Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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03 トライアル (3)Vesta & Baltroy

06 Vesta (不安)

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 目が覚めた。何か話し声がした? 浅い眠り。当直室だ。横を見るとバルがカードを切りながら何かをブリングで見ていた。

「何時?」
「ベッドで寝ろ」
「大丈夫だよ」

 少し不機嫌? 自分のブリングを見る。アラスターからの不在着信が表示されていた。折り返すのを忘れていた。一時三十六分。

「バルがベッドで寝たら? 俺ちょっと眠れたから、起きてられるよ」
「俺当直室のベッドがだめなんだよ。いろんなにおいがして」
「そうか!」
「ちゃんと洗濯も消毒もしてあるからお前は大丈夫だろ。寝ろ」

 寝ろしか言わないんだからさ。当直室のベッドは簡易ベッドで、一応2台ある。

「二人とも寝ちゃったりするのかな?」
「うん。めったに何も起こらないから。真面目なペアは交代で寝てるみたいだけどな」
「じゃあバル寝なよ。うちはほら、俺が誠実で真面目だから……」
「はは。早速ネタにしやがる……大丈夫だよ」
「明日ってなんかあったっけ?」
「特に今今ってのはないな。最近平和だなあ」

 ゆっくりしている。バルと一緒に住めなくなっても、こうやって月に二回くらいは夜も二人でいられるんだな。アラスターから抱かれないで済む貴重な夜。

「当直好きだな」
「なんだよ。俺は嫌だね。ベッドで眠れないし……」
「ふふ。バルはそうだよね。でも息抜きになる」
「息抜きって。アラスターには言うなよ」
「言わない! けど、アラスターの家ってワンルームだからずーっと一緒でさ。疲れちゃう時がある」
「疲れるって何に」
「なんだろ。人の気配? 視線?」
「お前贅沢なんだよ」

 広いワンルーム。優しいアラスター。溺愛されていると思う。爪の先まで。これ以上はたぶんない。でもそれが苦しくなる。息が詰まる。

「贅沢だよね……」
「あんまりアラスターを不安にさせるなよ」
「うん」





 当直明けはかなり眠かった。結局あの後、またデスクでうとうとしてバルにベッドに追い立てられて普通に朝まで眠ってしまった。
 バルも寝たっていうけど本当かな? バルが寝てるところって、考えたらキャリコを捕まえた時のエアランナーの中でしか見たことがない。あの時は俺のために、ずっとバルは毎日当直みたいなことしてたらしい。

 バルも流石に眠そうで、今日はルーティンだけでいいやって言った。コール掛け。納品されたレプリカントたちの追跡調査。これをやると週に何件か必ず当たる。レプリカントを売った、いなくなった、殴ってしまった、今は会わせられない……などなど。

 この日は「今は会わせられない」が二件あって、一件がレプリカントを殴ってぼろぼろにしていたのでレプリカントを保護してオーナーを逮捕して、一件が人に言えない買い物をさせているだけで何でもない件だった。眠い。

「報告書は明日でいいや」

 残業なし。定時で上がる。パイロットの待機室に行くと、アラスターは出動中でいなかった。戻りがいつかわからない。待つ? 眠い……。一人で帰るなら、今からオートキャリアを予約しないといけない。来るまで三十分かかる。

 どうしようかなと考えながらデスクに戻ったら、ちょうどバルが出ようとしたところだった。

「アラスターは?」
「今出動してるんだって。すぐ帰るなら今から車呼ばないと……眠い」
「……乗ってくか?」
「いいの?」

 バルは定時で上がると最初から決めてたらしくて、オートキャリアがステーションに迎えに来ていた。バルと帰るのは久しぶり。バルの家の方が近い。

「なんだか懐かしい。バルの家で降りちゃいそう」
「はは。レッダは喜ぶだろうな」
「俺の部屋だったとこどうなってるの?」

 すこし間があった。

 もしかしてもう跡形もないのかな? 誰か住んでたりして。

「あのままだよ。使うあてがないから」

 なぜかどきっとした。

「じゃ、また明日」

 バルはさっさと自分の家の前で降りてしまった。

「開けて」

 かちゃとアラスターの家のドアが開く。ランプが夕食を一人分用意してくれていた。

「アラスターさんは本日は八時過ぎの帰宅予定です」
「ありがとう、ランプ。先に食べるね」

 八時か。食べてシャワーを浴びてすぐにベッドに寝転んだ。眠い。とにかく眠い。変な時間に寝ることになってしまうけど、もう構わない。すぐに眠ってしまった。




 体を触られている感覚。何? まだ眠い……。夢?

「……ん」

 服を全部脱がされる。まだ眠い。夢の中にいたい。

 中に指が入ってくる。ぬち、といやらしい音がする。

「は……」

 確かめるように撫で回す。あの時もそうだった。俺の弱いところをゆっくり。

 ゆっくり。探して。

 じれったいくらいに。俺が、優しくしてって言ったから。気持ちいい? バルは気持ちいいの?

 返事はキスだった。あの時初めていった。

「うあ!」

 いきなり奥まで入れられた。はっと我に帰った。

「っ……あ…アラスター……」

 アラスターは無言で続ける。

「……んっ…あ……」

 貪るような抽送。首筋を痛いくらい吸われる。どうしたの?

「……うっ」

 アラスターがやっと動きを止めた。

「びっくりした……」
「ヴェスタ……おかえり……」

 夢見心地が吹っ飛んでしまった。時間を見る。八時半。

「食事は? 食べた?」
「まだ」
「ランプが作ってくれてたよ。食べなよ」

 帰って来てすぐ? 昨日できなかったから?

 性液が流れ出して太ももを汚す。もう一度シャワーを浴びないと……。バスルームに行って、首にかなり目立つキスマークが付いているのを見つけた。しばらく襟の立った服を選ばないといけない。すっかり目が覚めた。

 アラスターはランプの作った夕食を食べていた。テーブルに着くかソファに座るか迷ったけど、アラスターが手招きしたので彼の正面の席についた。

「昨日は結局どうだったの?」
「いつも通り平和だったよ。あ、そうだった! 折り返そうとしてそのまま寝ちゃったんだ。ごめんね。何か用だった?」
「いや。大した用じゃないんだ。楽しそうだったね」
「あのあとバルにカードゲーム教えてもらったよ。スピットっていうやつ」
「そうか……」

 アラスターはなんだか元気がなかった。

「仕事忙しかったの?」
「そうかな。定時ぎりぎりで搬送が入ってね」
「待とうかなって思ったんだけど、俺も眠くて帰って来ちゃった」
「オートキャリア、待った? ごめんね。連絡したかったんだけど……」
「いや、ちょうどバルが帰るところで乗せてもらったんだ」
「そうか。それで今日は髪が緑だったんだね」
「え?」

 アラスターが力なく笑った。何か嫌な予感がする。

「……帰った時、君の髪が深緑だったから……」

 今の髪の色を見た。青緑色。

「何かいいことがあったんだなと思った。昨日コールした時も、気づいてた? すごい緑で……」
「ああ。昨日は、バルにオセロで勝って気分が良かったから……今日はいい夢見てたからだと思うよ」

「違うよ」

 かたんとアラスターはフォークを置いた。

「この前、局でばったり会った時も。緊急搬送でレイくんを迎えに行った時も。君の髪は緑だったよ……。バルはね、君の髪はここのところずっと緑だろって」
「何が言いたいの?」
「ランプ。下げてくれないかな」

 ランプが走らせたサービスカートが、半分残ったトレイを持って行った。レッダならひとくさりあるところだ。

「君の髪は残酷だね」

 優しい笑顔。でもなんだか怖い。








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