気がつけば彼に抱かれていました

美凪ましろ

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第二部――『おれの彼女のおっぱいは世界一!』

◇1

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 どう考えても、大きくなった。


 はだかの自分の乳房を手で包んでみる。以前よりも弾力や柔らかさが増した。そりゃそうだ、毎日あれだけ揉まれているんだから。

 ブラジャーをつけて鏡の前に立ってみる。必要以上に谷間が刻まれ、胸が窮屈そうだ。――はい。どう考えてもサイズアウト。

 綾乃は、ため息をつく。

 Eカップに昇格したのはありがたいけれど、全部買い直しかと思うと、素直に喜べない自分もいる。

「あり。なんでブラしてんの」

 綾乃が生理中ゆえ、風呂は別々に入っている。先にあがった丈一郎が、露骨に残念な顔をして綾乃に声をかけてくる。ちなみに、風呂には鍵をかけない主義だ。さすがにトイレにはかけるが。

「あのさあ。どう考えても、大きくなった、よね……」

「おお」丈一郎は、手に持っていた缶ビールを一口飲んだうえで綾乃に近寄ってくる。「成長したなあおまえ。もっと大きくなってもいいぞー」

「んもう。他人事だと思って」ふくれっ面で綾乃が言っても丈一郎は優しくキスしてくるものだから結局、綾乃は怒れない。

 愛されていることが幸せなのだ。

 風呂あがりの丈一郎の首筋の匂いを嗅ぎ、綾乃は言ってみる。「あのさあ。明日、お買い物に行きたいんだけど……」

「ひとりで? なにを?」と言いつつ丈一郎は既に綾乃の背中のホックを外している。仕事が速い。

 ゆっくりと、手のひらで乳首を転がされる快感に耐えながら綾乃は口を開いた。「この流れで普通分かるでしょ。ブラジャー」

「おれも、いきたい」

「……え?」綾乃の目は、自分の胸の頂きが丈一郎に吸われんとする瞬間を捉えた。

 四日目だから、まあ、いいか……。

 お風呂からあがったばかりなのに、またショーツが濡れてしまう展開を読みつつも綾乃は抵抗しなかった。彼女のなかで、快楽への欲求のほうが勝った。

 ひとしきりちゅうちゅうと吸いあげてから丈一郎は顔を起こす。「このおっぱいが、これからどんなブラジャーつけんのか、おれは見てみたい」

「……どうしてもっていうなら、別に止めないけど。でもサイズ計って試着するだけだよ? 男のひとが行っても全然つまんないと思うよ?」

「つまらないかどうかを決めるのはおれだよ」

 言って丈一郎は綾乃の胸を貪る。丈一郎は、物分りのいい性格だけれど、他方、頑固で譲らない一面も持ち合わせてはいる。長年の友達付き合いでそのことは分かっていた。だから、今回は、彼のやりたいようにさせてみよう。と、綾乃は、快楽の波に打ち震えながら、そう決めたのだった。


 * * *


「まあ。お客様、とてもよくお似合いで……」

 ブラジャーに『似合う』もなにも、あるのだろうか。

 とはいえ、目の前の店員は優雅に微笑し、店員の隣に立つ丈一郎は明らかに嬉しそうだ。やっぱ綾乃、色が白いからそういう色似合うぜ、と得意げに言っている。

 彼氏と下着を買ったことのない綾乃には分からなかったが、昨今、彼氏とブラジャーを買いに来る女性は珍しくないそうだ。店員がそう言っていた。よって、サイズがE65に確定したのちは、ひたすらに彼氏が選んだブラジャーを試着し続けている。ブラジャーの種類によって微妙にサイズが違うらしく、なかにはF65がジャストサイズのものもあった。

 綾乃は、下着には特にこだわりはなかった。

 元彼氏とのセックスは、電気を消した室内で行われていたし、彼が要望を言うこともなかった。なんとなく、毎回ピンクやブルーの下着にはしていたが。

 以外の日は、機能性重視で服に響かない、ベージュのつるんとしたブラジャーを三つ買って、それを着倒していた。

 どうやら、丈一郎は普段の服装がシンプルな割には派手な色が好きらしく。

 艶やかな花の高貴さをたたえたワインレッド。クールな都会の匂いのするブラック。目の覚めるようなターコイズブルー。CCレモンみたいなレモンイエローのいろ。……などなど、様々ないろのブラジャーをつけさせられた。

 綾乃の記憶では、サイズがEを超えるとD以下ほど種類が豊富でなかったり、それに、安いものが手に入らなかったりしたのだが――まあ、いまつけているのもお高めではあるのだが、それにしても随分とバリエーションが豊富になったものだ。フェミニンなものや機能性を重視したもの、男性を意識したセクシー路線のものと盛りだくさんで、きっとここで半日を過ごしても飽きないことだろう。

 丸みを帯びた表面がレースで包まれ、きちんと谷間が入るものの、つけ心地は良好。

 ワイヤーが心地よくフィットし、――痛くない。肩紐のフィット具合もちょうどいい。一度安いものをつけて真っ赤な線が入ったのを見て以来、綾乃は安物を回避している。

 白地に、脇から谷間の方向にレースが伸びており、そのうえに濃淡の青の小花があしらわれているデザイン。リボンブラという名の通り、谷間の下方であるレースの真ん中にリボンのようにくるんと布地でくるまれていて、女心をくすぐる。いつものベージュのブラよりも使い道は限られてしまうだろうが、丸みを帯びたシルエットが優しいいろのニットなんかにすごく合いそう――素直に愛おしいと思えるブラジャーだった。綾乃は、これが一番気にいった。

 お会計のときに、すごい金額になってしまったので、全額、丈一郎が出してくれた。「おれの責任だから」と言って。……そんな発言をされては、綾乃は、店員の目をまともに見れなくなったのだが、やや年配の女の店員は慣れた感じで応対した。

「あらあら。仲がよろしいんですね」

 帰り道は。紙袋が二つになってしまったので、丈一郎と分けあって持った。これからスーパーに夕食の材料を買って帰るから、丈一郎にはそれを持ってもらう予定だ。

 失恋をし、丈一郎と結ばれた日に行ったスーパーで、丈一郎は赤いピーマンを手に取ると神妙な顔をする。「いままでつけてた下着ってどうすんの? 処分?」

「だろうね」カートを引く綾乃は即答する。と、

「……おれにくんない?」

「なにに使うの」

 けろりとした顔で丈一郎はピーマンを棚に戻す。「そのブラおかずにオナニーするっつったら、引く?」

「引くっていうか、軽くびっくり……」別に、男性のオナニーに抵抗があるというわけではない。綾乃の頭に先ず過ぎったのは疑問だ。連日最低でも二時間セックスしているというのに、そんな暇があるのか? ――いや。

 綾乃は小首を傾げた。

(セックスとオナニーは、別物なのだろうか……?)

 ということなら、綾乃は、積極的に部屋をあけるべきなのかもしれない。丈一郎とつきあい始めてからの半年間。彼は綾乃のマンションに入り浸り、もとい、こもりっきりで。会社に行ったり友達と飲みに行く以外は綾乃とセックスするかおっぱいを愛撫するかのいずれかだ。

「嘘だよ」

 考えごとをしているうちに、後ろから両手でウエストを捕まれ。「わ」と綾乃は声を出してしまった。

 人前だというのに、丈一郎は背後から綾乃を抱くようにし、耳に息を吹きかける。「綾乃を知ってからは、……んな暇ねえよ」

 じいんと、彼の低い声が胸に響く。「けいちゃん……」

「でもな」と、丈一郎が離れてしまう。綾乃は、離れていく丈一郎の感触が惜しく感じられた。「あのちっさいブラしてるときの綾乃の谷間すげえから、やっぱ、処分しないで。

 綾乃の谷間、舐めまくりたい」

 やっぱり、おっぱいなのだ。

 おっぱい星人なのだ、丈一郎は。

 それにしても、これは、他人に聞かせるべき話題ではないのだが、丈一郎の声量はさほど遠慮を知らず。通りがかりの主婦が丈一郎の顔を露骨に見てきた。途端、顔が真っ赤に染まった。どうやら、他人の目から見ても丈一郎はイケメンらしい。

 ――他人の目から見ても。

 なにを、妻気取りでいるんだか。

 この先のことなんて、誰にも分からないのに。

 そう思ったときに、思いのほか、自分の表情が暗くなっていることに綾乃は気づいた。もう、丈一郎なしでは生きていけないからだになってしまった。

 この身も心も、丈一郎のものなのだ。

 なんだか綾乃は、自分のからだが愛おしく感じられた。あんなにも丹念に愛撫をされて、自分が愛されていることを自覚しないはずがない。

 自分の生きている意味を、実感する。

 その思いは、行動にして伝えねばと思った。だから綾乃は、先をゆく丈一郎を呼び止めた。「ねえ。今夜、なにが食べたい」

「綾乃が食べたい」

「それは分かってるよ」綾乃は苦笑いを漏らした。「そうじゃなくってね、夜、なんか食べたいもの、ある? なければ、ハンバーグにしちゃうけど」

「お。いいね」丈一郎の表情が明るく変わる。綾乃の目に眩しく映った。「煮込みハンバーグとか作れる?」

「……わたしね、普通の焼きハンバーグが作れないんだよ。生焼けになっちゃうの。だからいつも煮込みハンバーグなの」

 恥ずかしげに俯いて綾乃が言ってみると、「いいねえ」と丈一郎は笑う。

「じゃあ、おれ、つけ合わせの粉ふきいも作るよ。そしたらさあ、レタスのサラダとか食べたくない? トマトとか冷蔵庫にあったっけ?」

 プチトマトのがいいかなあ、とぶつぶつ言って丈一郎は歩き出す。

 ――ああ。

 綾乃は、その広い背中を見て、胸の奥が詰まるのを感じた。

 このひとといると、人生はなんと明るく輝いて見えるのだろう。

 いつも、ひとりだった。

 自分の存在意義が感じられなくなる瞬間だって、あった。遠く離れた家族が自分を認めてくれていると頭では分かっていても。

 感情は、理屈では動かない。

 彼氏がいたとしてもこころは、繋がっていなかったのだ。

 丈一郎になら、なんでも、言える。

 丈一郎といれば、どんな傷だって、きっと癒される。

 たとえこのさきどんなに悲しいことがあったとしても、丈一郎は、激しく慟哭する綾乃を見守ってくれたうえで、笑いかけてくれるのだろう。

『大丈夫だよ、綾乃。おれは、ずっときみの味方だ』

 愛している。

 丈一郎は、綾乃のなかに入ると、必ず、『好き』『愛している』の言葉をくれる。意外とロマンチストで、照れずにそういうことが言えるのだ。

 ――そしてわたしはこれから彼に満たされる。

 帰宅してからセックスするのは確実。スーパーの袋そっちのけで、丈一郎は綾乃の服を剥ぎ取り、先ず胸から愛撫を開始するのだ。

 綾乃はそのことを思うだけで濡れた。

 実を言うとたまには前戯なしで挿れて欲しい。今夜、勇気を出して、そのことを伝えてみようか。

「どったの綾乃ちゃん?」となにも知らないだろう丈一郎が振り返る。

「ううん」と綾乃は首を振る。「なんか、幸せで……」

「おれも、幸せ」きひ、と白い歯を見せて丈一郎は笑う。「でもなあ。綾乃ちゃん。外で、あんまし、そーゆー顔しないで。おれ、……」

 じゃがいもの袋をひとつ取ってきた丈一郎は、綾乃の耳元に口を寄せると、焦ったように早口で言った。


 我慢できなくなる。

 だっていま、綾乃ちゃん、エロいこと考えてたでしょ。


 帰宅後のセックスがやたら激しかったのは、嫉妬ゆえか。

 丈一郎に突きあげられながら綾乃は顔を振り、白んでいく頭の片隅で思った。


 いや。

 いつものことか……。


 *
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