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第3話 王女エマ
しおりを挟む「エドガーさん!! アランさん!! 死なないでっ!!」
その少女は倒れている騎士のもとへ駆け寄る。
「起きてください、エドガーさん!!」
騎士を揺さぶる。
「あぁっ! この傷ではもう……すみません、回復魔法は使えませんか!?」
藁にもすがる表情で少女は俺のほうを向く。
「すまんが、俺は魔法が使えない」
「そう……ですか……」
少女は目を伏せる。涙がポロポロと頬をつたう。
「だが、俺に任せておけ!」
「えっ?」
顔を上げる少女。
「鼻毛本来の役割は外敵や乾燥から人を守ること。武器となり、誰かを傷つけることじゃない。鼻毛の力を信じろ」
「えっ?」
不思議そうな顔をする少女。
俺は鼻の左穴の入り口付近に生えている細く小さい鼻毛を引き抜く。
「鼻毛ナンバー004『鼻毛オペレーション』、発動!!」
糸のように細長い一本の棒ができる。
「鼻毛ナンバー004は感度が高い、センシティブな鼻毛だ。緻密な作業に向いている。この棒の先端で触れた感触は棒を伝わり俺の手にも伝わる」
鼻毛棒を騎士の傷口にゆっくりと挿入してゆく。
「待ってください!! 傷口に棒を入れたらもっと傷つけてしまいます!!」
俺を止めようとする少女。
「落ち着け。この棒は俺の意志で自由自在に曲げられる。植物が曲がる原理と同じだ。鼻毛の片側だけを成長させてやれば、逆の方向に曲がる」
筋肉や内臓を傷つけないように、傷口の一番深いところまで鼻毛棒を進める。
体内の損傷の状態が鼻毛を伝わり手に取るように分かる。
肝臓が切り裂かれている。
「今から傷口をふさぐ」
靴ひもを結ぶように肝臓を鼻毛棒で縫っていく。
よし! 完成。
縫い終わったら、スキル『脱毛』で縫った鼻毛の部分を鼻毛棒から切り離す。
次は切断された筋肉を縫い付ける。
体の内部から外側に向かって順に傷口をふさいでゆく。
「すごい……血が止まっています! 回復魔法を使わないでこの傷をふさぐなんて!!」
少女は尊敬の眼差しを俺にむける。
「俺は勇者を20年以上やっていた。傷ついた仲間をこのスキルでよく助けたもんだ」
一人目と同じ要領で残りの騎士の傷口もふさいでゆく。
さすがの精鋭部隊だ。全員が致命傷をギリギリ避けている。
「終わったぞ。安心しろ、全員無事だ。あとはこのポーションを飲ませて安静にしていれば、そのうち動けるようになる」
少女にポーションを手渡す。
「本当にありがとうございます!! 私の命を救っていただき、さらに護衛たちの命まで救ってくださるなんてっ! このご恩は一生忘れません。私にできることでしたらなんでもいたします!!」
長い金髪をたらし、少女は深々と頭を下げる。
「気にするな。戦士として当たり前のことをしたまでだ」
「いいえ! このご恩は一生忘れません! お礼をさせてください!」
少女は俺の手を握る。
美しい瞳で俺の顔をまっすぐ覗き込む。
「そうはいってもな……」
「申し遅れましたが私はリエスタ王国の王女・エマと申します。一生分の財宝、広大な領土、なんでも仰ってください。あなた様は王女を救った英雄様です」
「王女!?」
「はい、王女です。ハイデン国王から我が国リエスタと和平を結びたいと申し入れがあり、この国に来たところを襲われました……」
やはりハイデン国王が黒幕か。
リエスタ王国の王族を誘拐し、交渉材料に利用するつもりだったのだろう。
一国の主とは思えない卑劣さだ。
「これは失礼しました、王女様。非礼をお許しください」
俺は片膝を地面つける。
「いえいえ、とんでもないっ! あなた様は私と護衛たちを救ってくださった英雄様です! 普通に話してください!」
「そうは言っても……」
「いいんです! リエスタ王国の王女と周りに悟られないためにも、呼び捨てで普通に接してもらったほうが都合がいいんですから」
エマはいたずらっぽく微笑む。
「……それなら遠慮なく普通にさせてもらうぞ。俺のことも英雄様でなく、ノーズを呼んでくれ」
「わかりました、ノーズさん! 本当にさっきはありがとうございました!!」
エマは深く頭を下げる。
「それにしてもお強いですね! 致命傷の人を治療することまでできる! こんなすごい方に今までお会いしたことがありません!!」
目を輝かせるエマ。
「当然だ、鼻毛に不可能はない。俺のスキル『鼻毛無双』は無敵だ」
美少女に褒められ、こころなしか俺の鼻毛たちも嬉しそうにサワサワと揺れている。
そんな気がする。
「鼻毛無双……その、なんというか、ユニークなスキルですね……」
「いや、すまん……。鼻毛とか気持ち悪いよな。気分を悪くしたならすまない」
俺は一歩後ろに下がる。
ハイデン国王に追放された場面が脳裏に浮かぶ。
「そんなことありません!! 我が国・リエスタ王国の人間は人を見た目なんかでは判断しません。その人の考えや行動、その内面を評価する国民です!」
エマは俺に近づき、俺の手をしっかりと握りしめる。
「ノーズさん、あなたは素晴らしい人です。リエスタ王国でもあなたほどのおかたはいません!」
その瞳は確信に満ち溢れている。
「それに……その……ノーズさんはすごくカッコイイと思いますよ……異性から見て……」
エマは頬を赤らめ、もじもじする。
「わかってくれるのか、鼻毛の素晴らしさを!! 髪の毛が薄くなると騒ぐくせに、鼻毛が薄くなっても誰も騒がない! 外敵から守るという役割では髪の毛も鼻毛もその価値は同じなのにだ!!」
俺は鼻毛の気持ちを代弁する。
「あのっ、いえ……そこまでは……」
「頭を守るならヘルメットを被ればいい。髪の毛は不要! だが、鼻を守るには鼻毛が必須!! 鼻を守る防具はこの世に存在しない!」
「……マスクでいいのでは?」
「……あっ、あれは口を守るための防具だ! 鼻を守るためのものでは断じてない!! 俺が言いたいのは、髪の毛と同じくらい鼻毛も大切にしてほしいということだ!」
この少女はなかなか鋭い。
さすがは一国の王女。
「うっ……エマ様……ご無事ですか……?」
騎士の一人が目を開ける。
「エドガーさん!! 良かった!」
エマは瞳に涙を浮かべる。
「お守りできずに申し訳ございません……親衛隊長の私が不甲斐ないばかりに……」
「エドガーさんのせいではありません!! あれは人知を超えておりました。オリハルコンの鎧まで装備していたようです。あなたたちが生きていてくれて、私は本当にうれしいです……」
エマは満面の笑みで涙をぬぐう。
「いい主を持ったな……」
思わずつぶやく。
家臣のために涙をながしてくれる。
そんな主に仕えられるのは幸せなことだ。
「戦士殿! あなたの強さを見込んで頼みがある。私たちはしばらくまともに動けない。エマ様をリエスタ王国に無事に届けてくれないか?」
エマから一通りの経緯を聞いたあと、エドガーは俺に向かって深々と頭を下げた。
「任せておけ。訳あってちょうどこの国を去るところだった」
「「ありがとうございます!」」
エドガーとエマはまた頭を下げる。
こうして、俺とエマはこの国を出るため、国境の町『エドルダ』に向かうこととなった。
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