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03 トライアル (2)エア・ランナー
11 Vesta (ひとり)
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鏡の前でネクタイを締める。先週揃えたスーツ。
どんなのがいいのかわからなくて、アラスターにほとんど選んでもらった。似合ってる? わからない。ちゃんとはして見える。
鏡の中の自分と目を合わせた。青とも緑ともつかない半端な色の髪。ブリングがコール表示になる。アラスターが来たんだな。バルはもう出ていて、ユミンを迎えに行った。俺も早く行かないと。
呼吸を整える。エントランスまで降りるとアラスターが待っていた。
「待たせてごめんね」
「来たばかりだよ。すごく似合ってる」
アラスターは紺色のスーツで、とてもスマートに見える。
「不安?」
「少し」
会場の広い植物園は貸切になっていて、思っていたよりもずっとたくさんの人がいた。バルはどこ?
「あ。あの人かな?」
アラスターがすっと手で差した。バル?
「ヴェスタ!」
手を振ってくれたのはザムザだった。そうだった。ザムザとマリーンの結婚式なんだから、まず二人に挨拶しないと。
「よ! なんか緊張してる? 堅苦しく考えなくていいからいっぱい飲んで食っていきな!」
「結婚おめでとう。すごい人だね」
「職場と学生の時の友達と知り合いと……ま、こんなもんじゃね? ところでこの人が?」
「あ、ごめん。そう。アラスター・フリーグラス。俺の」
友達、と言いそうになってどきっとする。
「恋人」
アラスターがにっこりする。ちょっと離れたところで誰かと話をしていたマリーンが歩いてきて、すっとザムザと腕を組んだ。
「ヴェスタさん。来てくれてありがとう」
「……そんな。こちらこそ呼んでいただいて」
マリーンはものすごくきれいだった。髪をアップにして、淡い口紅をさして、白くて体のラインにぴったり沿った長袖のドレスを着ていた。
「マリーンさん、きれい」
「ありがとう」
二人はまだまだ挨拶しないといけない人が待っていたので、あとで、と言って一度離れて行った。
「この前行った植物園より広いね。見て回る?」
「なんだか人がたくさんいすぎて……」
「人酔いしそう? どこかに座っていようか」
体調が少し悪いのかもしれない。嬉しい席のはずなのに、ザムザと話をしても楽しい気分になれない。ちゃんとしないと。楽しく振る舞わないと。
木の周りをぐるりと囲んだれんがのベンチに座る。アラスターが手を握って隣に座ってくれる。行き交う人を眺める。なんの気なく眺めていたはずなのに、気がつくと探している。
黒い髪で黒い瞳の背の高い人を。
「大丈夫? ザムザさんたちに断ってお暇しようか?」
「来たばかりだから……もう少し」
「何か飲もうか? 取ってくる?」
「一緒に行く」
ここで座っているとずっと探してしまう。
飲み物のブースに行くと、ザムザたちもいた。
「ヴェスタ、バルトロイは? 一緒じゃないの?」
「うん。別だよ。同僚のひとと来るよ」
「なんだ。バルトロイの方も誰かいるのか」
「違う!」
はっとした。ザムザもちょっとびっくりしていた。思ったより大きい声だったから。アラスターが飲み物を持ってきてくれた。どうかしてる。落ち着かないと。
「ただの友達だから……そんなこと言ったらバル怒るよ」
「そっか。お、噂をすれば」
ザムザが俺の後ろに手を振った。
「バルトロイ!」
「ザムザ。マリーン」
振り返るとバルがユミンと一緒にやって来た。
バルはものすごくかっこよかった。黒いスーツで細かいチェックの入った、艶のあるグレイのネクタイをしていた。姿勢がいいのもあって、目立つし絵になる。ユミンはロイヤルブルーの膝丈のドレスで、いつもと違って見えた。バルとユミンが何か掛け合いの冗談を言ってみんなが笑った。
俺も笑わないと。バルがこっちを見た。目が合った。楽しんでるか? バルが尋ねてきた。挨拶回りとかご機嫌取りとかしなくていい。バルは話を続けようとしてくれたけど、ユミンが何か声を掛けて、ばたばたと二人でどこかに行ってしまった。
疲れた。一人になりたい。
アラスターがちょっと離れた隙に、悪いとは思ったけど黙って探した。一人になれるところ……。
案内板を見た。早くどこかに行かないと、誰かに見つかってしまう。爬虫類の館が目に止まった。ここなら誰もいないだろう。こんな日だし、二人きりになりたい人たちだって、蛇とは一緒にいたくないはず。
逃げ込むように中に入る。思ったとおり、誰もいなかった。光が差し込まないように独立した区画になっていて、通路の両側に展示ブースがある。へびや亀が、石像のように鎮座している。
ガラスに自分の姿が映る。髪が青い。さっきもこんな色だっただろうか。髪の色が変わる条件をちゃんと知っているのはバルくらいのはずだ。俺の髪が青くても、気にする人はいないだろう。バルだけ。
かっこよかったなあ。ユミンが羨ましくてしょうがない。アラスターと付き合ってなかったら……。
バルのとなりにいる自分を想像しかけて打ち消す。もうやめないと。バルのことを考えてもどこにも行かない。たとえこういう席に一緒に来られたって、ザムザとマリーンのようにはなれないんだから。ただの友達にならないと。ザムザを好きなように、バルを好きになろう。それで足りる自分にならなくちゃ。
「おい」
はっと顔をあげる。バルだった。どうしてバルは俺のことを見つけるんだろう。
それでも見つけてくれたのがバルで嬉しいと思ってしまう。差し出された手を奇跡みたいに思ってしまう。もうやめよう。やめたい。やめないといけない。手を取ってもらっても、すぐに離れていく。わからないといけない。
バルの昔の同僚の人に挨拶だけして、バルたちの輪を抜ける。アラスターが追いかけて来た。
「ヴェスタ。やっぱり気分が悪い? どこにいたの?」
「……うん。人が多いところ、だめみたい」
「帰ろうか。もう充分だと思うよ」
「うん」
アラスターはさっと俺の肩を抱いて、来客用に待機状態になっているオートキャリアに乗せてくれた。
「家に帰る? 俺のうちがいい?」
家に帰りたい。
部屋にいてバルの気配を感じていたい。どんな用件でもいい、白いドアがノックされるのを待っていたい。
「アラスターの家に行ってもいい?」
「もちろん」
アラスターの肩にもたれる。優しく俺の首筋を大きな手が撫で、髪に触れる。この人は俺を大切にしてくれる。ザムザがマリーンにするように、俺が欲しいだけ愛してくれる。バルとは違う。
少し顔を上げる。アラスターと目が合う。頬に手を伸ばす。俺の手を受け入れてくれる。キスする。温かい唇は拒まない。熱く応えてくれる。
「ヴェスタ……」
アラスターがウィンドウにスモークを入れる。ぐっと抱きしめられ、首筋を甘く噛まれる。
「ん……」
「我慢できなくなるから……」
「アラスター……して?」
「ふふ…どうしたの? ここで?」
確認したいの。俺がアラスターを好きなことを。
「………ここでも、どこでも」
「あと十分で家に着くよ?」
「だめなの?」
「本気? 服が……汚れるよ…」
「……できるところまで、して」
シュッとアラスターの手が俺のタイを抜き取る。白いボタンをもどかしそうに外して行く。
「……は……」
アラスターが首から胸に、舌を這わせていく。呼吸が乱れている。
「ヴェスタ……こんなの……」
「だめ? 俺のこときらいになる?」
「好きだよ! 毎日毎日好きになる……」
繰り返す深いキス。オートキャリアが停まる。アラスターがすっかり服のはだけた俺の体にジャケットを掛けて、そのまま抱いてエレベーターに乗り込む。
「開けて!」
音声認証の部屋にもそのまま踊り込んで、ベッドに倒れ込む。俺のも痛いくらいになっている。手を伸ばす。アラスターのものに触れる。硬く脈打っている。欲しがっている。俺の体を。
「ヴェ……スタ」
口に含む。いつもアラスターがしてくれるように。汗とも涙とも違う不思議な味。ぱんぱんに張り詰めているのがわかる。
「だめ! ヴェスタ……」
カリの周りを舌先で舐める。精液とは違う液体が先からとろりと溢れた。気持ちいい? それも舐めとる。
「……入れて? これ……」
こんな風に。
バルにすることができたら……。
「こんな……悪い子だったなんて」
一気に奥まで突かれる。頭が痺れる。自分でも聞いたことがないような声が喉から出て行く。
「いい子でないと……だめ? いや?」
「そんなこと……ないよ。どんな君でも…」
好き? 愛してくれる?
「あっ! は……!」
「愛してる! 愛してるよ……!」
中が一気に満たされる。ぶるっとアラスターの体が震える。荒い息遣い。
「……今夜、泊めてくれる?」
「眠らせてあげられないかも」
「いいよ」
どんなのがいいのかわからなくて、アラスターにほとんど選んでもらった。似合ってる? わからない。ちゃんとはして見える。
鏡の中の自分と目を合わせた。青とも緑ともつかない半端な色の髪。ブリングがコール表示になる。アラスターが来たんだな。バルはもう出ていて、ユミンを迎えに行った。俺も早く行かないと。
呼吸を整える。エントランスまで降りるとアラスターが待っていた。
「待たせてごめんね」
「来たばかりだよ。すごく似合ってる」
アラスターは紺色のスーツで、とてもスマートに見える。
「不安?」
「少し」
会場の広い植物園は貸切になっていて、思っていたよりもずっとたくさんの人がいた。バルはどこ?
「あ。あの人かな?」
アラスターがすっと手で差した。バル?
「ヴェスタ!」
手を振ってくれたのはザムザだった。そうだった。ザムザとマリーンの結婚式なんだから、まず二人に挨拶しないと。
「よ! なんか緊張してる? 堅苦しく考えなくていいからいっぱい飲んで食っていきな!」
「結婚おめでとう。すごい人だね」
「職場と学生の時の友達と知り合いと……ま、こんなもんじゃね? ところでこの人が?」
「あ、ごめん。そう。アラスター・フリーグラス。俺の」
友達、と言いそうになってどきっとする。
「恋人」
アラスターがにっこりする。ちょっと離れたところで誰かと話をしていたマリーンが歩いてきて、すっとザムザと腕を組んだ。
「ヴェスタさん。来てくれてありがとう」
「……そんな。こちらこそ呼んでいただいて」
マリーンはものすごくきれいだった。髪をアップにして、淡い口紅をさして、白くて体のラインにぴったり沿った長袖のドレスを着ていた。
「マリーンさん、きれい」
「ありがとう」
二人はまだまだ挨拶しないといけない人が待っていたので、あとで、と言って一度離れて行った。
「この前行った植物園より広いね。見て回る?」
「なんだか人がたくさんいすぎて……」
「人酔いしそう? どこかに座っていようか」
体調が少し悪いのかもしれない。嬉しい席のはずなのに、ザムザと話をしても楽しい気分になれない。ちゃんとしないと。楽しく振る舞わないと。
木の周りをぐるりと囲んだれんがのベンチに座る。アラスターが手を握って隣に座ってくれる。行き交う人を眺める。なんの気なく眺めていたはずなのに、気がつくと探している。
黒い髪で黒い瞳の背の高い人を。
「大丈夫? ザムザさんたちに断ってお暇しようか?」
「来たばかりだから……もう少し」
「何か飲もうか? 取ってくる?」
「一緒に行く」
ここで座っているとずっと探してしまう。
飲み物のブースに行くと、ザムザたちもいた。
「ヴェスタ、バルトロイは? 一緒じゃないの?」
「うん。別だよ。同僚のひとと来るよ」
「なんだ。バルトロイの方も誰かいるのか」
「違う!」
はっとした。ザムザもちょっとびっくりしていた。思ったより大きい声だったから。アラスターが飲み物を持ってきてくれた。どうかしてる。落ち着かないと。
「ただの友達だから……そんなこと言ったらバル怒るよ」
「そっか。お、噂をすれば」
ザムザが俺の後ろに手を振った。
「バルトロイ!」
「ザムザ。マリーン」
振り返るとバルがユミンと一緒にやって来た。
バルはものすごくかっこよかった。黒いスーツで細かいチェックの入った、艶のあるグレイのネクタイをしていた。姿勢がいいのもあって、目立つし絵になる。ユミンはロイヤルブルーの膝丈のドレスで、いつもと違って見えた。バルとユミンが何か掛け合いの冗談を言ってみんなが笑った。
俺も笑わないと。バルがこっちを見た。目が合った。楽しんでるか? バルが尋ねてきた。挨拶回りとかご機嫌取りとかしなくていい。バルは話を続けようとしてくれたけど、ユミンが何か声を掛けて、ばたばたと二人でどこかに行ってしまった。
疲れた。一人になりたい。
アラスターがちょっと離れた隙に、悪いとは思ったけど黙って探した。一人になれるところ……。
案内板を見た。早くどこかに行かないと、誰かに見つかってしまう。爬虫類の館が目に止まった。ここなら誰もいないだろう。こんな日だし、二人きりになりたい人たちだって、蛇とは一緒にいたくないはず。
逃げ込むように中に入る。思ったとおり、誰もいなかった。光が差し込まないように独立した区画になっていて、通路の両側に展示ブースがある。へびや亀が、石像のように鎮座している。
ガラスに自分の姿が映る。髪が青い。さっきもこんな色だっただろうか。髪の色が変わる条件をちゃんと知っているのはバルくらいのはずだ。俺の髪が青くても、気にする人はいないだろう。バルだけ。
かっこよかったなあ。ユミンが羨ましくてしょうがない。アラスターと付き合ってなかったら……。
バルのとなりにいる自分を想像しかけて打ち消す。もうやめないと。バルのことを考えてもどこにも行かない。たとえこういう席に一緒に来られたって、ザムザとマリーンのようにはなれないんだから。ただの友達にならないと。ザムザを好きなように、バルを好きになろう。それで足りる自分にならなくちゃ。
「おい」
はっと顔をあげる。バルだった。どうしてバルは俺のことを見つけるんだろう。
それでも見つけてくれたのがバルで嬉しいと思ってしまう。差し出された手を奇跡みたいに思ってしまう。もうやめよう。やめたい。やめないといけない。手を取ってもらっても、すぐに離れていく。わからないといけない。
バルの昔の同僚の人に挨拶だけして、バルたちの輪を抜ける。アラスターが追いかけて来た。
「ヴェスタ。やっぱり気分が悪い? どこにいたの?」
「……うん。人が多いところ、だめみたい」
「帰ろうか。もう充分だと思うよ」
「うん」
アラスターはさっと俺の肩を抱いて、来客用に待機状態になっているオートキャリアに乗せてくれた。
「家に帰る? 俺のうちがいい?」
家に帰りたい。
部屋にいてバルの気配を感じていたい。どんな用件でもいい、白いドアがノックされるのを待っていたい。
「アラスターの家に行ってもいい?」
「もちろん」
アラスターの肩にもたれる。優しく俺の首筋を大きな手が撫で、髪に触れる。この人は俺を大切にしてくれる。ザムザがマリーンにするように、俺が欲しいだけ愛してくれる。バルとは違う。
少し顔を上げる。アラスターと目が合う。頬に手を伸ばす。俺の手を受け入れてくれる。キスする。温かい唇は拒まない。熱く応えてくれる。
「ヴェスタ……」
アラスターがウィンドウにスモークを入れる。ぐっと抱きしめられ、首筋を甘く噛まれる。
「ん……」
「我慢できなくなるから……」
「アラスター……して?」
「ふふ…どうしたの? ここで?」
確認したいの。俺がアラスターを好きなことを。
「………ここでも、どこでも」
「あと十分で家に着くよ?」
「だめなの?」
「本気? 服が……汚れるよ…」
「……できるところまで、して」
シュッとアラスターの手が俺のタイを抜き取る。白いボタンをもどかしそうに外して行く。
「……は……」
アラスターが首から胸に、舌を這わせていく。呼吸が乱れている。
「ヴェスタ……こんなの……」
「だめ? 俺のこときらいになる?」
「好きだよ! 毎日毎日好きになる……」
繰り返す深いキス。オートキャリアが停まる。アラスターがすっかり服のはだけた俺の体にジャケットを掛けて、そのまま抱いてエレベーターに乗り込む。
「開けて!」
音声認証の部屋にもそのまま踊り込んで、ベッドに倒れ込む。俺のも痛いくらいになっている。手を伸ばす。アラスターのものに触れる。硬く脈打っている。欲しがっている。俺の体を。
「ヴェ……スタ」
口に含む。いつもアラスターがしてくれるように。汗とも涙とも違う不思議な味。ぱんぱんに張り詰めているのがわかる。
「だめ! ヴェスタ……」
カリの周りを舌先で舐める。精液とは違う液体が先からとろりと溢れた。気持ちいい? それも舐めとる。
「……入れて? これ……」
こんな風に。
バルにすることができたら……。
「こんな……悪い子だったなんて」
一気に奥まで突かれる。頭が痺れる。自分でも聞いたことがないような声が喉から出て行く。
「いい子でないと……だめ? いや?」
「そんなこと……ないよ。どんな君でも…」
好き? 愛してくれる?
「あっ! は……!」
「愛してる! 愛してるよ……!」
中が一気に満たされる。ぶるっとアラスターの体が震える。荒い息遣い。
「……今夜、泊めてくれる?」
「眠らせてあげられないかも」
「いいよ」
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