Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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06 パイド・パイパー 連邦捜査官ザムザ・ホープの事件簿

05 Wdgat (日記)

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 「前の事件の時」? 直近でクローズしたのは州を跨いで逃走していた強盗犯の逮捕だった。でもたぶんその件じゃない。このところ一番印象的だった事件……。

 ヴェスタたちとの案件?

 打ち上げでピシャリと怒られたのを思い出す。だって俺たちばかりが悪いんじゃない。あのレプリカントが生意気なことを言うし、こっちだってやることはやったんだ。あいつらだけでだって逮捕できなかったくせに……。

 思い違い。

 何を思い違っていると言うんだろう。俺はザムザ先輩がもっと評価されるべきだと思うから……。

 立ち上がってザムザを追った。俺がバディなんだから、置いていかれるわけにはいかない。公用車は動いていない。どこだ? 局内にいる。押収品でも確認に行ったのかと押収品置き場に行ったがいない。大きくため息をついた。

 ザムザにコールすれば居場所はわかるだろうが、バディなのに居場所の予想もできないというのが癪だった。ヴェスタなら。バルトロイなら。あの二人ならどちらがいなくても互いに居場所がわかるんだろうと思える。あんなレプリカントとハイブリッドが……。

 イライラしながら押収品の隙間を歩いていると、この件で自分が持ち帰って来たものが目に留まった。

 子どもの日記帳……。なんでこんな物が気になったんだろう? パラパラとめくってみる。なかなかまめな子どもだったらしい。かなり頻繁に日記が付けられている。絵が付いているのもある。「3月13日。今日は寒かった。隠れ家の中も寒くていられませんでした。」

 隠れ家か。いいな。俺はそう言うのは本の中でしか知らない。小さい頃から英才教育を受けていて、家庭教師が家に来ていたから。「友人」としてあてがわれるのも血統書つきの子どもたちばかりで、必ず親か使用人かアンドロイドと一緒に家に訪ねて来た。遊ぶような時も乗馬やスタイラルみたいな品のいいスポーツだけ。清潔で高価な服を着た友人たち。

 「イースターのエッグハントをみんなでした。イニドが見つけられなくてないたので、ぼくの卵をあげた。」「今日は外からお客さんが来ていた。昔ここにいたんだって。背が高くてこわいひとでした」

「ふふっ」

 これはバルトロイの事だろう。あの身長では小さな子どもには威圧感があるかも知れない。

「おい」

 ザムザが部屋を覗き込んでいた。

「ちょっと来い」
「……どこに行ってたんです?」
「鑑識。遺体の解剖が終わった」

 ザムザは足早にデスクに戻ると、データをこっちの端末に飛ばした。開いてみる。ザムザと鑑識の音声データがついているやつだ。手の切り口がアップになった画像。輪切りの標本のように白い骨、黄色い脂肪と赤い肉が見える。赤黒い点は血管なのだろうか。音声が聞こえる。

『この傷は死後つけられたものですね』
『手首は死んでから切り取られたということ?』
『そう。しかも、血液が凝固し始めてから。ところがね』

 今度はぽっかりと開いた眼窩が映し出される。

『こっちは、生前』
『はあ? 生きてるうちに目玉をくり抜かれたってこと?』
『そういうこと。あとね、手首が見つかってない。犯人が持ち帰ったのかもしれない』
『戦利品?』
『たぶん。だから、順番としては、男性をまず殺して……叫ばせないためかな、顔、あごを切って、連続的に上から順に切りつけてる。次にナラという女性の方。たぶん防御しようとした右手を切り落として、腹にナイフを突き立てて殺した。彼女はしばらく生きていた。内臓は人為的に引っ張り出されてるね。そして最後にイリーナ。目玉をくり抜かれてから心臓まで達する刺創を負って絶命、それから両手を切り落とされている』
『猟奇犯罪』
『そうだね。子どもを攫うのが目的だとしたら、子どもたちも……』
『生かされているとは言い難い?』
『はっきり言ってしまえばね……残念だけど』
『凶器は?』
『たぶん、大型のナイフを、コンバットナイフみたいなのを何本も持っていたか……現実的じゃないよね。斧でもないだろうし。鉈みたいなものか……でも突き刺してるからね……刺創から言うとナイフなんだけど、それにしては切れ味が良すぎるんだよね。刺創をもう少し調べてみる』

 音声データはそこで終わった。胸の刺創。ナラの腹部のアップ。こんな殺人の仕方をして、鼻歌を歌いながら証拠を隠滅できるやつがいるんだ……。

「ここでわからないのが、どうして女性二人を遊戯室で殺したのかって言うことだ」

 え、そこ?

「どうしてだと思う? 夜中だろ。遊戯室は18時で閉鎖する。鍵はかけないにしろ、二人ともたまたま遊戯室にいた時に犯人が来たとは考えにくい」
「犯人が遊戯室に行かせたということですか?」
「そうじゃないかなと。マリオが出会い頭に殺されたとする。彼は職員室で起きて仕事中だったわけだ。夜中だから、後の二人は普通に考えれば、当直室で寝ていたんじゃないかな? 当直室で眠っているなら、そのまま眠っている二人をナイフで刺せばいい。一番楽だろ、大人を殺して子どもを攫うのが目的なら」
「なるほど。そうしないで二人を起こして遊戯室まで連れて行ったのはなぜかってことですね」
「なぜだと思う?」
「起きている状態で殺したかった?」
「そう。そう言うことだよな。それはどうしてだ……」

 それって何か関係あるんだろうか。

「殺すのが目的なら、そうするんじゃないですか?つまり、殺さないでーって言われたいとか、そういうのが楽しいって言うのなら……」
「殺すのが目的なら? そうか……」

 ザムザは思いついたように立ち上がった。でも動き出すわけではない。

「……どこか行くんですか?」
「例えば、子どもたちが自分たちで逃げ出そうとしたらどこに行くかな?」
「え……」
「あんな殺し方をしたら、必ず被害者は大声をあげるだろ。子どもたちも異常に気付いたはずだ。遊戯室のすぐ奥が子ども部屋なんだから。目を覚ます。頼りの大人たちが悲鳴を上げている。何か悪いことが起きている……。逃げなきゃいけないと思ったら、どこに逃げるかな。パジャマのまま、外に出たんだ」

 森でもない、何もない草原にぽつんとある施設。下手に逃げてもすぐに見つかる。子どもたちばかりで年齢層もバラバラなら、遠くには逃げられない。頭の中に、ふとさっきの日記のことがかすめた。

「隠れ家?」
「かくれが?」
「そう、です。俺、子どもの日記帳を押収してて……それに隠れ家のことが書いてあった……」
「その日記をちゃんと読んでみよう」









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