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06 パイド・パイパー 連邦捜査官ザムザ・ホープの事件簿
06 Wdgat (隠れ家)
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「詳しくは書いてないな……まあ、隠れ家って言うんだから隠しておきたかったんだろうけど……」
日記を隅から隅まで読んだが、肝心の「隠れ家」のありかはわからなかった。
「とにかく行ってみます?」
「闇雲に行っても……」
ザムザはまたブリングに指を走らせた。誰かにコールする。
『なんだよ』
「ごめん、バルトロイ、何度も。遡及になるけど協力要請を出すから、正式に協力してくれないか。一緒に来て欲しいんだ。まだ間に合うかもしれない!」
『……いいよ。どこに行きゃいい? おい、ヴェスタ!』
「エッシャー児童養護施設だ。いたんだろ? 変わってないって言ったな? 子どもたちが『隠れ家』にするようなとこを教えてくれ!」
コールが切れる。
「ほら、動け動け。公用車だよ」
はっとして公用車を回す。逮捕用のツールボックスを掴んだら、ザムザが救急の方のボックスに取り替えた。
「行くぞ。救急搬送用のエアランナーも待機命令を出しておいてくれ」
言われた通りに慌てて依頼を出す。公用車に飛び乗る。
「隠れ家に子どもたちがいるってことですか?」
「そうじゃないならどこにいると思う? それ以外考えられなくてさ」
「犯人に攫われたって線は?」
「こんな犯人、生かしておくと思うか? 無抵抗な子どもたちを。楽しんで殺してる。殺すことを何とも思ってない。子どもを生かして攫うなんてめんどくさいこと、しかも15人も、絶対やらないな。子どもたちの遺体が見つかってないってのは、少なくとも犯人が暇になった時には子どもたちはあの施設の中にいなかったんじゃないかと思う」
攫われたんだと思い込んでいた。そうじゃないなら、確かにザムザの言う通りだった。靴がないこと。子どもたちの血痕がないこと。もしかしたらみんな無事かもしれない。希望が見えた。
一時間半で現場に着く。まだバルトロイたちは着いていない。二人でとりあえず丘の上からあたりを見回してみる。何も見えない。遠くに街を見下ろす。振り向くと山が見えるが、山裾までは草原が続いていて身を隠せるところはない。
「何もない………」
「人の気配もないな」
施設はまだ閉鎖されている。まあ、あんな凄惨な殺人が行われた場所で児童保護施設を再開できるかはかなり怪しい。
やがて、丘の下からバルトロイの高い背が現れた。続いて緑の髪のレプリカントも。
「よう」
「悪いなあ。頼むよ」
バルトロイはちょいちょいと手招きをすると、丘を滑るように降りていった。大きな岩の近く。慌てて追う。バルトロイが岩の側で足を止めている。
「……」
「ここ?」
ザムザがバルトロイの隣に走り込む。黒い穴が口を開けている。子どもなら確かに難なく入れそうな。バルトロイが肘で鼻を覆っている。
「……血の匂いがする。だめかもしれない」
ザムザがブリングのライトを付けて中を照らした。結構奥行きがある。
「……おーい、誰かいるかな? もう大丈夫だよ」
ザムザに続いて穴の中を覗く。だめかも? そう言うこと言うなよな……。誰もいない? 空振り?
「おーい、捜査官だよ、怖くないよ。助けに来たんだよ」
バルトロイとヴェスタは入ってこない。なんだよあいつら……。
ごろごろとした石に足を取られてズッと滑る。
「うわっ」
にちゃ。
泥に足をつっこんだ。水でも湧いているのか? 少しくぼみになっていて見通せなかったその足元にライトを向けた。
「……ぐ………」
「吐くなよ」
まるで人形の山のようだった。紙のように白い肌の子どもたちの死体。折り重なっている。首がないものもある。水溜りのように地面が濡れているが、これは子どもたちの血液と体液と思われた。ひどい血の匂いと死臭。ザムザがすぐに写真を撮る。
「生きている子がいるかもしれない。確認する。お前、あの二人にも頼んできてくれ」
何を? 確認するってもしかして……
俺が固まっていると、ザムザは一番上の遺体をそっと抱え上げ、地面に降ろした。
「早くしろ」
生きてる子なんているわけないだろ? とにかく二人を呼ぶ。この匂いではバルトロイは嫌がるかなと思ったが、何も言わずに来てくれた。戻ってみるともうザムザは三体目の遺体を並べていた。
「バルトロイ、生きてる子は居そうかな」
「わからない。死体は死臭がするが生きてるからって生きてる匂いがするわけじゃないからな」
笑えない。どこに触っていいかためらうほどの血塗れの遺体。ヴェスタは幼児くらいの小さな遺体を抱いて、そっと目を閉じさせてやった。
「この子はまだ温かい!」
ザムザが一人の女の子の頸動脈に手をやりながら叫んだ。左肩から袈裟懸けに切られているようだが、確かに他の子に比べれば傷が浅い感じがする。
「まだ脈もある。ウジャト、救急用のエアランナー」
「あ、はい!」
まさかまさか、だった。すぐに要請する。ザムザが持って来ていた救急のツールボックスから、再生パッドと止血カバーを出して傷にあてた。昇圧剤を太ももに突き刺す。
「三日半経ってるかな……」
その間にバルトロイとヴェスタは他の子どもたちの体を並べた。
「他の子達は……」
一目見ただけでわかった。生きている子はもういない。バルトロイもヴェスタも出動服が血と体液でどろどろになっていた。
「…………ありがとう、ヴェスタ、バルトロイ。一人だけでも助けられて良かった……」
ザムザが項垂れて言った。エアランナーが到着して、ザムザと少女と一緒に乗り込んだ。少女にはすぐに点滴が打たれ、体を温める処置と輸血が始まる。離陸。施設を見下ろす。
ヴェスタとバルトロイがこちらに手を振るのをやめて帰っていくのが空から見えた。草原を歩くバルトロイがふと足を止める。ヴェスタが駆け寄るようにしてバルトロイの隣に来る。二人で並んで歩き始める。
あのレプリカントは、バルトロイが自分を待って足を止めたことに気付いているんだろうか。
ふと自分がヴェスタに感じる苛立ちの正体を見た気がした。ヴェスタが来る前から、バルトロイは目立って成績が良かったらしい。大きな仕事を解決するわけじゃないけど、コツコツと保護や逮捕を重ねる地道なスタイル。扱う件数が群を抜いていた。
ただバディがコロコロ変わるから、コンビで評価されることはなかった。バルトロイがヴェスタと組んで3年経ち、4年目ともなると、レプリカントの捜査官なんていう物珍しさもあって、保安関係者で知らないものはいない二人になった。
バルトロイはもともと凄いやつなんだよ。ただバディとの相性がよくなかっただけ。たまたま一番長く続いたからって、あんな知識も経験もない世間知らずなひょろひょろのレプリカントなんかがバルトロイとひとセットで評価されるのが無性にむかつくんだ。
しかもそれを自覚して少しは小さくなってんのかと思ったら、結構気が強くて態度がでかい。バルトロイともザムザ先輩とも対等なつもりらしい。凄いのはバルトロイなんだよ。気がついているのか? レプリカント。
あのヴェスタの、のほほんとバルトロイからの庇護を当たり前に享受しているさまが許せないんだ。
「血圧が安定してきました。体温もいいですね。生命は別状ないでしょう。念のため抗生剤を打っておきます」
「それから、遺体が14体あるんです。ええ。搬送用を……いや、エアランナーでなくていいです……もう亡くなっているので……」
はっと振り返ると、エアランナー付属の医療用ドロイドが治療を終え、ザムザが遺体の搬送を要請していた。
「あ……何か、やることありますか」
「いや。もうないよ」
「……すみません」
日記を隅から隅まで読んだが、肝心の「隠れ家」のありかはわからなかった。
「とにかく行ってみます?」
「闇雲に行っても……」
ザムザはまたブリングに指を走らせた。誰かにコールする。
『なんだよ』
「ごめん、バルトロイ、何度も。遡及になるけど協力要請を出すから、正式に協力してくれないか。一緒に来て欲しいんだ。まだ間に合うかもしれない!」
『……いいよ。どこに行きゃいい? おい、ヴェスタ!』
「エッシャー児童養護施設だ。いたんだろ? 変わってないって言ったな? 子どもたちが『隠れ家』にするようなとこを教えてくれ!」
コールが切れる。
「ほら、動け動け。公用車だよ」
はっとして公用車を回す。逮捕用のツールボックスを掴んだら、ザムザが救急の方のボックスに取り替えた。
「行くぞ。救急搬送用のエアランナーも待機命令を出しておいてくれ」
言われた通りに慌てて依頼を出す。公用車に飛び乗る。
「隠れ家に子どもたちがいるってことですか?」
「そうじゃないならどこにいると思う? それ以外考えられなくてさ」
「犯人に攫われたって線は?」
「こんな犯人、生かしておくと思うか? 無抵抗な子どもたちを。楽しんで殺してる。殺すことを何とも思ってない。子どもを生かして攫うなんてめんどくさいこと、しかも15人も、絶対やらないな。子どもたちの遺体が見つかってないってのは、少なくとも犯人が暇になった時には子どもたちはあの施設の中にいなかったんじゃないかと思う」
攫われたんだと思い込んでいた。そうじゃないなら、確かにザムザの言う通りだった。靴がないこと。子どもたちの血痕がないこと。もしかしたらみんな無事かもしれない。希望が見えた。
一時間半で現場に着く。まだバルトロイたちは着いていない。二人でとりあえず丘の上からあたりを見回してみる。何も見えない。遠くに街を見下ろす。振り向くと山が見えるが、山裾までは草原が続いていて身を隠せるところはない。
「何もない………」
「人の気配もないな」
施設はまだ閉鎖されている。まあ、あんな凄惨な殺人が行われた場所で児童保護施設を再開できるかはかなり怪しい。
やがて、丘の下からバルトロイの高い背が現れた。続いて緑の髪のレプリカントも。
「よう」
「悪いなあ。頼むよ」
バルトロイはちょいちょいと手招きをすると、丘を滑るように降りていった。大きな岩の近く。慌てて追う。バルトロイが岩の側で足を止めている。
「……」
「ここ?」
ザムザがバルトロイの隣に走り込む。黒い穴が口を開けている。子どもなら確かに難なく入れそうな。バルトロイが肘で鼻を覆っている。
「……血の匂いがする。だめかもしれない」
ザムザがブリングのライトを付けて中を照らした。結構奥行きがある。
「……おーい、誰かいるかな? もう大丈夫だよ」
ザムザに続いて穴の中を覗く。だめかも? そう言うこと言うなよな……。誰もいない? 空振り?
「おーい、捜査官だよ、怖くないよ。助けに来たんだよ」
バルトロイとヴェスタは入ってこない。なんだよあいつら……。
ごろごろとした石に足を取られてズッと滑る。
「うわっ」
にちゃ。
泥に足をつっこんだ。水でも湧いているのか? 少しくぼみになっていて見通せなかったその足元にライトを向けた。
「……ぐ………」
「吐くなよ」
まるで人形の山のようだった。紙のように白い肌の子どもたちの死体。折り重なっている。首がないものもある。水溜りのように地面が濡れているが、これは子どもたちの血液と体液と思われた。ひどい血の匂いと死臭。ザムザがすぐに写真を撮る。
「生きている子がいるかもしれない。確認する。お前、あの二人にも頼んできてくれ」
何を? 確認するってもしかして……
俺が固まっていると、ザムザは一番上の遺体をそっと抱え上げ、地面に降ろした。
「早くしろ」
生きてる子なんているわけないだろ? とにかく二人を呼ぶ。この匂いではバルトロイは嫌がるかなと思ったが、何も言わずに来てくれた。戻ってみるともうザムザは三体目の遺体を並べていた。
「バルトロイ、生きてる子は居そうかな」
「わからない。死体は死臭がするが生きてるからって生きてる匂いがするわけじゃないからな」
笑えない。どこに触っていいかためらうほどの血塗れの遺体。ヴェスタは幼児くらいの小さな遺体を抱いて、そっと目を閉じさせてやった。
「この子はまだ温かい!」
ザムザが一人の女の子の頸動脈に手をやりながら叫んだ。左肩から袈裟懸けに切られているようだが、確かに他の子に比べれば傷が浅い感じがする。
「まだ脈もある。ウジャト、救急用のエアランナー」
「あ、はい!」
まさかまさか、だった。すぐに要請する。ザムザが持って来ていた救急のツールボックスから、再生パッドと止血カバーを出して傷にあてた。昇圧剤を太ももに突き刺す。
「三日半経ってるかな……」
その間にバルトロイとヴェスタは他の子どもたちの体を並べた。
「他の子達は……」
一目見ただけでわかった。生きている子はもういない。バルトロイもヴェスタも出動服が血と体液でどろどろになっていた。
「…………ありがとう、ヴェスタ、バルトロイ。一人だけでも助けられて良かった……」
ザムザが項垂れて言った。エアランナーが到着して、ザムザと少女と一緒に乗り込んだ。少女にはすぐに点滴が打たれ、体を温める処置と輸血が始まる。離陸。施設を見下ろす。
ヴェスタとバルトロイがこちらに手を振るのをやめて帰っていくのが空から見えた。草原を歩くバルトロイがふと足を止める。ヴェスタが駆け寄るようにしてバルトロイの隣に来る。二人で並んで歩き始める。
あのレプリカントは、バルトロイが自分を待って足を止めたことに気付いているんだろうか。
ふと自分がヴェスタに感じる苛立ちの正体を見た気がした。ヴェスタが来る前から、バルトロイは目立って成績が良かったらしい。大きな仕事を解決するわけじゃないけど、コツコツと保護や逮捕を重ねる地道なスタイル。扱う件数が群を抜いていた。
ただバディがコロコロ変わるから、コンビで評価されることはなかった。バルトロイがヴェスタと組んで3年経ち、4年目ともなると、レプリカントの捜査官なんていう物珍しさもあって、保安関係者で知らないものはいない二人になった。
バルトロイはもともと凄いやつなんだよ。ただバディとの相性がよくなかっただけ。たまたま一番長く続いたからって、あんな知識も経験もない世間知らずなひょろひょろのレプリカントなんかがバルトロイとひとセットで評価されるのが無性にむかつくんだ。
しかもそれを自覚して少しは小さくなってんのかと思ったら、結構気が強くて態度がでかい。バルトロイともザムザ先輩とも対等なつもりらしい。凄いのはバルトロイなんだよ。気がついているのか? レプリカント。
あのヴェスタの、のほほんとバルトロイからの庇護を当たり前に享受しているさまが許せないんだ。
「血圧が安定してきました。体温もいいですね。生命は別状ないでしょう。念のため抗生剤を打っておきます」
「それから、遺体が14体あるんです。ええ。搬送用を……いや、エアランナーでなくていいです……もう亡くなっているので……」
はっと振り返ると、エアランナー付属の医療用ドロイドが治療を終え、ザムザが遺体の搬送を要請していた。
「あ……何か、やることありますか」
「いや。もうないよ」
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