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蛍石

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 16歳の秋、テオドアは国内の有力貴族や一部の商人の子息の通う学園に編入した。
 本来は12歳から入学する学園だが、ヴァルキュリア家は歴代16歳での編入をしていた。
 ヴァルキュリア家は独自の教育を施しており、それがこの国でヴァルキュリア家が浮いている理由の一つにもなっていた。

 いきなり編入してきた吸血公の嫡男に話しかけるようなものはほとんどいなく、テオドアは一人でいることが大かったが構わなかった。テオドアは同級生となれ合うためにこの学園に来たのではない。すべては、父から爵位を奪い、アエテルニアを守るため。

 そのために、テオドアは自分の後ろ盾になる権力者を探していた。

「で、それが僕ってことなのかな?」
「そうだ」

 この学園でただ一人の父よりも権力を持つ男。
 この国の皇太子、アンリ・ド・モンフォールだ。

「うーん、でも僕に協力できることなんてあるかな?ヴァルキュリア家は王家も介入できない特殊な貴族だ」
「いや、当主交代は俺だけで解決できる」
「まぁ、そうだよね。ヴァルキュリア家の当主交代は……自由だからね」

 アンリはなんとか言葉を濁したが、ヴァルキュリア家の当主交代は陰惨かつ野蛮な方法で行われてきた。
 ヴァルキュリア家の当主は、次期当主が現当主を亡き者にすることで交代する。もちろん、円満な方法で受け継がれることもあったが、ヴァルキュリアは代々、独占欲の強いアルファの特徴が強く出たものが生まれることが多いのでそういうケースは稀だった。

「じゃあ、なにをしてほしいの?」
「俺には弟がいる」
「弟?ヴァルキュリア家は嫡男一人だけと聞いていたけど」
「義母の連れ子だ。戸籍上は俺の弟になっている」
「へぇ?」

 それがなにか、という顔をしてアンリは首をかしげる。

「その子をヴァルキュリア家の戸籍から抜きたい。そして、適当な爵位をやりたい」
「爵位…って。戸籍を抜くぐらいなら可能かもしれないけど、爵位ってそう簡単にぽんぽん与えられるものじゃないよ」
「いや、ニア……弟にはその資格がある」
「なぜ」

 テオドアはアンリをまっすぐに見据えた。

「あいつは現王のご落胤だ」
「……え?」

 アンリは蛍石の瞳をぱりくりと瞬いた。
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