Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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04 (e)VAC(u)ATION

14 Vesta (ほんとのほんとのやつ)

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 エントランスの前に、完璧なプロポーションのシルエットがあった。なんの疑問も持たずにバルとエントランスに入ると、そのシルエットはバルの手を掴んだ。女性化した時のバルにそっくりな……。

「見つけたわよ!」
「!」

 バルはその手を振り払ったけど、バルのお母さんは今度は俺の腕をすごい力で掴んだ。

「ちょっと! なんでこの小間使いがいるのよ」
「そいつに触んな! どうやって……」
「あんた連邦捜査局に呼ばれたでしょ! あんたを説得してくれってあたしにも連絡が来たのよ。母親なんだから」
「俺はあんたの言いなりには死んでもならない」
「うるさい。おろしたはずなのに勝手に出てきたんだから少しはあたしの役に立ちなさいよ!」
「そんな……」

 かあっと体が熱くなった。あんまりだ。髪が青白く逆立つのが自分でもわかった。

「今のはないだろ! バルはバルだ! あんたのもんじゃない!」

 B&Bの写真のバル。一人のバル。母親に結婚を迫られて、全部から一人で逃げ出さなきゃいけなかったバル。

「もうバルを離して! あなたはあなたで生きていってください……」
「ヴェスタ……」
「俺は、ヴェスタ・エヴァーノーツです!」
「ちょっと! まさか」
「重婚は犯罪ですから! お帰りください」

 IDカードを見せると、彼女は何度も名前欄を確認した。

「……せっかくハイブリッドなら30超えててもいいって言う人を見つけたのに……」

 美しい顔に血管を青く浮き上がらせて、彼女はヒールの音と共に帰って行った。

「お前……」
「ごめん。みんなファミリーネームを言うと勘違いするから……バルのお母さんも騙せると思った……」

 くくっとバルが笑った。

「クソ度胸あるやつ……」
「今度は離婚しろって言ってくる?」
「かなりショック受けてたから当分は大人しいんじゃないか。もう貰い手もないだろ。自分が身売りしろって話だ」

 ほっとした。疲れた。今日は色々ありすぎた。部屋に戻るとレッダがもうカートに食事を用意していて、遅い夕食を食べることができた。後は眠りたい。泥みたいに。だって今朝はあんなに気持ちよくうとうとしていた時に……

 はたとバルを見た。あれ? 昨日のって夢だったんだっけ? 俺、考えすぎて夢と現実がわからなくなったのかな? あんな暗闇、夢の中にしかないかもしれない……。

「ん?」

 シャワーを浴びて濡れた髪を拭くバルと目が合った。

「疲れただろ?」
「うん」

 あ。やっぱ夢か。そうだよね。これ、「寝ろよ」って続くやつだ。

「だよなあ」

 あれ。まあいいや。同義語。

 自分の部屋の白いドアをくぐる。パタンとドアが閉まる。ひんやりとした白いシーツ。ああ。ほらね。いつも通り。だよね。あんな夢。そうだよな。そっくりだもん。アラスターの家に行く前の日に。バルのベッドに潜り込んで、キスする俺。キスして抱きしめてくれるバル。でもそこまで。再現した夢……。同じ部屋に寝たりするから。「やり直し」なんて都合のいいことは起こらない。

 だから。あのドアが開いて。

 カチャと軽い音が耳に入る。また夢の続き。バルが部屋に入ってきて、ベッドに。

 ふっと上掛けが持ち上がる。

 そんなのは夢だよ。

「やっぱ今日は無理かあ?」
「………」

 バルが笑って隣にすべり込んできた。本物?

 ベッドサイドの薄い明かり。ほんとに本物?

「おい、びっくりしてんなよ……帰るぞ」

 うそ。

 バルのほおに触れる。張りのある肌。黒い瞳。

「ほんとに?」
「昨日言わなかったか? ま、予定外に早く帰ってきちまったけど」

 起き上がる。夢じゃないの? バルが大きな手を伸ばして、俺の髪に触れる。バルも体を起こす。二人でベッドの上で向き合う。

「今日は寝る? 疲れたんだろ」
「そ……」

 なんでバルはそんなに悠長なの。

「やだ。今日!」

 バルは優しく笑った。

「やるか? ほんとのやつ」
「やる……ほんとの、ほんとのやつ」

 バルの手がほおに触れる。唇が重なる。ほんとの、ほんとのやつ。俺だけが好きなんじゃなくて、バルも俺を好きなやつ。唇が離れる。恥ずかしくて、バルの目を見られない。バルが部屋着のシャツを脱ぐ。筋肉質な半身。

「じろじろ見んな。お前も脱げよ」

 呼吸ができない。心臓が喉元まで迫り上がって、鼓動が耳の横に聞こえる。手が震えるみたいだ。

「寒い?」

 首を振る。髪が揺れて視界に入る。10ルクス以下の光の中で、もう真っ白に見える。バルの手が肩にかかって、ゆっくりとベッドに二人で沈んでいく。

「すげー髪……」

 恥ずかしい。バルの手がうなじを撫でていく。それだけで体がぴくんと動いてしまう。

「期待すんなよ。あんまうまくねーぞ」

 キス。体がどうしようもなく熱を持ち始める。

「バルな……だけで…い……」

 体を内側からかきむしられるような疼き。汗が肌を湿らせる。熱い………。

 脚にバルのを感じる。触ってもいいの? 自分のももう耐えられないくらいになっている。バルの素肌に、つつっとそれが触れる。

「………ッ」
「………ん?」
「…あ………ごめ」

 いってしまった。たったあれだけで。情けない。

「だから、期待しすぎ……」

 バルの唇がすっと首筋を撫でて、胸から腹に、そしてさっき俺が出してしまったものを……

「は……っ」

 ぺろりと舐めとっていく。死にそう。俺もバルに何かしてあげたいのに、体が敏感になり過ぎて、シーツを掴むことしかできない。勝手に目のはじに涙が溜まっている。バルの指が俺の口の中を犯していく。脇腹を舌が這って、全身に鳥肌が立つ。気持ちいい。体がぴくぴくと跳ねる。恥ずかしい……。

 口の中から指が抜き取られる。代わりに重なる唇。今度は舌が犯してくる。

「んッあ」

 指が俺の中に入り込む。ぞくんと背筋に震えがくる。バルの目が俺の目を覗き込む。目の中まで犯されるみたいに。


 バル・・


 バルの背を掻き抱く。耐えられない。こんなに、こんなに好きな人とこんなことをしている。

「……は…やく」
「……まだ痛いぞ?」

 いいの。早く。バルのものに手を伸ばす。自分の入り口に充てる。

「お願い……」

 みち、と肉が開かれる。

「あっ……く」

 きつい。ごめん。でも早く入って欲しい。はやく一つのかたまりになりたい。ゆっくり、ゆっくり騙すように、中に。一番いいところを擦り上げていく。膝が震える。

「……痛い?」

 バルの息も熱い。首を振るのがやっと。体の中で、バルのものを感じる。

「は………こ、れ……夢じゃない…?」
「夢じゃない。ほんとのやつ……」
「……ほんと……の…やつ?」
「そう……俺とお前の、ほんとのやつ」

 バルが動き出す。不規則に。入り口から一番奥まで、隅々までいっぱいにする。空っぽだった体が、満たされて溢れて流れ出ていく。もっともっともっと欲しい。自分の声じゃないみたいな、甘い声が勝手に漏れてしまう。

「……は…」

 好き。全部気持ちいい。奥が熱い。バルの体を知っているはずなのに、初めて抱かれるみたいだ。何も自分ではコントロールできない。震える指にバルの指が絡む。何もかも絡まり合っている。

「ヴェスタ……あんまり俺ももたない…」

 名前を呼ばれただけで、意思と関係なく体が応えてしまう。きゅうと中が動く。中に来て。たくさん飲ませて欲しい。全部俺に。

「あ………あっ」

 体の中から何かが来て、またいってしまう。思わず枕を掴む。枕はひやりと濡れている。自分の涙が濡らしたことに気づく。バルの指が、目尻に浮かぶそれをそっと拭き取る。

「つらい……?」
「へいき……うれし……くて……」
「……く」

 中が火が灯ったように暖かくなる。バルの体液が注がれたのがわかる。もっと欲しい。もっと。ぐちゃぐちゃにして欲しい。バルだけの俺だって、俺の体に染み込ませてほしい。

「すげ………」

 バルのが俺の中でまだ硬いままなのが嬉しい。

「………と……して。もっと……」

 最奥まで突き上げられる。さっきよりずっと滑らかになった俺の内側。もっと塗り込んで。夢じゃないように。一番奥で出して。ほかの誰も、誰も汚せないところを汚して。バルの肩に爪を立てる。なんの傷も残らない肌。俺を刻みつけたい。この人を丸ごと欲しい。俺は生まれて初めて、誰かのものになりたい。俺はこの人の、この人だけのものになりたい。今ひとつになっている。

「今なら……死んでも、いい」
「ふ……だめだな。まだまだ」

 ……まだまだ。

「ま……た」

 ぞくぞくっとお腹の中から火の玉のような快感が突き上げてきて、とろりと腹を濡らす。バルの体が俺のそれで汚れていく。くちゃくちゃといやらしい音が耳をくすぐる。バルの歯がその耳たぶを甘く噛んでいく。

「しあわせ……」

 バルでもう一度中が満ちる。キス。恋人がするやつ………。ゆっくりと中からバルのものが抜き取られる。もう一回できそうなくらいまだ硬い。

「もっと……」
「待て待て」

 バルのを口でしたい。後ろからもして欲しい。口にできないような、いやらしいことを全部したい。

「だめ?」

 夢じゃないのなら。

「何も今日いっぺんにやんなくていいだろ。明日も明後日もあるんだから」
「だって……明日になったら夢になってそうなんだもの」

 バルはじっと俺の目の中を覗き込んだ。

「夢じゃないよ、ヴェスタ」
「だって…………怖い……」
「何が怖い」
「しあわせすぎて怖い………」

 こんなの。夢じゃないと不公平だ。納得できない。

「怖くない」
「俺のこと……好きだなんて……うそなんでしょ?」
「嘘じゃない」

 三階から一緒に飛び降りた時からずっと好きだった、とバルは俺を抱きしめて言った。

 そのよくわからないタイミングに、思わず笑ってしまった。











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