【完結】喫茶マヨイガの縁切り猫

オトカヨル

文字の大きさ
15 / 38
夢見る貘

3

しおりを挟む
「最近、雛川先生の描くヒロイン、すごく良くなりましたね! 先生のホラー作品は元々人気でしたけど、今までは強いヒロインが怪異と戦う作品が多かったのが、今作は強がってるヒロインが怖い目に遭いながらも涙目で必死に戦う姿が『可哀想で可愛い』って評判ですよ」
「本当ですか?!」
 ビデオ通話での打ち合わせの席で担当編集の佐々木にそう言われ、めあは嬉しくて思わず拳を握った。

「嬉しいです! 加藤さんに『ヒロインに可愛げがない』って言われて、それからすごく悩んで描いた子だったから」
「前任の加藤がそんなことを……? 結果として良い方向になりましたけど発言としては問題ですね、申し訳ございません。お気を悪くされたんじゃないですか?」
「言われた時は確かにすごく落ち込みました。でも、おかげで良い作品になったので」
「それなら良いのですが……あの、雛川先生。私たち女性同士でもありますし、他にも加藤が何か失礼なことを言っていたようでしたら、ご遠慮なさらず言っていただければ……」
「いえいえ、大丈夫です!」
 どこかすっきりしない表情の佐々木。めあはにこりと笑みを向ける。
 その笑顔を見て佐々木は気持ちを切り替えたのか、すぐに話を打ち合わせに戻した。

「そうそう、今回送っていただいたネームもすごく良かったですよ! 問題ありませんので、そのまま進めてください」
「ありがとうございます! あ、あと加藤さんにお大事にと伝えてください。 体調不良で他の部署に移動されたんですよね?」
「え、ええ、お気遣いありがとうございます。伝えておきますね」
 ぎこちない笑みで頭を下げる佐々木を不思議に思いながら、めあは通話終了のボタンをクリックした。

 通話を終え、一つ伸びをしてめあはモニターに向き合った。
 そこには、涙を浮かべ顔を歪めながらも必死に化け物たちと向き合う少女が描かれていた。
「可哀想で可愛い」
 夢で出会った青年がモデル。大きな体で時に震え、時に涙を浮かべ右往左往する姿が本当に可哀想で可愛くて。
 夢の中で彼をどう怖がらせるか考えるだけで、胸が痛いくらいに高鳴る。
「よーし、描き進めるぞー!」
 そう意気をあげペンを握った瞬間、邪魔をするようにインターホンから軽やかな音が鳴った。

 来客の予定はないのにと思いつつ、めあは仕方なく立ち上がる。
「どなたですか?」
 インターホン越しに問う。
 エントランスからの映像には、前任の担当編集、加藤の顔が映っていた。
 体調不良と聞いていた通り、映像でもわかるくらいに頬がこけていた。
「どうしたんですか?」
 めあの問いに、加藤は困ったような顔で口を開いた。

「申し訳ございません、以前打ち合わせに伺った際に私、忘れ物をしたようでして」
 めあの住んでいるマンションには共有の小さな応接室がある。
 担当編集とはいえ男性を家にあげたくなかっためあは、普段はそこで打ち合わせをしていた。
 管理室からも見える場所なので安心できたのだ。
 忘れ物もそこにあるはず。

「それならそこで待っててくれれば、探してエントランスまで持って行きますよ」
「いえいえ、そこまでお手間かけるわけには……。エントランスだけ鍵をあけてくださればこちらで探します。管理室でも聞いたんですが、届いていないようなので。ーー娘にもらった大事な万年筆なんですよ」

 まあそれくらいならいいかなと、めあは頷いて自動ドアのロック解除ボタンを押した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

呪われた少女の秘された寵愛婚―盈月―

くろのあずさ
キャラ文芸
異常存在(マレビト)と呼ばれる人にあらざる者たちが境界が曖昧な世界。甚大な被害を被る人々の平和と安寧を守るため、軍は組織されたのだと噂されていた。 「無駄とはなんだ。お前があまりにも妻としての自覚が足らないから、思い出させてやっているのだろう」 「それは……しょうがありません」 だって私は―― 「どんな姿でも関係ない。私の妻はお前だけだ」 相応しくない。私は彼のそばにいるべきではないのに――。 「私も……あなた様の、旦那様のそばにいたいです」 この身で願ってもかまわないの? 呪われた少女の孤独は秘された寵愛婚の中で溶かされる 2025.12.6 盈月(えいげつ)……新月から満月に向かって次第に円くなっていく間の月

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

烏の王と宵の花嫁

水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。 唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。 その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。 ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。 死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。 ※初出2024年7月

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

処理中です...