少なくとも、一般には公表されていない。たとえ、警察が洋平の死に関して事実を掴んでいたとしても。つまり、本来であれば、美咲も洋平の死を知らないはずなのだ。
だから、洋平が生きていることを前提に行動している、と装う。洋平は生きていて、五味に何かをされて行方が分からなくなっている。美咲は洋平の居場所を知るために、五味に近付いた。
このように話せば、美咲が五味を殺す理由はなくなる。むしろ、洋平の居場所を知るためには、五味に死なれては困る。
もともと、美咲が洋平の居場所を知るために五味に近付いたというのは、本当の話だ。いくら五味がクズだといっても、まさか、洋平を殺しているとは思わなかった。
事実に嘘を混ぜる。まるで、森の中に木を隠すように。
今生存している人物の中で、美咲と五味が付き合っていたことを知る人物は、2人。七瀬と八戸。彼等が、刑事に五味と美咲の関係を話しても、問題はない。
五味と付き合うとき、色んな表情の練習をした。楽しそうに笑う顔。不安と心配を抱えたような顔。辛そうに苦笑する顔。美咲は本来、感情が表に出ない。五味を騙して自分を信用させるため、言葉だけでなく表情も使った。
練習した表情は、刑事を騙すときも利用できるはずだ。
刑事に話す設定ができた。自分が作り出した設定に矛盾はないか、美咲は、頭の中で細かくチェックした。
設定ができあがると、次はシナリオを考えた。刑事に五味のことを聞かれたときに、どんなふうに話すべきか。作り上げた設定を、説明口調にならず、いかに感情を込めて話すか。
刑事に質問される場面をイメージした。五味について聞かれる。聞かれたら、逆に聞き返そう。洋平のことは知っているか、と。五味のことを調べているならば、間違いなく、刑事は洋平の存在も知っているはずだ。自分が、洋平と付き合っていたことを伝えて。彼が行方不明になったことを説明して。彼の居場所を突き止めるために、五味に近付いたことを話して……。
長い長い校長の話が終わった。
話したいことを全て話した校長は、最後にこのようなことを言った。
「この後、教室に戻ったら、各クラスの担任の先生から重大な話があります。また、今日は始業式で、本来であればすぐに下校となりますが、必要に応じて残っていただくことになります。予定があって残れない人は、そのことを担任の先生に伝えてください」
教室に戻ったら、五味の死体が発見された話をされるんだ。美咲はすぐに気付いた。
「それでは、一旦、教室に戻ってください。混雑しないよう、1年1組から順にお願いします」
校長の指示通り、1年1組から順に、体育館から出て行った。
教室に戻るまで、美咲はシナリオを練り上げていった。頭の中の台本に、じっくりとセリフを書き連ねて。
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