Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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05 追跡

04 Baltroy (再会)

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 子ども。

 ウーナは子どもが欲しいんですと泣いた。ヴェスタには言えなかったけど、彼女らが子どもを持つにはもう一つ問題がある。ウーナはレプリカントとしては歳を取り過ぎている……。

 二十年前のレプリカントだ。まだ生体工学が今ほど進んでなかった。あの頃のレプリカントの寿命は三十年程度と言われていた。個体差はあるけど。子どもを万が一もらえても、数年でウーナは死ぬ。
 もちろんヒューマンだって何があるかわからない。隕石が当たって明日死ぬかもしれないけど、寿命が決まっているレプリカントよりは十年後も生きてる可能性がある。

 腕の中ですやすやと眠るヴェスタを見る。きれいな顔。天使みたいだ。白い肌。レプリカントは歳を取らない。死ぬその瞬間まで生まれた時のままだ。

 バルトロイ、俺たちは永遠に生きるって言っただろ。

 ゴーシェ。思い出した。施設でしばらく一緒だったやつ。俺とあの頃から背格好が似通っていた。遺伝子治療を受けたのはスポーツ選手や女優俳優が多かった。自然、背が高いのが生まれやすかったんだろう。ゴーシェの親はどんなやつだったのか……。

 永遠に生きる。あの女もそんなことを言っていた。無限に金が要るっていうのを何度も聞いてきた。そんなに生きたいか? そりゃ、体は老いないかもしれない。でももういいやって思わないのか? あの女を見ていると、浅ましいと思う。俺はそんな女の息子。

 呪われている。











「バルトロイ」
「ゴーシェ」

 保安機構(※警察機構、連邦捜査局、レプリカント人権保護局の総称)が管理している病院の病室だった。ゴーシェは抗がん剤のせいですっかり髪が抜けている。髪だけじゃない。まゆもまつ毛もない。灰色の目玉だけ。

「調書を作らせてもらう」
「何でも話すよ」

 意外と元気そうだった。休薬中だからかもしれない。ゴーシェが運び込まれたときは、左目と肝臓と肺と大腸に癌があって、筋肉内に肉腫ができては消えるひどい状態だった。外科手術で取り出すことはできない。がんにマークしてピンポイントで破壊するにはがんが散り過ぎている。遺伝子操作したがん破壊細胞を入れたら暴走してどうなるかわからない。

 実験的に、本来ならがん細胞だけに当てる抗がん剤を全身に回るように投与された。何十年も前に消えた治療方法。副反応は酷くて、しばらくは嘔吐と口内炎と衰弱で口も利けなかった。
 今、少なくとも肉腫は出なくなっている。

「左目は大丈夫だったのか?」
「うん。捕まった時は視神経も腫瘍に圧迫されてて見えてなかったけど、見えるようになってきた」
「良かったな。さて……」

 知り合いだと調書を取りづらい。ヴェスタに任せればいいかもしれないが、ゴーシェとは他に話したいこともあった。彼は今は連邦捜査局の管理下にあるために、こうでもしないと面会はできない。

「まずは一人目だ。どうやって、どうしてデイノス・フォルトバーグを殺した?」
「連邦捜査局に聞けよ。あいつらも立派な調書を取って行ったはずだ」
「組織が違うんでね。俺は俺で作らなきゃいけない。デイノスの家の空調配管設備を知ってたんだな?」
「ああ。五年前かな。改装するってんで会社に仕事が来てね、俺が図面を引いたんだ。二人目も一緒だよ。あれは十年前のデータが残ってたんだ」
「なんで殺した?」
「むかついたからさ。俺が豚の子と言われてくそみたいに生きてきて、ガンでボコボコになって苦しんでるのに、第一世代のやつらは涼しい顔して生きながらえて金持ちのままだ。俺みたいのがいるってことさえ知らない」

 ハイブリッド……豚の子たちの存在は、たしかに第一世代にとっては副作用みたいなもんだった。遺伝子操作の結果、若返ることができたやつらは一緒に繁殖力も上がってしまった。著名人、有名人たちにとっては不要な能力。

 しかも多胎が多かったのと胎児のうちから再生能力が高かったのが祟って、堕胎手術をしてもまだ胎児が腹の中で生き残って出産までこぎつけてしまうことがあった。俺みたいに。

「でもだからって殺す気にはならないな」
「自分ももう死ぬんだ。死ぬ前に思い知らせてやりたかった」

 俺たちみたいな、望んでもないのに化け物にされたやつの怨嗟を。お前たちと違って、望んでこうなったんじゃないんだってことを。

「………」
「俺の体、治るかもしれないとさ。癌が弱ってきてる。正常な細胞の分裂の方が早い時間が長ければ」
「………良かったな」
「俺たちは否応なく生きなくちゃいけないみたいだな。あいつらと違って金も地位もないまま」

 何を聞きに来たのか忘れてしまった。大切なことだったのにな。

「また来るよ」

 席を立つ。ゴーシェは手のひらを軽く振った。
 病室を出たところで、ヴェスタがベンチに腰掛けて待っていた。

「もう終わったの?」
「うん。また聞きたいことが出るかもしれないけど」

 だいぶ癌のにおいも薄くなっていた。本当に治るかもしれない……どうかな。抗がん剤のにおいも凄かった。公用車に乗り込んで局に戻る。今日はこれをまとめたら終わりだ。

 ヴェスタがこの間から何か言いたそうにしている。わかるけど何を言いたいのかはわからない。アラスターと付き合ってた時の俺みたいなやつが必要なんだろう。ふっと心の内を吐露できるような気安いやつが。
 ザムザかな? あいつは順風満帆だからな。あまり弱音を吐けないかもしれない。

「ヴェスタ」
「ん?」

 恋人になってしまうと踏み込めなくなるところがある。不思議なことだ。相手を傷付けるのが怖くなっちまうんだろうな。二人の空気や雰囲気が壊れるのがどうしても嫌になってしまう。

 でもそれじゃだめなんだよな。

「何でも言ってみな。思ってること全部」
「………」

 言ってみろと言われてすぐ言えるなら苦労はしない。それはわかってる。俺にだって言えないことはある。でもアラスターと付き合ってた時のような、一人で悩んでいるヴェスタは見たくない。

「少し考えてからでいい?」
「いいよ。まとまってなくてもいい。報告書じゃないんだから」

 ヴェスタはちょっとだけ微笑んだ。窓にスモークを入れて軽くキスした。








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