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善悪
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超時空体たちの世界改変の一部始終を体験した超時空体験図書館モードの甘太郎は思索していた。
「不自由な世界に存在していた善悪の価値観のほとんどが……この誰もが自分の望む体験状態を自由自在に選べる世界では意味がなくなってしまった。
そもそも、他者が存在しなければ、悪いことなどできるわけがないし、善いことだってできやしない……
スタンドアロンで皆が心から完全に満足して楽しめている状態では、この選択が善だとか悪だとか考える必要もない。
ただ、自分が楽しめる体験をそれぞれが自由に選べばいいだけなのだから……
そうした状態の世界で、それぞれが選ぶ楽しめる体験の選択に善悪などはない……
でも、それは世界がそのように改変されたからそうなるのであって、体験選択が自由ではない世界においては、善や悪はあるのではないだろうか……」
甘太郎の超時空体験図書館モードの知性はそのように思索していた。
「望ましい体験の選択を誰もが自由自在にできる世界においては善悪がなくなっても、不自由な世界においては、善も悪もない、つまりは肯定すべきことも否定すべきこともない……という価値観は問題があるのではないだろうか……」
超時空体験図書館モードの甘太郎は、そんな思索を続けていた。
なぜ甘太郎がそんなことを考えているのかというと、ヤクザなムゲン一族の分身体の一体が、
「善も悪もないのなら、俺がやりたい放題やってもいいんだよな、甘太郎、お前を俺の子分にしてもいいんだよな。そうしても悪くないよな。よし、今日からお前は俺の子分となれ!」
などと言われてしまったからだ。
甘太郎は、お人よしなので、ついついそう言われて考え込んでしまった。
「さすがに、やりたい放題やってもいいなんてことは肯定できないなあ……」と思う。
あくまでリアルの他者ぬきで望む体験を超時空体験図書館から借りてきて、リアルな他者なしで幻の他者と望む体験を楽しむのならやりたい放題でも問題ないかもしれないけど、リアルの他者との関係性においては、やっぱりやりたい放題していいという話にはならないよなあ……」と思う。
それは世界を理想的な体験選択自由自在の状態にすることが善であり、それを妨害することは悪であるとして、肯定すべきことと否定すべきことをちゃんと理解しておかないとやりたい放題して楽しめる世界に進化してゆくことができないよなあ……」と思う。
「ヤクザの子分くらいならまだいいかもしれないけど、もっとひどい拷問とかをやりたい放題されたんじゃみんな助からないもんなあ……」
ヤクザタイプの分身体は、甘太郎と合体しているのでその思索に介入してくる。
「何で俺がお前にやりたい放題しちゃいけねーんだよ! お前、サービス精神が足りないんじゃねえか?サービス精神が足りないのは悪だろうがよ」などと言ってくる。
甘太郎は、
「いやいや、親分も誰かにやりたい放題されるのは嫌でしょう?」
と応じる。
「お前、子分のくせに生意気なこと言うじゃねえかよ。何で親分である俺が、誰かにやりたい放題されなきゃいけねーんだよ。そんな法があるわけねーだろうが!
お前、誰もが望む体験を自由に選べる世界にするんだってこの前言ってたよな。俺はちゃんと聞いていたんだぜ。そんなお前を子分にして何がいけねーんだよ!
お前は俺に何でも従っていればいいんだよ。子分なんだからよう!」
甘太郎は、苦笑して応じる。
「僕があなたの子分になるなんて一言も言ってないじゃないですか!」
「何言ってやがるんだい! さっき俺のこと親分と言ったじゃねえかよ。それって俺を親分だと認めたということだろうが!」
「そ、それはあなたが自分が親分だと言ったからで、僕はあなたの子分になるつもりはないですよ」
「何をいってやがるんだよ! 俺は子分がいなけりゃ満足できないんだよ。俺が満足できなけりゃ、お前の目指すその体験を自由に選べる世界ってやつも実現しやしないだろうが!実現させるためには、お前が率先して俺の子分になって何でも俺の命令に従わなきゃいけないはずだろう?」
「何を言ってるんですか……めちゃくちゃな価値観をそこまで正々堂々と……」
「お前こそ何言ってやがるんだ? 親分が正々堂々とするのは当然だろうが!」
「そうした体験はちゃんと幻の他者と自由に楽しめる世界を実現してから幻の子分たちと楽しんでくださいよ」
「お前、何小難しいこと言ってんだ? 幻の子分だと? どうしたらそいつらが出現するってんだよ」
「超時空体たちが実現してくれるようですよ」
「そんなの待ってられねーよ。俺は気が短いんだよ。今すぐに子分が必要なんだよ。今すぐに出せ!」
「あーもう! 我儘ですね、ちょっとは自分で何とかしようと思ってくださいよ!」
「はあ? 親分が我儘で何が悪いってんだ? 自分で何とかしろだと?この野郎……だから今お前を俺の子分にしょうとしているんじゃねーかよ!」
「だから僕を子分にしようとかじゃなくて、自分でお好みのタイプの子分を空想して創造してくださいよ」
「子分を空想して創造するだと? そんなことできるのかよ」
「できますよ。やる気になれば!」
「なら、やって見せてみろよ。できなかったらお前が俺の子分になれ!」
「空想そのものは、見せれないですけど、空想した子分のイラストとかなら描けますよ」
「じゃあ、さっさと描いて見せてみろ」
甘太郎は、仕方なく鉛筆で子分っぽいキャラを描きはじめた。
「おいおい、そういうのはちょっと俺の好みのタイプじゃーないなあ。もっとこうヤクザらしく描かなきゃダメだろう?」
「ご不満なら、ご自分で描けばいいじゃないですか! はい、どうぞ」
甘太郎は、鉛筆を親分に押し付ける。
親分は、いったんはムスッとしたものの、イラストを見ていると望む子分のイメージが湧いてきたようで、せっせと甘太郎の描いていたヤクザの子分のイラストを自分好みに描きなおし始めた。
「服は、こう腹巻じゃなきゃいけねーんだよ。そこにはちゃんといい感じのドスがなきゃだめだしなあ……目はもっとこう鋭い感じでなきゃ……」
などと独り言を言いながら、せっせと鉛筆を走らせる。
「ううん、なかなかいい感じになってきたぞ。おい、子分よ、お茶をいれてこい!」
「そういう時は、お茶をいれる子分のイラストを描けばいいんですよ」
「馬鹿野郎! 絵にかいた餅じゃあるめえし、絵にかいたお茶で俺が満足するわけないだろうが!なめてんのか、てめえ!」
「あのですね……そこを満足できるように訓練してゆくんですよ。イメージトレーニングという方法があるんですよ」
「ふうむ、その訓練をしたらどうなるんだ?」
「その訓練をしてゆくとだんだんと自分の意志だけで自分の望む空想ができるようになってゆくんですよ」
「でも空想じゃ、腹は膨らまないからなあ……」
「そんなこともないですよ。アスリートたちなんかそうしたイメージトレーニングをすることで世界記録を更新したりもしているんですよ」
「なんだと? イメージするだけで世界記録を出せるってのか?」
「よりリアルに望む状態をイメージできればできるほど、それが現実化しやすくなるんです」
「そりゃいいじゃねえか! なんだか魔法みたいだな……」
「そうですよ。せっかくそうした魔法が使える能力があるのに使わないのはもったいないですよ」
「よし、じゃあお前が俺の子分になるイメージをリアルにするぞ」
「だから、僕の都合を無視してそんなことリアルにイメージされても僕は困るんですけど」
「俺は困らないぞ、ちっともな」
「じゃあ、僕があなたを子分にするイメージをリアルにしてあなたを僕の子分にしてもいいんですか?」
「いいわけねーだろうが! お前、何を言い出すんだ!」
「それじゃあ、僕を子分にするリアルなイメージとかやめてくださいよ」
「なんでだよ。そんなのは俺の勝手じゃねーかよ」
「あー……もう、そんなことばかり言ってると、自業自得学園に送られてしまいますよ」
「なんだ? そりゃ?」
「自業自得学園では、自分が他者に故意にしたことを自分が再体験するんですよ」
「なんだ?それってーと、俺がお前を子分にすると、俺が誰かの子分にされるってーのか?」
「まあそういうことになりますね」
「そんな無法な話があるものかよ!」
「無法って、自業自得のどこが無法なんですか? 自分の選択次第でいくらでもそうならないように調整できるじゃないですか」
「ややこしいこと言うんじゃねーよ! お前が俺の言うことに何でも無条件に従えばそれで済むのに、何でそんな面倒なことをしなきゃなんねーんだよ!」
甘太郎は、その後、何日もこのヤクザの分身体と堂々巡りの問答をしていたが、とうとうしびれを切らした超時空体によってヤクザの分身体は自業自得学園に送られそうになってしまった。
しかし、甘太郎が、その処置に両手を広げて待ったをかける。
「ダメですよ、自業自得学園送りにする場合は、ちゃんとその前に完全な自由を提供してあげないと……」
その超時空体は、めんどくさそうな仕草ではあったが、しぶしぶ……と言う感じで医療チームを召喚した。
その医療チームには、ありとあらゆる問題のある欲望を苦痛なく取り去ることができる超時空聖体が混じっていた。
その超時空聖体は、さすがに聖体と呼ばれるだけあり、そのヤクザの親分を赤子を抱くように抱き取ってあやし始めた。
「お、おい、ちょっと待て! なんだ? 一体どうなってるんだ? ぬ、抜け出せない……」
超時空聖体は、しっかりとヤクザの親分を抱きしめる。
「あ、あ、あ……なんだか妙な気分になってきたぞ……ふぁ……何だか気持ちがよくなってきたぞ……
俺は、なんでヤクザの親分なんかになろうと思っていたんだろう……
子分なんてなんで必要だと思っていたんだろう……
ヤクザって誰の事だ?
ヤクザもくそもねえ……みんなお友達じゃねーか……いや、みんな体験者として同胞じゃねーか、
みんな体験者なのに、親分も子分もあったもんじゃーねえ……みんなでひとつになって愛し合えばいいだけじゃねえか……
あれ? 俺は、一体、何を考えているんだ?
無理やり誰かを子分にしようとするとか、鬼畜じゃねえか……
あー俺はなんてことをしようとしていたんだろうなあ……なんだか泣けてくる……」
とうとうヤクザの親分は、おいおいと泣き始めてしまった。
「どうですか? あなたはこれから何がしたいですか?」
超時空聖体が優しくヤクザの親分に問いかける。
「世界平和……世界平和に貢献したい……」
「わかりました。それではその願いがかなえられる世界に連れて行ってあげましょう」
こうして……ヤクザの親分は、超時空聖体にヤクザの親分になりたいという欲望を消してもらった結果、自業自得学園送りにならなかった。
ヤクザの親分は、その後、超時空聖体の案内でいろいろな世界の世界平和に貢献する体験をした。
さらにその後、超時空聖体はさらに問いかける。
「さて、それでは選択です。前のヤクザの親分になって子分を持ちたいというあなたと、その欲望が消えて世界平和に貢献したいと願ったあなたと両方体験してみて、どちらの自分を選びますか?あるいは、どちらでもない別の自分を選びたいですか? ご自身の欲望を自由に選べるとしたら子分がたくさんいるヤクザの親分になりたい自分がいいですか?それとも世界平和に貢献したいという欲望を持った自分がいいですか? それとも全く別の欲望を持った自分を選びたいですか?あるいは無欲の自分を選びたいですか?
ちなみに、ここでの選択次第では自業自得学園で自業自得の体験をしてもらうことになる可能性があることをお伝えしておきます。その上で自由に選んでくださいね」
などと……
ヤクザの親分は、超時空聖体からいろいろな案内を受けた結果、あらゆる欲望から自由な状態を提供されて、さらにいろいろなアドバイスを超時空聖体からしてもらって、かなり思案したあげくとうとう「誰もが自分の欲望や体験を自由に選んで楽しみ続けれる世界の実現に貢献することを願う自分を選びたい」と選択した。
こうしてとある不自由な世界全体を巻き込んだヤクザ同士の争いが一つ未然に消滅した。
甘太郎は、誰もが自分の欲望を自由に選べるようにすることは、善なることではないかと感じた。
甘太郎は、あらゆる体験者を、まずはあらゆる欲望から完全に自由にしてあげる必要があるんじゃないかと思った。
誰かに故意に不自由な状態にされている体験者たちには、自業自得の責任をそのまま単純に問うことなどできないと思った。
「不自由な世界に存在していた善悪の価値観のほとんどが……この誰もが自分の望む体験状態を自由自在に選べる世界では意味がなくなってしまった。
そもそも、他者が存在しなければ、悪いことなどできるわけがないし、善いことだってできやしない……
スタンドアロンで皆が心から完全に満足して楽しめている状態では、この選択が善だとか悪だとか考える必要もない。
ただ、自分が楽しめる体験をそれぞれが自由に選べばいいだけなのだから……
そうした状態の世界で、それぞれが選ぶ楽しめる体験の選択に善悪などはない……
でも、それは世界がそのように改変されたからそうなるのであって、体験選択が自由ではない世界においては、善や悪はあるのではないだろうか……」
甘太郎の超時空体験図書館モードの知性はそのように思索していた。
「望ましい体験の選択を誰もが自由自在にできる世界においては善悪がなくなっても、不自由な世界においては、善も悪もない、つまりは肯定すべきことも否定すべきこともない……という価値観は問題があるのではないだろうか……」
超時空体験図書館モードの甘太郎は、そんな思索を続けていた。
なぜ甘太郎がそんなことを考えているのかというと、ヤクザなムゲン一族の分身体の一体が、
「善も悪もないのなら、俺がやりたい放題やってもいいんだよな、甘太郎、お前を俺の子分にしてもいいんだよな。そうしても悪くないよな。よし、今日からお前は俺の子分となれ!」
などと言われてしまったからだ。
甘太郎は、お人よしなので、ついついそう言われて考え込んでしまった。
「さすがに、やりたい放題やってもいいなんてことは肯定できないなあ……」と思う。
あくまでリアルの他者ぬきで望む体験を超時空体験図書館から借りてきて、リアルな他者なしで幻の他者と望む体験を楽しむのならやりたい放題でも問題ないかもしれないけど、リアルの他者との関係性においては、やっぱりやりたい放題していいという話にはならないよなあ……」と思う。
それは世界を理想的な体験選択自由自在の状態にすることが善であり、それを妨害することは悪であるとして、肯定すべきことと否定すべきことをちゃんと理解しておかないとやりたい放題して楽しめる世界に進化してゆくことができないよなあ……」と思う。
「ヤクザの子分くらいならまだいいかもしれないけど、もっとひどい拷問とかをやりたい放題されたんじゃみんな助からないもんなあ……」
ヤクザタイプの分身体は、甘太郎と合体しているのでその思索に介入してくる。
「何で俺がお前にやりたい放題しちゃいけねーんだよ! お前、サービス精神が足りないんじゃねえか?サービス精神が足りないのは悪だろうがよ」などと言ってくる。
甘太郎は、
「いやいや、親分も誰かにやりたい放題されるのは嫌でしょう?」
と応じる。
「お前、子分のくせに生意気なこと言うじゃねえかよ。何で親分である俺が、誰かにやりたい放題されなきゃいけねーんだよ。そんな法があるわけねーだろうが!
お前、誰もが望む体験を自由に選べる世界にするんだってこの前言ってたよな。俺はちゃんと聞いていたんだぜ。そんなお前を子分にして何がいけねーんだよ!
お前は俺に何でも従っていればいいんだよ。子分なんだからよう!」
甘太郎は、苦笑して応じる。
「僕があなたの子分になるなんて一言も言ってないじゃないですか!」
「何言ってやがるんだい! さっき俺のこと親分と言ったじゃねえかよ。それって俺を親分だと認めたということだろうが!」
「そ、それはあなたが自分が親分だと言ったからで、僕はあなたの子分になるつもりはないですよ」
「何をいってやがるんだよ! 俺は子分がいなけりゃ満足できないんだよ。俺が満足できなけりゃ、お前の目指すその体験を自由に選べる世界ってやつも実現しやしないだろうが!実現させるためには、お前が率先して俺の子分になって何でも俺の命令に従わなきゃいけないはずだろう?」
「何を言ってるんですか……めちゃくちゃな価値観をそこまで正々堂々と……」
「お前こそ何言ってやがるんだ? 親分が正々堂々とするのは当然だろうが!」
「そうした体験はちゃんと幻の他者と自由に楽しめる世界を実現してから幻の子分たちと楽しんでくださいよ」
「お前、何小難しいこと言ってんだ? 幻の子分だと? どうしたらそいつらが出現するってんだよ」
「超時空体たちが実現してくれるようですよ」
「そんなの待ってられねーよ。俺は気が短いんだよ。今すぐに子分が必要なんだよ。今すぐに出せ!」
「あーもう! 我儘ですね、ちょっとは自分で何とかしようと思ってくださいよ!」
「はあ? 親分が我儘で何が悪いってんだ? 自分で何とかしろだと?この野郎……だから今お前を俺の子分にしょうとしているんじゃねーかよ!」
「だから僕を子分にしようとかじゃなくて、自分でお好みのタイプの子分を空想して創造してくださいよ」
「子分を空想して創造するだと? そんなことできるのかよ」
「できますよ。やる気になれば!」
「なら、やって見せてみろよ。できなかったらお前が俺の子分になれ!」
「空想そのものは、見せれないですけど、空想した子分のイラストとかなら描けますよ」
「じゃあ、さっさと描いて見せてみろ」
甘太郎は、仕方なく鉛筆で子分っぽいキャラを描きはじめた。
「おいおい、そういうのはちょっと俺の好みのタイプじゃーないなあ。もっとこうヤクザらしく描かなきゃダメだろう?」
「ご不満なら、ご自分で描けばいいじゃないですか! はい、どうぞ」
甘太郎は、鉛筆を親分に押し付ける。
親分は、いったんはムスッとしたものの、イラストを見ていると望む子分のイメージが湧いてきたようで、せっせと甘太郎の描いていたヤクザの子分のイラストを自分好みに描きなおし始めた。
「服は、こう腹巻じゃなきゃいけねーんだよ。そこにはちゃんといい感じのドスがなきゃだめだしなあ……目はもっとこう鋭い感じでなきゃ……」
などと独り言を言いながら、せっせと鉛筆を走らせる。
「ううん、なかなかいい感じになってきたぞ。おい、子分よ、お茶をいれてこい!」
「そういう時は、お茶をいれる子分のイラストを描けばいいんですよ」
「馬鹿野郎! 絵にかいた餅じゃあるめえし、絵にかいたお茶で俺が満足するわけないだろうが!なめてんのか、てめえ!」
「あのですね……そこを満足できるように訓練してゆくんですよ。イメージトレーニングという方法があるんですよ」
「ふうむ、その訓練をしたらどうなるんだ?」
「その訓練をしてゆくとだんだんと自分の意志だけで自分の望む空想ができるようになってゆくんですよ」
「でも空想じゃ、腹は膨らまないからなあ……」
「そんなこともないですよ。アスリートたちなんかそうしたイメージトレーニングをすることで世界記録を更新したりもしているんですよ」
「なんだと? イメージするだけで世界記録を出せるってのか?」
「よりリアルに望む状態をイメージできればできるほど、それが現実化しやすくなるんです」
「そりゃいいじゃねえか! なんだか魔法みたいだな……」
「そうですよ。せっかくそうした魔法が使える能力があるのに使わないのはもったいないですよ」
「よし、じゃあお前が俺の子分になるイメージをリアルにするぞ」
「だから、僕の都合を無視してそんなことリアルにイメージされても僕は困るんですけど」
「俺は困らないぞ、ちっともな」
「じゃあ、僕があなたを子分にするイメージをリアルにしてあなたを僕の子分にしてもいいんですか?」
「いいわけねーだろうが! お前、何を言い出すんだ!」
「それじゃあ、僕を子分にするリアルなイメージとかやめてくださいよ」
「なんでだよ。そんなのは俺の勝手じゃねーかよ」
「あー……もう、そんなことばかり言ってると、自業自得学園に送られてしまいますよ」
「なんだ? そりゃ?」
「自業自得学園では、自分が他者に故意にしたことを自分が再体験するんですよ」
「なんだ?それってーと、俺がお前を子分にすると、俺が誰かの子分にされるってーのか?」
「まあそういうことになりますね」
「そんな無法な話があるものかよ!」
「無法って、自業自得のどこが無法なんですか? 自分の選択次第でいくらでもそうならないように調整できるじゃないですか」
「ややこしいこと言うんじゃねーよ! お前が俺の言うことに何でも無条件に従えばそれで済むのに、何でそんな面倒なことをしなきゃなんねーんだよ!」
甘太郎は、その後、何日もこのヤクザの分身体と堂々巡りの問答をしていたが、とうとうしびれを切らした超時空体によってヤクザの分身体は自業自得学園に送られそうになってしまった。
しかし、甘太郎が、その処置に両手を広げて待ったをかける。
「ダメですよ、自業自得学園送りにする場合は、ちゃんとその前に完全な自由を提供してあげないと……」
その超時空体は、めんどくさそうな仕草ではあったが、しぶしぶ……と言う感じで医療チームを召喚した。
その医療チームには、ありとあらゆる問題のある欲望を苦痛なく取り去ることができる超時空聖体が混じっていた。
その超時空聖体は、さすがに聖体と呼ばれるだけあり、そのヤクザの親分を赤子を抱くように抱き取ってあやし始めた。
「お、おい、ちょっと待て! なんだ? 一体どうなってるんだ? ぬ、抜け出せない……」
超時空聖体は、しっかりとヤクザの親分を抱きしめる。
「あ、あ、あ……なんだか妙な気分になってきたぞ……ふぁ……何だか気持ちがよくなってきたぞ……
俺は、なんでヤクザの親分なんかになろうと思っていたんだろう……
子分なんてなんで必要だと思っていたんだろう……
ヤクザって誰の事だ?
ヤクザもくそもねえ……みんなお友達じゃねーか……いや、みんな体験者として同胞じゃねーか、
みんな体験者なのに、親分も子分もあったもんじゃーねえ……みんなでひとつになって愛し合えばいいだけじゃねえか……
あれ? 俺は、一体、何を考えているんだ?
無理やり誰かを子分にしようとするとか、鬼畜じゃねえか……
あー俺はなんてことをしようとしていたんだろうなあ……なんだか泣けてくる……」
とうとうヤクザの親分は、おいおいと泣き始めてしまった。
「どうですか? あなたはこれから何がしたいですか?」
超時空聖体が優しくヤクザの親分に問いかける。
「世界平和……世界平和に貢献したい……」
「わかりました。それではその願いがかなえられる世界に連れて行ってあげましょう」
こうして……ヤクザの親分は、超時空聖体にヤクザの親分になりたいという欲望を消してもらった結果、自業自得学園送りにならなかった。
ヤクザの親分は、その後、超時空聖体の案内でいろいろな世界の世界平和に貢献する体験をした。
さらにその後、超時空聖体はさらに問いかける。
「さて、それでは選択です。前のヤクザの親分になって子分を持ちたいというあなたと、その欲望が消えて世界平和に貢献したいと願ったあなたと両方体験してみて、どちらの自分を選びますか?あるいは、どちらでもない別の自分を選びたいですか? ご自身の欲望を自由に選べるとしたら子分がたくさんいるヤクザの親分になりたい自分がいいですか?それとも世界平和に貢献したいという欲望を持った自分がいいですか? それとも全く別の欲望を持った自分を選びたいですか?あるいは無欲の自分を選びたいですか?
ちなみに、ここでの選択次第では自業自得学園で自業自得の体験をしてもらうことになる可能性があることをお伝えしておきます。その上で自由に選んでくださいね」
などと……
ヤクザの親分は、超時空聖体からいろいろな案内を受けた結果、あらゆる欲望から自由な状態を提供されて、さらにいろいろなアドバイスを超時空聖体からしてもらって、かなり思案したあげくとうとう「誰もが自分の欲望や体験を自由に選んで楽しみ続けれる世界の実現に貢献することを願う自分を選びたい」と選択した。
こうしてとある不自由な世界全体を巻き込んだヤクザ同士の争いが一つ未然に消滅した。
甘太郎は、誰もが自分の欲望を自由に選べるようにすることは、善なることではないかと感じた。
甘太郎は、あらゆる体験者を、まずはあらゆる欲望から完全に自由にしてあげる必要があるんじゃないかと思った。
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