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欲望プリズムホール2
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「ルイちゃん、死のうか」
「はいはい、コスプレは一人でやって……って、あれ……え?」
どこかで聞いたCMのようなノリで軽やかに口から躍り出るのは、いつものコスプレ誘致ではなかった。
つい、いつもの調子で言われたものだからいつものようにツッコミといえるのか決まり文句というのか、そんなものを口にしたわけだが、よくよく脳に取り込まれた言葉を解析してみるといつものツッコミが全く適用されない事に気付く。
もしかして榊の言語出力にエラーでも生じて、ギャグと死のうという単語が入れ替わってしまったのかもしれないと。瑠偉は瞬時に頭の中でそんな仮定をもはじき出してしまった。だが、にっこりといつもの明るい笑顔の榊は、もう一度同じ言葉を瑠偉に捧げた。流石に聞き間違いではないと嫌でも解った瑠偉は、今度は軽い調子ではなく真剣に榊の様子を窺った。世の中にはブラックジョークというものがあるが、こういうものは少しばかりキツすぎではないか。
「俺はマジ超絶本気なんだけど?」
「どうしてまたそんな……」
「ルイちゃんと心中したいから」
「私の意志は無視?」
「ルイちゃんは俺のいない世界で生きていけるの?」
「疑問に疑問で返さないで」
「俺は生きていけない」
だからなんだ。そう言いかけ、喉までせりあがったそれを、瑠偉は止める事に何とか成功した。榊の目が、いや、榊を現地点で構成し顕現させている全てが瑠偉に対して真摯に訴えかけていたからだ。これは本気か。暫らく様子をみていた瑠偉は、そう結論つける。だからといって榊の唐突すぎる宣言に同意も同調も同情もしたワケではない。
「それ、まるでどちらかが早死するみたいな言い方」
「人生の一寸先は闇なんだよルイちゃん、普通の人生を送っていたとしても、いつ事故に巻き込まれたり病気に罹ったりジャックザリッパー的な殺人鬼に遭遇するかわかんないのが現実だ。そんな不安定すぎる世界では俺もルイちゃんも例外じゃなく等しく平等なんだよ、そしてルイちゃんが俺より先に死んじゃう可能性だって充分にありえる。そうなったら俺、どうしようもできない……ルイちゃんがいなきゃ俺は生きてけない」
「依存者みたいなこと言わないでほしいんだけど……」
「だってマジなんだよルイちゃん!」
カラコロリ。
氷がグラスにぶつかり、音を立ててなめらかに滑る。宿題をみせてくれという事、貸していた漫画を返したいという事、久しぶりにひたすらイチャイチャしようと発案した事、全てが榊からの発案であり、全てが瑠偉と榊が同じ空間、つまりは榊の部屋にいる理由である。
そんな事は、日常茶飯事とはいわずとも別段珍しい経緯ではなかった。瑠偉は冒頭のようにテーブルに広げていた雑誌から顔を上げた榊の言葉に面を食らいつつも、指先に触れるグラスの水滴の冷たさに平静さを取り戻してゆき、問答をしてみるが結果として彼を叫ばせるだけとなった。
どうしようか、瑠偉は適度に考える。自分だって榊に死なれたらとてもではないが普段通りの日常生活には戻れないだろう。だがそれだっていつかは胸の内で嚙み砕いて上手く隠せるようにしないといけない。生きなくてはならないから。そう、瑠偉には後を追って死のうという考えがない。薄情でも冷淡なのでもない。むしろ榊の思いつめた方向性が酷い。
瑠偉が死んだ事を考えて、そうして自分が耐えられないから今から心中しようと言うのだから酷いものだ。だが、それでも最も心を託している恋人である榊は、瑠偉にとって誰にも挿げ替えられない上に喪い難い存在であった。
「榊」
「俺だってルイちゃんを愛しているんだもんっ!」
「どこかの性格の悪い情報屋似の声でその語尾はやめて」
「ルイちゃんが喋らなくなって冷たくなっていく場面なんて……っ」
「じゃあ死ぬ事を避ければいい」
「どうやってだよ……人はいつかは絶対に死ぬんだよ……?」
「それはそうだけど、ほら、とりあえず今はこうして手を繋いでいればいいんじゃない?」
「……ルイちゃん……?」
「人間はいつか絶対死ぬけど、せめて最期までずっと隣にいて体温を感じてくれていた人とは笑っていたい」
「……心中じゃ、ルイちゃんは笑えない?」
「全然全くこれっぽっちも確実に無理」
「そっか……じゃ、やめる」
「私の手、今フリーなんだけど」
「……お邪魔します、ルイちゃん」
カラコロリ。
グラスにぶつかって音を立てた氷が飲み物と同化すると同時に、榊の不安も消えてほしいと願った。
「はいはい、コスプレは一人でやって……って、あれ……え?」
どこかで聞いたCMのようなノリで軽やかに口から躍り出るのは、いつものコスプレ誘致ではなかった。
つい、いつもの調子で言われたものだからいつものようにツッコミといえるのか決まり文句というのか、そんなものを口にしたわけだが、よくよく脳に取り込まれた言葉を解析してみるといつものツッコミが全く適用されない事に気付く。
もしかして榊の言語出力にエラーでも生じて、ギャグと死のうという単語が入れ替わってしまったのかもしれないと。瑠偉は瞬時に頭の中でそんな仮定をもはじき出してしまった。だが、にっこりといつもの明るい笑顔の榊は、もう一度同じ言葉を瑠偉に捧げた。流石に聞き間違いではないと嫌でも解った瑠偉は、今度は軽い調子ではなく真剣に榊の様子を窺った。世の中にはブラックジョークというものがあるが、こういうものは少しばかりキツすぎではないか。
「俺はマジ超絶本気なんだけど?」
「どうしてまたそんな……」
「ルイちゃんと心中したいから」
「私の意志は無視?」
「ルイちゃんは俺のいない世界で生きていけるの?」
「疑問に疑問で返さないで」
「俺は生きていけない」
だからなんだ。そう言いかけ、喉までせりあがったそれを、瑠偉は止める事に何とか成功した。榊の目が、いや、榊を現地点で構成し顕現させている全てが瑠偉に対して真摯に訴えかけていたからだ。これは本気か。暫らく様子をみていた瑠偉は、そう結論つける。だからといって榊の唐突すぎる宣言に同意も同調も同情もしたワケではない。
「それ、まるでどちらかが早死するみたいな言い方」
「人生の一寸先は闇なんだよルイちゃん、普通の人生を送っていたとしても、いつ事故に巻き込まれたり病気に罹ったりジャックザリッパー的な殺人鬼に遭遇するかわかんないのが現実だ。そんな不安定すぎる世界では俺もルイちゃんも例外じゃなく等しく平等なんだよ、そしてルイちゃんが俺より先に死んじゃう可能性だって充分にありえる。そうなったら俺、どうしようもできない……ルイちゃんがいなきゃ俺は生きてけない」
「依存者みたいなこと言わないでほしいんだけど……」
「だってマジなんだよルイちゃん!」
カラコロリ。
氷がグラスにぶつかり、音を立ててなめらかに滑る。宿題をみせてくれという事、貸していた漫画を返したいという事、久しぶりにひたすらイチャイチャしようと発案した事、全てが榊からの発案であり、全てが瑠偉と榊が同じ空間、つまりは榊の部屋にいる理由である。
そんな事は、日常茶飯事とはいわずとも別段珍しい経緯ではなかった。瑠偉は冒頭のようにテーブルに広げていた雑誌から顔を上げた榊の言葉に面を食らいつつも、指先に触れるグラスの水滴の冷たさに平静さを取り戻してゆき、問答をしてみるが結果として彼を叫ばせるだけとなった。
どうしようか、瑠偉は適度に考える。自分だって榊に死なれたらとてもではないが普段通りの日常生活には戻れないだろう。だがそれだっていつかは胸の内で嚙み砕いて上手く隠せるようにしないといけない。生きなくてはならないから。そう、瑠偉には後を追って死のうという考えがない。薄情でも冷淡なのでもない。むしろ榊の思いつめた方向性が酷い。
瑠偉が死んだ事を考えて、そうして自分が耐えられないから今から心中しようと言うのだから酷いものだ。だが、それでも最も心を託している恋人である榊は、瑠偉にとって誰にも挿げ替えられない上に喪い難い存在であった。
「榊」
「俺だってルイちゃんを愛しているんだもんっ!」
「どこかの性格の悪い情報屋似の声でその語尾はやめて」
「ルイちゃんが喋らなくなって冷たくなっていく場面なんて……っ」
「じゃあ死ぬ事を避ければいい」
「どうやってだよ……人はいつかは絶対に死ぬんだよ……?」
「それはそうだけど、ほら、とりあえず今はこうして手を繋いでいればいいんじゃない?」
「……ルイちゃん……?」
「人間はいつか絶対死ぬけど、せめて最期までずっと隣にいて体温を感じてくれていた人とは笑っていたい」
「……心中じゃ、ルイちゃんは笑えない?」
「全然全くこれっぽっちも確実に無理」
「そっか……じゃ、やめる」
「私の手、今フリーなんだけど」
「……お邪魔します、ルイちゃん」
カラコロリ。
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