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束の間の喜び
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「昨夜はお楽しみだったのかな?」
顔を合わせた瞬間にアンリからそう言われてテオドアはげんなりした。
「そんなんじゃない」
「へぇ?抑制剤じゃ誤魔化せないいい匂いがするけど。まぁ匂いがするってことは、番にはならなかったんだ」
「……まだ、番にはできないだろう」
「まぁ、まだ兄弟だもんね」
「それも、今日で終わりだ」
アンリは昨夜のパーティーで正式な王位継承者として発表された。
正式な王位継承者には特別な権限が与えられる。
そのなかには戸籍の管理と叙爵の権限も含まれていた。
これで晴れて、アエテルニアを兄弟としてではなく婚約者として正式に関係を結べる。
父を殺せばアエテルニアとテオドアがヴァルキュリア家の主人となれる。
「おめでとう、と言うべきなのかな?」
「ありがとう。お前の協力なしには達成できなかったからな」
「はい、書類は用意したよ。晴れてこれで君とアエテルニアは他人だ」
アンリがテオドアに渡した紙は叙爵とアエテルニアの新しい戸籍を証明するものだった。
「結局アエテルニアの父親が誰かは分からなかった。一応記憶守りにも聞いてみたが流石に知らないようだったしね。とりあえず身分は王の縁戚ということで爵位を与えたよ」
記憶守りは色々な理由で文字にはできない歴史を口伝のみで語り継ぐ者だ。王族のそばに常に支えているらしいがテオドアはその姿を見たことはない。
その記憶守りも知らないならおそらく、当事者である王族と今は亡き義母しか知らないのだろう。
いや、もしかしたら蛍石の瞳を異様に忌み嫌っていた父も知っているかもしれないが。
「はぁ…ここまでして、もし君が父君を葬るのに失敗したら文字通り『終わり』なのはなんとも言えないけど…」
「はっ…失敗するわけがない」
「どこからその自信が?相手はかの有名な吸血公だよ」
「今日からは俺が吸血公だ」
父が祖父を殺して公爵家を継いだのも、今のテオドアぐらいのときの年齢だった。
おそらくそれくらいの年齢なのだ。
老化で衰えていく現公爵を、成熟していく次期公爵が上回るのが。
「今夜父上を殺す。そして…アエテルニアを俺のものにする」
今となっては親友と呼べる男の赤い瞳が妖しく光るのをぞくぞくするような寒気を感じながらアンリは見つめた。
その日の夜、テオドアは宣言通り父親を殺した。
しかし、それは彼の想像していた代替わりとはかけ離れていたものだった。
いつものように帰宅した自室には彼の愛する運命の番はいなかった。テオドアは動揺したまま父に決闘を申し込み、なんとか父に勝つことはできたものの、かなりの大怪我を追うこととなったのだった。
顔を合わせた瞬間にアンリからそう言われてテオドアはげんなりした。
「そんなんじゃない」
「へぇ?抑制剤じゃ誤魔化せないいい匂いがするけど。まぁ匂いがするってことは、番にはならなかったんだ」
「……まだ、番にはできないだろう」
「まぁ、まだ兄弟だもんね」
「それも、今日で終わりだ」
アンリは昨夜のパーティーで正式な王位継承者として発表された。
正式な王位継承者には特別な権限が与えられる。
そのなかには戸籍の管理と叙爵の権限も含まれていた。
これで晴れて、アエテルニアを兄弟としてではなく婚約者として正式に関係を結べる。
父を殺せばアエテルニアとテオドアがヴァルキュリア家の主人となれる。
「おめでとう、と言うべきなのかな?」
「ありがとう。お前の協力なしには達成できなかったからな」
「はい、書類は用意したよ。晴れてこれで君とアエテルニアは他人だ」
アンリがテオドアに渡した紙は叙爵とアエテルニアの新しい戸籍を証明するものだった。
「結局アエテルニアの父親が誰かは分からなかった。一応記憶守りにも聞いてみたが流石に知らないようだったしね。とりあえず身分は王の縁戚ということで爵位を与えたよ」
記憶守りは色々な理由で文字にはできない歴史を口伝のみで語り継ぐ者だ。王族のそばに常に支えているらしいがテオドアはその姿を見たことはない。
その記憶守りも知らないならおそらく、当事者である王族と今は亡き義母しか知らないのだろう。
いや、もしかしたら蛍石の瞳を異様に忌み嫌っていた父も知っているかもしれないが。
「はぁ…ここまでして、もし君が父君を葬るのに失敗したら文字通り『終わり』なのはなんとも言えないけど…」
「はっ…失敗するわけがない」
「どこからその自信が?相手はかの有名な吸血公だよ」
「今日からは俺が吸血公だ」
父が祖父を殺して公爵家を継いだのも、今のテオドアぐらいのときの年齢だった。
おそらくそれくらいの年齢なのだ。
老化で衰えていく現公爵を、成熟していく次期公爵が上回るのが。
「今夜父上を殺す。そして…アエテルニアを俺のものにする」
今となっては親友と呼べる男の赤い瞳が妖しく光るのをぞくぞくするような寒気を感じながらアンリは見つめた。
その日の夜、テオドアは宣言通り父親を殺した。
しかし、それは彼の想像していた代替わりとはかけ離れていたものだった。
いつものように帰宅した自室には彼の愛する運命の番はいなかった。テオドアは動揺したまま父に決闘を申し込み、なんとか父に勝つことはできたものの、かなりの大怪我を追うこととなったのだった。
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