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魔族暗躍編

84.兄貴

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 朝、教室の前にガラの悪い連中がたむろしていた。
 その中でも際立ってガラの悪い男が一人こちらに近寄ってきた。

「兄貴!!! おはしゃっす!!!」

 その男、ボブ先輩は綺麗に直角に腰を曲げ、頭を下げた。

「「「「しゃっす!!!」」」」

 そしてその後ろにいるヤンキー達、ボブのパーティメンバー達もビシッと頭を下げていた。

「……先輩方、これはどういうことですか?」

 薄々は察しているが、この状況について聞かずにはいられなかった。

「兄貴! 先輩だなんて他人行儀な呼び方ッ! 俺のことはブラックとお呼びください!!」
「……で、これはどういうことですか、ボブ先輩?」
「ングッゥ……こ、こいつらも、兄貴の素晴らしさに遅ればせながら気づいたようで、こうして舎弟に――」
「結構です」

 呆れつつそう答えると、ボブ先輩はこの世の終わりのような顔をした。

「兄貴ィ……そんなこと言わないでくださいよォ……」

「「「「兄貴ィ……」」」」

 捨てられた子犬のようなボブと愉快な仲間たち。
 やめて、そんな顔しないで。

「……はぁ……あなた方が僕をどう呼ぶかは勝手にすればいいのですが、僕は先輩のパーティには入りませんよ?」

 そういうと、彼らの顔に少し光が戻った。

「兄貴ィ……!! それは、俺の下についていただくなんて恐れ多いです!! なので、兄貴には『無威斗滅亜ナイトメア』の総長グランヘッドとして堂々としてていただければ何もすることは――」
「お断りします」

 そのまま教室に入ろうとすると、ボブ先輩は薄い笑みを浮かべ、一枚の紙を突き出してきた。

「今日朝一で学長に総長グランヘッドの申請をお願いしてきました! もう正式にパーティ登録も完了してますぜ!」
「……は?」

 突き出された紙を見ると、パーティ登録申請にベアトリーチェさんのサインが施されていた。
 ご丁寧に名前の最後にハートマークまでついている。
 絶対面白がってるな……

 あまりの用意周到さにため息しか出ない。

「もう、好きにしてください……」

 もうすぐ授業がはじまるし、これ以上抵抗しても仕方なさそうなので、諦めの境地に至る。
 『無威斗滅亜ナイトメア』のメンバーたちは手を叩いて喜び合っていた。


 朝から疲労感満点で教室に入ると、アリアさんが心配そうにあわあわしていた。

「シ、シリウス君……大丈夫だった……?」
「なんとか……朝から疲れちゃいました」
「あぅ……大変だったね……」

 親身に心配してくれる、アリアさんは本当にいい子だ……

「よぉ総長グランヘッド、おはようさん!」

 アリアさんの横で楽しそうにニヤニヤしているランスロット。

「……やめてください、斬りますよ?」

 雷薙に手を添えると、ランスロットは大げさに怖がった。

「おぉ……流石、怒らせると怖いねぇ、総長グランヘッド様ぁ」

 気力を放ち威圧すると、今度こそ本当に反省したようで両手を挙げて首を振った。

「やめろって! お前の威圧は洒落になんねぇから!」
「……ランスロットの冗談も洒落になりませんからね?」
「悪かったよ!」

 そんな僕らを見て、エアさんは呆れた表情をしていた。

「全く……やっぱりシリウスね」
「それどういうことですか!?」
「さぁね」

 エアさんはクスリと笑うと自分の席に戻っていってしまった。



 放課後、シオン先輩達と闘技場へやってくると、またもやそこにわらわらと人が群がっていた。
 一日と空けずに見覚えのある光景が広がっていることに軽い頭痛を覚える。

「「「「兄貴!! おつしゃっす!!」」」」
「……何故あなた達がここに?」

 まとめて魔術で消し飛ばそうか? と思いはじめたところで、シオン先輩に肩を叩かれた。

「ボブには僕が声をかけたんだ」
「ボブじゃねぇっつってんだろォがよォォォ!!」
「ボブ先輩、静かにしてください」
「はい!!!」

 話を一々ぶった切るボブ先輩を一喝すると、ピタリと静かになった。

「シオン先輩、何故彼らを呼んだんですか?」
「彼ら、『チームボブズ』は――」
「『無威斗滅亜ナイトメア』だっつってん――」
「ボブ先輩、静かに」
「は、はい!!!」

 ……兄貴扱いも、これだけは便利だな。

「分かったよ、『無威斗滅亜ナイトメア』は、セントラル冒険者学校で最大人数を誇るパーティだ。チームワークも一流だと言われている。そんな彼らにチームワークを学ばせて貰おうって思ってね」
「おう、分かってんじゃねェーか」
「そこで、彼ら全員対僕ら三人で模擬戦でもしてみようか」
「ア゛? てめェ俺らのパーティ舐めてんのか?? おォォ?」

 ボブ先輩がシオン先輩に近づきながらものすごい勢いでガンをつけている。
 優等生にいちゃもんつけてるチンピラにしか見えないからやめてほしい。

「じゃあ逆に聞くけど、君らが数人組んでシリウス君に勝てると思う?」
「ふッざけんじゃねェぞ!! 兄貴に勝てるわけねェだろ!!」
「でしょ。だから全員でって言ったんだよ」

 シオン先輩が困り顔で答えると、ボブ先輩は口を尖らせた。

「つーかよォ……兄貴をチームに入れんのは反則だろォがよォ……」
「そこでだ。ボブ、君確か相手の力を制約する魔導具持ってたでしょ。シリウス君にはそれをつけてもらおうよ」

 おいおいこの人は一体なにを言い出してるんだ!?

「あー……装着者の魔力吸収して重量に変換する手枷ならあるがよ。兄貴にそんなもの付けさせるなんて――」
「シリウス君がその程度のハンデで弱くなると?」
「んなわきャねェだろが!!! 兄貴!! 付けましょう!! 大丈夫ス、兄貴にとってはちょっとだけ重いアクセサリーにしかならないッスよ!!」

 ボブ先輩は満面の笑みを浮かべ、黒くてゴツイ手枷を差し出してきた。
 それを後ろでニヤニヤと眺めているシオン先輩。
 チョロすぎんだろ、チンピラ。

 僕はため息を付き、手枷を受け取った。

「仕方ありませんね……」
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