Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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05 追跡

02 Vesta (言えないこと)

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「はあ。やっと?」
「……あのさー………」
「いやだってさー」

 久々のザムザとの夕食だった。ユミンからも言われた。まあユミンはもう一言多かった。「やっと? でもアラスターの方がおすすめだったんだけどね」。

「なんでみんなやっとって言うの?」
「お前がダダ漏れだったからだよ! バル大好きぃ」
「……………」

 休暇に割り込んでゴーシェ・ノッディングハムを捕まえて、連邦捜査局を凹ませてから三ヶ月になる。
 ザムザに顛末を話そうと思ってたけど、なかなかタイミングが合わなかった。一通り詳細を話して、そう言えばパイロットの彼氏とは最近どうなんだと聞かれて、アラスターと別れたこととバルと付き合ってることを伝えた。

「そもそもあのパイロットと付き合ったのが謎だったくらいで」
「もう言わないでくれよ。俺だってあの件については反省してんだよ」
「ほーん。んで、どうなん? 念願叶って」
「……………」

 髪の色がぶわっと変わるのがわかった。

「あっ! お前の髪ってもしかして……」
「言わないで!」
「はーん。幸せならいいことだ! そういうことなんだろ?」
「ザムザの方はどうなんだよ! もうちょいで新婚一年だろ」
「うん。順調順調……。来年あたり子供申請しようかって話してる」

 こども! そうか。結婚してるとそれができるんだな。

「お父さんになんの?」
「そりゃあそうだよ。まあ様子見ながらだけど……うちは申請も通るだろうしさ。お前らは結婚しないの? 実質二年半付き合ってたようなもんだろ?」
「や……そんな話は全然まだ……」
「考えておけよ。俺たちだって永遠に生きるってわけじゃないんだから、余裕もって子供育てた方がさ。連続勤続可能年数は50年だろ? バルは何年働いてる? 稼ぎがいいうちにさ」

 そうなんだ!

「お前知らなかったな? 鳩が豆鉄砲食ったみたいな顔してるよ」
「なんかもっと知らないことがありそうな気がしてきた」
「……心配になってきた。わかんねえことがあったら教えてやっから。マリーンの方に聞いてくれてもいいし……」
「け、結婚てどう? 楽しい?」
「楽しいっていうか、楽、かな。デートの約束しなくてもマリーンとは家で会えるし」
「楽……」
「気も楽だよ。マリーンはさ、美人だから色んな男が色気出してくるんだけど、もう俺の嫁さんだから」
「それってどういうこと?」
「だって結婚てそういうことだろ? さすがに結婚してる人には誰だって手を出すのを遠慮するもんさ。一緒に生活して子どもも育てようって相手がもういるんだ。手を出してバレたら訴訟モンだよ。法的な縛りがあるんだから」
「そうか……。法的な縛り……」
「安心感があるね。マリーンのことだって、色んな面で守ってやれるようになったよ。子どもも欲しかったしね」

 安心感。

 マリーンのIDを教えてもらって別れた。結婚。ちゃんと考えたことがなかった。アラスターから言われた時も、すればいいんだってしか思ってなかった。色々あって頭の中がごちゃごちゃしてたから……。

 考えながらステーションに着くと、黒髪で長身の影がオートキャリアの横に立っていた。嬉しくなってしまう。

「バル!」

 すぐ右側に走り込む。バルの右手が俺の髪をくしゃくしゃと撫でる。オートキャリアに乗ってその手に指を絡める。こんな風にバルに触れられるのが、まだ夢みたいに思える時がある。職場ではもうバディとしての動きが身についてしまっていて、全然変わらないからかもしれない。

「楽しかったみたいだな」

 俺の緑の髪を見てバルが言う。

「うん。早いよね、もうザムザとマリーンさん、結婚して一年なんだよ!」
「そういやそうかもな。懐かしいな。誰かさんが爬虫類館に逃げ込んでたやつ」
「もう! それはいいからさ……あのね、ザムザ、来年あたり子ども申請するんだって」
「ふーん……」
「子どもってどんな感じなのかな?」
「……どんな感じなんだろうな。俺も育てたことないからわからないな」
「バルはどんな子供だったの?」
「普通だよ。普通」

 バルが少し、話を変えて欲しそうな言い方をした。

「……あ、で、ザムザが……勤続可能年数のことがあるから、早いうちの方がって」

 早いうちに俺たちも結婚とか子どものこと考えた方が。

「ああ……」

 生返事。だめだこれ。言えない。とてもじゃないけど。

「…………」

 ねえ、ザムザの話を聞いてて、俺も結婚したくなっちゃったんだ。

 きゅっとバルの右の手を強く握る。まだ早いよ。この話は。だって、付き合い始めてまだ三ヶ月だもん。ザムザは二年半付き合ってたみたいなもんって言うけど、すごく遠かったもん。遠くて遠くて。諦めたくなるほど遠くて。



 家に着いてシャワーを浴びると、左の腕の跡が消えかけているのに気がついた。あの朝からずっとバルが付けてくれている跡。昨日つけてもらったばかりだったのにな。ちょっと弱かったかな。バスルームから出て、リビングでブリングを見ているバルに後ろから抱きつく。

「バル」

 ふっとバルが画面を変える。たまたま? わざと? なんとなく不安になる。恋人になってわかったのは、恋人になると楽になることもあるけど苦しくなることも何倍もあるってことだ。小さなことがいくつもいくつも巣食うようになる。前はうまく目を逸らすことができたことに、目を奪われてしまう。こんなに、いつもいつもいつも一緒なのに。漠然とした不安。もしかして、結婚したら変わる?

「……腕の跡が薄くなっちゃった」

 バルは何も言わずに俺の左の腕を取った。いつもの場所に唇を付ける。

「んっ……」

 舌の感触。俺の手を取るバルの手の熱さと伏せられた目。大好きな人。

「ほれ。ついた。寝るぞ」

 くしゃくしゃと髪に触れる指。

「おやすみ」

 バルが軽く手を振って、自分の部屋に入っていく。ぱたんと扉が閉まって、ロックがかかる。

 ずっと一緒にいたい。結婚したらそれはちゃんとした約束になるのかな? 俺の一方的な望みじゃなくて。









 
 
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