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第4話 宿屋
しおりを挟む宿屋の食堂。
「ん~!! この国のお食事は美味しいですね、ノーズさん! このスープは何というんですか?」
「この国の名物『ボルッシュシチュー』だ。猪の肉、トマト、数十種類のスパイスを煮込んで作る。ほどよい酸味がクセになるだろ」
「はい! 私の国でも流行らせたいです!」
エマはスープをパクパクと口に運ぶ。
宿屋の夕食を気に入ってくれたみたいだ。
国境の町『エドルダ』は遠い。
今日は宿場町で一泊することにした。
「今日は本当にいろいろありました……。ちょっと疲れたのでお風呂に入って寝ます。覗かないでくださいねっ!」
「覗くかっ! ふざけてないでさっさと寝ろ。明日の朝は早いぞ」
「はーい。おやすみなさい、ノーズさん!」
エマはいたずらっぽく笑って自分の部屋に戻っていく。
最初はお互いに緊張していたが、旅をするなかで冗談を言い合える仲になってきた。
王女という身分から想像できないほど、エマは明るく気さくで、決して偉ぶらない良い子だ。
国民からも愛されているんだろう。
「俺もそろそろ寝るか」
そう呟いて部屋に戻る。
風呂に入り、ベッドに仰向けになる。
目を閉じると、道中でエマと話した会話やエマの仕草が思い出される。
護衛のためとはいえ、こんな美少女と二人っきりでいられるのが信じられない。
顔だけじゃない。性格まで良い。
しかも、大きな胸にキュッと締まったクビレ。スタイル抜群だ。
「あんな子と結婚して平和に暮らせたら幸せだろうな……」
天井に向かって手を伸ばしてみる。
決して届かない何かを捕まえるみたいに。
◇◆◇◆◇◆◇
「ノーズさん、起きてください……。私……一人じゃこわいです……」
柔らかく心地よい感触に包まれる。
目を開けると、エマの顔が目の前に!
エマと向かいあって添い寝している!?
潤んだ瞳に紅潮した頬。
荒い息づかい。
シルクのナイトガウン一枚しか着ていない。
「なっ……えっ!?」
言葉がでてこない。
「ノーズさん……」
エマは俺をギュッと抱きしめる。
エマのぬくもりが体全体に伝わってくる。
いい匂いがする。
「どどど……どうした!? 何があった?」
「今朝のことを思いだしたら急に怖くなりました。それに……ノーズさんは強くて優しくて素敵でした……」
上目遣いでジッと俺を見つめている。
「そ、そんなことはない! 他の戦士でも同じことができたと思うぞ!」
「いいえ! ノーズさんしかあんな神業はできません!! こんな気持ちは初めてなんです……。あれからノーズさんのことばっかり考えてしまいます……」
俺の胸に顔を埋めるエマ。
「見ず知らずの人を助けるために強大な敵に立ち向かう姿。強力な技の数々……。かっこよかったなぁ……。目を閉じても、ノーズさんの戦っている姿が目に浮かんできます……」
エマは言葉をつづける。
「王族は結婚相手を選べません。こんな気持ちになることなんてずっと前に諦めていました。でも……ノーズさんとなら……」
……
沈黙が流れる。
エマの鼓動だけが俺の体を通して響いてくる。
エマは顔をあげて俺をまっすぐ見つめる。
両手を俺の両頬に添えた。
「ノーズさん……私の……初めてを受け取ってください……」
目をつむり、ゆっくりと顔を近づけてくる。
頭が真っ白になる。
時間が止まったように周りの音も聞こえない。
柔らかそうな薄ピンクの唇。
俺は動くこともできず、その唇から目を逸らすこともできない。
観念し、俺もゆっくりと目を閉じる。
……
ブルルッ!
ブルブルブルッ!!
鼻の奥で鼻毛が揺れる。
鼻毛ナンバー714『鼻毛アラート』だ。
危険を察知し知らせてくれる。
俺は鼻の左穴の奥にある太い鼻毛をつまむ。
深呼吸して覚悟を決める。
「鼻毛ナンバー335『破幻の鼻毛』、発動!!」
鼻毛を一気に引き抜く。
強烈な痛みが全身を駆けぬける。
鼻毛を抜くのは痛い。
人類は知っている。
その特性を利用し、痛みによって幻術を破るスキルだ。
鼻毛ナンバー335を引き抜くと、鼻毛100本分の痛みが発生する。
気がつくと、巨大な蛇が俺の上にのしかかっている。
幻術使いの白蛇。
相手の望む夢を見せ、その間に生命力を奪うやっかいな魔物だ。
白蛇は鋭い牙を向けて噛みついてくる。
鼻の右穴の入り口付近の小さな鼻毛をつかむ。
「鼻毛ナンバー006『盗賊のナイフ』、発動!!」
鼻毛が小型ナイフに変形する。
白蛇の牙が俺の首筋に届く前に、白蛇の首をはねる。
盗賊のナイフは小さい。そのゆえに小回りが利き、接近戦では大きな武器になる。
「危なかった……。こんな平和な場所で奇襲をくらうとは……」
床に転がっている蛇の首を見つめながらつぶやく。
――エマがあぶないっ
ナイフを握りしめたまま、エマの部屋に駆け込む。
「エマ、無事かっ!?」
部屋のドアを真っ二つにして突入する。
エマの上に白蛇がのしかかっている。
汗をかき、荒い息づかいのエマ。
だが、その頬は紅潮している。
薄ピンクのナイトガウン一枚しか着ていない。
「いま助けてやるぞ!!」
白蛇に飛び掛かろうとした瞬間――
「ダメ……やめないで、ノーズさん……」
エマがうなされながらつぶやく。
「初めての人がノーズさんで嬉しい……。我が国の王女は相手を選べません。ずっと昔に諦めていた夢が今かないました……。いまとっても幸せです」
エマは微笑む。
どんな幻覚をみているんだ。
まったく。
「たくましい腕……私のことギュッとしてください……」
体をよじらせるエマ。
幸せそうな顔をしている。
――って、いかんっ!
こうしている間もエマの生命力が吸い取られている。
「幸せだなぁ……。私……ノーズさんのこと……」
俺のことを?
「その……えっと……あの……」
もじもじするエマ。
あの?
続きが気になる……
――って、いかんいかん!
突っ立っている場合じゃない。
エマを守ると約束した身。
エマの安全が第一だ。
盗賊のナイフを握りしめる。
一瞬で白蛇の懐に飛び込む。
白蛇は逃げようと窓に向かって飛び跳ねる。
だが逃がさない。
白蛇の首を斬りはねる。
「起きろ、エマ! 大丈夫か!?」
エマの肩をゆする。
「……えっ? あれ……私……ノーズさんに言いたいことがあった……きゃぁっ!」
布団で体を隠すエマ。
「こ、こっちを見ないでくださいっ! なんで私の部屋にいるんですかっ!?」
「落ち着け。幻術使いの白蛇に襲われていたぞ。俺も襲われた。相手が望む夢をみせ、その間に生命力を吸い取る魔物だ」
床に転がっている蛇の首を指さす。
「幻術……えっ……えええっ!!」
エマの頬がみるみる赤くなる。
「……私、何か言ってましたか……?」
背中を向けて話すエマ。
「えっ、いや……俺は何も聞いてないっ! 部屋に入った瞬間に白蛇を倒したからな!! とっ、当然だろう!?」
「そ、そうですかっ!! いえ、もし変なことを言っていたらと思いまして! そ、そういえばノーズさんも襲われたんですよね!? どんな幻覚を見られたんですか?」
「俺!? 俺はその……いえ、アレだアレ……」
言えない。
絶対に言えない。
エマと添い寝していたなんて、本人に言えるわけがない!
「お……俺は戦士だ。だから……ドラゴン! なんか強いドラゴン!! 凄くヌルヌルしてるやつ! 強いヌルゴン(ヌルヌルドラゴン)を倒して街を守っている幻覚だった! うん、あれはきっとそんな幻覚だった気がする! よく覚えてないけどな!! エ、エマはどんな幻覚だったんだ?」
「えっ、私ですかっ!? わ、私はその……」
耳を真っ赤にして下を向くエマ。
「あ……アレです!! 私も国を守るてきなアレでした! 私は王女! 病気で苦しむ国民を聖なる力で治療する感じでした! よく覚えていませんけどっ!! 似た幻覚をみるなんて偶然ですね!!」
「本当にその通りだっ! まあ、戦士なら当然の幻覚だけどなっ!! むしろそれ以外の幻覚なんてみるハズもない! 戦士だったらヌルゴン一択! 他の幻覚を見る戦士がいたら見てみたいもんだ! アハハハハー!!」
鏡をみるとすぐに会えるぞ!!
自分につっこむ。
「そ……そうですよね! 私も王女として当然の幻覚でした! いつだって民を思うのが王族の務め! 他の幻覚なんてみるわけありません! そんな王族がいたら説教してやりますよ!! アハハハハー!!」
エマの目が泳いでいる。
乾いた笑い声が部屋中に響き渡る。
「「…………」」
気まずい沈黙。
「と……とにかく、無事でよかった! 俺はこのドアを交換する! 明日は早いからエマは早く寝てくれ!」
「は、はいっ! おやすみなさい!!」
エマは枕に顔をうずめて、足をジタバタさせている。
耳まで真っ赤だ。
ドアを交換した後、そそくさと自分の部屋に戻る。
目を閉じるとさっきの会話が思いだされる。
なんだよ、『ヌルゴン(ヌルヌルドラゴン)』って!!
俺はバカかっ!!
エロい幻覚を見ていたってバレたかもしれない……
明日また顔を合わせるのがめっちゃ気まずい!
あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーー!!
ベッドの上で身もだえる。
◇◆◇◆◇◆◇
「おっ、おはよう、エマ!」
結局、昨日は一睡もできなかった。
まだ若干気まずい。
「おはよう……ございます……ノーズさん……」
エマは目の下に深いクマを作ってぼーっとしている。
俺とエマは寝不足のまま、国境の町『エドルダ』にむけて宿を出発した。
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