Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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01 チュートリアル

08 Baltroy (一撃)

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「じゃ、正面からは俺たちが行く。裏口と非常口を押さえておいて」
「はい!」

 俺たちの他に2チームが応援に来てくれている。ヴェスタは緊張しているようだ。各々が耳に付けたインカムでやり取りする。ゴーグルを付けるので、お互いの顔は殆ど見えなくなる。

「行くぞ。ヴェスタ、今日のところはまず見とけ。サウンドブレイカーにだけ気をつけろよ」
「はい」

 まずは普通にエントランスに入る。受付の女性に身分証を見せて、捜査する旨を伝える。女性は上司にコールしたいと言うが、だめだと言って職員のいるところに案内させる。2階へ。2階は先日インタビューした3階と同じ造りだった。部屋の前で女性がノックする。ドアが開く。やや広めのフロア。十名足らずの職員が端末に向かって座っていた。俺たちを見て勢いよく立ち上がる。

「全員壁に両手をつけ。代表者は手を上げろ」

 当然大人しくはしない。わらわらと反対側のドアから数名が逃げ出す。走り出そうとした手前の3人の足を撃つと、ばたばたとその場に倒れた。

「どうせ逃げられない。俺たちは3階に行こう。たぶんレプリカントたちはそこだと思う」

 階段から3階に上がる。手前からドアを一つ一つ蹴破って行く。ドアの中には必ずぼんやりと誰かが座り込んでいた。ひどい匂いがする。先日来た時もうっすらと感じていた。血と糞尿の匂い。

「保護対象発見。3階。複数名」

 縛られているわけでもないのに、誰も動こうとしない。やっぱり何かいじられている。最後の、エレベーターの前の扉を蹴破る。応接室だ。ドアが開いた瞬間、目の前にサウンドブレイカーがあった。ドンと体に衝撃が走る。男がまた引き金を引こうとする……いいぜ。撃てよ。ふと、自分の後ろにいるもののことが頭を過った。この弾丸は貫通する。たぶん後ろにいるやつも。

「ヴェスタ!」

 後ろを振り向く。ヴェスタは左の手首の下あたりを押さえている。当たったな。

「バル! ごめん!」

 ヴェスタは言いながらパルスガンを撃った。弾は俺の脇腹をかすめて超音波破砕銃サウンドブレイカーを持った男に当たった。男はもんどり打って倒れて気絶している。

「おま……!」
「痛いだけだって言っただろ!」
「だからって積極的に俺ごと撃っていいとは言ってない!……まあいいや。撃たれたろ?」

 袖を上げる。細胞が壊れたせいでもう水膨れができ始めている。

「痛い……」
「だからさ」

 携帯用治療パッドを貼って炎症が起こるのを防ぐ。今はこれくらいしかできない。

「上の階も見てくる。お前ここにいるか?」
「ううん、行ってみる」

 5階建てのビルだ。階段を駆け上がる。

「5階から」

 5階は空き室に見えた。念のため全てのドアを開ける。

「ドア蹴破るのうまいですね」
「コツがあんだよ。今度教えるわ」

 4階。一部屋開けてみると、ホテルの部屋みたいになっていた。次の部屋。何やらごてごてした大きな椅子と鞭やら鎖やらが壁中に貼ってある部屋。次。普通の一般住宅みたいな部屋。

「ここ、撮影フロアか」

 最後は機材が入った部屋だった。

「よし、戻るぞ」

 3階ではもう他のチームがレプリカントたちを助け出していた。言われるままに捜査員についてくるレプリカントたち。状況が理解できているのかもあやしい。

「全員救出。職員も確保」
「了解。怪我人は?」
「ヴェスタが腕を負傷。軽症」
「了解。超音波銃かな。撤収」





 


「どうだった?」
「そんなに……想像してたよりは」
「まあ今回のは大人しい。もっと本格的に売買してるようなところに乗り込むと命懸けでドンパチしないといけない。腕見せてみな」

 現場で貼ったパッドをゆっくり剥がす。それでも水疱が破れて体液があふれる。

「痛っ……」
「これ、なかなか治らねえんだ。悪いことしたな……」

 再生パッドを貼り直す。普通の傷なら三日もあれば綺麗にくっつくが、サウンドブレイカーの傷は二週間ほどかかる。

「バルは全然平気なの?」
「これは平気だな。痛いだけ……だから周りに知らせるのがいつも遅れて」

 バディが怪我をする。今日みたいに。

「でも今日は出会い頭だったし、私のことも気にしてくれた……そうですよね?」
「一人称、俺で言ってみっか」
「俺のことも気にしてくれただろ」
「合格。筋がいいな。でも他のやつはまずあんな突入の仕方しないんじゃないかな。もっと慎重だろ。俺は変に丈夫だから油断してんだよ。直さないとな……」

 でもこの仕事を始めて8年。直そうと思って直せるものならもうとっくに直ってる頃だ。どうしても現場だとまどろっこしくなってポンと飛び込んでしまう。確かに付き合わされて援護しないといけないバディはたまったもんじゃないだろうな。
 



 助け出したレプリカントたちは、やはり自分の意思がなくなっていた。支配率が高く変えられているのかと思ったが、そうではなかった。

「初期設定値のまま?」
「そう。みんな35%未満。どうしてあんなにAI優位なのかわからない。本人の脳の機能が落ちてるってことなんでしょうけど」

 検査室のユミンが検査結果を渡してくれた。

「体もガタガタ。栄養失調状態だし、歯も抜け落ちたのか、抜かれたのか。肛門がもう機能してない子もいる。ひどいもんよ。バル、あんたは確かにあの子達を救ったわ」
「ありがとう。ま、今回のは新しいバディのお手柄なんどけどな」

 今度は社員の聴き取りの方を覗く。逮捕した人数が多いので他のチームの奴らにも手伝ってもらっている。彼らから随時上がってくる聴取録を見る。どこからレプリカントを連れて来たのか? どんな扱いをしたのか。

 実際に仕入れたのは社長。年に二、三人、あるIDにコールして新しいレプリカントを回してもらっていた。レプリカントは会社に来た時からもうあんな感じで、AI優位で言いなりなので便利だった。使えなくなるとまた同じIDにコール。言われたところに置き去りにして処分していた……。

 その連絡用IDを辿ってみる。やはりプリペイドの捨てID。いつも音声通話のみで相手の姿は見ていない。声は男だと思った。定期的にIDが変わると言う連絡が来た。名前はわからない。最初に連絡を取ったのはSNSの書き込み。

 とのこと。
 
 プリペイドの購入者の方を開示させる。保存期間が一年なので直近のものしか調べられない。購入者はヨルガル・ジャナン。どうせ偽名。IDもあるが、通信不能になる。ここまで。さて。どうするか。

「今週のコール終わりました。終わった。あとは?」
「それを考えてんだ。何しようかな」

 ヴェスタは緑の髪をして端末をちらと見た。

「これから誰を捕まえるの?」
「今回のケースの最終目標は、バイヤーを捕まえること……できれば大元の。人身売買だから、個人同士でやりとりしてるって殆どないんだ。どこかで誰かが仲介してる。そいつを捕まえる。どうしたらそいつに辿り着けるかなって話」
「この人は?」
「今回の件の連絡先プリペイドIDの購入者。でもどうせ偽名だろうな。コールも繋がらないし」
「ヨルガル・ジャナン」

 ヴェスタはすっと自分の端末に戻って何かを調べ出した。すぐに戻って来る。

「この人もレプリカントだ。25%。オーナーに確認してみる?」
「……すごい、なんでわかった?」
「一年前の納品のコールの時、この名前見たなって」

 思わずヴェスタをハグして明るいグリーンの髪をくしゃくしゃと撫でた。

「よし、お前に任せてみる。コールしてみな」
「はい! コール」

 はりきってコールしたが、出ない。

「在宅になってるのに」
「これは後ろ暗いからだろうな。人権保護局からのコールに出たくないんだろ。行こう」

 俺が公用車を回している間に、ヴェスタが防弾シールドなどの入ったバッグを持ってきた。なんて使えるヤツ。ゴーグルを放ってくれる。車に滑り込むように乗り込む。

「今までのどのバディより気が利くわ。お前」
「……」

 黙ってヴェスタはゴーグルを付けた。でもほおが赤い。エメラルドグリーンの髪によく映える。

「ナタニア・グレンホーマーの家。アストラ通りの25番地」

 かわいいとこあんだよなあ。

「捜査官のA492090rpです。お話を伺いに来ました。開けてください」

 家の前で公用車から降り、インターフォンを押してしばらく待つと、顔色の悪い、髪の長い太った女性が車椅子で現れた。

「……何?」
「ヨルガル・ジャナンさんの件で。会わせていただけますか?」
「もういないわよ」
「ではどちらに?」
「知らないわ。人権ありのレプリカントよ。どこに行こうが本人の自由でしょ」
「ヨルガル・ジャナンさんがレプリカントの人身売買に関与している可能性があります。知っていることを話してください。でないとあなたのことも洗いざらい調べることになる」
「…………」

 ナタニアによると、彼女がヨルガルを売却したのは半年ほど前のことだそうだ。介護用にと補助金も使って購入したレプリカント。でも金に困って売ることにした。

 SNSに載っていたIDにコールすると、翌日ステーションにレプリカントと来るように指示があった。確かに相手の顔も見たのに、売人のことはまったく記憶にない。いつの間にかヨルガルがいなくなっていて、口座に金が入っていた。口座番号を教えた覚えもなかったのに。

「他に何か変わったことはありましたか?」

 ヴェスタが尋ねた。

「……関係ないと思うけど、あのあと私の知り合いのレプリカントが壊れちゃったって話になって、私が売った先のIDを教えたわ。買い取ってくれたみたい」
「レプリカントが壊れたとは?」
「なんかね、ボケたみたいになっちゃって。私も見たんだけど、ずっとぼんやりして、おうむ返ししかしなくなって。言えば動くんだけど、自分で何もやろうとしないの」
「……」
「売りたいけど政府に売ると元が取れないからって言うから」
「教えた人はどなたですか?」





 
 ナタニアはフキテノに教え、フキテノはスクモとテーマに教えた。スクモのレプリカントもテーマのレプリカントも、フキテノが売却したしばらく後にやはり自発的な行動がなくなってしまった。

「どう思う?」
「病気みたい。伝染病」

 デスクに並んで二人で首を捻る。

「病気ならどうやって移る?」
「接触する」

 ヴェスタはこっちが指示する前に端末に向かって映像検索を始めた。この人たちのレプリカントが出会うところ。

 でも聞いたことがない。レプリカントがかかる病気なんて。彼らは改良されているので、ヒューマンがかかるたいていの病気に耐性がある。だから保証期間なんてあるんだ。病気になることを想定してないから。

 考えているうちに仕事終わりの時間になった。

「あ、そうだ。今日俺出かけるから。一人で帰っててな」
「はい。俺はもう少し仕事していく」





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