【完結】喫茶マヨイガの縁切り猫

オトカヨル

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夢見る貘

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その日、拝殿裏手の掃除をしていた朱莉あけりは、作業を終え社務所へ戻ろうとしていた。
 神社を取り仕切る宮司である祖母が不在だったので、お守りやお札を扱うのも今日は朱莉の担当。
 頻繁に人が来る様な神社ではないとはいえ、一時的にでも社務所を不在にはしたくなかった。
 だけど誰かの悪戯か、裏手にごみが散らばっていたのでそちらに対応していたのだ。

「おみくじをあんなに散らかすって、何考えてるんだろ」
 その人にとっては良い結果が書かれていなかったのかもしれないけれど、破り捨てるのは理解できない。
 朱莉はぶつぶつと文句を漏らしながら、早足になる。
 そんな朱莉の目に、今度は賽銭箱の上に身を乗り出している人影が飛び込んできた。

 「イタズラの次は、泥棒?!」
 朱莉は思わず走り出す。相手が小柄に見えたからというのもあるが、大事な収入を失うわけにはいかないという一心だった。
「何してるの!」
 箒を両手でぎゅっと握り振り上げると、精一杯の鋭い声をかける。
 人影ーーその女性はびくりと肩を揺らし振り返った。手には紙幣。

 やっぱりかと目を吊り上げる朱莉を前に、その女性は困ったような顔で口を開く。
「ごめんなさい、あの、お賽銭上手に入らなくて……」
「へ?」
 戸惑う朱莉に、その人は手にした数枚の紙幣を差し出した。それはぴしりと揃った皺ひとつない綺麗な紙幣で。
 無理やり賽銭箱から取り出したのではないことは一目瞭然。
 朱莉はやってしまったと焦りながらも、そおっと箒を下ろし背中に隠す。

「こっちこそごめんなさい! 最近、神社にいたずらする人がいて……」 
 思わずそう言ってしまったものの、疑いをかけられたと気を悪くしてしまうかもしれないと気づき言葉を切る。
 だが、相手は気にした様子もなく朱莉をじっと見上げている。
 朱莉より少し低い身長、襟足までのやわらかな髪はふわりと揺れ、こちらを見上げる薄いブラウンの目には陽の光を仄かに宿していた。
 眦が少し下がった可愛らしい顔立ちも相まって、なんとなく庇護欲をかきたてられる。

「この神社の方ですか?」
「あ、は、はい。あの……それ賽銭箱に無理に入れなくても、向こうの社務所で封筒をお分けするので包んで渡してもらえれば」
「そうなんですね、ありがとう!」
 嬉しそうに言うと、彼女は案内しようと歩き出した朱莉の後ろについてくる。

 社務所に着き、封筒の裏面に名前を書いてもらっている彼女に思わず、
「あの、たくさん……ありがとうございます」
 そう言い、もっと他に言い方があったなと後悔する朱莉の前で彼女は小さく笑う。
 
「私、お仕事でマンガを描いてるんです。でも最近、キャラクターに可愛げが無いって編集さんに言われちゃって。それでモデルになりそうな人との縁をここでお願いしたんです。そうしたら、その日から素敵な夢を見るようになって」
 彼女は顔いっぱいに笑みを浮かべて言う。

「夢、ですか」
 エニシにそんな縁を結ぶ力があるのかなと不思議に思う朱莉の前で、彼女はうっとりと目を細める。
「理想そのものの可愛い人に会える素敵な夢です」
 
 大きく一礼して去ってゆく背中を朱莉は目を瞬かせながら見送った。
「一体どんなマンガなんだろ?」
 受け取った封筒に『雛川ひなかわめあ』と書かれているのをちらりと見てながら、朱莉は社務所の窓を閉めた。
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