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09 「ふたり」の形
13 Baltroy (相手)
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「なんだこれは?」
「さあ? でもカードが使われた日時的に、ここで間違いないでしょう。良かったですね。風俗店かも知れませんが、個人宅やデートではありません」
「お前知ってたな?」
「私の共同管理者のカード利用先の信頼度を確認するのはホームキープドロイドの職務の一環です」
レッダが勘違いして「間違って」送ってきたヴェスタのカードの使用明細を見た。別にヴェスタの相手探しをしたかったわけではないが、こうなると見ないわけにはいかない。
毎週土曜日、ヴェスタが必ずカードを使っている。支払い先はクリニックだが保険適応になっていない。保護局員はもれなく職員保険がついているのに、それを使わないのは病気や怪我の治療ではないからだ。あるいは、通っていることを保護局に伏せておきたいのか。
「じゃあ何のクリニックなのかも調べてるんだろ?」
「それが、検索もしたんですが専門が出てこないんです」
ログバートクリニック。
どうしてかな。初めて見た気がしないこの字面。ヴェスタから聞いた? 違う。文字で見た。耳からの情報じゃない。何だ? ニュース記事か? 違う……こんな感じの明細だ。何の?
「あっ」
そんな偶然あるか?
「レッダ、俺ちょっと局に行って来る。確認したい」
土曜日だ。こんな日にレプリカント人権保護局からコールがあったら変かも知れない。でも何かしないといられない。悪いことが起きてるんじゃなければいい。
局に入ると当直のナツナとシュノーゼルが驚いた顔をした。
「ごめん。急に思い出したことがあって。ちょっとやったら帰る」
「相変わらずね! 通報があったら出動させるわよ」
自殺したメアリ。銀行口座の引き落としを見る。いくつかのクリニックでカードを使っている。そして、ログバートクリニックでも。これだ。なんでちゃんと調べなかったんだ? 自殺幇助だ。医師との関係だけ調べて安心していた。どうして見逃してしまったんだろう。
すぐに検索をかける。口座情報を見た時点で、全部のクリニックの内容を確認しなきゃいけなかった。甘ったれたんだな、俺が。コンロンとキンバリーの事件なんだから、大抵のことは調べが済んでるだろうと。
クリニックとしてのIDは見つかる。でも情報がほとんどない。病院データベースも、院名とID以外は空欄だ。口コミもない。胡散臭いにも程がある。コールしてみる。意外にも、3コールしないうちに誰かが出た。
『はい。ログバートクリニックです』
「こんにちは、レプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです」
どこから切り出す?
「……お話をお伺いしたいことがありまして、訪問させて頂いてもいいですか? できれば今すぐ」
これが色々と手っ取り早そうだ。
公用車を回すと、ナツナが気付いて肩をすくめた。
「ちょっと! 単独で? 土曜日に? 非番なのに? 何やってるのよ」
「殴り合いにならないように気をつける」
三冠王。まあイラッとはするだろうな。ヴェスタが付けてきたにおいだったら。
ログバートクリニックは郊外に近いまずまずアーバンな住宅地に、普通の住宅みたいな顔をして建っていた。看板はない。インターフォンを鳴らすと、さっきコールを取った男の声が聞こえた。
『どうぞ』
玄関に入ってすぐにわかった。ここだ。ヴェスタの服についた匂い。左奥の部屋からグリーンの目の男が出てきて、にこにこと俺にカウチを勧めた。
部屋にはヴェスタの涙の匂いが残っている。全く頭になかったが、かち合う可能性があったことにやっと気がついた。男は自然に木製のデスクについた椅子に座り、こちらを向いた。端正な好青年。こいつだ。まあでも、ヴェスタの浮気相手を探しにきたわけじゃない。
「突然申し訳ありません。レプリカント人権保護局のA492090rpです。ある事件の捜査をしていまして、こちらに被害者が来ていたようでしたのでお話を伺いたいと」
「そうでしたか」
部屋は薄暗い。イージーミュージックと茶色やグリーンが基調の家具。何屋だよほんとに。
「まず、こちらはどういった施設なんですか? クリニックとありますけど、専門は何科ですか?」
「クリニックと言っても、別に治療するわけじゃないんです。医師は一人、籍はおいていますが。カウンセリングをして、まあ、気持ちを軽くしていただくところですね。僕はカウンセラーです」
「なるほど」
なるほど。そういえばこいつの顔も見たことがある。カウンセリング技術の研修の時だ。ヴェスタを迎えに行った時、一緒にいたやつ。
「メアリ・トールローさんはご存知ですか? こちらの女性ですが」
ブリングで彼女の顔の画像を見せる。男の表情は読めない。
「何度かカウンセリングを受けていた人です。何かあったんですか?」
「自殺されたんです。彼女はここでどんな話をしました?」
「……ご存知とは思いますが、どんな内容の話をしたのかは守秘義務があってお話できないんです」
ついでに言うとついさっき俺の恋人がここで泣きながら何か話していったと思うけど何を話したんだよ。守秘義務があってお話しできないんだろうけど。
「そうでしょうね。彼女と個人的な付き合いはありましたか?」
「いいえ。全てのクライアントさんと個人的な付き合いはしないんです」
「仲良くなっても?」
「ええ。食事に誘われたり、プレゼントを受け取って欲しいと言われたりは、正直多くのクライアントさんからあります。でも全てお断りしています」
「それはなぜですか」
「こういう仕事ですと、どうしても話の内容が他の人には言えないような秘密の話が多くなるので、クライアントさんがカウンセラーに恋愛感情を持ちやすくなってしまうんですね。秘密を共有している、という意識からですが、それは治療に望ましいことではないですし、僕の方も身が持たないです」
カウンセラーの男はにこっと笑った。感じの良い笑顔と場を和ませるジョーク。イラッとするね。
「そうですか」
ヴェスタにもその距離感を保ってほしいもんだ。勢いで来てしまったが、話を聞いてみるとさほど怪しいこともない。
「メアリさんは? あなたに対して、特別な感情があるような素振りはありましたか? これは相談内容を聞いているわけではないのでお答え頂きたいんですが」
「いえ。彼女は、そういうのはなかったですね」
今聞けるのはこれくらいか。たまたまヴェスタの通っているカウンセラーと被害者のカウンセラーが被っただけか。変に前のめりになってしまった。これなら月曜日でも良かった……だめか。ヴェスタはさすがにここでは聴取できないだろう。通ってるカウンセラーから話を聞き出すなんてな。
「念のため、名刺を頂いてもいいですか」
「もちろんです、どうぞ」
男がブリングを翳す。俺のブリングにぱっとデータが飛んできた。エミール・ボネット。
「ログバートさんじゃないんですか?」
「あ。ログバートは在籍している医師の名前です」
ブリングを近づけた彼の左手の薬指に指輪があることに気がついた。結婚もしている。
「これも念のためなんですが、あなたはレプリカントですよね? オーナーは?」
「ログバートです」
「ご結婚相手も?」
「そうです」
ふうん。典型的なレプリカントとオーナー。いいね。三冠王にならなそうで。羨ましい。
レプリカントがオーナーと結婚してたら、よほど支配率が低くない限り浮気はしない。だからヴェスタがこいつのにおいを付けていたのは、本当に単純に患者としてここに居たからなんだろう……。少なくともこの男にはヴェスタとどうにかなることは性質上かなり難しい。
レプリカントの匂いが肌に残るなんて、ちょっと近づきすぎじゃないかと思うけど。
「クライアントさんに物理的に接触することはありますか? 例えば、手に触れたり、すぐ隣に腰を下ろしたり」
「ありますよ。精神的に不安定になる方が多いので、そう言う時に落ち着けるように肩をさすったり手を握ったりすることがあるんです」
「なるほど。わかりました。ご対応ありがとうございました」
家に帰るともうヴェスタは戻ってきていたようだったが、部屋に篭ったきりになっていた。
「おかえりなさい、バル。どうでしたか?」
「うん、わかったことはあった」
「何のクリニックでした?」
「カウンセリングだな。そういえば行こうと思ってるとは聞いてたんだ……別になんてことなさそうだ」
「そうでしょうか」
「……なんだよ」
レッダはそこまででしゃべらなくなってしまった。そうでしょうか?
そうでしょうか。
まだ使えるか試したくて。
そうだったな。あの香水の問題があった。俺じゃない誰かにあの香水を使うつもりなんだ。
左手に指輪のある男。毎週部屋で二人きり。秘密の共有になってしまうので、恋愛感情を持ちやすく……
「……まじかあ。あのカウンセラーに片想いなのかな……」
「さあどうでしょう」
そう言えばあんな感じの好青年はヴェスタの好みなんだよ。アラスターと被るもんな。俺はヴェスタに色々注文をつけてオーダーできても、ヴェスタの方は俺を選べなかったんだから。
思わず深くため息をつく。そういえばあいつは俺の何が好きだったんだろうな。
「そんなに落ち込まないでください、バル。決まったわけじゃないんですから」
「お前から普通に慰められると余計落ち込むよ」
月曜日までヴェスタの顔をほとんど見なかった。出勤のオートキャリアの中でも、ヴェスタはずっと青い髪をして窓の外を見ている。声をかけても生返事しかしない。
いい加減にしろよ。言いたいことがあるんならちゃんと話せ。
でもそう言って、「それじゃ」って別れ話をされるのが怖くて言えない。いやいや。別れ話されるならされるでもうしょうがないんだ。
窓の外を眺めるブルーの髪と、それから覗く白い耳が見えた。俺の方は「それじゃ」とは言えない。全然心の準備ができていない。
おいヴェスタ、あのカウンセラーはオーナーと結婚してるレプリカントだ。好きになっても無駄なんだよ。お前がどんなに胸を痛めても、あの香水を使って抱かれたとしても、お前の方には来ないんだ。だから……。
おい、オーナーの命令だ。俺の恋人でいろ。
局の前にオートキャリアが着く。ヴェスタが黙って降りる。反対側のドアから降りた俺の斜め後ろから付いてくる。
「おはよう、バル、ヴェスタ」
「おはよう」
「おはよー」
「ハイ、バル」
席に着く、やる気が起きない。切り替えろ。ヴェスタには気分を持ち込むなって叱ったくせにな。
「ヴェスタ、現況コールどこまでやる?」
「俺が全部やる」
ヴェスタはそれだけ言ってコールをし始めた。現況コールは問題がなければ淡々とできる仕事だから、頭の中が散らかってる時はやりやすい仕事なんだけどな。じゃあ何をするか……。
メアリ・トールローのデータを開く。土曜日に反省した。コンロンとキンバリーが俺たちを巻き込んだのは俺たちにしか見えないものを見てほしいってことなのに、どうしてやらなかったんだろう。
誰もやらないクソめんどくさくて地味なことをやるのが俺のやり方で、それを多分見込んでくれたんじゃないのか。単に物珍しかっただけかも知れないけど。ハイブリッドとレプリカントのコンビが。
まず先日追加でもらったデータを見直す。メアリがSNSで参加していたコミュニティの人物相関図。蜘蛛の巣のようだ。大変だっただろう、これを作るのは。
人物はいくつかのクラスターになっている。友達の友達の友達、くらいの集団。それらが誰かで繋がって別のクラスターになる。メアリは、その中にあって少し浮いている。
彼女はどのコミュニティでも少数の人としか繋がらない。彼女と直接繋がっているのはほんの数人で、クラスターを形成していない。あまり人付き合いが上手くなかったのか、狭く深く付き合うタイプだったのか。
次にクリニックを再確認する。通っていたのは四件。耳鼻科と皮膚科と歯医者と、先日のログバートクリニック。
それぞれのクリニックに所属する医師を確認してもう一度調べ直す。耳鼻科と皮膚科。普通の経歴。複数の医師が在籍している。一人一人改めて彼女との接点を探すが、だれも診察以外に関係のある医師はいない。もちろん歯医者も、ログバートクリニックのログバート医師も。
やっぱり何もないのかな。ただの寄り道になったか?
もう一歩踏み込んでみる。医師の名前で検索をかける。論文、医師会の名簿、SNS、ニュース記事、死亡届。
死亡届?
開いてみる。耳鼻科と皮膚科と歯医者とカウンセリングのクリニックの医師の誰がどうして死亡届なんか出すんだ? 名前を確認する。オレグ・ログバート。
「……」
胡散臭くなってきた。いや。待て。バイアスをかけるな。死亡したのはマンデグレース症候群の女性。進行性の難病で、かなり苦しみながら多臓器不全で死んでしまうやつだ。死因は心不全、となっている。死亡届としては普通だ。
オレグ・ログバート単体で検索する。死亡届、死亡届、死亡届、ニュース記事、死亡届……。ちょっと異様な画面。なんだこれ?
まずニュース記事を見てみる。第3カウンティ・ホスピタルで医療事故。医師のオレグ・ログバートが誤った薬剤を指示、患者一名が一時意識不明に。10年前の記事だ。
死亡届の方を上から見てみる。末期の難治ガンの男性、心不全。進行性アルツハイマーの男性、心不全。脳幹グリオーマの女性、心不全。
「………」
まだある。神経性疼痛症候群の女性、心不全。特異性メルドール病の女性、心不全。心不全、心不全………。
まあ、素人目にも全部根治が難しい致死性の病気だ。でも専門もバラバラの病気の人々をなぜオレグ・ログバートが看取っている?
信頼できる人に安楽死を依頼し……
安楽死か?
オレグ・ログバートの照会をする。戸籍には小太りの茶色の髪の男が写っている。医師。13年前に結婚している。対遇はエミール・ボネット。先日のレプリカントだ。コールしてみるか……
……………エミール・ボネットで照会をかける。違う。個人的なアレじゃない。容疑者の身辺はちゃんと確認しておかないといけない。
ぱっと茶色の髪とグリーンの目の優しげな男の顔が写る。反射的にイラッとする。かなり古いレプリカントだ。15年前の製造。
そりゃそうか、オレグと結婚して13年なんだもんな。羨ましいね、長続きしてて。臨床心理士の資格を持っている。プレインストールじゃない。10年ほど前に追加でカウンセリング技能をインストールされている。
「ん?」
プレインストールの欄に「医師」とある。レプリカントが、医師?
もちろんレプリカントには医師としての知識や技術を身につけることはできる。でも実際に診療はできない。人体に侵襲性のあること、例えば注射や採血なんかができないから。
プレインストールでレプリカントに医師の知識を入れるのは、ホームドクター的な役割を期待してのことだ。健康相談ができて、ちょっとした怪我の手当てや診察はできるという程度。コスパが悪いので、よほど余裕のある人でないと医師の知識のプレインストールはしない。
なんだろうな。普通じゃない。直接本人にあたるか? まず外堀を埋めたい。コールする。
『はい。第三カウンティ・ホスピタルです』
「こんにちは、レプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです。捜査の関係で、10年ほど前のことを伺いたいんですが、どなたかその頃のことに詳しい方はいらっしゃいませんか?」
泥臭く行こう。
「さあ? でもカードが使われた日時的に、ここで間違いないでしょう。良かったですね。風俗店かも知れませんが、個人宅やデートではありません」
「お前知ってたな?」
「私の共同管理者のカード利用先の信頼度を確認するのはホームキープドロイドの職務の一環です」
レッダが勘違いして「間違って」送ってきたヴェスタのカードの使用明細を見た。別にヴェスタの相手探しをしたかったわけではないが、こうなると見ないわけにはいかない。
毎週土曜日、ヴェスタが必ずカードを使っている。支払い先はクリニックだが保険適応になっていない。保護局員はもれなく職員保険がついているのに、それを使わないのは病気や怪我の治療ではないからだ。あるいは、通っていることを保護局に伏せておきたいのか。
「じゃあ何のクリニックなのかも調べてるんだろ?」
「それが、検索もしたんですが専門が出てこないんです」
ログバートクリニック。
どうしてかな。初めて見た気がしないこの字面。ヴェスタから聞いた? 違う。文字で見た。耳からの情報じゃない。何だ? ニュース記事か? 違う……こんな感じの明細だ。何の?
「あっ」
そんな偶然あるか?
「レッダ、俺ちょっと局に行って来る。確認したい」
土曜日だ。こんな日にレプリカント人権保護局からコールがあったら変かも知れない。でも何かしないといられない。悪いことが起きてるんじゃなければいい。
局に入ると当直のナツナとシュノーゼルが驚いた顔をした。
「ごめん。急に思い出したことがあって。ちょっとやったら帰る」
「相変わらずね! 通報があったら出動させるわよ」
自殺したメアリ。銀行口座の引き落としを見る。いくつかのクリニックでカードを使っている。そして、ログバートクリニックでも。これだ。なんでちゃんと調べなかったんだ? 自殺幇助だ。医師との関係だけ調べて安心していた。どうして見逃してしまったんだろう。
すぐに検索をかける。口座情報を見た時点で、全部のクリニックの内容を確認しなきゃいけなかった。甘ったれたんだな、俺が。コンロンとキンバリーの事件なんだから、大抵のことは調べが済んでるだろうと。
クリニックとしてのIDは見つかる。でも情報がほとんどない。病院データベースも、院名とID以外は空欄だ。口コミもない。胡散臭いにも程がある。コールしてみる。意外にも、3コールしないうちに誰かが出た。
『はい。ログバートクリニックです』
「こんにちは、レプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです」
どこから切り出す?
「……お話をお伺いしたいことがありまして、訪問させて頂いてもいいですか? できれば今すぐ」
これが色々と手っ取り早そうだ。
公用車を回すと、ナツナが気付いて肩をすくめた。
「ちょっと! 単独で? 土曜日に? 非番なのに? 何やってるのよ」
「殴り合いにならないように気をつける」
三冠王。まあイラッとはするだろうな。ヴェスタが付けてきたにおいだったら。
ログバートクリニックは郊外に近いまずまずアーバンな住宅地に、普通の住宅みたいな顔をして建っていた。看板はない。インターフォンを鳴らすと、さっきコールを取った男の声が聞こえた。
『どうぞ』
玄関に入ってすぐにわかった。ここだ。ヴェスタの服についた匂い。左奥の部屋からグリーンの目の男が出てきて、にこにこと俺にカウチを勧めた。
部屋にはヴェスタの涙の匂いが残っている。全く頭になかったが、かち合う可能性があったことにやっと気がついた。男は自然に木製のデスクについた椅子に座り、こちらを向いた。端正な好青年。こいつだ。まあでも、ヴェスタの浮気相手を探しにきたわけじゃない。
「突然申し訳ありません。レプリカント人権保護局のA492090rpです。ある事件の捜査をしていまして、こちらに被害者が来ていたようでしたのでお話を伺いたいと」
「そうでしたか」
部屋は薄暗い。イージーミュージックと茶色やグリーンが基調の家具。何屋だよほんとに。
「まず、こちらはどういった施設なんですか? クリニックとありますけど、専門は何科ですか?」
「クリニックと言っても、別に治療するわけじゃないんです。医師は一人、籍はおいていますが。カウンセリングをして、まあ、気持ちを軽くしていただくところですね。僕はカウンセラーです」
「なるほど」
なるほど。そういえばこいつの顔も見たことがある。カウンセリング技術の研修の時だ。ヴェスタを迎えに行った時、一緒にいたやつ。
「メアリ・トールローさんはご存知ですか? こちらの女性ですが」
ブリングで彼女の顔の画像を見せる。男の表情は読めない。
「何度かカウンセリングを受けていた人です。何かあったんですか?」
「自殺されたんです。彼女はここでどんな話をしました?」
「……ご存知とは思いますが、どんな内容の話をしたのかは守秘義務があってお話できないんです」
ついでに言うとついさっき俺の恋人がここで泣きながら何か話していったと思うけど何を話したんだよ。守秘義務があってお話しできないんだろうけど。
「そうでしょうね。彼女と個人的な付き合いはありましたか?」
「いいえ。全てのクライアントさんと個人的な付き合いはしないんです」
「仲良くなっても?」
「ええ。食事に誘われたり、プレゼントを受け取って欲しいと言われたりは、正直多くのクライアントさんからあります。でも全てお断りしています」
「それはなぜですか」
「こういう仕事ですと、どうしても話の内容が他の人には言えないような秘密の話が多くなるので、クライアントさんがカウンセラーに恋愛感情を持ちやすくなってしまうんですね。秘密を共有している、という意識からですが、それは治療に望ましいことではないですし、僕の方も身が持たないです」
カウンセラーの男はにこっと笑った。感じの良い笑顔と場を和ませるジョーク。イラッとするね。
「そうですか」
ヴェスタにもその距離感を保ってほしいもんだ。勢いで来てしまったが、話を聞いてみるとさほど怪しいこともない。
「メアリさんは? あなたに対して、特別な感情があるような素振りはありましたか? これは相談内容を聞いているわけではないのでお答え頂きたいんですが」
「いえ。彼女は、そういうのはなかったですね」
今聞けるのはこれくらいか。たまたまヴェスタの通っているカウンセラーと被害者のカウンセラーが被っただけか。変に前のめりになってしまった。これなら月曜日でも良かった……だめか。ヴェスタはさすがにここでは聴取できないだろう。通ってるカウンセラーから話を聞き出すなんてな。
「念のため、名刺を頂いてもいいですか」
「もちろんです、どうぞ」
男がブリングを翳す。俺のブリングにぱっとデータが飛んできた。エミール・ボネット。
「ログバートさんじゃないんですか?」
「あ。ログバートは在籍している医師の名前です」
ブリングを近づけた彼の左手の薬指に指輪があることに気がついた。結婚もしている。
「これも念のためなんですが、あなたはレプリカントですよね? オーナーは?」
「ログバートです」
「ご結婚相手も?」
「そうです」
ふうん。典型的なレプリカントとオーナー。いいね。三冠王にならなそうで。羨ましい。
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レプリカントの匂いが肌に残るなんて、ちょっと近づきすぎじゃないかと思うけど。
「クライアントさんに物理的に接触することはありますか? 例えば、手に触れたり、すぐ隣に腰を下ろしたり」
「ありますよ。精神的に不安定になる方が多いので、そう言う時に落ち着けるように肩をさすったり手を握ったりすることがあるんです」
「なるほど。わかりました。ご対応ありがとうございました」
家に帰るともうヴェスタは戻ってきていたようだったが、部屋に篭ったきりになっていた。
「おかえりなさい、バル。どうでしたか?」
「うん、わかったことはあった」
「何のクリニックでした?」
「カウンセリングだな。そういえば行こうと思ってるとは聞いてたんだ……別になんてことなさそうだ」
「そうでしょうか」
「……なんだよ」
レッダはそこまででしゃべらなくなってしまった。そうでしょうか?
そうでしょうか。
まだ使えるか試したくて。
そうだったな。あの香水の問題があった。俺じゃない誰かにあの香水を使うつもりなんだ。
左手に指輪のある男。毎週部屋で二人きり。秘密の共有になってしまうので、恋愛感情を持ちやすく……
「……まじかあ。あのカウンセラーに片想いなのかな……」
「さあどうでしょう」
そう言えばあんな感じの好青年はヴェスタの好みなんだよ。アラスターと被るもんな。俺はヴェスタに色々注文をつけてオーダーできても、ヴェスタの方は俺を選べなかったんだから。
思わず深くため息をつく。そういえばあいつは俺の何が好きだったんだろうな。
「そんなに落ち込まないでください、バル。決まったわけじゃないんですから」
「お前から普通に慰められると余計落ち込むよ」
月曜日までヴェスタの顔をほとんど見なかった。出勤のオートキャリアの中でも、ヴェスタはずっと青い髪をして窓の外を見ている。声をかけても生返事しかしない。
いい加減にしろよ。言いたいことがあるんならちゃんと話せ。
でもそう言って、「それじゃ」って別れ話をされるのが怖くて言えない。いやいや。別れ話されるならされるでもうしょうがないんだ。
窓の外を眺めるブルーの髪と、それから覗く白い耳が見えた。俺の方は「それじゃ」とは言えない。全然心の準備ができていない。
おいヴェスタ、あのカウンセラーはオーナーと結婚してるレプリカントだ。好きになっても無駄なんだよ。お前がどんなに胸を痛めても、あの香水を使って抱かれたとしても、お前の方には来ないんだ。だから……。
おい、オーナーの命令だ。俺の恋人でいろ。
局の前にオートキャリアが着く。ヴェスタが黙って降りる。反対側のドアから降りた俺の斜め後ろから付いてくる。
「おはよう、バル、ヴェスタ」
「おはよう」
「おはよー」
「ハイ、バル」
席に着く、やる気が起きない。切り替えろ。ヴェスタには気分を持ち込むなって叱ったくせにな。
「ヴェスタ、現況コールどこまでやる?」
「俺が全部やる」
ヴェスタはそれだけ言ってコールをし始めた。現況コールは問題がなければ淡々とできる仕事だから、頭の中が散らかってる時はやりやすい仕事なんだけどな。じゃあ何をするか……。
メアリ・トールローのデータを開く。土曜日に反省した。コンロンとキンバリーが俺たちを巻き込んだのは俺たちにしか見えないものを見てほしいってことなのに、どうしてやらなかったんだろう。
誰もやらないクソめんどくさくて地味なことをやるのが俺のやり方で、それを多分見込んでくれたんじゃないのか。単に物珍しかっただけかも知れないけど。ハイブリッドとレプリカントのコンビが。
まず先日追加でもらったデータを見直す。メアリがSNSで参加していたコミュニティの人物相関図。蜘蛛の巣のようだ。大変だっただろう、これを作るのは。
人物はいくつかのクラスターになっている。友達の友達の友達、くらいの集団。それらが誰かで繋がって別のクラスターになる。メアリは、その中にあって少し浮いている。
彼女はどのコミュニティでも少数の人としか繋がらない。彼女と直接繋がっているのはほんの数人で、クラスターを形成していない。あまり人付き合いが上手くなかったのか、狭く深く付き合うタイプだったのか。
次にクリニックを再確認する。通っていたのは四件。耳鼻科と皮膚科と歯医者と、先日のログバートクリニック。
それぞれのクリニックに所属する医師を確認してもう一度調べ直す。耳鼻科と皮膚科。普通の経歴。複数の医師が在籍している。一人一人改めて彼女との接点を探すが、だれも診察以外に関係のある医師はいない。もちろん歯医者も、ログバートクリニックのログバート医師も。
やっぱり何もないのかな。ただの寄り道になったか?
もう一歩踏み込んでみる。医師の名前で検索をかける。論文、医師会の名簿、SNS、ニュース記事、死亡届。
死亡届?
開いてみる。耳鼻科と皮膚科と歯医者とカウンセリングのクリニックの医師の誰がどうして死亡届なんか出すんだ? 名前を確認する。オレグ・ログバート。
「……」
胡散臭くなってきた。いや。待て。バイアスをかけるな。死亡したのはマンデグレース症候群の女性。進行性の難病で、かなり苦しみながら多臓器不全で死んでしまうやつだ。死因は心不全、となっている。死亡届としては普通だ。
オレグ・ログバート単体で検索する。死亡届、死亡届、死亡届、ニュース記事、死亡届……。ちょっと異様な画面。なんだこれ?
まずニュース記事を見てみる。第3カウンティ・ホスピタルで医療事故。医師のオレグ・ログバートが誤った薬剤を指示、患者一名が一時意識不明に。10年前の記事だ。
死亡届の方を上から見てみる。末期の難治ガンの男性、心不全。進行性アルツハイマーの男性、心不全。脳幹グリオーマの女性、心不全。
「………」
まだある。神経性疼痛症候群の女性、心不全。特異性メルドール病の女性、心不全。心不全、心不全………。
まあ、素人目にも全部根治が難しい致死性の病気だ。でも専門もバラバラの病気の人々をなぜオレグ・ログバートが看取っている?
信頼できる人に安楽死を依頼し……
安楽死か?
オレグ・ログバートの照会をする。戸籍には小太りの茶色の髪の男が写っている。医師。13年前に結婚している。対遇はエミール・ボネット。先日のレプリカントだ。コールしてみるか……
……………エミール・ボネットで照会をかける。違う。個人的なアレじゃない。容疑者の身辺はちゃんと確認しておかないといけない。
ぱっと茶色の髪とグリーンの目の優しげな男の顔が写る。反射的にイラッとする。かなり古いレプリカントだ。15年前の製造。
そりゃそうか、オレグと結婚して13年なんだもんな。羨ましいね、長続きしてて。臨床心理士の資格を持っている。プレインストールじゃない。10年ほど前に追加でカウンセリング技能をインストールされている。
「ん?」
プレインストールの欄に「医師」とある。レプリカントが、医師?
もちろんレプリカントには医師としての知識や技術を身につけることはできる。でも実際に診療はできない。人体に侵襲性のあること、例えば注射や採血なんかができないから。
プレインストールでレプリカントに医師の知識を入れるのは、ホームドクター的な役割を期待してのことだ。健康相談ができて、ちょっとした怪我の手当てや診察はできるという程度。コスパが悪いので、よほど余裕のある人でないと医師の知識のプレインストールはしない。
なんだろうな。普通じゃない。直接本人にあたるか? まず外堀を埋めたい。コールする。
『はい。第三カウンティ・ホスピタルです』
「こんにちは、レプリカント人権保護局の捜査官A492090rpです。捜査の関係で、10年ほど前のことを伺いたいんですが、どなたかその頃のことに詳しい方はいらっしゃいませんか?」
泥臭く行こう。
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そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
恋人はメリーゴーランド少年だった。
夏目奈緖
BL
溺愛ドS社長×ツンデレ高校生。年の差恋愛。社長からの告白と束縛に戸惑う高校生。すれ違いばかりの片想いから恋人同士へ。ひねくれもの天使的な高校生と心を閉ざした会社社長との年の差BL。中山夏樹(18)は従姉妹の結婚式の2次会で、倒れてきた酔っ払いの下敷きになり左手に怪我を負った。助けてくれたのが、会場レストラン経営の黒崎ホールディングス代表取締役社長・黒崎圭一(33)。左手の抜糸がすむまで黒崎の車で送迎されることになった。黒崎は誰にも心を開かない。夏樹も同じである。しかしながら、夏樹は黒崎の前だけは自分の意思とは反対に、本音を吐き出す。2人は孤独を抱えており、夏樹は黒崎に惹かれていく。黒崎は夏樹に一目惚れし、執着する。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
【BL】『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとでした
圭琴子
BL
この世界は、αとβとΩで出来てる。
生まれながらにエリートのαや、人口の大多数を占める『普通』のβにはさして意識するほどの事でもないだろうけど、俺たちΩにとっては、この世界はけして優しくはなかった。
今日も寝坊した。二学期の初め、転校初日だったけど、ワクワクもドキドキも、期待に胸を膨らませる事もない。何故なら、高校三年生にして、もう七度目の転校だったから。
βの両親から生まれてしまったΩの一人息子の行く末を心配して、若かった父さんと母さんは、一つの罪を犯した。
小学校に入る時に義務付けられている血液検査日に、俺の血液と父さんの血液をすり替えるという罪を。
従って俺は戸籍上、β籍になっている。
あとは、一度吐(つ)いてしまった嘘がバレないよう、嘘を上塗りするばかりだった。
俺がΩとバレそうになる度に転校を繰り返し、流れ流れていつの間にか、東京の一大エスカレーター式私立校、小鳥遊(たかなし)学園に通う事になっていた。
今まで、俺に『好き』と言った連中は、みんなΩの発情期に当てられた奴らばかりだった。
だから『好き』と言われて、ピンときたことはない。
だけど。優しいキスに、心が動いて、いつの間にかそのひとを『好き』になっていた。
学園の事実上のトップで、生まれた時から許嫁が居て、俺のことを遊びだと言い切るあいつを。
どんなに酷いことをされても、一度愛したあのひとを、忘れることは出来なかった。
『Ωである俺』に居場所をくれたのは、貴男が初めてのひとだったから。
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