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第02話 ルーチェの頭痛
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イラリアが去った3日後の城内
イラリアの右腕としてその手腕を振るっていたルーチェは、ワイン部門・統括責任者の執務室に赴いていた。
「クーラ様、失礼いたします。ルーチェでございます」
「あら、何よ。今忙しいのだけど」
扉を開くと、甘ったるいムスクの匂いがルーチェの鼻腔を刺激した。その匂いに思わず顔をしかめてしまう。
クーラはソファーに深く腰掛け、爪を整えていた。こういった些細な箇所こそ手は抜けない。いい男というのは、こういった部分をよく見ているのだから、とルーチェには一切見向きもせずに返答した。
「そうですか、お忙しいところ恐縮です。定例の畑の状況確認作業ですが、あと30分ほどで開始しますので、念のためにお声がけをと思いまして」
「はあっ。畑の状況確認なんてあなたがやっておきなさいよ。私がいないと、そんなこともできないわけ?」
クーラはさも面倒だとため息を吐く。ため息を吐きたいのはこちらだと、ルーチェは内心毒づいた。2年前のあの日、クーラと初めて会った日のことを思い出す。グリアムから、彼女が突然ワイン部門の副統括責任者になることを知らされた。最初はメンバー全員が彼女を尊敬したものだ。
だってそうだろう。当時21歳という若さでいきなり副総括のポジションに就いたのだ。通常なら天地がひっくりかえってもあり得ない人事だ。
だからこそ期待した。きっと外部で、物凄い実績を残した人物なのだろうと。そう、あのワイン作りの天才、イラリア様と同じように。
しかし、クーラに対する尊敬の念が剥がれ落ちるまで3日とかからなかった。少し話せば、知識がないことはすぐにわかった。なにせ、基本事項の確認作業ですら彼女は「何それ?」という顔をしていたのだから。
何より反感を買ったのは、ワイン作りへの情熱が皆無だったこと。それどころか、畑仕事など手が汚れることは平民がやることだと見下したのだ。なぜこのような人物がこの地位に就いているのかと、皆憤りを覚えた。後に風の噂で聞いたのは、クーラは没落した貴族の出身で、どこかのパーティーで知り合ったグリアムに媚を売ることで城内に潜り込んだという話だ。
「かしこまりました。と、言いたいところですが……本日は国王がご見学にいらっしゃいます。さすがに責任者が居合わせないのはいかがなものかと」
「何よ!そういう大事なことは早く言いなさいよ。最悪!髪の手入れをもっとしっかりとしておけば良かったわ」
何度も伝えたさ。紙にだって書き記した。現在は、あんたが切った爪の下敷きになっているだろうが。
「まあいいわ。畑に関する細かい説明はあなたがしなさい。いいわね、着替えたら行くから、先に行っていなさい」
さすがの彼女でも、それくらいの常識はあったかと、胸を撫で下ろす。現在身に着けている胸元が大きく開いた真っ赤なドレス姿で畑に来られでもしたら、どうしようかと思っていたからだ。
「かしこまりました。それでは、第3農園の入り口でお待ちしております」
最後にそれだけ伝え、踵を返そうとした時。
「ちょっと待ちなさい!第3農園ってどこよ!?」
ルーチェはひどい頭痛を覚え、思わず目頭を押さえた。
イラリアの右腕としてその手腕を振るっていたルーチェは、ワイン部門・統括責任者の執務室に赴いていた。
「クーラ様、失礼いたします。ルーチェでございます」
「あら、何よ。今忙しいのだけど」
扉を開くと、甘ったるいムスクの匂いがルーチェの鼻腔を刺激した。その匂いに思わず顔をしかめてしまう。
クーラはソファーに深く腰掛け、爪を整えていた。こういった些細な箇所こそ手は抜けない。いい男というのは、こういった部分をよく見ているのだから、とルーチェには一切見向きもせずに返答した。
「そうですか、お忙しいところ恐縮です。定例の畑の状況確認作業ですが、あと30分ほどで開始しますので、念のためにお声がけをと思いまして」
「はあっ。畑の状況確認なんてあなたがやっておきなさいよ。私がいないと、そんなこともできないわけ?」
クーラはさも面倒だとため息を吐く。ため息を吐きたいのはこちらだと、ルーチェは内心毒づいた。2年前のあの日、クーラと初めて会った日のことを思い出す。グリアムから、彼女が突然ワイン部門の副統括責任者になることを知らされた。最初はメンバー全員が彼女を尊敬したものだ。
だってそうだろう。当時21歳という若さでいきなり副総括のポジションに就いたのだ。通常なら天地がひっくりかえってもあり得ない人事だ。
だからこそ期待した。きっと外部で、物凄い実績を残した人物なのだろうと。そう、あのワイン作りの天才、イラリア様と同じように。
しかし、クーラに対する尊敬の念が剥がれ落ちるまで3日とかからなかった。少し話せば、知識がないことはすぐにわかった。なにせ、基本事項の確認作業ですら彼女は「何それ?」という顔をしていたのだから。
何より反感を買ったのは、ワイン作りへの情熱が皆無だったこと。それどころか、畑仕事など手が汚れることは平民がやることだと見下したのだ。なぜこのような人物がこの地位に就いているのかと、皆憤りを覚えた。後に風の噂で聞いたのは、クーラは没落した貴族の出身で、どこかのパーティーで知り合ったグリアムに媚を売ることで城内に潜り込んだという話だ。
「かしこまりました。と、言いたいところですが……本日は国王がご見学にいらっしゃいます。さすがに責任者が居合わせないのはいかがなものかと」
「何よ!そういう大事なことは早く言いなさいよ。最悪!髪の手入れをもっとしっかりとしておけば良かったわ」
何度も伝えたさ。紙にだって書き記した。現在は、あんたが切った爪の下敷きになっているだろうが。
「まあいいわ。畑に関する細かい説明はあなたがしなさい。いいわね、着替えたら行くから、先に行っていなさい」
さすがの彼女でも、それくらいの常識はあったかと、胸を撫で下ろす。現在身に着けている胸元が大きく開いた真っ赤なドレス姿で畑に来られでもしたら、どうしようかと思っていたからだ。
「かしこまりました。それでは、第3農園の入り口でお待ちしております」
最後にそれだけ伝え、踵を返そうとした時。
「ちょっと待ちなさい!第3農園ってどこよ!?」
ルーチェはひどい頭痛を覚え、思わず目頭を押さえた。
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