Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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03 トライアル (2)エア・ランナー

10 Baltroy (パーティ)

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「バル、今日はきめてきたね」
「助かった。ありがとうなユミン」

 ザムザの結婚パーティに呼ばれたおかげで(ヴェスタだけ呼びゃいいのに)、オートキャリアでユミンの家に迎えにいくと、彼女は普段は着ない品のいいワンピースで出てきてくれた。いつも白衣だから違和感がある。

 招待状をもらった時点でやばいと思わなけりゃいけなかった。ヴェスタと来ればいいと思ってしまったんだよな、俺も。いい加減に慣れないといけない。もう人のものになったんだ。そもそも俺のもんでもない。「なんとなくセット」から離れなきゃな。

 ヴェスタとアラスターは俺たちとは別だった。もう来ているのかな? 会場の大きな植物園の中で、入れ替わり立ち替わりたくさんの人が行き来している。いるのかいないのかわからない。ザムザに挨拶しないといけない。

「新郎と友達?」
「新郎が知り合いで新婦が知り合い未満かな。新郎はヴェスタの友達」
「ヴェスタのオマケで呼ばれたのお?」
「まあそうだ」

 人と植物の合間を探していると、ヴェスタとアラスターの方を見つけた。

 似合う。

 アラスターがヴェスタに何か飲み物を渡してやり、強引に通ろうとした誰かからすっとヴェスタを引き寄せて守ってやる。
 そういうのが自然にできるのがアラスター。

「ヴェスタだ。かわいいね。良かったの?」
「良かっただろ。アラスターだ」
「………」

 ユミンは意味ありげな顔をした。面倒臭え。ヴェスタのそばにザムザとマリーンがいた。やれやれ。

「ザムザ、マリーン」
「バルトロイ」

 マリーンはもうかなり元に戻っていて、白いドレスがとてもよく映えていた。

「その節はありがとうございました」

 二人はとても幸福そうだった。

「結婚おめでとう。招待してくれてありがとう」
「やあ、バル。ユミンと来たんだ」

 近くにいたアラスターも輝くような笑顔で言った。

「うん。相手がいねえからさ、仕方なく」
「ちょっと! 頼み込んできたのは誰よ! 帰るよ!」

 ザムザたちまで笑った。やれやれ。アラスターの隣のヴェスタと目が合った。ヴェスタも微笑んでいる。でもなんだか違和感がある。アラスターのビッグスマイルと釣り合わない、青に近いブルーグリーンの髪の色。

「楽しんでるか? ヴェスタ」
「うん」
「適当でいいからな。今回のは仕事じゃないから挨拶回りとかご機嫌取りとかしなくていい」
「ふふ」

 ヴェスタの髪の色はまだ変わらない。もう少し何か話そうとした時だった。

「バル! セランがいる!」
「え? セランてあのセランか? 行く」

 セランはレプリカント人権保護局にいたけど、三年前に連邦捜査局に転職したやつだった。懐かしい。ユミンと会いに行く。あまり変わっていなかった。向こうも懐かしがってくれた。

「バルは大丈夫なの? 私が出て行く時、あなたの扱いが酷かったから心配してたの」
「今はエース扱いよ」

 ユミンがニヤニヤ笑いながら言った。

「そりゃねーよ。でもまともにやらせてもらってるよ」
「今はバディは誰なの?」
「今は……今日来てるよ。アラスターと。どっかにいるんだけどな」

 見回してみる。アラスターはすぐに見つかる。でもヴェスタがいない。アラスターもヴェスタを探してるみたいだ。

「えー! 会いたい! 探してきて! 私しばらくここにいるから」

 ユミンとセランが話している間に探しに出る。ザムザとマリーンの近くにもいない。一人? どこにいるだろうな。ヴェスタなら。小柄だから人が多いと見つけづらい。

「アラスター」
「バル! ヴェスタを知らない?」
「俺も探してんだ。あっちにセランがいてさ。バディ見せろって」
「ちょっと目を離したらはぐれちゃって。トイレにはいなかった」
「セランのとこに行ってて。ヴェスタが見つかったら連れて行く。バナナの木のとこだ。インカムが欲しいな」
「ほんとだね」

 はぐれたのか、一人になりたかったのか。どっちだ? 一人になりたかったんだとしたらどこに行く? ブルーグリーンの髪だ。そんなに機嫌の良い色じゃない。まあまあってとこ……。
 案内図を見る。どこなら一人になれる? 南国ゾーン。熱帯雨林ゾーン。爬虫類の館。フルーツの森。やれやれ。



「おい」

 薄暗いガラス張りの小部屋に囲まれた場所で、手すりに寄りかかっていたヴェスタははっと顔を上げた。髪が真っ青になっている。

「爬虫類館かよ。今日みたいな日は誰も来ねえよな」
「よくわかったね」

 声に力がない。どうしたんだ?

「誰かから何か言われたのか? どんな席でもいらないことを言うやつはいるんだよ。気にすんな」
「いや、違うんだ。別になんてことないんだ。慣れてないからさ。ちょっと休みたくなっただけ。もう平気」
「せめてアラスターには言えよ。心配してたぞ」
「言ったら余計に心配するだろ」

 少しだけ髪に緑色が混じって来た。今日のヴェスタはカフェオレの色をしたスーツを着ている。ネクタイが淡い紫で、とてもよく似合っている。

「アラスターと選んだのか?」
「え?」
「スーツ」
「うん。変?」
「いや。いいんじゃないか」
「バルはすごくかっこいいよ」
「褒めても何も出ない。そろそろ行かないか? 俺の前の同僚がお前に会いたがってんだよ。現バディに」

 ヴェスタが少し俯く。あんまり気が進まないらしい。思わず手を伸ばした。

「ほら」

 白い手が遠慮がちに重なる。ぱっとその手を取ると、ヴェスタがもう片方の手もその手に添えた。

「?」
「バル、あのね」
「ん?」
「俺の友達になってくれる?」
「なんだよ改まって。友達でもなんでもなってやるよ。行くぞ」

 ぐいとヴェスタを引っ張ってバナナの木の下に連れて行く。背の高いアラスターが見えた。あっと思って手を離す。

「セラン! これが今のバディ」

 アラスターがヴェスタを見つけてほっとした顔をする。

「えー! えええー! かわいい! ちょっと! 大丈夫なの? 無茶させてない?」
「バルの方が無茶して骨折ったよ」

 セランは3階から落ちた件をユミンから聞いて大笑いしていた。くそが。

「ちょっと俺、喉乾いちゃった。飲み物取ってくるね」

 ヴェスタは居づらかったのかすっと抜ける。アラスターが慌てて後を追おうとしたのを、ユミンがすかさず捕まえた。

「アラスター、ヴェスタを頼むわ。真っ青じゃない。何かあったんじゃないの? 誰かに何か言われたのかも」
「真っ青? 顔色は悪くないと思うけど」
「顔色じゃないよ。髪よ。青いでしょ? 緑にしてあげて」

 ユミンに脇腹をどつかれたアラスターが、顔色の方を変えて駆けて行った。何か言われたわけじゃないと言っていた。何があったんだろうな。最近は本当にわからない。







 
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