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01 チュートリアル
09 Baltroy (人口問題)
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久々のイグニスとの逢瀬だった。仕事も忙しかったし、イグニスの方も出張とかで会えなかったのだ。久々のイグニスのにおい。早くめちゃくちゃにしたくなる。イグニスがにっこり微笑んで言う。
「元気だった? 会いたかった」
「俺も会いたかった」
「引越し終わった? 部屋見たいなー……」
「終わった! うち来る?」
オートキャリアを予約してその間に食事をする。イグニスは今回はしばらくニュー・ロスの方にいたらしい。時差が三時間ある地域。
「バルは? 何かあった?」
「俺はいつも通りだよ」
仕事のことは話せないのでいつも曖昧になる。
「レプリカントさんとはうまくやってる?」
「うん。今日会うと思う。なかなか使えるんだ」
「あんまり仲良くならないでね? やきもち焼いちゃうから」
冗談めかして言われて、先週思い切りやらかしたのを思い出した。そうだった……。押し倒しちゃったんだった。でもあれからあんなことは全くないから、ほんとに間違いだったと言わざるを得ない。わざわざイグニスに言って傷つけたくもない。
「そろそろ車来るから行こうか」
車に乗るともう我慢できなくて、イグニスの唇に吸い付いた。理性が溶けて蒸発したみたいにそのことしか考えられなくなる。
「バル……だめ…だよ。ここじゃやだ……」
わかってる。でも……
イグニスの肌の感触。どうしようもなく惹きつけられる。
「落ち着いて…」
言われて息を整える。がまん。もう少し。もう少しでベッドの上でできるから。
家に着いて車を降りるとちょっとだけ冷静になった。ヴェスタにイグニスを紹介しないと。リビングにヴェスタがいた。
「ヴェスタ、イグニスだ。俺の恋人」
「……こんばんは」
「ハイ。かわいいね。ブルーの髪がすてき。こういうのが好みなんだ? ぼくと全然違うじゃん……」
「ばーか、見た目は全部ランダム指定だよ。俺の部屋こっち」
部屋に入ってドアを閉める。イグニスがキスして来る。そのままベッドにもつれこむ。獣みたいに貪り食う。なんでこんなにイグニスが好きなんだろう。彼が相手なら毎日毎晩でも抱いていたい。彼に会うと全てがどうでもよくなる。ただやりたい。彼の中に出したい。
「……何もないんだね」
「ん?」
一回終わってイグニスが部屋を見回した。俺はあまりものがいらないタイプだから、部屋には何もない。デスクが一つ、家庭用の端末が一つ。
「何か置かないの?」
「何を置いたらいいと思う?」
「オブジェとか?」
「いらねえな」
くすくすと笑う。
「シャワー借りていい?」
「いいよ。出て右」
イグニスが出て行ってしまうと、拍子抜けするくらい冷静になる。ずっと換気してるせいでイグニスの匂いもすぐに消えていく。手持ち無沙汰で、ブリングをリビングに置いて来たことに気がついた。まあいいや。端末を見てみる。この端末にはなんのデータも入れていない。ただニュースを見たり本を読んだりするだけ。
先日のレプリカント救出がニュースになっていた。続報。救出されたレプリカントは6名。中には人気のあった俳優も含まれており……あのレプリカントたちはこれからどうなるのかな。AI優位なら、何か技能をインストールして第三種になるんだろうけど。
それは本当にそれでいいのか?
この仕事をしているとよく考えることだった。俺たちは彼らの人権を守る、と言う。でもそうやって、本人の意思によらず無理矢理何かの職業に付けて普通の生活をさせることは、本当に人権を守ることなんだろうか。本当にやりたいようにやらせることが人権の尊重じゃないのか。
現代では、みんな薬で老化も止められるし性別も変わることができる。結婚も自由。でも子供が産まれない。これはただ同性婚や、外見年齢以上に生殖器が老化していてできないっていうだけじゃなくて、人類として生殖能力が落ちてる。
人口が減り続けるから、レプリカントを人間としてカウントすることにして、子どもは配給制になった。結婚した人たちが政府に申請すると、人工授精で人工子宮から産まれた赤ちゃんをもらうことができる。
だから生殖能力のないレプリカントでも子供が持てるわけだけど、やはり統計を見るとレプリカント同士またはレプリカントとヒューマンとの間に子供がいるのは珍しい。就職でも差別されるから、レプリカントであることを隠している人が大半だ。レプリカントのことをどこかで人間扱いしていない人が多いからだ。レプリカントはまだまだ自由ではない。現実的には人として認められていない。
「減り続ける人類の調整弁」の最も美しい言い方が「人権を認める」だっただけだ。
「難しい顔して、どうしたの?」
イグニスがいつの間にか後ろから画面を覗き込んでいた。
「これ、レプリカントがたくさん監禁されてたやつでしょ。びっくりしたよね」
「そうだな」
ウィンドウを閉じる。シャワーを浴びたばかりのイグニスを見上げる。
「ちょっと仕事が入っちゃったから帰らないと。ごめんね」
「いいよ。また」
人類の生殖能力が落ちたから、この国では実年齢18歳になると全員が生殖能力チェックを受ける。
それで能力が高いと分かると、強制的にドナー登録される。人口調整用ドナー。32歳になるまで、男性なら精子を、女性なら卵子を定期的に政府機関に提供しないといけない。俺はこれ。あと1年ちょっとでお勤めが終わる。
もちろんドナーには特典があって、普通は子供を申請しても精子や卵子の提供者は選べないが、ドナーなら自分のが使用される。今時珍しい、血の繋がった子供を持つことになるわけだ。
もしイグニスと先のことを考えるなら話しておかないと。他にも話しておかないといけないことがある。でもそれは言いたくなさ過ぎて、とりあえずは横に置いておく。
「元気だった? 会いたかった」
「俺も会いたかった」
「引越し終わった? 部屋見たいなー……」
「終わった! うち来る?」
オートキャリアを予約してその間に食事をする。イグニスは今回はしばらくニュー・ロスの方にいたらしい。時差が三時間ある地域。
「バルは? 何かあった?」
「俺はいつも通りだよ」
仕事のことは話せないのでいつも曖昧になる。
「レプリカントさんとはうまくやってる?」
「うん。今日会うと思う。なかなか使えるんだ」
「あんまり仲良くならないでね? やきもち焼いちゃうから」
冗談めかして言われて、先週思い切りやらかしたのを思い出した。そうだった……。押し倒しちゃったんだった。でもあれからあんなことは全くないから、ほんとに間違いだったと言わざるを得ない。わざわざイグニスに言って傷つけたくもない。
「そろそろ車来るから行こうか」
車に乗るともう我慢できなくて、イグニスの唇に吸い付いた。理性が溶けて蒸発したみたいにそのことしか考えられなくなる。
「バル……だめ…だよ。ここじゃやだ……」
わかってる。でも……
イグニスの肌の感触。どうしようもなく惹きつけられる。
「落ち着いて…」
言われて息を整える。がまん。もう少し。もう少しでベッドの上でできるから。
家に着いて車を降りるとちょっとだけ冷静になった。ヴェスタにイグニスを紹介しないと。リビングにヴェスタがいた。
「ヴェスタ、イグニスだ。俺の恋人」
「……こんばんは」
「ハイ。かわいいね。ブルーの髪がすてき。こういうのが好みなんだ? ぼくと全然違うじゃん……」
「ばーか、見た目は全部ランダム指定だよ。俺の部屋こっち」
部屋に入ってドアを閉める。イグニスがキスして来る。そのままベッドにもつれこむ。獣みたいに貪り食う。なんでこんなにイグニスが好きなんだろう。彼が相手なら毎日毎晩でも抱いていたい。彼に会うと全てがどうでもよくなる。ただやりたい。彼の中に出したい。
「……何もないんだね」
「ん?」
一回終わってイグニスが部屋を見回した。俺はあまりものがいらないタイプだから、部屋には何もない。デスクが一つ、家庭用の端末が一つ。
「何か置かないの?」
「何を置いたらいいと思う?」
「オブジェとか?」
「いらねえな」
くすくすと笑う。
「シャワー借りていい?」
「いいよ。出て右」
イグニスが出て行ってしまうと、拍子抜けするくらい冷静になる。ずっと換気してるせいでイグニスの匂いもすぐに消えていく。手持ち無沙汰で、ブリングをリビングに置いて来たことに気がついた。まあいいや。端末を見てみる。この端末にはなんのデータも入れていない。ただニュースを見たり本を読んだりするだけ。
先日のレプリカント救出がニュースになっていた。続報。救出されたレプリカントは6名。中には人気のあった俳優も含まれており……あのレプリカントたちはこれからどうなるのかな。AI優位なら、何か技能をインストールして第三種になるんだろうけど。
それは本当にそれでいいのか?
この仕事をしているとよく考えることだった。俺たちは彼らの人権を守る、と言う。でもそうやって、本人の意思によらず無理矢理何かの職業に付けて普通の生活をさせることは、本当に人権を守ることなんだろうか。本当にやりたいようにやらせることが人権の尊重じゃないのか。
現代では、みんな薬で老化も止められるし性別も変わることができる。結婚も自由。でも子供が産まれない。これはただ同性婚や、外見年齢以上に生殖器が老化していてできないっていうだけじゃなくて、人類として生殖能力が落ちてる。
人口が減り続けるから、レプリカントを人間としてカウントすることにして、子どもは配給制になった。結婚した人たちが政府に申請すると、人工授精で人工子宮から産まれた赤ちゃんをもらうことができる。
だから生殖能力のないレプリカントでも子供が持てるわけだけど、やはり統計を見るとレプリカント同士またはレプリカントとヒューマンとの間に子供がいるのは珍しい。就職でも差別されるから、レプリカントであることを隠している人が大半だ。レプリカントのことをどこかで人間扱いしていない人が多いからだ。レプリカントはまだまだ自由ではない。現実的には人として認められていない。
「減り続ける人類の調整弁」の最も美しい言い方が「人権を認める」だっただけだ。
「難しい顔して、どうしたの?」
イグニスがいつの間にか後ろから画面を覗き込んでいた。
「これ、レプリカントがたくさん監禁されてたやつでしょ。びっくりしたよね」
「そうだな」
ウィンドウを閉じる。シャワーを浴びたばかりのイグニスを見上げる。
「ちょっと仕事が入っちゃったから帰らないと。ごめんね」
「いいよ。また」
人類の生殖能力が落ちたから、この国では実年齢18歳になると全員が生殖能力チェックを受ける。
それで能力が高いと分かると、強制的にドナー登録される。人口調整用ドナー。32歳になるまで、男性なら精子を、女性なら卵子を定期的に政府機関に提供しないといけない。俺はこれ。あと1年ちょっとでお勤めが終わる。
もちろんドナーには特典があって、普通は子供を申請しても精子や卵子の提供者は選べないが、ドナーなら自分のが使用される。今時珍しい、血の繋がった子供を持つことになるわけだ。
もしイグニスと先のことを考えるなら話しておかないと。他にも話しておかないといけないことがある。でもそれは言いたくなさ過ぎて、とりあえずは横に置いておく。
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