天涯孤独の少年は吸血公に守り愛される

お迎えの時間

「ヴィー、ルカ、お誕生日おめでとう」
「「ありがとう！！」

　冬が終わり、ようやく暖かくなり始めてきた春の日、ヴィクトルとルカは7歳の誕生日を迎えた。
　教会のシスターが、今日は何もしなくていいから二人と一緒いられるように手配してくれた。

　そうは言ってもなにか特別なことができるわけでもないので、軽食をもって小高い丘にむかった。

　相変わらず元気な二人は身体さえあれば楽しく遊べるらしい。
　原っぱを花びらを散らしながら追いかけっこしていた。

「ニアー！」

　ヴィクトルがこっちに向けて手を振る。
　アエテルニアが振り返すと、それに気づいたルカも小さく手を振ってくれる。

（あぁ…こんな日が、続けばいいなぁ…）

　わかっている。いつか、この日々が終わることは。
　二人に第二次性徴が来たら、つがいのいないオメガである自分が側にいることは難しくなる。

　せめて、それまでは二人の成長を側で見ていたい。
　
　ぼんやりと二人を見ていた、その時

「ニア」

　背後から、何者かに抱きつかれた。

「え…？」
「やっと見つけた」
「っ…ぁ、なんで」

　声と香ってきた春風のような匂いに一瞬で誰か理解してしまう。
　甘くて優しい匂いのはずなのに、胸がざわめく香り。

「テオドア…」
「まさかこんな辺鄙な場所にいるなんて。どうりで見つからないわけだ」
「ニアー？？」
「その人、だれ？」

　ヴィクトルとルカが駆け寄ってくる。
　だめ、バレてしまう。それでも隠しようがない、黒い髪と赤と蛍石の瞳。

「…なるほど。港町にいなかったのはこういう理由か」

　テオドアは瞬時に理解したようだった。

「着床率の低い最初の発情期で孕むとはな。しかも双子なんて、さすがに予想してなかった」

　するり、とテオドアがアエテルニアの腹を撫でる。それだけで背筋がぞわぞわした。
　寒気ではない。発情しているのかのような微熱を孕んだ震えだ。

「一人で産ませてすまなかったな。身体は大丈夫なのか？」
「やぁ…テオ、さわ、らないで」

　アエテルニアは震える手でテオドアの腕を掴むが、ささやかすぎる抵抗はむしろ彼を煽るばかりだ。

「おい！お前だれなんだよ！ニアから離れろ！」

　ヴィクトルがアエテルニアの身体を弄るテオドアの手を掴んだ。

「俺が誰かわからないか？」

　ヴィクトルとテオドアが見つめ合う。二人の容姿はそっくりだ。髪も、瞳も、尖った犬歯も。
　そのことに気づいたのはヴィクトルよりもルカの方が早かった。

「もしかして、僕たちの父親…？」
「はぁ！？こ、こいつが！！？」
「どうやらそっちの方が賢いようだな。おいお前」
「お前って僕のこと？」
「お、おい答えろよ！お前、本当に俺たちの父親なのか！？」
「家に案内しろ」
「えぇ？家…って…」

　テオドアがくったりしているアエテルニアを抱き上げる。

「久しぶりに俺に会ったせいでニアが発情しかけてる。ニアのことを思うんだったら早く案内するんだな」
「発情…？ニアは二週間前に発情期来たばっかだよ」
「そうだよ！お前適当なこと言うな！！」
「適当にしろ、本当にしろ、この後俺はニアを抱く。お前たちが決められるのは、それがこの場所になるか、家の中になるかだけだ」

　ヴィクトルとルカは顔を見合わせる。
　7歳の子どもには、唐突に現れた父親をどこまで信じればいいのか、従っていいのか判断するのは難しい。

「テオ…子どもたちに、そんなこと言わないで…」

　アエテルニアが弱々しく二人の子供に笑いかける。

「ヴィー、ルカ…あの小屋に、あんないして…そこに、くすりもあるから…おねがい」

　あの小屋、がどこを表しているか二人にはすぐにわかった。
　アエテルニアが発情期の間籠っている小屋だ。

「…わかった。着いてきて」

　ヴィクトルとルカはアエテルニアの言った通りテオドアを小屋まで連れて行くことにした。