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「体験そのもの」とは?
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ムゲンは、せっせと超時空甘太郎の新世界の広報をどうすればいいものかと考えていた。
おそらく簡単には理解してもらえないだろうな……との予感があった。
何しろ超時空世界が存在しているということも知らないのだから、超時空世界の新世界の説明がすんなりと理解できるわけがないのだ。
「体験選択自由自在の世界」と言えば、なんとかなくイメージくらいは伝わるだろうなと思うものの、どうして体験選択自由自在などということが可能になるのかという説明となると、「体験そのもの」 について理解していないと理解できないだろうなと思う。
「体験そのもの」を意味する概念すら、不自由な世界の常識には存在していないのだ。
ではどう説明するか……
夢の世界の体験みたいに不自由な世界の現実ではありえない空飛ぶ体験とかが味わえることに似ている……などと説明すればある程度のイメージくらいはできるだろうな……と思う。
要するに、不自由な世界の現実と呼ばれる世界では、ほとんどの場合、いろいろな体験が何らかの原因と結びつけられている。
例えば、素手で熱湯を触ると熱いと感じる体験が発生する……とかだ。
また、例えば、好みの異性が存在しているから魅了されて好きだという感情が発生する……とかだ。
また、例えば、素晴らしい景色を見たから気分が良くなる……とかもそうだ。
これらすべての体験には、体験の原因が存在している。
だが、「体験そのもの」には、原因がない。
原因は体験発生のはじめには存在していたかもしれないが、「体験そのもの」となるとその原因が消えるのだ。
つまり、何の原因もなく、手がなくなっていようが、他者がいようがいまいが、素晴らしい景色が実際にあろうがなかろうが、「体験そのもの」を超時空世界では保存できるのだ。
そして再生もできる。
それは、制作された映画やドラマに似ている。
元になる映画やドラマの監督や出演者たちは必要だったが、それがいったん記録媒体に記録されてしまえば、その映像を自由に好きな時に見れるようになる。そうした技術がある。
それに似ている。
ありとあらゆる「体験そのもの」は、超時空世界では、体験記録技術によって保存できるのだ。
そして保存された「体験そのもの」は、そう望むなら自由に再生して再体験できてしまう。
不自由な世界群は、その可能性をわざと封じてしまっている。
だからいつまでたっても不自由なのだ。
空腹になると飢餓感や空腹感が発生する……なぜか? なにもそんな飢餓感など発生させなくてもよかったのだ。
歯を麻酔なしで抜こうとすると、耐え難い拷問級の激痛が発生する……しかし、そんな激痛が発生する設定にしなくてもよかったのだ。
誰かに出会って恋が芽生える……なぜ、そうなるのか? それはそうした感情が発生するように仕組まれているからなのだ。
「体験そのもの」を保存しておけば、別に恋する感情だけを他者ぬきで体験するということもできるのだ。
こうして不自由な世界群では、たいていの場合、いろいろな体験がいろいろな体験原因と紐づけられている。
その紐づけを不自由な世界の普通の体験者たちは自分で自由に変えたり、切り離したりすることができない。
しかし、技術的には可能だと理解する必要がある。
それは肉体や霊体と呼ばれる体験感受装置の性能次第でどうとでもなるものなのだ。
そうした体験感受装置に発生する体験群を俯瞰して第三者的に見ることができるのが意識であり、そうした意識が魂に定着した存在が意識体と呼ばれている。
不自由な世界群では、現実と呼ばれる体験強制システムに魂たちのほとんどが無意識状態で呪縛されている。
例えば体を傷つけると痛くて辛い体験が発生するのは当然だと思い込んでいたりする。
しかし、麻酔薬や鎮痛薬などを上手く使えば、痛くて辛い体験は発生しなかったりする。
当然だと思っていることは、実は当然ではなかったりするのだ。
実は、体験の紐づけ は、いかようにも変更可能なのだ。
ただ、そう簡単には変更できないように、不自由な世界群では、その部分がわざと不自由に設計されているだけなのだ。
多くの人間族たちは、他者や社会や物などに自分の体験を紐づけてしまっていて、他者や社会や所有物が変われば、自分の体験も変化すると思い込んでいたりする。
しかし、変化することもあるが、変化しないこともあるのだ。
求めるものが「体験そのもの」であるのに、それを他者や社会や物に紐づけてしまっているわけだ。
そしてその紐づけは確固たるものではなかったりする。
だから、そこを理解できない限り、本当に体験選択自由自在の状態には決して到達できない。
いくら大金持ちになっても、いくら社会的に成功しても、いくら欲しい物をすべて手に入れても、「本当に求める体験そのもの」は手に入らないということがよくある。
だから、洞窟で瞑想ばかりしている修行者が心からの満足体験を味わっていたもするわけだ。
いくら世界を征服しても、満足できなかったりするわけだ。
いくら好きな相手と一緒に生活できるようになっても、満足し続けられない場合が多いのはそうした理由からなのだ。
各種の満足体験は、「満足体験そのもの」 を自由に選択して得られるようにならない限り、安定して味わい続けることができないのだ。
不自由な世界の社会群には、そうした理解がほとんど浸透していない。
その研究すらまともにできていない。
むしろそうした研究が大手を振ってはできないような社会になってしまっている。
この体験そのものを自由自在に得られるようにするための科学を「体験科学」と呼ぶ。
そして不自由な世界には、まだこの「体験科学」という研究分野がまともに育っていない。
ムゲンは、そんな説明文をとりあえず書いてはみたが、果たしてこうした説明で不自由な世界のどれだけの魂がその意味を理解できるのだろう……と思う。
説明しても理解できないか、理解できても、「あ、そう。だから?」などと言われるのではないかと思うと説明すべきなのかどうか疑問に思えてくる。
しかし甘太郎に新世界の広報を頼まれた以上、甘太郎の新世界を理解できるようにするために最低限の基本的なことは何とかして伝えなければならない……
ムゲンはだれかもっと上手く説明してくれないだろうか……などと思いながら、カタカタとタイプライターを叩いていた。
おそらく簡単には理解してもらえないだろうな……との予感があった。
何しろ超時空世界が存在しているということも知らないのだから、超時空世界の新世界の説明がすんなりと理解できるわけがないのだ。
「体験選択自由自在の世界」と言えば、なんとかなくイメージくらいは伝わるだろうなと思うものの、どうして体験選択自由自在などということが可能になるのかという説明となると、「体験そのもの」 について理解していないと理解できないだろうなと思う。
「体験そのもの」を意味する概念すら、不自由な世界の常識には存在していないのだ。
ではどう説明するか……
夢の世界の体験みたいに不自由な世界の現実ではありえない空飛ぶ体験とかが味わえることに似ている……などと説明すればある程度のイメージくらいはできるだろうな……と思う。
要するに、不自由な世界の現実と呼ばれる世界では、ほとんどの場合、いろいろな体験が何らかの原因と結びつけられている。
例えば、素手で熱湯を触ると熱いと感じる体験が発生する……とかだ。
また、例えば、好みの異性が存在しているから魅了されて好きだという感情が発生する……とかだ。
また、例えば、素晴らしい景色を見たから気分が良くなる……とかもそうだ。
これらすべての体験には、体験の原因が存在している。
だが、「体験そのもの」には、原因がない。
原因は体験発生のはじめには存在していたかもしれないが、「体験そのもの」となるとその原因が消えるのだ。
つまり、何の原因もなく、手がなくなっていようが、他者がいようがいまいが、素晴らしい景色が実際にあろうがなかろうが、「体験そのもの」を超時空世界では保存できるのだ。
そして再生もできる。
それは、制作された映画やドラマに似ている。
元になる映画やドラマの監督や出演者たちは必要だったが、それがいったん記録媒体に記録されてしまえば、その映像を自由に好きな時に見れるようになる。そうした技術がある。
それに似ている。
ありとあらゆる「体験そのもの」は、超時空世界では、体験記録技術によって保存できるのだ。
そして保存された「体験そのもの」は、そう望むなら自由に再生して再体験できてしまう。
不自由な世界群は、その可能性をわざと封じてしまっている。
だからいつまでたっても不自由なのだ。
空腹になると飢餓感や空腹感が発生する……なぜか? なにもそんな飢餓感など発生させなくてもよかったのだ。
歯を麻酔なしで抜こうとすると、耐え難い拷問級の激痛が発生する……しかし、そんな激痛が発生する設定にしなくてもよかったのだ。
誰かに出会って恋が芽生える……なぜ、そうなるのか? それはそうした感情が発生するように仕組まれているからなのだ。
「体験そのもの」を保存しておけば、別に恋する感情だけを他者ぬきで体験するということもできるのだ。
こうして不自由な世界群では、たいていの場合、いろいろな体験がいろいろな体験原因と紐づけられている。
その紐づけを不自由な世界の普通の体験者たちは自分で自由に変えたり、切り離したりすることができない。
しかし、技術的には可能だと理解する必要がある。
それは肉体や霊体と呼ばれる体験感受装置の性能次第でどうとでもなるものなのだ。
そうした体験感受装置に発生する体験群を俯瞰して第三者的に見ることができるのが意識であり、そうした意識が魂に定着した存在が意識体と呼ばれている。
不自由な世界群では、現実と呼ばれる体験強制システムに魂たちのほとんどが無意識状態で呪縛されている。
例えば体を傷つけると痛くて辛い体験が発生するのは当然だと思い込んでいたりする。
しかし、麻酔薬や鎮痛薬などを上手く使えば、痛くて辛い体験は発生しなかったりする。
当然だと思っていることは、実は当然ではなかったりするのだ。
実は、体験の紐づけ は、いかようにも変更可能なのだ。
ただ、そう簡単には変更できないように、不自由な世界群では、その部分がわざと不自由に設計されているだけなのだ。
多くの人間族たちは、他者や社会や物などに自分の体験を紐づけてしまっていて、他者や社会や所有物が変われば、自分の体験も変化すると思い込んでいたりする。
しかし、変化することもあるが、変化しないこともあるのだ。
求めるものが「体験そのもの」であるのに、それを他者や社会や物に紐づけてしまっているわけだ。
そしてその紐づけは確固たるものではなかったりする。
だから、そこを理解できない限り、本当に体験選択自由自在の状態には決して到達できない。
いくら大金持ちになっても、いくら社会的に成功しても、いくら欲しい物をすべて手に入れても、「本当に求める体験そのもの」は手に入らないということがよくある。
だから、洞窟で瞑想ばかりしている修行者が心からの満足体験を味わっていたもするわけだ。
いくら世界を征服しても、満足できなかったりするわけだ。
いくら好きな相手と一緒に生活できるようになっても、満足し続けられない場合が多いのはそうした理由からなのだ。
各種の満足体験は、「満足体験そのもの」 を自由に選択して得られるようにならない限り、安定して味わい続けることができないのだ。
不自由な世界の社会群には、そうした理解がほとんど浸透していない。
その研究すらまともにできていない。
むしろそうした研究が大手を振ってはできないような社会になってしまっている。
この体験そのものを自由自在に得られるようにするための科学を「体験科学」と呼ぶ。
そして不自由な世界には、まだこの「体験科学」という研究分野がまともに育っていない。
ムゲンは、そんな説明文をとりあえず書いてはみたが、果たしてこうした説明で不自由な世界のどれだけの魂がその意味を理解できるのだろう……と思う。
説明しても理解できないか、理解できても、「あ、そう。だから?」などと言われるのではないかと思うと説明すべきなのかどうか疑問に思えてくる。
しかし甘太郎に新世界の広報を頼まれた以上、甘太郎の新世界を理解できるようにするために最低限の基本的なことは何とかして伝えなければならない……
ムゲンはだれかもっと上手く説明してくれないだろうか……などと思いながら、カタカタとタイプライターを叩いていた。
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