Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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03 トライアル (3)Vesta & Baltroy

02 Baltroy (そして、翌日)

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「よう、バル! 迎えに来たよ」
「おう」

 とても天気が良い土曜日の昼間だった。家の前までエレベーターで連れてきた小型のカーゴタイプのオートワゴン自走式台車に、アラスターはヴェスタの荷物をトントンと積んだ。

「これしかないの?」
「うん。後は全部バルに買ってもらったやつ」
「持っていきな。ないと困るだろ。デスクもベッドもさ」

 茶々を入れながらその様子を眺めていた。俺にはもう必要ない。俺も引っ越すかな。前みたいなワンルームの狭い家に。

「デスクだけ貰おうか? ベッドはダブルだから」

 ヴェスタはこくりと頷く。おいおい。意味わかってるか? いいのか。やめなきゃいけないのは俺の方だ。もう、彼の保護者ヅラは。

 髪は青に近い。欲目かな。ただの青緑色かも知れない。アラスターは鼻歌を歌いながらデスクを積み込む。

「他に何かあるか? なんでも持っていけよ」
「何か持っていきたい? ヴェスタ」

 ヴェスタはふらふらとキッチンに入って、ぐるっと青緑色の瞳で見回した。

「これ」
「普段使ってるやつ? いい? バル」

 ヴェスタの手元を見た。青い陶器のマグ。俺の、マグ。

「持っていきたい」

 ヴェスタのマグはグリーンのやつ。やめとけよ、ヴェスタ。

「……マグカップなんて、いらないんじゃないか。二人で新しいの買えよ」
「でもさ、こういうのって愛着が湧いてるやつの方がいいよ。ね、ヴェスタ。割れてしまってから二人のを買ったらいい」

 アラスターがレッダが出しておいたタオルにくるくるとマグを包んで、小物のカゴの中に優しく入れた。

 愛着。ヴェスタの気持ちはそれなのかもな。長くいすぎて、何かが癒着してこびりついてしまった。

「じゃあもういいかな? 乗って。ヴェスタ。では。ヴェスタさんを頂戴します! なんつって」
「はは。はいはい。よろしく」

 笑って。

 アラスターがオートワゴンに乗る。ヴェスタも。エレベーターの前まで見送った。

「じゃあな」

 さあっとヴェスタの髪が群青色に変わる。そんな色になるのは今だけにしてくれ。扉が閉まる。どっと疲れた。部屋に戻る。部屋は明るいが白々しい。テーブルに着いて一つため息をついた。

「やせ我慢ですね」
「うるっせーな。買い換えるぞ」
「別に私は買い替えていただいてもいいのですよ。私には感情はありませんから。ただ、あなたの苦手なにおいの食べ物や調理法や各種の洗剤や柔軟剤を新しいホームキープドロイドに覚えさせるのはなかなか大変でしょうね」

 くそが。7年も使ってるとこうなる。

「ちょっと黙ってろよ」
「サイレントモードに移行します」


 無音。


 ──なんでいなくなってから言うの?

 最初の事件の時だな。レプリカントの捜索を頼まれた時。ヴェスタが尋ねてきたんだ。あの時俺はお前に何か返したんだっけ? あの時は俺にもわからなかったな。

 今ならわかる。考えるのが怖いからだよ。いつかいなくなるってことを。いつか本当に・・・いなくなるってことをさ。

「おいレッダ。なんかしゃべれ」
「寂しいんでしょう」
「やっぱ黙ってろ」









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