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03 トライアル (1)マリーン探し
15 Vesta (マリーンとザムザ)
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その日も雨が降っていて、公用車で向かっている間もこんな日に本当にいるのか心配だった。逃げられないようにマドラ・デュナンの家の裏手に停めて、静かに近づいた。いる。深くフードを被って、ずぶ濡れになっている。
「マリーン・トーマソンさんですね?」
ばっと男が声をかけたバルを睨みつけた。深い青い目。面影がある。間違いない。
「何の用?」
「レプリカント人権保護局です。あなたを保護します」
「保護なんかされたくない! 私はあいつを殺してやりたいの! 同じ目に遭わせてやるまで動かない」
「落ち着いて。あんなやつのために自分の将来を棒に振ることはない」
バルがマリーンの手首を掴む。でもマリーンは手を引き剥がそうと抵抗する。
「離して!」
「とりあえず局に行きましょう」
あのバルが動けない。手荒なことをしたくないというのはあるけど、バルにこんなに抵抗するなんてかなり力がある。急いであたりを見回す。そろそろ来ると思うんだけど。鎮静剤を打つかどうかだ。
やりようがなくて困っていると、雨の中、ばしゃばしゃと駆けてくる足音が聞こえた。やっと来た。
「マリーン!」
ふっとマリーンの手から力が抜けたのがわかった。
「見ないで!」
「マリーン」
バルがほっと息をついて、おせーんだよとつぶやいた。息を切らせて走ってきたザムザは、同じくらいの身長の彼……彼女を抱きしめた。
「見ないで! ザムザ」
「ずっと探してたんだ、マリーン。帰っておいで」
「だって……」
「一緒に行こう?」
「いや! あなたを信じられない……」
「いいよ。君が信じられるまで何度でも疑っていい。俺は君が好きだ。一緒に帰ろう」
ザムザはどう見ても男性のマリーンに熱烈にキスした。
「いつまで待ってりゃいいんだこれ」
「茶化すなよバル」
少し二人にしよう、とバルが言うので、裏手に停めた公用車でザムザとマリーンを待った。
「……あの……あれはさ、薬なの? 手術なの?」
「ああ。薬だと思う。手術は高いのと回復も遅いからやる人は多くないな。薬だけでかなり変わるし」
「性別が変わるの?」
「んー……薬だと正確には変わらない。ぱっと見だけ。でもマリーンは背が高くて割とがっちりしてるからな。どう見ても男だったな。あれは予想できねえ」
「元に戻れるのかな?」
「戻れるよ。ほっとけば半年くらいで戻るんじゃないか」
あれなら男性として日雇の仕事ができる。それでもかなり辛かっただろう。もともと女の人なのに、いきなり男の人たちに混じって力仕事をするのは。
休暇をとってマリーンを迎えに来たザムザとマリーンは、もうしばらくしてやっと車の後部座席に乗り込んだ。やはり仕草が女性らしい。さめざめと泣いている。さっきバルの手を力づくで引き剥がそうとした人には見えない。
「とりあえず、レプリカント人権保護局に行ってもらいますね」
「……何をするの?」
「あなたの保護。プログラムを書き換えられているだろ。戻します。そして元いたところに帰る」
「信じられない。私の居場所なんてない。記憶をいじってどこかで働かされるんでしょ?」
ザムザがぎゅっとマリーンの手をにぎる。でもマリーンにはわからないみたいだ。どんなにザムザが心配して、どんなに探していたのか。
「どうして信じられないの?」
マリーンに向かって話しかけたけど、返事をしたのはバルだった。
「ヴェスタ、マリーンはプログラムのせいでヒューマンに対する猜疑心が強くなってるんだ。仕方ない」
「そんなにプログラムってすごいの?」
「さあ。わかんねえ。俺にもお前にも入ってないからな」
「じゃあ、マリーン、俺はレプリカントだよ。あなたとおんなじ。俺のことは信じてね。ザムザはずっと休日潰してあなたのこと探してた。半年間。本当だよ」
「………」
また涙がマリーンの頬を伝った。ザムザはそっとマリーンの肩を抱いて、涙を手で拭いた。マリーンの服は雨でびしゃびしゃで、泥や黒い汚れが沢山ついていた。くつもどろどろだった。でもザムザの肩に体を預けて濡れた目をしている彼女と、捜査局のジャケットを着たまま飛び出してきたらしいザムザはすごくお似合いで美しかった。
目に見えるみたいだった。二人の関係性が。
「いいなあ」
口をついて出た言葉だった。
「何が」
バルも俺を迎えに来てくれる? こんな風に。何もかも放り出して。俺がどんな姿になっても。
「見つかってよかったねって」
「そうだな」
たぶんそういうんじゃないんだよね。バルと俺は。涙が出そうになって、局に着くまで外を眺めていた。
「マリーン・トーマソンさんですね?」
ばっと男が声をかけたバルを睨みつけた。深い青い目。面影がある。間違いない。
「何の用?」
「レプリカント人権保護局です。あなたを保護します」
「保護なんかされたくない! 私はあいつを殺してやりたいの! 同じ目に遭わせてやるまで動かない」
「落ち着いて。あんなやつのために自分の将来を棒に振ることはない」
バルがマリーンの手首を掴む。でもマリーンは手を引き剥がそうと抵抗する。
「離して!」
「とりあえず局に行きましょう」
あのバルが動けない。手荒なことをしたくないというのはあるけど、バルにこんなに抵抗するなんてかなり力がある。急いであたりを見回す。そろそろ来ると思うんだけど。鎮静剤を打つかどうかだ。
やりようがなくて困っていると、雨の中、ばしゃばしゃと駆けてくる足音が聞こえた。やっと来た。
「マリーン!」
ふっとマリーンの手から力が抜けたのがわかった。
「見ないで!」
「マリーン」
バルがほっと息をついて、おせーんだよとつぶやいた。息を切らせて走ってきたザムザは、同じくらいの身長の彼……彼女を抱きしめた。
「見ないで! ザムザ」
「ずっと探してたんだ、マリーン。帰っておいで」
「だって……」
「一緒に行こう?」
「いや! あなたを信じられない……」
「いいよ。君が信じられるまで何度でも疑っていい。俺は君が好きだ。一緒に帰ろう」
ザムザはどう見ても男性のマリーンに熱烈にキスした。
「いつまで待ってりゃいいんだこれ」
「茶化すなよバル」
少し二人にしよう、とバルが言うので、裏手に停めた公用車でザムザとマリーンを待った。
「……あの……あれはさ、薬なの? 手術なの?」
「ああ。薬だと思う。手術は高いのと回復も遅いからやる人は多くないな。薬だけでかなり変わるし」
「性別が変わるの?」
「んー……薬だと正確には変わらない。ぱっと見だけ。でもマリーンは背が高くて割とがっちりしてるからな。どう見ても男だったな。あれは予想できねえ」
「元に戻れるのかな?」
「戻れるよ。ほっとけば半年くらいで戻るんじゃないか」
あれなら男性として日雇の仕事ができる。それでもかなり辛かっただろう。もともと女の人なのに、いきなり男の人たちに混じって力仕事をするのは。
休暇をとってマリーンを迎えに来たザムザとマリーンは、もうしばらくしてやっと車の後部座席に乗り込んだ。やはり仕草が女性らしい。さめざめと泣いている。さっきバルの手を力づくで引き剥がそうとした人には見えない。
「とりあえず、レプリカント人権保護局に行ってもらいますね」
「……何をするの?」
「あなたの保護。プログラムを書き換えられているだろ。戻します。そして元いたところに帰る」
「信じられない。私の居場所なんてない。記憶をいじってどこかで働かされるんでしょ?」
ザムザがぎゅっとマリーンの手をにぎる。でもマリーンにはわからないみたいだ。どんなにザムザが心配して、どんなに探していたのか。
「どうして信じられないの?」
マリーンに向かって話しかけたけど、返事をしたのはバルだった。
「ヴェスタ、マリーンはプログラムのせいでヒューマンに対する猜疑心が強くなってるんだ。仕方ない」
「そんなにプログラムってすごいの?」
「さあ。わかんねえ。俺にもお前にも入ってないからな」
「じゃあ、マリーン、俺はレプリカントだよ。あなたとおんなじ。俺のことは信じてね。ザムザはずっと休日潰してあなたのこと探してた。半年間。本当だよ」
「………」
また涙がマリーンの頬を伝った。ザムザはそっとマリーンの肩を抱いて、涙を手で拭いた。マリーンの服は雨でびしゃびしゃで、泥や黒い汚れが沢山ついていた。くつもどろどろだった。でもザムザの肩に体を預けて濡れた目をしている彼女と、捜査局のジャケットを着たまま飛び出してきたらしいザムザはすごくお似合いで美しかった。
目に見えるみたいだった。二人の関係性が。
「いいなあ」
口をついて出た言葉だった。
「何が」
バルも俺を迎えに来てくれる? こんな風に。何もかも放り出して。俺がどんな姿になっても。
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