Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

文字の大きさ
88 / 229
03 トライアル (3)Vesta & Baltroy

05 Baltroy (ゲーム)

しおりを挟む
「ていうか、当直ってなんのため?」
「あのな」

 月に一度か二度回ってくる当直の夜だ。8時を回っていた。ヴェスタはまだ何回かしかやってないが、見るからに退屈している。確かに俺たちが当番の時に事件が起こったことはなかった。当直室のモニタにも何も映らない。無人のエントランスだけ。

「たまにあるんだ。ホームレスを警察で保護してみたらレプリカントでしたとか、となりのレプリカントが殴られてるから助けてやってくれとか。毎回はないけど、そういう時誰かいないと困るだろ……暇なんだな? なんかやるか?」

 当直室の棚にある箱を下ろす。

「なにこれ?」
「お前みたいなやつのためにお前みたいな奴らが持ってきたおもちゃ」

 中にはアナログのゲームが沢山入っている。トランプ。オセロ。チェス。バックギャモン。ドミノ。あとは名前もわからないやつ。当直は二人1組でやるから、二人でできるのばっかりだ。

「どれかやってみたい。ルールを教えて」

 説明が簡単なやつにする。オセロ。挟んでひっくり返す。最後に自分の色が多い方が勝ち。

 ヴェスタはすぐにコツを掴んで、三回目くらいからは普通に俺が負けるようになった。

「すごい」
「バルはこういうの弱いんだ?」
「うん。俺ボードゲーム苦手なんだよ」

 ヴェスタは明るいグリーンの髪でケラケラと笑った。こいつはチェスとかもすぐに得意になりそう。

 9時をまわったころ、ヴェスタにコールが入った。アラスターだった。

「はい。どうしたの?」

 ヴェスタが出る。

『退屈でね。一人だと』
「ふふ。俺も退屈で、さっきバルにオセロ教えてもらったんだ」
「もうヴェスタの方が強い」
『ははは。今度お相手願おうかな。何も起こってないんだね』
「俺当直で何か起こったことないよ」

 言いながらぱちんとヴェスタが次の手を指した。ぞろっとひっくり返る。何でこうなるんだ?

「うわあ……」
「打つ手なしだろ? これでおしまい」
「別なやつやろう」
『楽しそうだね。またコールするよ』
「うん。またね」
「トランプでもやるか? スピット」
「どうやるの?」
「簡単に言うと、手札を順番に重ねてくやつ。手札が無くなった方が勝ち。見てな」

 カードを配って始めの形を作る。

「これがスタート。こっから手札の山から一枚出して、数字のプラスマイナス1までの札を手前の山から重ねていく。札がなくなったら、少ない方の山を取って次の回。もしお互いに重ねられなくなったら、『スピット』って言って山からまた一枚出す」
「なんとなくわかった。やる!」
「最初は手加減してやる」
「これも一種のボードゲームだろ? 手加減いらないかもよ?」
「言ったな」

 とは言うものの、慣れてるやつと初めてやるやつではだいぶ差がつくゲームだ。何回かは手を抜いて、ヴェスタがわかってくるまで負けてやる。

「よし。次からは本気出す」
「俺もうちょっとで15枚切っちゃうよ」

 ヴェスタがエメラルドグリーンの髪でにこにこしている。

「ハンデつけてやったんだぜ。次は倍になるよ。行くぞ、スピット!」




「えー……うっそ」
「だから。言っただろ」

 最終的には俺の勝ち。そもそも経験値が違うからいじめてるみたいだ。

「もう一回!」
「これ始めると長いからさ……てか、十一時か。寝たら?」
「いつもそう言うよね。バルはいつ寝てんの?」
「普通に。一時くらいから四、五時間は寝てるんじゃないか」
「それで足りる? アラスターはバルは体力あるから大丈夫って言ってたけど」
「当直じゃなきゃもうちょっと寝てるよ。でも当直なんて月二回とかだろ。たまに寝てなくても死にはしねえ」
「じゃあ俺も起きてる」
「寝ろよ。明日つらいだろ」
「たまに寝てなくても死にはしないんだろ……もう一回!」
「仕方ねえな」

 もう一回。ヴェスタもかなり速くなってきた。パズル要素があるから、その辺でしくじるとやられそう。

「あ、無理」
「俺も手札にない。じゃ、せーの……」

 ブリングが鳴った。ヴェスタのだ。

「おい、鳴ってる」

 ヴェスタがちらっと見る。

「アラスターだ。いいよ。後で掛けるから。せーの!」
「スピット」

 結構白熱して、いい勝負になった。勝ったけど甘く見てたら負けたかも。ヴェスタはなんでも順応が早い。

「負けた……」
「二回目でこれなら大したもんだ」

 日付が変わりそうになっていた。ヴェスタは眠そうだった。疲れたんだろう。ものすごく集中してたから。

「寝ろ」
「やだ。なんか話して」
「お前な。アラスターと付き合いだして甘やかされただろ。なんだなんか話してって」
「何でもいい。……ねえ、俺って全部ランダムなの?」
「ん? 発注した時?」
「そう。バルはどう発注して俺ができたの? なんでもよかったの?」
「いや、いくつか注文はつけたはずだな。その目は俺が付けたオプションだよ。暗視とサーモ」
「他には?」
「年齢。あんまり年が離れないように」
「あとは?」
「性格」
「ほんと? そんなの指定できるの?」
「とにかく発注の時に聞かれるんだ。性格傾向はどうしますかって」
「なんて言ったの?」
「誠実であること。真面目なこと」
「誠実?」
「だからこれは予想外だったなあ」

 深い緑色の髪をくしゃっとすると、ヴェスタは気持ちよさそうに目を細めた。正直な髪。

「眠いんだろ? ベッドに行けよ」
「やだ…」

 やだと言いつつ、デスクに突っ伏して寝そうになっている。寝るなこれ。黙ってブリングをいじりながら様子を見ていたら、すぐにヴェスタはすやすやと眠り始めた。本当はベッドで寝せてやりたかったんだけどな。結構いじっぱりだ。毛布だけかけてやる。アラスターにコールさせ損なった。まあいいか。

 寝顔を見る。ヴェスタが出て行く前夜も眺めた。

 きれいな顔。これも予想外だったな。こんな華奢でかわいらしいのが来ると思ってなかった。アラスターが夢中になるのも理解できる。素直で。こいつの目を通すと、世界が息を吹き返す。

 なし崩しで俺のものにしたくなかったのは、そうなるのを待ってたからだ。

 こいつが出て行く前の晩にようやく気がついた。何もかも遅かったな。大体最初が最悪だった。あの時のあれがなかったら、もっと早くに気がついてたら、俺はこいつをアラスターには渡さなかったかもしれない……どうかな。普通に振られてたかも。

 何か買ってくるかとちょっと外して、販売機でスナックと飲み物を適当に買って戻ると、俺のブリングが光っていた。誰かからコールが来ている。こんな夜中?

 誰かに何かあったのかと駆け寄る。アラスターだった。なんだよ。

「どうした?」
『さっきコールしたけどヴェスタが出なかったから』

 ここまで来ると笑ってしまう。

「お前さ、当直なんて何度もあるんだから。毎回そんなに掛けて来てたら身が持たねえよ」
『わかってるんだけどね。ヴェスタは?』
「寝てるよ。ほら」

 ブリングをヴェスタに向ける。

「なんか話したいことあったのか? さっきはちょうどトランプしてて。悪かったな」
『いや……ただ……心配で』
「心配って。ここは暴漢が踊り込んできて銃撃戦になったりしねーよ。大丈夫だ」
『……そうじゃないんだ。その……お前とヴェスタが二人きりだから』

 ぎくっとした。さっきの邪な気持ちを見透かされたみたいだった。

「変なこと言うなよ。二年も一緒に暮らして何もないんだ。今さら……」
『知ってるんだ、バル。嘘つかなくていい。お前まで嘘をつくな』
「何?」
『ヴェスタを抱いただろ?……だから、俺は……』
「ちょっと待てよ」

 ヴェスタが言ったのか? ヴェスタは天使みたいに眠っている。ブリングを持って当直室を出た。

「それはさ……事故みたいなもんだ。それだって二年以上前の話だ。本当に何もない!」

 こればっかりは嘘じゃない。表彰してほしいくらい我慢した。

「当直なんだぜ? 仕事だ。あいつはバディなんだ。どうしろってんだ。馬鹿なこと言ってくんなよ」
『じゃあどうしてヴェスタの髪は……』
「髪? ここんとこずっと緑じゃないか。何の文句があるんだよ」
『…………』
「なんならこのまま朝まで繋いどけ! ヴェスタの真前まんまえに置いといてやる」

 蒼白で眉間に深く皺を寄せたアラスターとの通話が切られた。大丈夫か? あいつ。ヴェスタが好きなんだ。本当に。こんな夜中にこんなコールを俺にしてしまうくらいに。

 勘弁してくれ。俺は相手がお前だから何も言わなかった。お前も俺に何も言わないでくれ。もう決めたんだから。










しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

肩甲骨に薔薇の種(アルファポリス版・完結済)

おにぎり1000米
BL
エンジニアの三波朋晴はモデルに間違われることもある美形のオメガだが、学生の頃から誰とも固定した関係を持つことができないでいる。しかしとあるきっかけで年上のベータ、佐枝峡と出会い、好意をもつが… *オメガバース(独自設定あり)ベータ×オメガ 年齢差カプ *『まばゆいほどに深い闇』の脇キャラによるスピンオフなので、キャラクターがかぶります。本編+後日談。他サイト掲載作品の改稿修正版につきアルファポリス版としましたが、内容はあまり変わりません。

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした

圭琴子
BL
 この世界は、αとβとΩで出来てる。  生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。  今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。    βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。  小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。  従って俺は戸籍上、β籍になっている。  あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。  俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。  今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。  だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。  だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。  学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。  どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。  『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。

【完結】それより俺は、もっとあなたとキスがしたい

佑々木(うさぎ)
BL
一ノ瀬(27)は、ビール会社である「YAMAGAMI」に勤めていた。 同僚との飲み会に出かけた夜、帰り道にバス停のベンチで寝ている美浜部長(32)を見つけてしまう。 いつも厳しく、高慢で鼻持ちならない美浜と距離を取っているため、一度は見捨てて帰ろうとしたのだが。さすがに寒空の下、見なかったことにして立ち去ることはできなかった。美浜を起こし、コーヒーでも飲ませて終わりにしようとした一ノ瀬に、美浜は思いも寄らないことを言い出して──。 サラリーマン同士のラブコメディです。 ◎BLの性的描写がありますので、苦手な方はご注意ください *   性的描写 *** 性行為の描写 大人だからこその焦れったい恋愛模様、是非ご覧ください。 年下敬語攻め、一人称「私」受けが好きな方にも、楽しんでいただけると幸いです。 表紙素材は abdulgalaxia様 よりお借りしています。

処理中です...