【完結】喫茶マヨイガの縁切り猫

オトカヨル

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夢見る貘

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 穏やかな日差しが差すテーブル席に陣取り、カップに満たされたコーヒー牛乳をゆっくりと飲み干してからエニは満足げに頷いた。

「やっぱりマスターの淹れてくれるコーヒー牛乳が一番美味しいよね」
「そんなに褒めても、おかわりくらいしか出ませんよ」
 言葉と共に、エニの目の前に新たなカップが置かれる。
 空になったカップを片付けるマスターにエニは笑みを向けた。
「遠慮なくいただきまーす」

「それより、その方は?」
 マスターが『その方』と言ったのは、エニの横に立つ青年だった。
 ゆるいウェーブをつけた金茶の髪をまあるい目にかかるよう流し、どこか子供っぽさの残る顔立ちを隠している。
 身長は高いが少し体を丸める様に立っているので、頼りない雰囲気がある。

 エニはそんな彼を一瞥する事もなく言う。
「全然知らないひと」
「そんなー! つれないことを言わないで、お願いだから縁を切ってくださいよ兄さん!」
「やだよ、お相手はすごく喜んでるって朱莉ちゃんから聞いたし」
「俺の方は喜んでませんけど!?」 
 エニの前に膝をつき両腕を開くと、大袈裟に彼を仰ぎ見て青年は哀れな声を上げる。

「もう限界なんですよ、兄さん」
「兄さんはやめてくれないかなあ、エニって呼んでくれる?」
「じゃあエニ兄さん、こんなに頼んでるのになんで縁を切ってくれないんですか?」
 縋る様な目をしてそう言う青年に、エニは億劫そうに告げる。

「なんでも何も、そもそも初めに関わったのは君の方からだったでしょ。縁だってその時に結ばれたものだし。僕はちょっとそれを強くしただけ。……縁切りをうけるのは朱莉ちゃんが喜んでくれる話になりそうな時だけって決めてるから」
 エニが目を細めてそう言うと、青年は大きな体をさらに縮めて項垂れた。
 諦めきれないのかモゴモゴと口の中で『でも』と繰り返す。
「当然の報いってヤツじゃない?」
 追い打ちをかける様にそっけなく言い放つエニ。とうとう泣きそうな顔になる青年。

「まあまあ、彼も困っているようですし、話だけでも聞いてあげてはいかがですか?」
 青年にエニの向かいの席へ座る様促し、マスターがとりなすとひとつため息をついてエニが言う。

「マスターにはわかるよね、コイツが人でないのは」
「まあ。招かれずにここに来られる以上はそうでしょう」
 マスターの答えに青年が頷く。
「貘の『サトウラ』っていいます」
「……貘というと、悪夢を食べるという。人にとっては良い結果をもたらす存在なのでは?」

「それがさコイツね、味にうるさいんだよ」
 エニの言葉にマスターが首を傾げる。
「仕方ないじゃないですか、本当に心から恐いって思って、二度と見たく無いと願うような悪夢。その美味しさを覚えたら他の生ぬるい悪夢なんて食べる気にならないんですもん」
「だからって人間の夢を操って、悪夢をわざと見せた上で心底怖がらせてから食べるなんてマネをするから」

 エニの言葉にマスターは眉根を寄せ、サトウラの前に置こうとしていたコーヒーカップを引っ込めようとする。
「いや、待って、待ってくださいって。最終的にはちゃんと綺麗に食べ切るから記憶には残らないんですって。だから害は無いっていうか」
 じいっと見つめられて、マスターは仕方ないというようにサトウラの前に湯気の立つコーヒーを置く。

「それに、もうあんなことしないですって!」
 そこで言葉を切って、サトウラはふるりと体を震わせた。 
「もともとは偶然あの娘の夢に入ったんだけど。……いつもみたいに怖がらせてやろうって悪夢を見せ始めたら、その悪夢を『生ぬるい』とか『構成力がない』とか言われて、逆に夢の主導権を握られて……そこからはホント地獄みたいで。逃げても逃げても追いかけてくるバケモンとか、普通の街並みだって思ったら歩いてる全員が俺をじっと見てるとか、もう本当に怖くて」
 うっすら目に涙を浮かべるサトウラ。

「怖すぎて悪夢を食べる余裕なんてないし。大体、向こうにとっては悪夢でもなんでもないわけで。だから二度とこんなことしないって、約束するから勘弁してくれって言って逃げたのに。なのに毎晩悪夢に引き摺り込まれる……エニ兄さんが俺とあの女の間の縁を強く結んだから」
「なるほど、その縁を切って欲しいって話だったんですか」

「ね、コイツの自業自得でしょ、マスター」
「反省したんだから、もう縁を切ってくれてもいいですよね、マスター!」
 二人に挟まれて、マスターは困った様に曖昧に笑った。
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