Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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05 追跡

03 Vesta (ドメスティック)

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「訪問調査何回目になってる?」
「五回目」
「前回はいつ?」
「七月二十三日……あ。雪」

 ひらひらと初雪が降ってきた。もうザムザの結婚式から一年なんだよね。つい最近のことみたいだったのにな。ザムザがお父さんになる……。

 子供の申請は婚姻後一年以上経過した対遇にしかできない。いろんなチェック項目があって、クリアしないと子どもはもらえない。虐待や事故を最小限にするためだ。子どもは世界的な宝物なんだ。

「はやく車に乗れ。冷えちまうぞ」
「うん」

 レプリカントは違う。お金さえ払えば、どんな発注者のところにも届く。だからこういう、虐待の被害者だったレプリカントの経過観察は大事な仕事だ。今日は何度も保護局に保護されては戻ってDVを繰り返されたレプリカントのところを訪問する。

 彼女はかなり古いレプリカントだ。最後に保護されたのが一年前。バルが見つけた。顔を腫らして薬局にいた彼女がレプリカントであることに、体臭の少なさで気がついた。保護局に連れて帰って話を聞くと、彼女は保護局常連だった。4、5年に一度はオーナーにひどく殴られて病院送りになり、保護されていた。前に担当していたコンビは解散していたから、バルと俺のコンビのケースになった。

「今回のは、軽い方です。大丈夫」

 何度保護されても彼女はオーナーのところに戻ってしまう。オーナーの方も、つい手が出てしまうと言うなら、彼女を手放して第三種にしたらという提案をどうしても飲まない。仕方なしに、保護観察ということで、不定期に彼らの家を訪問して様子を見ることにした。

「……お前らは、そんなにオーナーが好きなのか?」
「ん?」
「今から行くとこ、二十年も殴られてんのに。結局好きで戻っちゃうんだろ。そんなに好きなのか?」
「………どうなんだろ。ウーナの気持ちはわからない」

 ウーナ・プリセツスカというのがその彼女だった。オーナーはハックルトン・プリセツスカ。二人は結婚している。子どもはいない。

 古いコンドミニアムのインターフォンを鳴らす。すぐにウーナの声がして、ドアが開く。

「久しぶりね! どうぞ」

 部屋の中はものは多いが片付いている。アンドロイドの犬が来客に喜んで走り回る。

「どうですか、最近は」
「ええ。もうあれから全く殴られたりはしてないです。今度子どもを申請したいねって言ってるんです」
「子ども……」

 子供は申請しても通るとは限らない。対遇間での虐待も当然チェックされ、記録があれば申請はまず却下される。

「あの……それでお願いなんですけど、保護局にある私の記録を消してもらうわけにいかないんでしょうか………。あれがあると申請が通らないので………」
「…………」

 それはできない。局に照会がかかれば、ウーナとハックルトンについて持っているデータは全て渡さなければならない。万が一にも子供への虐待を起こさないためだ。

「お願いします…………」

 ウーナは額をテーブルに擦り付けるようにして頭を下げた。

「ウーナさん、申し訳ありませんが」

 バルが応えた。

「顔をあげてください。それはできないんです。ハックルトンさんがあなたに暴力を奮ったのは一度や二度ではない。それが子どもに及ぶ可能性があるのであれば、我々は隠すことはできません」
「……そうですよ………ね…」

 大粒の涙が彼女の目からこぼれ落ちた。

「あの人が私を殴るのは、私が悪いんです。あの人ばかりが悪いんじゃないんです。私がもっとしっかりしてたら良かったんです。それでもだめなんでしょうか……」
「あなたがどんな間違いをしたとしても、訂正するために殴る必要はどこにもありません」
「………子どもが欲しいんです…」
「………」
「では、信用を積み重ねるしかないと思います。対遇間での虐待歴があったとしても、その後何年も円満なことが証明できれば認められる可能性はあります」

 ウーナは泣きながら頷いた。子どもがほしいんです。どうしても。

 今回は虐待の形跡はなかったけど、なんだか落ち込んだ。ウーナの悲しみが、やるせなさが移ってしまったみたいだった。

「何もお前がそんな髪になることないだろ」
「うん……」

 髪は濃紺に近い。保護はしなくちゃならなかった。記録もしないといけない。ウーナがどうにかなってからでは遅いから。でもそれが今度はウーナを苦しめている。

「どうにかならないのかな? ほんとに何年も虐待がなかったら、申請は通るの?」
「通らない」
「嘘ついたの?」
「まあそうだ。対遇ってか、誰かを一方的に虐待するってのはやっちゃいけないことなんだ。無かったことにはならない」
「どうだったら良かったの?」
「まず、ハックルトンが殴らなきゃ良かった。そもそもな。次に、ウーナが子どもを欲しいなら、ハックルトンと手を切りゃ良かった。そして別なやつと結婚して平和に暮らす。そうすりゃなんも問題ない」
「なんでハックルトンと別れないのかな」
「俺も知りたい……なあ、ヴェスタ」
「何?」
「なんで俺が好きなんだ?」

 え?

「好きだから」
「オーナーだからか?」
「ん?」

 車が局の前に止まった。

 バルは今の会話がなかったみたいにぱっと車を降りてしまった。なんで? なんでバルを好きなのか?










 家に帰ってウーナとハックルトンのことを考えながらベッドにいると、コン、とノックの音がした。どきんと胸が鳴る。ドアが開く。バルの大きな体がベッドに乗ると、ベッドは深く沈む。バルは週に2、3回、こうして俺の部屋に来てくれる。

「いいか?」
「うん……」

 重なる唇。考えていたもやもやが何もかもどうでもよくなってしまう。絡まり合って、バルの肌や、舌や、手のことだけになる。
 やがてバルの指が。
 長くて俺のより太い指が、中をジリジリと這いまわっていく。

「ふっ……」

 そこに触れる。

「あ……」

 腰が無意識にくねる。指が逃がすまいと追いかけてくる。

「やぁ……」

 ゆっくりと指が引き抜かれる。待って。バルにも気持ちよくなって欲しい。バルのそそり勃ったものを口に含む。硬く膨張している。愛しい。できるだけ喉の奥に飲み込む。根元まで入らない。こんな大きいのが、俺の中に入ってしまうの? 想像しただけで腰が砕けそうになる。

「お前……」
「……きもち……い?」

 苦しさに涙が浮かぶ。でももっとしたい。喉の一番奥にごつごつと先が触れる。えづきそうになるのを堪える。バルのそれの形が、舌の先でよくわかる。バルの顔を見上げる。眉根を寄せてちょっと困ったような顔。この顔を見てみたかった。

「く……こら」

 喉からバルがそれを引き抜く。口の中にまだ感触が残っている。さっき開かれた俺の中に、ついに入ってくる。バルとするときは、明かりがかなり落とされているから、半分夢の中にいるみたいだ。 

「あ、あ」

 膝を抱えられて、奥まで、一番奥まで貫かれる。

「だ、きしめ……て…」

 ぐんとバルの腕に力がこもる。熱い。バルの体も、自分の体も。好き。大好き。大好き。俺の中の一番弱いところを何度も引っ掻いていく。だめ。そんなことしないで。すぐにいってしまう……。

 頭の中で、白いものが破裂する。とろりと自分の胸に、自分が出した白い体液が降ってくる。バルと一緒にいきたかったのに……。バルが俺を抱えるように抱きしめる。いったばかりだから続く快楽についていけない。バルの体に足を絡める。じわとお腹の中に何かが広がるのがわかる。バルの。

「は……」

 目が合う。唇を貪り合う。体は一つになったままだ。まだ中にいて欲しい。バルが少し腰を引く。俺が足でそれを追う。

「まだ……」
「………欲張り……」
「もう少し……こうしてて」

 わがままを聞いてくれるの本当に好き。大きな背にすっぽり覆われて、こうして抱かれているのが最高に幸せ。

「苦しくないか?」
「苦しくない……」

 頬を撫でてくれるその手も大好き。その真っ黒な、黒曜石みたいな目も大好き。

 ──何で俺が好きなんだ?

 車の中で半端に終わった会話を思い出す。なんで? わからないよ。でも言っただろ。目を開けた瞬間から好きだった。なんでなんてない。一目でこの人だ・・・・と思った。











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