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act51. はじめてのGW・もう待てない *
しおりを挟む蒔田は『一時間で着く』とメールに書いてきた。
急がないと。と、気持ちばかりが焦る。
料理の下ごしらえは、ちっとも、進んでいない。夕食に二品を作るのが常。一度に四品とはさすがに厳しかったか。
取り掛かる前に気持ちがメゲそうになるが、拳を握りふんと奮起する。蒔田は、仕事をしているのだ。
疲れている彼を、癒してあげたい。そのために、できることは、なんだってしてあげたい。
買ったばかりのレシピ本を開き、その辺にあった灰皿で押さえ、レシピの段取りを見つつ、彼女は長い髪を後ろでまとめた。そして石鹸で手を洗う。
「よし。頑張ろ」
* * *
がちゃがちゃと鍵の開く音がする。続いてドアの開く音がし、
「ただいま」
帰ってきた。
嬉しさと焦りが半々。まだ味噌汁のだしをとったのと肉じゃがを煮込んだだけ。ほか二品が手つかず。一旦火を止め、玄関に、出迎えに行く。
背を向け、靴を脱いだ蒔田が振り返る。「お」
驚いたようにその瞳が見開かれる。どうしたのだろう。
「おかえりなさい……」
「いいな、その格好……」
「え?」と彼女は髪に手をやる。「エプロン?」
「と、その後ろに束ねた髪型。なんか、そそる……」言って、蒔田が抱きついてきた。どうしたのか。お仕事をした帰りの割にはエロエロモード全開じゃないか。
戸惑いつつ彼女は蒔田を受け入れる。「えっと……お疲れさま、です」
不自然にエプロンの前が垂れ下がる。片手で後ろの紐を外されたのだ。そして髪を縛っていたゴムも外される。
「えっと、蒔田さ……ん!」着ているTシャツまで脱がされる。性急だ。「蒔田さん、ここじゃなんだから……」
すると彼女のからだを反転させ、彼女を寝室に誘導しながら、ブラを外す。落ちた下着を拾おうとしたが、彼の無骨な手に阻まれ、上半身裸。
背後から両胸を揉まれながら寝室――
じゃなくて洗面所へ!?
「あの。蒔田さ……」洗面台の前に二人は立つ。午後とはいえ、電気をつけていないと薄暗い。鏡のなかの長い髪の女は戸惑ったような顔をしている。長身の男はその眼鏡を外し、彼女を自分のほうに向き直らせると、なんの説明もなくくちづける。事前の展開をたっぷりと楽しむ蒔田にしては珍しいことだ。
「ちょっと。どうしたんですか、蒔田さんってば」
答えず彼は彼女の唇を塞ぐ。まるでそれが答えかと言うかのように。
両脇の下を支えたと思ったら彼女を軽々と持ち上げ、洗面台のうえに乗せてしまった。そして彼女は蒔田の舌を受け入れる。
おしりや膝の下に固く冷たい感触。官能的でなめらかな蒔田の口内舌の動き。頭の後ろに手を回されるだけでぞくぞくする。
叩かれば反応するように女のからだはできている。潤っていく自身を、彼女は感じていた。
長いキスを終え、はあ、と彼女は息をつく。戸惑いを消し去り――
「それでこれから、どうしたい?」と微笑みかけると。
真顔の彼は、こんなふうに訊く。
「めちゃめちゃに貫きたいが構わないか」
その真剣さに、本能の火がうずくのを感じつつ、彼女は頷いたのだった。
いつも上半身から愛す蒔田。余裕がないのか再び彼女を反転させ、おしりを突き出すような姿勢にさせる。彼女の着ているジーパンをすこし下げ――
えっ、と彼女は思ったものの、洗面台に両手をついた。足を広げ、蒔田のしたいようにさせてやる。
「キスだけでこんなに濡らして」
かっ、と頬が熱くなる。頬を赤らめた女を、眼鏡を外した、より素の姿を晒す蒔田が、見据える。
「濡れて、……ないもん」第一、彼は触ってすらいない。
「うそつけ。
じゃあ自分で脱いで見せろ」そう言ってジーパンを膝のあたりまで下ろす。
しぶしぶ、パンティを自分で下ろして見せる。
「糸、引いてる」
彼女はなにも答えられない。蒔田の言うことが真実だろうし顔がすごく近い。
朝、軽くシャワーを浴びたものの、それっきりだ。それなのに彼の美しい顔が容赦なく近づくのを感じる。
熱い息がかかる。
人差し指と中指とで広げられ――
いつもなら必ず触るのに。
彼は、それを、してくれない。
失望が生まれるのを感じつつ彼は腰をくねらす。感じているときの彼女のくせだ。
「どうした、腰をもぞもぞさせて……」
「蒔田さんの、い、いじわるっ……わかってるくせに」
「責められるほうが感じるんだな、おまえ」
ふ、と息をかけられ、彼女はたまらず上体を倒す。顎が洗面台にヒット。無様だ。いたいと思いつつも、そんなことよりもどうにかして欲しいところがある。
「蒔田さんの嘘つき。さっき、あんなこと、言ったくせに」
「して欲しいことがあるなら素直に言え」鏡のなかの美男は、冷たく言い放つ。洗面台に這いつくばったような体勢のまま、彼女は彼と視線を交わす。
「どっちがいい。おれの指かこっちか」と蒔田が指差す。
「こ、後者です……」彼女が洗面台に顔を埋めるようにして言うと。
「聞こえない」
「はっ?」
「聞こえない、と言ったんだ……」
なんだか今日の蒔田は責めモード。いつもより冷たい。
そこで、彼女は、譲歩した。
「ご、主人様の、……おおきくて、かたいのが、欲、しい、です……」
洗面台の引き出しから彼はなにかを取り出す。
ぱりぱりと開封音がし、ああ、用意がいいなあ、と彼女は自分の手の甲に顔を預けながら思った。上半身をねじり、彼の、準備をする様子を、眺める。
と、ここで彼が口を開いた。
「あまり、見るなよ、恥ずかしい……」
「つけてあげようか」
「いい。……おまえにつけてもらうと、きっと、我慢できない……」
顔を赤らめて言うのだから、本心なのだろう。
つけるだけだったらそんなに刺激をくわえないはずだけど。疑問に思ったものの、口に出さずにおいた。
いつも念入りにしつこいくらいに彼女を潤してから挿れる彼。
いつもと様子が違う。果たしてこの状態で受け入れるとどうなるのだろう。
彼が後ろに回るから、彼女は腰を突き出し、足を開く。
蒔田が、ゆっくり、ゆっくり、入ってくる。背筋から駆けのぼる快感。同時に、圧迫。苦しいのにもっとなかまで入って、と懇願してわめきちらしたい自分がいる。潤いきらない内部は、抗議するように彼を締めつける。
蒔田が苦悶の表情を浮かべる。「おまえ、きつ……」
蒔田さんが大きすぎるの。
と言いたかったけど、受け入れることに、集中した。
フェイストゥフェイスのセックスもいいけど後ろからもいいかも。いつもと違う箇所にあたる。腰を突き出しているせいか、いつもより『開かれている』感じがして、彼女を、開放的な気分にさせた。「……動いて?」
瞬間、両の乳房に手が回される。あまりの勢いと強さに、咄嗟に声が出せなかった。背後から蒔田は彼女に伸し掛かるようにし、やわらかい両の胸を揉み始める。
「やあ、ちょっと、……蒔田さん」息が苦しい。たくましくて重たい、男のからだを押しつけられ。
なのに蒔田は止めるどころか横を向いた彼女の唇を塞ぐ。
「ん。ん……」体内に彼を受け入れながら両胸。唇に加わる刺激。あまりの快楽に彼女は腰を揺らす。潤い、ますますもって締めつけてしまう……。
目尻に涙が浮かぶ。と唇を離した蒔田がそれを吸い取る。その唇の動きすら快楽になる有りさまで――
動いて欲しいどころの騒ぎじゃなかった。抽挿が始まってすらいないのに至りそう。
彼女の内面の変化に気づいた蒔田が、手を止め、ひたすらに彼女を貪る。
叫びたいがその声が蒔田に飲み込まれ。唾液すら飲み干され。
細かく痙攣しながら、彼女は、達した。両胸を、蒔田に、守られたまま。
「ふう」息を吐くのを聞いた。と思えば――
耳のなかに吹きかかる彼の息。
からだのすみずみまで刻印したあの彼の舌の感触。それが彼女を快楽の方向へと蹂躙する。
「あ。あ……」達した直後。耳に吹きかかる息にすら過敏で。第一、彼の手の動きは既に再開されている。中指で固いところをぐりぐりと押しこむ。やわらかさにめりこむ刺激。
「……感じやすい、からだ、だな……」
手の甲をかみ、首をふるしか彼女はできない。「ごめん、なさい……」
「動きたいのに。いつも、いたぶりたい気分にさせられる……」
「ああっ」きつく、首筋を吸いあげる。
間違いなく、痕に残るに違いない……。
きっ、と彼女は彼を睨んだつもりが、……
「その顔が、たまらない。
おれが好きか、紘花」
彼女は自分から唇を奪いにいく。
そんなの、自明なのに……。
どうしてそんなことを訊くのだろう。キスをしながら彼の後頭部に手を回す。彼の黒髪をかき回す。かき乱したい、彼のことを。なのにいつも翻弄されてばかりで。
自分ばかりいってばかりで。嫌われないのか不安でもある。
「紘花。おれ」彼の言葉で我に返る。「もう、限界……」
切なそうに眉を歪める蒔田。
彼女は男ではないから想像しかできないが男性にとってそれはとてもきついことに違いない。
すこしの間が空いて自分を取り戻した彼女は、微笑んだ。「いいよ好きにして」
本当に自分を駆り立てる男の動きが始まる。
好きにして、とは言ったものの、それが始まると即座に余裕など失われるのを彼女は感じていた。視界がぶれ見えなくなっていく。
大好きな彼のことも。
正常でありたい自分のことも。
「あっ、は、あ、あ……」彼の刻むリズムとともに、息が、切れる。洗面台を掴み集中する。とここで、ものすごい快楽の波が迫ってくるのを感じた。
「あ。いや、蒔田さん、あたし、また、」びくびくと内壁が痙攣する。涙が一気にあふれ――
前に突っ伏す。なのに、蒔田の動きは、止まらない。蒔田は、まだ、達していない。……浅い意識のなか、撹拌されていく自分のことを感じ――
「言えよ、紘花」
「らめ、まだ、あ」ろれつすら回らないのに。
「おれの、ことを、どう、思っている」
――そんなの、決まっているのに。
伝わっていないのか。そんなはずはない。きっと彼は確かめたいのだ。
「あたし。あ――」
吐き出される彼のことを感じる。
と同時に、彼女の視界は、暗転した。
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