13 / 38
夢見る貘
1
しおりを挟む
その日、拝殿裏手の掃除をしていた朱莉は、作業を終え社務所へ戻ろうとしていた。
神社を取り仕切る宮司である祖母が不在だったので、お守りやお札を扱うのも今日は朱莉の担当。
頻繁に人が来る様な神社ではないとはいえ、一時的にでも社務所を不在にはしたくなかった。
だけど誰かの悪戯か、裏手にごみが散らばっていたのでそちらに対応していたのだ。
「おみくじをあんなに散らかすって、何考えてるんだろ」
その人にとっては良い結果が書かれていなかったのかもしれないけれど、破り捨てるのは理解できない。
朱莉はぶつぶつと文句を漏らしながら、早足になる。
そんな朱莉の目に、今度は賽銭箱の上に身を乗り出している人影が飛び込んできた。
「イタズラの次は、泥棒?!」
朱莉は思わず走り出す。相手が小柄に見えたからというのもあるが、大事な収入を失うわけにはいかないという一心だった。
「何してるの!」
箒を両手でぎゅっと握り振り上げると、精一杯の鋭い声をかける。
人影ーーその女性はびくりと肩を揺らし振り返った。手には紙幣。
やっぱりかと目を吊り上げる朱莉を前に、その女性は困ったような顔で口を開く。
「ごめんなさい、あの、お賽銭上手に入らなくて……」
「へ?」
戸惑う朱莉に、その人は手にした数枚の紙幣を差し出した。それはぴしりと揃った皺ひとつない綺麗な紙幣で。
無理やり賽銭箱から取り出したのではないことは一目瞭然。
朱莉はやってしまったと焦りながらも、そおっと箒を下ろし背中に隠す。
「こっちこそごめんなさい! 最近、神社にいたずらする人がいて……」
思わずそう言ってしまったものの、疑いをかけられたと気を悪くしてしまうかもしれないと気づき言葉を切る。
だが、相手は気にした様子もなく朱莉をじっと見上げている。
朱莉より少し低い身長、襟足までのやわらかな髪はふわりと揺れ、こちらを見上げる薄いブラウンの目には陽の光を仄かに宿していた。
眦が少し下がった可愛らしい顔立ちも相まって、なんとなく庇護欲をかきたてられる。
「この神社の方ですか?」
「あ、は、はい。あの……それ賽銭箱に無理に入れなくても、向こうの社務所で封筒をお分けするので包んで渡してもらえれば」
「そうなんですね、ありがとう!」
嬉しそうに言うと、彼女は案内しようと歩き出した朱莉の後ろについてくる。
社務所に着き、封筒の裏面に名前を書いてもらっている彼女に思わず、
「あの、たくさん……ありがとうございます」
そう言い、もっと他に言い方があったなと後悔する朱莉の前で彼女は小さく笑う。
「私、お仕事でマンガを描いてるんです。でも最近、キャラクターに可愛げが無いって編集さんに言われちゃって。それでモデルになりそうな人との縁をここでお願いしたんです。そうしたら、その日から素敵な夢を見るようになって」
彼女は顔いっぱいに笑みを浮かべて言う。
「夢、ですか」
エニシにそんな縁を結ぶ力があるのかなと不思議に思う朱莉の前で、彼女はうっとりと目を細める。
「理想そのものの可愛い人に会える素敵な夢です」
大きく一礼して去ってゆく背中を朱莉は目を瞬かせながら見送った。
「一体どんなマンガなんだろ?」
受け取った封筒に『雛川めあ』と書かれているのをちらりと見てながら、朱莉は社務所の窓を閉めた。
神社を取り仕切る宮司である祖母が不在だったので、お守りやお札を扱うのも今日は朱莉の担当。
頻繁に人が来る様な神社ではないとはいえ、一時的にでも社務所を不在にはしたくなかった。
だけど誰かの悪戯か、裏手にごみが散らばっていたのでそちらに対応していたのだ。
「おみくじをあんなに散らかすって、何考えてるんだろ」
その人にとっては良い結果が書かれていなかったのかもしれないけれど、破り捨てるのは理解できない。
朱莉はぶつぶつと文句を漏らしながら、早足になる。
そんな朱莉の目に、今度は賽銭箱の上に身を乗り出している人影が飛び込んできた。
「イタズラの次は、泥棒?!」
朱莉は思わず走り出す。相手が小柄に見えたからというのもあるが、大事な収入を失うわけにはいかないという一心だった。
「何してるの!」
箒を両手でぎゅっと握り振り上げると、精一杯の鋭い声をかける。
人影ーーその女性はびくりと肩を揺らし振り返った。手には紙幣。
やっぱりかと目を吊り上げる朱莉を前に、その女性は困ったような顔で口を開く。
「ごめんなさい、あの、お賽銭上手に入らなくて……」
「へ?」
戸惑う朱莉に、その人は手にした数枚の紙幣を差し出した。それはぴしりと揃った皺ひとつない綺麗な紙幣で。
無理やり賽銭箱から取り出したのではないことは一目瞭然。
朱莉はやってしまったと焦りながらも、そおっと箒を下ろし背中に隠す。
「こっちこそごめんなさい! 最近、神社にいたずらする人がいて……」
思わずそう言ってしまったものの、疑いをかけられたと気を悪くしてしまうかもしれないと気づき言葉を切る。
だが、相手は気にした様子もなく朱莉をじっと見上げている。
朱莉より少し低い身長、襟足までのやわらかな髪はふわりと揺れ、こちらを見上げる薄いブラウンの目には陽の光を仄かに宿していた。
眦が少し下がった可愛らしい顔立ちも相まって、なんとなく庇護欲をかきたてられる。
「この神社の方ですか?」
「あ、は、はい。あの……それ賽銭箱に無理に入れなくても、向こうの社務所で封筒をお分けするので包んで渡してもらえれば」
「そうなんですね、ありがとう!」
嬉しそうに言うと、彼女は案内しようと歩き出した朱莉の後ろについてくる。
社務所に着き、封筒の裏面に名前を書いてもらっている彼女に思わず、
「あの、たくさん……ありがとうございます」
そう言い、もっと他に言い方があったなと後悔する朱莉の前で彼女は小さく笑う。
「私、お仕事でマンガを描いてるんです。でも最近、キャラクターに可愛げが無いって編集さんに言われちゃって。それでモデルになりそうな人との縁をここでお願いしたんです。そうしたら、その日から素敵な夢を見るようになって」
彼女は顔いっぱいに笑みを浮かべて言う。
「夢、ですか」
エニシにそんな縁を結ぶ力があるのかなと不思議に思う朱莉の前で、彼女はうっとりと目を細める。
「理想そのものの可愛い人に会える素敵な夢です」
大きく一礼して去ってゆく背中を朱莉は目を瞬かせながら見送った。
「一体どんなマンガなんだろ?」
受け取った封筒に『雛川めあ』と書かれているのをちらりと見てながら、朱莉は社務所の窓を閉めた。
2
あなたにおすすめの小説
呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―
くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。
「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」
「それは……しょうがありません」
だって私は――
「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」
相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。
「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」
この身で願ってもかまわないの?
呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる
2025.12.6
盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜
鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。
診察室の午後<菜の花の丘編>その1
スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。
そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。
「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。
時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。
多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。
この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。
※医学描写はすべて架空です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる