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act23. 残酷なれど真摯な親の告白
しおりを挟む他愛のない雑居ビルのなかの居酒屋に三人で入る。
取りあえず無難なものを注文し、乾杯をして間もなくだった。
「あ、ごめんなさい、あたしです……」誰かの着信音が鳴る。バッグから取り出した携帯電話を見て彼女は顔色を変えた。「……すみません。ちょっと外出て話してきます、ごめんなさい……」蒔田を見、父親を見て彼女は頭を下げ、座敷から出て行く。
父親と二人、取り残される。
どうすればいいのだろう、こういうときは。
蒔田一臣は小さく肩を竦めた。
(お父さんまだ飲まれますか、などと尋ねてお酌……)
お酌をする自分など想像もできない。幸い、榎原紘花を除いて二人ともがビールを注文しているが。
「この間、娘が怖い思いをしたらしい……」蒔田の顔を見て父親は、遠慮がちに切り出した。「解決のために、きみが力を貸してくれたそうだね。礼を言う」
「いえ、僕はなにも……」蒔田は首を振った。主に活躍したのは探偵役の彼だ。
話し合いの場で、蒔田は多少は口を出したものの、筋書きを描いたのは探偵役だ。
「正直言って、娘をこのまま東京で暮らし続けさせるのに抵抗を感じるが……」榎原俊之はビールに口をつける。「本人の意思が固い以上、どうにもならない。それに、きみのように守ってくれる人間が傍にいる限りは、安心して任せられる」
ことが大きくなってきた。
『彼女とはおつき合いなどしていません。ただの、会社の上司と部下という関係です』などと告白したら、この父親はどんな反応をするだろう。
だが蒔田の口から出てきたのは本人も予想していない言葉だった。「僕は……、そこまで心配してくれる家族がいる彼女のことを、羨ましく思います。うちの家族は、僕のためにわざわざ上京などしてくれません……」
家族をなじるようなニュアンスも含まれる言葉だが、榎原俊之は不思議と目を細めた。「きみは、……石川の出身だったね。ご両親はご健在かい?」
「はい、二人とも……」
「きみは、娘のどんなところが気に入ったのかね」
「真っ直ぐなところと、気が強いところと……」なぜだかすらすらと文章が出てくる。「正直、愛らしい外見もですね。言動も愛らしいです」歯の浮くような台詞まで。
一瞬、父親は面食らった顔をしたが、すぐに笑い出した。「そりゃあ、……愛されてるね、娘は」
「どちらかといえば僕のほうが愛されている気がします。いえ、彼女は、正直、……情の深い人間だと思っています。僕には到底かなわない……誰かを一途に愛し続ける真剣さにおいて」
自然と出てくる自分の本音に驚く。もしかしたら、自分は。
榎原紘花を真剣に愛しているのでないか?
榎原俊之の表情から笑みが消え、真剣なものへと変わる。「彼女は……昔の自分の話などしたことがあるかね。生い立ちとか……」
「生い立ちですか。ありませんね……」
ふむ、と父親は顎に手をやり、考える仕草をする。
「きみの両親が、もしかしたら相手の生い立ちなどを気にする可能性も考慮して、僕は話すべきかもしれない」
と。
榎原俊之は、娘となった彼女との出会いから切り出したのだった。
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