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28-互いの了解あってこその関係です。

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 そうして決心はついたものの、どうやら考え込み過ぎたらしい。返事をしない俺に焦れた大悟が、
「なんなら……もう一度、試すか?」
 なんて、提案してきた。

 俺の耳の後ろに唇を当てたまま頭の芯に響かせるように囁かれたそれは、低く掠れた艶声で、腰の奥をずくりと熱く疼かせた。
 ダメだ。大悟の艶声は腰にクる。

「気に入ってもらえる自信はある。一度と言わず何度でも試してくれ」
 『試す』というのは、当然セックスのことだ。そんなもの、いまさら試すまでもない。大悟とのセックスの相性は過去最高だったんだから。
 ましてやいまは、俺の気持ちが……。

 そこまで考えて、ふと気がついた。
 何やら尻のあたりで不審な動きをしているコレはなんだ?


「え、あ、あっ、手、手が、」
 腰にあったはずの大悟の手がいつの間にか背後にまわり、俺の尻を撫でている。触れるか触れないかの微妙なタッチで、意識するほどにびりびりとその存在を感じてしまう。

「や、やらしいよ。その、触り方」
 痴漢にだってそんな触られ方はしたことがない。
「うん。幸成がやらしい気分になればいいと思って」
 狙ってその手つきか!

「なあ、幸成。返事は? 俺とセフレになる? それともお試しからか?」
 尻を触る手が少しだけ強くなる。十分に敏感になった皮膚の上を大きな手でさわさわと撫で回された。ボトム越しなのにもかかわらず指の動きひとつひとつがリアルに感じ取れる。指が通ったあとには、尻の表面にちりちりとした小さな快感が生まれ、それがじわりと皮膚の奥まで沁み込んでいく。

 やばい。こんなことを続けられたんじゃ、勃ってしまう。


「わ、わかった。なる。セフレになるからっ、その手……ああッ!」
 撫でるその手をやめてほしくて急いで答えたのに、答えた途端に尻をギュッと掴まれた。
「幸成の尻は、やわらかいな。小さくて引き締まって見えるのに」
「や、ああっ、も、揉むなっ」
「やわらかくて気持ちいい」

 それまで片手だったのに、両手で尻を揉みしだかれた。指が食い込んだかと思えば、手のひらで押し揉まれて、小さな痛みと大きな快感が入り混じり、腰一帯を包み込んでいく。
 すでに膝も腰も砕けている身体が、大悟の腕の支えを失くして、ぐらりと崩れる。ふたたび背を壁に預けたけど、尻を放さない大悟のせいで、腰だけを前に突きだした変な格好だ。

 マズい、バレる。
 すでに俺のペニスは半勃ちだった。シャツの裾で隠れてると思いたいけど、今日のトップスは丈がちょっと短めで、微妙なところだ。
 焦って大悟の手首を掴んで尻から引き剥がそうとしたけど、大悟に力で敵うわけもない。


「幸成の尻はきれいだ。形がいい。見てると触りたくなって、いつも困った」
 少し開いた大悟との距離に、大悟の表情がよく見えた。いつもの真っ直ぐな視線のなかに、獲物を見据えるようなあの眼差しがちらちらと覗いてる。そこへ、揉まれる尻の体感も相まって、これ以上ないというほどに鼓動が走った。

「い、いつも、っ、見てた、って?」
「見てたよ。幸成の後ろ姿は見放題だから」
 大悟が小さく笑う。やっぱり以前よりも表情が豊かになってる。
 大悟の感情に触れられるのは嬉しい。それでも、少し自嘲的なこんな笑顔には、ちょっとせつなくなってしまう。
 いつ、どんな想いで、俺の後ろ姿なんて見てたんだろう。そんな気配は微塵も感じなかったのに。

「そんなの、全然、」
「ポーカーフェイスは得意だって」
 言っただろ、と言いながら、また顔を寄せられた。頬におでこに唇を押しつけられた。


「幸成、セフレになってくれてありがとう。嬉しいよ」
 セフレという言葉を聞くたびに、胸がちくりと痛む。
 どうしたら恋人になってもらえるんだろう。俺が口説けばいいとは思ったけど、よくよく考えてみれば誰かを口説いたことなんか、これまで一度もない。

 男漁りをするときは、ただ座ってるだけでよかった。むこうから声をかけられることがほとんどで、相手に目星をつけた場合には、隣に移動するだけで察してもらえた。
 口説かれたことも、まともにはないかもしれない。あの店にあったのは、提案と可否だけだ。あそこへ行くときは身体が疼きっぱなしでどうしようもないときだったせいもあって、まともな会話すら覚えていなかった。

 行きずり男の選び方を教えてくれた茂兄も、必要ないと思ったのか口説き方までは教えてくれなかったんだ。
 口説くって、いったいどうしたらいいんだろう?


 頭のなかがそんなことでいっぱいになっていると、また大悟に抱き寄せられて、ぎゅうっと抱き締められた。その力はさっきよりもずっと強い。

「幸成に触れるのが嬉しい。こうして抱き締めれるのが嬉しい。独り占めできたらもっと嬉しいけど……幸成は俺以外ともセフレになるのか?」
 俺の肩口に埋めていた顔をそろりとあげて、至近距離から大悟が質問をしてきた。

「なっ、そんなこと、しないっ」
 大悟が好きで、大悟とセックスもできるのに、大悟以外の男とだなんて、する必要性がないし、したいとも思わない。
 そんな不本意な質問に少し腹も立ったけど、そんなことよりも。

「よかった。幸成は俺だけと寝るんだ」
「う、うん」
「すごく嬉しい」
 大悟から素直な言葉を雨のようにたくさん浴びせられて、まだ大悟の感情吐露にも発言にも不慣れなせいか、言葉のひとつひとつにどきどきして堪らない。
 これじゃまるで、俺のほうが口説かれてるみたいだ。


 あ、そうか。俺も、自分の気持ちを素直に言葉にすればいいんだ。
「あ、あのな、大悟」
「ん?」
 さっそく試してみようと、大悟の胸に手をついて少し身体を離す。落ち着こうと思ってそうしたのに、足も腰もふわふわと力が入らずによろけてしまった。すかさず大悟が手を貸してくれて壁に寄りかからせてくれる。

「あ、あの」
 『大悟が好きだ』と、素直な気持ちを口にするだけのことなのに、緊張しすぎてるせいか、喉奥の言葉がなかなか音になってくれない。

「幸成、かわいい。この前と同じ顔してる」
「え?」
 俺が躊躇していると、大悟が俺の顔を両手で挟んで覗き込んできた。熱くなりすぎた頬の熱を大悟の手のひらが宥めてくれるのが心地いい。

「あのときは、俺のジーンズを脱がしたかったんだよな? 安心してくれ。俺、今度はちゃんとできるから」
「ちゃんと?」
「ああ。今度は俺にリードさせてくれ。セックスしよう。幸成」
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