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番外編4 至上の幸せ――多感な莉子SIDE
#EX04-12.夢が膨らんでいく
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「ああ……どうしよう。すごい……楽しみ」
「莉子が乗り気でよかった。本当に……」
「えへへ」
結婚式場にて予約を済ませ、パンフレットを広げながらファミレスでご飯を食べる。……課長、意識して庶民的にしているのかな。それから、宅だと、ついエロエロしちゃうから……シリアスな話をしづらいから。
「でも、……課長大丈夫なんですか? 引っ越し、結婚式、マンションの頭金……全部課長の口座から出していただくなんて」
「お金のことだ。きっちりしておかなきゃな……」言って課長はバッグからノートと万年筆を取り出し、
「全財産が、こんくらい」
と、数字を書く。続いて、
「株の毎年の配当がこんくらい。……結婚式費用はMAXこんだけ。んで、マンションの頭金……ざっくりとした引っ越し費用……家具も買い足さなきゃだからな。冷蔵庫とかそれをさっぴいたらこうなる」
「……ああ」
なるほどそれでもなんとかいけそうな数字だ。これからどのくらい貯金出来るか次第でもあるが。
「課長って……普段はそんな出費しないひとなんですか」
「まぁな。あんときは意地になっちまったけど、……実はそんなには遣わない。ま、スキンケアや美容全般にはそれなりに金かけてるけど。持ち物とかもな。
結婚したら、小遣い制にしたほうがいいのかな」
「ああ、あと、出費をどうやりくりするのか。共通の口座を持つべきか、とか……」
「おれの出費が知りたければ通帳をつけて貰ってもいいけど。きみさえ面倒じゃなければ」
「うーん。別口座のほうが楽かもしれませんね……。せっかくいま口座作ってもわたし、改姓するから、また名義とか変えなきゃですものね」
「ひとまずそれで様子を見ようか。……あ、ローンの引き落としとかはおれの口座からで構わないよ。で、今まで通り、食費雑費の負担をきみにお願い出来るかな?」
「ああ、それは全然いいです。買い物行くのってわたしですし」
「……負担をかけちまってすまないな」
「いえ。じゃあ、このお話は決まり……で。
そういえば、仏滅プランなんてあるんですね。意外でした」
「ああ」と頷く課長は冷や水で喉を潤し、「あんなに安くなるとは衝撃だよな。おれ、全然、日取りとかこだわりねえから、全然構わないよ。気にするひとが多いのが意外だ……」
「ですね」
ホテルにて披露宴の予約状況を見て貰ったところ、十一月までがいっぱいで。十二月もぽつぽつ。……で、十一日土曜日が仏滅で、なんと仏滅だとかなり……減額される。
早めに挙げたいのと、こだわりがないゆえに、迷わずその日に予約を入れた。あと七ヶ月後には……わたしは、ウェディングドレスに身を包んでいる。
「ふふふ。楽しみだなあ……」
「そういや、新婚旅行、どうする? 行きたい?」
「行きたいかどうかって聞かれたら迷わず……行きたいです」
「どこに行きたいの」
「フィレンツェ。街自体が巨大な意匠ですごく……素敵でした。ひともあったかくて、魅力的な街で……あ、あと、ローマも行きたい」
「おれ、イタリアは行ったことがないなぁ」と目を細める課長。「そうか。ローマのコロッセオとかすごいっていうもんな。うん。見てみたい。
ただ、十一月に引っ越し、十二月に結婚式……となると、大忙しだよな。八月に入籍、その前に両家の顔合わせもあるし。だから、来年の春か……GW辺りだろうな。行けるとしたら」
課長もわたしも同じ職場なので、仕事のピークが同じだ。来期の決算が終わるまでは、厳しい。
料理が届くと一旦腹を満たし、それからまたふたりで今後について話し合う。結婚式は、結局、みんなの前で披露宴を開きたいがゆえに、お式と披露宴のみ。同じ課のメンバーを呼ぶことでまとまった。二次会は、その日には開かないが……。来年の三月以降に、パーティーか飲み会を開こうと思っている。来年になると、どうせ決算が終わらないと、落ち着かないだろうから。あの子たちも呼ぶつもり。
「キャンドルサービスとか……憧れだったんですよね……。すごく、綺麗じゃないですか……」
「だなぁ」と頬杖をつく課長は、「おれ、莉子のドレス姿見るの、すごく楽しみ。試着とか絶対一緒に行かせてな」
「はい」
改めてホテルから貰ったスケジュールを見てみる。予約はやはり、半年前くらいに入れるのが一般的で、具体的な準備は三ヶ月前から始まる。招待客の確定、招待状の準備……席次の確定。歌。ドレスの確定。スピーチの依頼。余興……。
「あ。余興なら、歌のうまいやつがいるから、そいつに頼んでみるわ」と課長。「大学の友達でな。そいつ、セミプロだから。CDも出してる。……そうだな。ここ出たら電話してみるわ」
「他に、……余興って、なにするんでしょう。頼める相手、いますかね」
「……調べてみる」と携帯を操作する課長。「ダンス……歌、サプライズムービー、新郎新婦に関するクイズ……ふぅむ。いろいろあるんだな。歌は、彼にやって貰うことで確定なら、そんな凝ったのは要らない気がするなあ。黒石さんに聞かないと分かんないけれど。
既に、彼に頼むのであれば、これ以上他人に頼むのは微妙だよな。おれたちでムービー作るのとかもいいかもな。なんか、過去に見たことあるわ。友人ひとりがカメラ回して、んで、新郎新婦にインタビューするってやつ。ナチュラルな演出で、おれはすごく惹かれたな……」
「あ、それ、いいですね」と食いつくわたし。「別々にインタビューしても面白そうだし、一緒でも面白いかも。でも、誰に頼みます?」
「決まってるだろ」
と挑発的に笑う課長は、誰のことを思い浮かべているのか。……たぶん、同じひと。
「彼なら適任ですね」
とわたしは微笑んで彼の発言を受け止めた。
* * *
「わぁ。十二月十一日で決定? 楽しみだねー!」
そう言って貰えて本当に嬉しい。
「あーなに着てこうかなー。アガります。アガりますよねこういうの。楽しみでふるえます」
紅城さんもそう言ってくれて本当に嬉しい。
同じ職場で戦う仲間である、経営企画課(なんでもや)のみんなを呼ぶことにし、週明けの本日、課長からみんなに告知し、それから昼休みはのんびり……まったりしている。
実は、紅城さんの前に、ひとり派遣さんが入ったのだが。……正直、そのひとがすごく、出来ないひとで……。残念ながら仕事に向き不向きってあるのだな、と思って。
いいひとだったんだけど。周りに気を遣うことの出来る、気立てのいいひとだったけれど。……仕事が出来ないとどうにもならない。
わたしが彼女の教育予定だったのが、中野さんの提案で、中野さんがわたしの仕事を教えることにして。で、中野さんがつわりで休んだときには、その方の教育を担当したのだが……。
例えるなら、わたしが三十分で仕上げる仕事に、その方は二時間を要した。
かつ、完成度も低く……。
経営企画課は数字を扱う職場だ。そこで、数字のミスを連発され、仕事も遅延なんかされては、とても、やっていけない。三ヶ月粘ったが、温厚な中野さんであっても限界を迎えたらしく、とうとう、ある日、中野さんは爆発した。
『あの。これ、仕事なんですよ。お金を貰って仕事をしているのに、同じミスを三回も繰り返すなんて。やっていることが学生……ですよ!』
後にも先にも、あんなにも怒る中野さんを見たのは初めてだった。なるほどひとにはそれぞれ、他人に見せない顔があるのだと思う。わたしだって、課長にしか見せない顔があるのだから。
その方は、中野さんの発言を受けて、自主的に辞めた。娘さんがおり、その娘さんが、土曜日がお休みの仕事にして欲しいと希望していたらしいが。そうはいっても、スキルアンマッチの問題は、誰にもどうにも出来ない。本人の技量の問題なのだから。
さて、年度末は慌ただしく過ぎていき、皆が落ち着いた頃に、紅城さんはこの職場に入った。あまりの美しさに、彼女の自己紹介の際に、周りがどよめいた。
そして、幸いなことに、紅城さんは、仕事の出来るひとで、中野さんとも相性がいいらしく、うまく、やっていけている。この調子ならうん、大丈夫そうだ。わたしは安心を覚えたのだった。
別の課の派遣さん三人は三人で仲がよいけど、紅城さんは無理にそこに入ろうとしない。自分を持ったひとだ。こうしてわたしたちはそれぞれが自席にて、したいことをしながらお昼を食べる。会話も、したいときにするだけ。でなければ読書。ネットサーフィン。好きに過ごせる時間が心地よい。わたしは読書ばかりをしている。
……が、結婚式の話題が出たからには、読書どころではなく。わたしは椅子を寄せて、中野さん、紅城さんと話すことになる。
「会場は……品川〇〇〇〇で」
「うっそまじ!」
「芸能人が挙げるとこじゃん!」
「ああー……いや、まあ、その……。動画で会場見たんですが、本当に素敵で。ころっといっちゃいました」
「品川〇〇〇〇ならそりゃそうでしょう! うっわ、まじ嬉しいわ! あたし、行ってみたかったんです!」
「あたしもー!」
きゃあきゃあ騒ぐわたしたちを、何事かと、通路を通り過ぎる例の子たちが見てくる。……が、ふんと鼻を鳴らし、かつかつ、靴底を鳴らし、去っていく。……ふんだ。わたしにだって感情ってものはあるのよ。袋叩きで終わるような女じゃないって、いまに、証明してやる。
早速中野さんは会社のパソコンで品〇〇のサーチをかけるし、紅城さんは携帯で。で、きらびやかな画像にきゃあきゃあ声をあげる。幸せそうに。……なんか、胸が詰まる。
迷惑かなとか。お金かけちゃうから悪いかなとか。いろいろ……考えていただけに。
「あら。桐島ちゃん、どうした?」
「いえ……実は裏でいろいろ考えていて。どこまで呼ぶのかとか、呼んでいいのかとか、ぐちゃぐちゃ悩んでまして」
「そんなの! 呼んで貰うの大歓迎だよ! あたしたち、仲間じゃん!」
ぽんぽん、とわたしの肩を叩く中野さんのやさしさに、胸が詰まる。そうです、と紅城さんは頷き、
「わたし、まだ入ったばかりですけど、この職場、居心地がいいですよね。皆さん親切でやさしいし、各々がプライドを持ってやっているのがよく分かる……本当にいい職場です。
この職場に入ったからには、あたし、……桐島さんのウェディングドレス姿も見届けたいな。
盛大に祝わせてください。桐島さん……」
――参ったなぁ。
ぼろぼろ、泣けてきちゃう……。わたしっていつも、必要以上に、事前に心配しすぎちゃって、んで空回り。そればっかり繰り返していて……。
わたしは、やさしく見守ってくれるふたりの眼差しを受け止め、舞台の中央に立つ花嫁のように笑ってみせた。
「……ありがとう」
*
「莉子が乗り気でよかった。本当に……」
「えへへ」
結婚式場にて予約を済ませ、パンフレットを広げながらファミレスでご飯を食べる。……課長、意識して庶民的にしているのかな。それから、宅だと、ついエロエロしちゃうから……シリアスな話をしづらいから。
「でも、……課長大丈夫なんですか? 引っ越し、結婚式、マンションの頭金……全部課長の口座から出していただくなんて」
「お金のことだ。きっちりしておかなきゃな……」言って課長はバッグからノートと万年筆を取り出し、
「全財産が、こんくらい」
と、数字を書く。続いて、
「株の毎年の配当がこんくらい。……結婚式費用はMAXこんだけ。んで、マンションの頭金……ざっくりとした引っ越し費用……家具も買い足さなきゃだからな。冷蔵庫とかそれをさっぴいたらこうなる」
「……ああ」
なるほどそれでもなんとかいけそうな数字だ。これからどのくらい貯金出来るか次第でもあるが。
「課長って……普段はそんな出費しないひとなんですか」
「まぁな。あんときは意地になっちまったけど、……実はそんなには遣わない。ま、スキンケアや美容全般にはそれなりに金かけてるけど。持ち物とかもな。
結婚したら、小遣い制にしたほうがいいのかな」
「ああ、あと、出費をどうやりくりするのか。共通の口座を持つべきか、とか……」
「おれの出費が知りたければ通帳をつけて貰ってもいいけど。きみさえ面倒じゃなければ」
「うーん。別口座のほうが楽かもしれませんね……。せっかくいま口座作ってもわたし、改姓するから、また名義とか変えなきゃですものね」
「ひとまずそれで様子を見ようか。……あ、ローンの引き落としとかはおれの口座からで構わないよ。で、今まで通り、食費雑費の負担をきみにお願い出来るかな?」
「ああ、それは全然いいです。買い物行くのってわたしですし」
「……負担をかけちまってすまないな」
「いえ。じゃあ、このお話は決まり……で。
そういえば、仏滅プランなんてあるんですね。意外でした」
「ああ」と頷く課長は冷や水で喉を潤し、「あんなに安くなるとは衝撃だよな。おれ、全然、日取りとかこだわりねえから、全然構わないよ。気にするひとが多いのが意外だ……」
「ですね」
ホテルにて披露宴の予約状況を見て貰ったところ、十一月までがいっぱいで。十二月もぽつぽつ。……で、十一日土曜日が仏滅で、なんと仏滅だとかなり……減額される。
早めに挙げたいのと、こだわりがないゆえに、迷わずその日に予約を入れた。あと七ヶ月後には……わたしは、ウェディングドレスに身を包んでいる。
「ふふふ。楽しみだなあ……」
「そういや、新婚旅行、どうする? 行きたい?」
「行きたいかどうかって聞かれたら迷わず……行きたいです」
「どこに行きたいの」
「フィレンツェ。街自体が巨大な意匠ですごく……素敵でした。ひともあったかくて、魅力的な街で……あ、あと、ローマも行きたい」
「おれ、イタリアは行ったことがないなぁ」と目を細める課長。「そうか。ローマのコロッセオとかすごいっていうもんな。うん。見てみたい。
ただ、十一月に引っ越し、十二月に結婚式……となると、大忙しだよな。八月に入籍、その前に両家の顔合わせもあるし。だから、来年の春か……GW辺りだろうな。行けるとしたら」
課長もわたしも同じ職場なので、仕事のピークが同じだ。来期の決算が終わるまでは、厳しい。
料理が届くと一旦腹を満たし、それからまたふたりで今後について話し合う。結婚式は、結局、みんなの前で披露宴を開きたいがゆえに、お式と披露宴のみ。同じ課のメンバーを呼ぶことでまとまった。二次会は、その日には開かないが……。来年の三月以降に、パーティーか飲み会を開こうと思っている。来年になると、どうせ決算が終わらないと、落ち着かないだろうから。あの子たちも呼ぶつもり。
「キャンドルサービスとか……憧れだったんですよね……。すごく、綺麗じゃないですか……」
「だなぁ」と頬杖をつく課長は、「おれ、莉子のドレス姿見るの、すごく楽しみ。試着とか絶対一緒に行かせてな」
「はい」
改めてホテルから貰ったスケジュールを見てみる。予約はやはり、半年前くらいに入れるのが一般的で、具体的な準備は三ヶ月前から始まる。招待客の確定、招待状の準備……席次の確定。歌。ドレスの確定。スピーチの依頼。余興……。
「あ。余興なら、歌のうまいやつがいるから、そいつに頼んでみるわ」と課長。「大学の友達でな。そいつ、セミプロだから。CDも出してる。……そうだな。ここ出たら電話してみるわ」
「他に、……余興って、なにするんでしょう。頼める相手、いますかね」
「……調べてみる」と携帯を操作する課長。「ダンス……歌、サプライズムービー、新郎新婦に関するクイズ……ふぅむ。いろいろあるんだな。歌は、彼にやって貰うことで確定なら、そんな凝ったのは要らない気がするなあ。黒石さんに聞かないと分かんないけれど。
既に、彼に頼むのであれば、これ以上他人に頼むのは微妙だよな。おれたちでムービー作るのとかもいいかもな。なんか、過去に見たことあるわ。友人ひとりがカメラ回して、んで、新郎新婦にインタビューするってやつ。ナチュラルな演出で、おれはすごく惹かれたな……」
「あ、それ、いいですね」と食いつくわたし。「別々にインタビューしても面白そうだし、一緒でも面白いかも。でも、誰に頼みます?」
「決まってるだろ」
と挑発的に笑う課長は、誰のことを思い浮かべているのか。……たぶん、同じひと。
「彼なら適任ですね」
とわたしは微笑んで彼の発言を受け止めた。
* * *
「わぁ。十二月十一日で決定? 楽しみだねー!」
そう言って貰えて本当に嬉しい。
「あーなに着てこうかなー。アガります。アガりますよねこういうの。楽しみでふるえます」
紅城さんもそう言ってくれて本当に嬉しい。
同じ職場で戦う仲間である、経営企画課(なんでもや)のみんなを呼ぶことにし、週明けの本日、課長からみんなに告知し、それから昼休みはのんびり……まったりしている。
実は、紅城さんの前に、ひとり派遣さんが入ったのだが。……正直、そのひとがすごく、出来ないひとで……。残念ながら仕事に向き不向きってあるのだな、と思って。
いいひとだったんだけど。周りに気を遣うことの出来る、気立てのいいひとだったけれど。……仕事が出来ないとどうにもならない。
わたしが彼女の教育予定だったのが、中野さんの提案で、中野さんがわたしの仕事を教えることにして。で、中野さんがつわりで休んだときには、その方の教育を担当したのだが……。
例えるなら、わたしが三十分で仕上げる仕事に、その方は二時間を要した。
かつ、完成度も低く……。
経営企画課は数字を扱う職場だ。そこで、数字のミスを連発され、仕事も遅延なんかされては、とても、やっていけない。三ヶ月粘ったが、温厚な中野さんであっても限界を迎えたらしく、とうとう、ある日、中野さんは爆発した。
『あの。これ、仕事なんですよ。お金を貰って仕事をしているのに、同じミスを三回も繰り返すなんて。やっていることが学生……ですよ!』
後にも先にも、あんなにも怒る中野さんを見たのは初めてだった。なるほどひとにはそれぞれ、他人に見せない顔があるのだと思う。わたしだって、課長にしか見せない顔があるのだから。
その方は、中野さんの発言を受けて、自主的に辞めた。娘さんがおり、その娘さんが、土曜日がお休みの仕事にして欲しいと希望していたらしいが。そうはいっても、スキルアンマッチの問題は、誰にもどうにも出来ない。本人の技量の問題なのだから。
さて、年度末は慌ただしく過ぎていき、皆が落ち着いた頃に、紅城さんはこの職場に入った。あまりの美しさに、彼女の自己紹介の際に、周りがどよめいた。
そして、幸いなことに、紅城さんは、仕事の出来るひとで、中野さんとも相性がいいらしく、うまく、やっていけている。この調子ならうん、大丈夫そうだ。わたしは安心を覚えたのだった。
別の課の派遣さん三人は三人で仲がよいけど、紅城さんは無理にそこに入ろうとしない。自分を持ったひとだ。こうしてわたしたちはそれぞれが自席にて、したいことをしながらお昼を食べる。会話も、したいときにするだけ。でなければ読書。ネットサーフィン。好きに過ごせる時間が心地よい。わたしは読書ばかりをしている。
……が、結婚式の話題が出たからには、読書どころではなく。わたしは椅子を寄せて、中野さん、紅城さんと話すことになる。
「会場は……品川〇〇〇〇で」
「うっそまじ!」
「芸能人が挙げるとこじゃん!」
「ああー……いや、まあ、その……。動画で会場見たんですが、本当に素敵で。ころっといっちゃいました」
「品川〇〇〇〇ならそりゃそうでしょう! うっわ、まじ嬉しいわ! あたし、行ってみたかったんです!」
「あたしもー!」
きゃあきゃあ騒ぐわたしたちを、何事かと、通路を通り過ぎる例の子たちが見てくる。……が、ふんと鼻を鳴らし、かつかつ、靴底を鳴らし、去っていく。……ふんだ。わたしにだって感情ってものはあるのよ。袋叩きで終わるような女じゃないって、いまに、証明してやる。
早速中野さんは会社のパソコンで品〇〇のサーチをかけるし、紅城さんは携帯で。で、きらびやかな画像にきゃあきゃあ声をあげる。幸せそうに。……なんか、胸が詰まる。
迷惑かなとか。お金かけちゃうから悪いかなとか。いろいろ……考えていただけに。
「あら。桐島ちゃん、どうした?」
「いえ……実は裏でいろいろ考えていて。どこまで呼ぶのかとか、呼んでいいのかとか、ぐちゃぐちゃ悩んでまして」
「そんなの! 呼んで貰うの大歓迎だよ! あたしたち、仲間じゃん!」
ぽんぽん、とわたしの肩を叩く中野さんのやさしさに、胸が詰まる。そうです、と紅城さんは頷き、
「わたし、まだ入ったばかりですけど、この職場、居心地がいいですよね。皆さん親切でやさしいし、各々がプライドを持ってやっているのがよく分かる……本当にいい職場です。
この職場に入ったからには、あたし、……桐島さんのウェディングドレス姿も見届けたいな。
盛大に祝わせてください。桐島さん……」
――参ったなぁ。
ぼろぼろ、泣けてきちゃう……。わたしっていつも、必要以上に、事前に心配しすぎちゃって、んで空回り。そればっかり繰り返していて……。
わたしは、やさしく見守ってくれるふたりの眼差しを受け止め、舞台の中央に立つ花嫁のように笑ってみせた。
「……ありがとう」
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