Occupied レプリカント人権保護局

黒遠

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06 パイド・パイパー 連邦捜査官ザムザ・ホープの事件簿

07 Wdgat (武器)

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「はあ……」

 さすがにひどく気落ちした。一人しか助けられなかった……。でもあれだけ切りつけられていたら、昨日、一昨日に駆けつけられたとしても結果は変わらなかったかも知れない。

「……さて。振り出しに戻るってやつだ」

 ザムザが向かいのデスクについた。

「大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」
「大丈夫。残念だっただけだ」

 振り出し。犯人は誰でどこに行ったのか……。端末にポンと鑑識からの第一報が届いた。解剖はまだだけど、目視で得られた情報は入っている。14人分の遺体の状況。ざっと目を通す。自分の目で見た状況とあまり変わらない。刃物で「切り捨てられた」みたいな。

 ふっと目を上げると、ザムザはとても真剣な顔でレポートを読んでいた。先輩だって直接あの惨状を見たのに、何をそんなに読むんだろう……。

「ウジャト、どう思う?」
「何がですか?」
「違うと思わないか? 大人たちの遺体と」

 言われてもう一度読んでみる。首を落とされている子が一人。大半の子が首元をざっくり切られて失血死している。皮一枚で首が繋がっていたような遺体が三体。背中から切り付けられているのも多い。一番小さかった女の子は体を真っ二つにされた。違い……違い……?

「傷が……あっさりしてますかね……?」
「だよな。大人たちのはプラスアルファがあった……けど、子どもたちのはとにかく殺せたらいいって感じだ」

 言われてみればそうだ。大人の方は、マリオ以外は絶命までに時間をかけているのに、子どもたちは一撃の致命傷。

「どうしてだろうなあ~」

 思いつきを口に出してみる。

「時間がなかったとか」
「ふむ。あとは」
「興味がなかったとか」
「興味がなかった。そうかもしれない。犯人の動きをトレースしてみよう」

 犯行時刻……犯人が施設に入ってきたのは午前一時過ぎと考えられる。これは解剖の結果とも齟齬がない。ただし、女性たちは攻撃されてから死亡に至るまでに時間がかかっている。マリオの死亡推定時刻と、最後に死んだと思われるイリーナの死亡推定時刻には二時間近い違いがある。

「その間に子どもたちは目が覚めて、何か恐ろしいことが起きているのに気がついたわけだ。そっと子ども部屋を出て、隠れ家に逃げ込む」

 15人の幼い子どもたちだ。大きい子が小さい子の手を引いて。想像するだに辛い光景。真っ暗な穴の中で息を潜めていたんだろう。犯人は子どもたちの脱走に気がつく。すぐに追ったのか?

「子どもたちの死亡推定時刻は出たか?」
「遺体が、三日経っているのであまり詳細には……。胃の中を見ないと」
「うーん」

 すぐに子どもたちを追ったとする。その時にはもうナラもイリーナも、通報やリアクションが無理な状態だったことになる。

「動機がわからなくなったな」

 子どもの誘拐というのが目的だから大人たちを殺したんだと思った。でも子どもたちも皆殺しにするなら、何が?

「何か……何かないかな……」

 ザムザが端末の中の画像を開いては見直す。

「あの被害者の女の子が目を覚ましたら何か聞けませんかね」
「うーん……話せる状態になるかどうか。まずカウンセリングを受けて精神状態を確認しないと」

 子どもに興味がなかった?

「大人の方を殺したかった?」
「そういうことだな……もう一度、3人の人間関係を洗ってみよう。特にナラとイリーナだ。彼女たちは意図的に時間をかけて殺されてる。拷問でもするみたいに」

 届いていた3人の履歴書を見てみる。マリオは大学で児童心理学を学び、保育士資格を取って3年前にエッシャー児童養護施設に入職している。まだ実年齢でも25歳。

 ナラは32歳で、5年前から勤務。この施設の前はプライマリースクールで任期付の養護教諭だった。

 イリーナはハイスクールを卒業して保育士の養成学校に入り、その後街中のキンダーで7年間勤務した後、この施設に来ている。今年で22年目の最長勤続者……。
 それぞれの家族に簡単に聴取する。皆悲しみに沈んでいてなかなか言葉が出て来ないが、犯人に心当たりはないとのことだった。

「女性だったから?」
「あー……。性的欲求を殺人行為と混同する?」

 ないとは言い切れないだろうな、とザムザはつぶやいた。さらさらとブリングになにかを書く。それがこちらの端末にも映し出された。

・動機
 個人的な怨恨?
 快楽殺人?
 その他?
・犯人
 男性(性転換なし)
 身長180以上または体重100キロ以上
・凶器
 大型のナイフ(一本では不可能)?

 わからないことだらけだ。何一つ分からない。

 何も思いつかなくて黙りこくっていると、ピコンと端末にノティスが入った。鑑識からだ。

 ザムザと鑑識に話を聞きにいく。鑑識は地下3階にあって、地下二階と地下一階は遺体安置用の冷凍室になっている。冷凍室の扉は厚く、二重扉になっているから冷気が漏れるはずはないのに、なんとなくいつもここに来ると薄寒くなる。

「ザムザ。ウジャト」

 白衣とフェイスシールドを着込んだ鑑識官のマーフィが手招きした。銀色の解剖室のドアを開けると、ものすごい死臭が鼻をつく。

「死亡推定時刻は三時とか四時かなと。胃の内容物がほとんど残っていないんで……」

 全ての遺体があるわけではなかった。二体の小さな遺体が台に乗せられて横たわっている。

「凶器は大人たちを殺したのと同じだね。でね、大人の人たちの刺創をよくよく調べてみたら、面白いことがわかった」
「面白い事?」

 マーフィが拡大された組織片の画像を端末に映し出す。

「これはね、刺創の拡大図。見て。どう思う?」
「ぎざぎざしてる?」

 薄赤い地層のような組織には、さざなみのように細かく凹凸がついている。滑らかな切り口ではない。

「そう。まあ、大袈裟に言うとノコギリみたいにね、少しこう、刃を前後に細かく動かすことで切れ味を良くしてるんだね。たぶんなんだけど、胸の傷のサイズ、刃渡りなんかから見ると、工事用の超振動カッターじゃないかなと思うんだ」

 超振動カッター。

「一般人はあまり使わないね。プラスチックパイプなんかを加工する時に使う、小型でも振動するせいで硬いものや鉄製品なんかも切れるやつだ」

 端末に一本のナイフの映像。持ち手のところが普通のナイフより大きくてボタンが付いている。

「これ?」
「たぶん」
「手に入れるのは難しい?」
「うーん……工具の専門店に行けば売ってる。でも普通の人は存在から知らないだろうね。それから、あの洞窟の中からブリングが見つかった。体液が溜まった水の中から。情報担当に回してデータを抜いてもらってる。すぐ連絡が行くと思うよ」

 ブリング? 誰の?

「ありがとう!」

 ザムザの方はピンと来たみたいだった。







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